宿命のライバルといったら、皆さんはどんな人物を思い浮かべますか?
世界史でいえば曹操と劉備、映画製作の世界なら宮崎駿と高畑勲、ハリウッドではトム・クルーズとブラッド・ピットもある意味で永遠のライバルといえるでしょうか?
まあ何にしろ、数え上げればきりがないほど、古今東西さまざまなライバルたちが闘いに火花を散らしてきた……これもまた人間の歴史の一面です。
映画でも、対決を運命づけられた2人の物語は人気があります。
力で敵を倒す文字通りの「勝負」を目玉とする作品もある一方、敵愾心や憎悪の感情から友情が生まれる……といった、「ウラハラ」な人間心理の機微をみどころにした作品も。どちらのタイプの物語にもそれぞれの面白さがありますが、屈折と矛盾をはらんでいるだけに、人間ドラマとして面白いのはやはり後者です。
今日は、ライバル関係に限定せず、ウラハラな男のドラマを見せてくれる作品を集めてみました。裏腹な感情の機微をじっくりと見せるのがメインテーマの作品から、一瞬の感情の反転に心を鷲掴みにされる作品まで、各種取り混ぜてご紹介します。
※以下はネタバレを含みますので、未見の方はご注意ください
『ブレードランナー』(1982)
生と死の狭間で対峙する人間とアンドロイド
まずは、昨年35年ぶりの続編『ブレードランナー2049』が公開されて話題を呼んだ、伝説のカルト映画『ブレードランナー』からいきましょう。
舞台は2019年・近未来(製作当時)のロサンゼルス。環境破壊の進んだ地球に見切りをつけて宇宙へと移住した人も多く、ロサンゼルスは半ば廃墟。一方、人間が使役のために作り出したアンドロイド(この作品では「レプリカント」)たちは進化して「感情」を持ちはじめ、人間に歯向かうことを覚えます。
そんな中、6体のレプリカントが就労地の惑星から逃走し、ロサンゼルスに潜伏する事件が発生。
警察は早速レプリカント狩りを開始し、ブレードランナー(レプリカント狩り担当官)のデッカード(ハリソン・フォード)がその任務にあたることになります。
本作最大のみどころといえるのが、反乱レプリカントの最後の生き残りロイ・バッティ(ルドガー・ハウアー)と、ブレードランナー:デッカードとの対決シーン。
仲間たちをデッカードに殺された怒りを全身に漲らせ、デッカードに立ち向かうロイ。しかしデッカードを倒したところで、彼の命がまもなく尽きることも見えている……そんな中での死闘。
濃い霧がたちこめる中、どこからともなくこだましてくる「平家物語」の琵琶の調べが、無常感を煽ります。
もはや闘いは無意味であるにもかかわらず、ロイはデッカードを死の淵まで追いつめますが、最後の最後で意外な行動をとります。そしてロイ自身は力尽き、命を終えるんです。
ロイの死の瞬間、まるで憎悪から解き放たれたロイの魂のような真っ白い鳩が飛び立ち、高く舞い上がるシーンは、真の人間らしさとは何か? あるいは、生きることの意味について、人生の無常について、いろんな思いが心を駆け巡ります。
いつまでも記憶に残り続ける、名場面です。
『戦場のピアニスト』(2002)
ナチの将校とユダヤ人ピアニストの友情
『戦場のピアニスト』は、第二次世界大戦時、ナチス・ドイツの占領下にあったポーランドのワルシャワで起きた実話を元に製作された作品です。
主人公は、ユダヤ人でピアニストの青年ウワディスワフ・シュピルマン(エイドリアン・ブロディ)。
ドイツ軍による凄まじいユダヤ人弾圧と虐殺が続く中、幸せだったシュピルマン一家は家を奪われ、やがて主人公ひとりを残して全員が絶滅収容所送りに。
難を逃れたシュピルマンは、破壊されつくしたワルシャワの街で身をひそめながら生きのびますが、ある日ついにナチスの将校(トーマス・クレッチマン)に姿を見られてしまいます。
シュピルマンは死を覚悟。しかし将校は彼に、ピアニストだと言うならピアノを弾いてみろと命令します。
月明りの中、廃墟に残されたピアノを弾き始めるシュピルマン。
シュピルマンの選んだ曲は、ポーランド人の魂ともいうべきショパン。シュピルマンの戦争への怒りと悲しみが滲み出るようなピアノの調べに、打たれたように聴き入る将校……2人を隔てる殺す側と殺される側という暗い宿命が消えさり、音楽を愛する人間と人間に戻っていくような、不思議なひとときです。
演奏を聴いた後、将校は、何故かシュピルマンを連行することなく、着のみ着のままの彼に自分のコートを与え、立ち去ります。
その後シュピルマンは戦争を生き抜き、敗戦後ソ連に連行された将校は、かの地で亡くなったそうです。
『ベン・ハー』(1959)
幼なじみ、激しい愛憎の果てに
ハリウッドで何度もリメイクされた、ユダヤ人の英雄の物語『ベン・ハー』ですが、中でもウイリアム・ワイラーが監督した1959年版が最高傑作であることは異論の余地がないでしょう。
紀元1世紀、ローマ帝国支配下のエルサレムを舞台に、ユダヤの王族ベン・ハー(チャールトン・ヘストン)が、一度は奴隷の身分に落とされながらも知勇と不屈の精神、そして神の恩寵により、平穏な生活を取り戻すという、波乱万丈の半生の物語。
今回取り上げたいのは、主人公ベン・ハーと、彼のかつての幼なじみでローマ軍司令官としてエルサレムに戻ってきたメッサラ(スティーヴン・ボイド)との関係です。
再会を喜び合ったのも束の間、支配する側とされる側という立場の違いから憎しみ合うようになっていく2人。
ベン・ハーが奴隷に身を落とされた時もメッサラは黙殺します。
そして、2人がライバルとして勝敗を競い合う戦車競走の場面は、本作最大の見せ場。
メッサラは卑劣な手を使ってベン・ハーを出し抜こうとしますが、逆にメッセラのほうが瀕死の重傷を負い、結果はベン・ハーの勝利。メッサラの策略は失敗します。
ところが、死に瀕したメッサラがいまわのきわに会いたがったのは、他ならぬベン・ハーでした。
メッサラのベン・ハーに対する感情は一見矛盾だらけ。
しかしその矛盾の中に、自らの愛憎の振幅に翻弄される人間の愚かさ、それゆえの愛おしさが見えてきます。
『ベン・ハー』の心に沁みるひとコマです。
「ロッキー」シリーズ
殴り合う友情
そろそろこの作品の出番。宿命のライバルといったらやっぱり『ロッキー』!! これをはずすわけにはいきません。
1976年に始まり、なんと2006年まで全6回にわたって続いた「ロッキー」シリーズ。
殿堂入りの人気作品とはいえ、さすがにそろそろ古い?となったところで、絶妙なタイミングでライアン・クーグラー監督の後継作品『クリード チャンプを継ぐ男』(15)が出てきて、まさかのシリーズ復活。
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来年早々には『クリード2』も公開予定ということで、シリーズ未見の皆さんにとっては今がおさらいのチャンスじゃないでしょうか。
ボクサーとしての才能に恵まれながらもチャンスに恵まれず、チンピラまがいの仕事で生活をしのいでいたロッキー(シルヴェスター・スタローン)に、ボクシング世界王者のアポロ・クリード(カール・ウェザース)との対戦というビッグ・チャンスが舞い込みます。
貧しいイタリア移民だったロッキーが、死にもの狂いでチャンスを物にし、のし上がっていく姿はまさにアメリカン・ドリーム! 世界中を熱くさせたボクシング映画です。
本作でピックアップしたいライバル関係は、言うまでもなくロッキ―とアポロの2人。
最初はロッキーを見下していたアポロですが、やがて彼の才能と人柄に惚れ込み、最高のコンディションのロッキーと闘ってみたいという純粋なスポーツマン精神に突き動かされて、ロッキーのトレーニングを手伝うまでに。
最強のライバルにして最高の友人でもある2人の関係を端的に表したシーンがあります。
それは、『ロッキー4/炎の友情』(85)の序盤でアポロとの試合から帰宅したロッキーが、息子のジュニアと交わす会話の場面。
「パパ、その帽子どうしたの?」
「友達にもらったんだ」
「誰に殴られたの?」
「同じ友達だよ」
「変なの」
殴り合う友情……たしかにこれは、子供には理解できないかもしれないですね。しかし、いずれジュニアにも、この一見矛盾だらけの関係こそが男の友情の醍醐味だということが分かる日が来るんじゃないでしょうか。
『聖の青春』(2016)
対照的な運命を背負った2人の天才棋士
将棋の羽生善治竜王と同世代で、29歳で亡くなった天才棋士・村山聖を主人公に、持病を抱えながら将棋に一生を注ぎ込んだ彼の生きざまを追った作品。
村山聖を松山ケンイチ、羽生善治を東出昌大が演じ、「本人そっくり!」と話題になりました。
将棋という闘いに全てを賭けていた村山は、仲間の棋士たちにも辛口で容赦ないところがあったようですが、そんな彼が唯一深く敬愛していたのが羽生善治。
大阪の奨励会にいた村山が上京したのも、羽生に勝つため。そして悲願の勝利を果たしますが、その後進行性の癌に侵され、帰らぬ人となります。
才能を存分に活かして瞬く間に将棋界の頂点に立った羽生と、病いに行く手を阻まれながらも命を削って勝負に打ち込んだ村山。
決して公平とは言えない運命を背負いながらも、村山が羽生に純粋な敬意を抱いていたこと、才能と才能が惹かれ合う美しさに心を打たれます。
『新しき世界』(2013)
裏切りと友情の果てに
巨大暴力団組織ゴールド・ムーンの構成員チョン・チョン(ファン・ジョンミン)とイ・ジャソン(イ・ジョンジェ)は、強い絆で結ばれた兄貴分と舎弟。
しかしイ・ジャソンの本当の顔は警察の潜入捜査員。彼は長年チョン・チョンを騙してきたわけですが、残忍な人間ながら自分を可愛がってくれるチョン・チョンの人柄に触れ、警察官としての任務との板挟みに苦しんでもいます。
暴力団内部の抗争に警察が加わり、三つ巴の血みどろの戦いが続いていく中で、過酷な運命に翻弄されるチョン・チョンとイ・ジャソン。
表面は固い絆で結ばれた2人は、その実敵だったのか、それとも彼らの絆は本物だったのか……すべてが終わった後、最後の最後に挿入された短いワンシーンで、涙腺崩壊必至です。
『ハートブルー』(1991)
サーフィンが生み出す男の絆
潜入捜査ものと似たところで、今度は警察官と犯人の友情を描いた作品を。
『ハート・ロッカー』や『デトロイト』など社会派作品で知られるキャスリン・ビグロー監督の初期の作品で、キアヌ・リーヴスとパトリック・スウェイジのダブル主演です。
舞台になるのは、ロサンゼルス。
キアヌ・リーヴス扮するFBI捜査官ジョニー・ユタは、荒稼ぎする強盗グループの正体をサーファーの一団と睨み、サーファーを装って情報を集めはじめます。
ほどなくサーファーのボディ(パトリック・スウェイジ)という男に気に入られ、彼の仲間に。しかしやがて、ジョニーはボディとその仲間たちが強盗団だと気づき……
一見よくあるストーリーですが、スポーツなどで命の危険を共にすることが濃蜜な絆を生み出すことに着目した、着眼点の鋭い作品。
そこにユタとボディの敵対せざるをえない絶望的な宿命とが絡み合って、男の友情の純度が試されていきます。
『ジェシー・ジェームズの暗殺』 (2007)
崇拝と殺意もまた表裏一体
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1980年、ジョン・レノンが殺害された時、犯人がジョンの熱狂的なファンだったことが世界を驚かせました。
熱狂的崇拝が殺意へ……一見180度の方向転換のようで、実は「崇拝」と「殺意」は隣り合わせのものであることを示した事件といえるでしょう。
本作で取り上げているのもこれに似た関係。19世紀末のアメリカで、首に懸賞金がかけられていた無法者ジェシー・ジェームズを殺して懸賞金を得た男の話を、懸賞金目当てではなく崇拝と表裏一体の殺意が動機、という解釈で描いています。
ジェシー・ジェームズ(ブラッド・ピット)を殺すボブ・フォード(ケイシー・アフラック)は、「義賊」ともてはやされたジェシーに憧れて、彼の舎弟になった男。ジェシーもボブを弟のようにかわいがりますが、ボブの中にある自分への憧れがはらむ危うさにも気づいています。
行水をするジェシーを盗み見るボブに、ジェシーがこう問いかけるシーンがあります。
「俺にあこがれているのか? それとも、俺になりたいのか?」
後者であれば、それは殺意にも直結していくもの……いや、前者であったとしても、わずかな契機で殺意にすりかわるものなのかもしれません。
愛憎が裏返る瞬間はどこにあったのか……複雑で矛盾だらけ、それゆえに一層2人の関係性に魅せられます。
ちなみにマルコム・マクダウェル主演の『ギャングスター・ナンバー1』(00)も、本作と共通項の多い作品です。
『空飛ぶタイヤ』 (2018)
長瀬智也とディーン・フジオカが見せる敵対と共感
池井戸潤の経済小説の初の映画化作品ということで注目を集めた『空飛ぶタイヤ』にも、敵意と共感がせめぎ合う男のドラマがありました。
本作は、大手自動車メーカーが自社の車に構造上の欠陥があることを知りつつ長年リコール隠しを行っていたことが原因で、ある運送会社が死亡事故を起こした事件の顛末を描いたもの。
事故は車両の構造上の欠陥が原因とにらんだ運送会社社長の赤松(長瀬智也)は、メーカーの販売部課長である沢田(ディーン・フジオカ)にきちんと調査してほしいと訴えますが、沢田はけんもほろろ。財閥系大手メーカー対中小企業の闘いという本作の構図は、そのまま赤松と沢田の関係に重なり合います。
しかし、失われた人命のかけがえのなさに気づいた沢田は、頑として欠陥を認めようとしない会社に対して独自で行動を起こすことを決意。会社対会社という単位では対立していた2人が、良心と正義感に目覚めることで同じ方向を見つめる同志に変わっていきます。
ラストシーンでは、
「あんたの顔は二度と見たくないんでね」
「俺もだ」
と毒づき合いながらも、見交わした2人の眼差しには通じ合う何かが。
いつもの池井戸ドラマとは違ってスカッと爽快とはいかない苦さ・喪失感も残る顛末の中で、一瞬晴れ間が見えた爽やかなシーンでした。
『コラテラル』(2004)
一夜限りの運命の交錯
夢を持ちつつも行動できず、タクシードライバーとして働く青年マックス(ジェイミー・フォックス)はある夜、偶然殺し屋のヴィンセント(トム・クルーズ)を乗車させてしまいます。
一夜のうちに複数のターゲット殺害を目論むヴィンセントの移動手段として強引に巻き添えをくうことになったマックスは、顔見知りの女性弁護士がヴィンセントのターゲットの1人であることを知り……
殺し屋とタクシードライバーという何の接点もない2人の運命が偶然絡み合った一夜。
友情などありえない関係ながら、ヴィンセントは不思議とマックスに親しみを感じているようにも見え、それだけに、終盤死闘へとなだれ込む2人の姿にはやり場のない虚しさが。
ヴィンセントとの出会いによって、一歩前に踏み出せたマックス。彼の中に残ったヴィンセントに対する感情は憎しみだけなのか、それとも……。
ロサンゼルスの夜景とスタイリッシュな音楽が、2人の男が出会い、運命を分かつ一夜を、哀愁たっぷりに包んでいきます。
「ウラハラ」がキーワードの男映画、いかがでしたか?
真っ直ぐな男の友情も胸熱ものですが、屈折した関係性から生まれる感情の振幅、思いがけないところで反転する人の心の機微を味わうドラマには、人をやみつきにさせるものがあります。
ひときわ暑かった今年の夏のしめくくりに、熱い男のドラマを堪能してみてくださいね。
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