吉岡里帆を“丸裸”にして挑んだ三木聡監督最新作の強烈なメッセージ「やらない理由を探すな!」【インタビュー】

世界のディズニーを翔る元映画サイト編集長

鴇田崇

10月12日公開の映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』で監督・脚本を務めた三木聡にインタビュー。かつて“脱力系”と呼ばれた監督が放つ強烈なメッセージ。

『イン・ザ・プール』(05)、『亀は意外と速く泳ぐ』(05)、『転々』(07)、『インスタント沼』(09)、TVドラマ「時効警察」シリーズなど“脱力系”のキーワードとともに唯一無二の独特の世界観を構築する三木聡監督が、『俺俺』(13)以来、監督・脚本を務めた待望の最新作『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』が満を持して公開になる。

構想7年、「すべてをやりきった」と三木監督が語る最新作では、驚異の歌声を“声帯ドーピング”で出している世界的ロックスター・シン(阿部サダヲ)と、声が小さすぎるストリートミュージシャン・ふうか(吉岡里帆)の物語で、新たな三木ワールドが幕を開ける。自身もバンドをやっていた三木監督の「やらない理由を探すな!」などの強烈なメッセージが、観る者を襲う。かつて“脱力系”と呼ばれた三木監督が本作に込めた想いとは――

三木聡

ーー今回の作品は、自分を全部出し切った集大成だとおっしゃっていましたが、率直にいまの心境はいかがですか?

そうですね。正直、脱力はしましたよね。キャスト、スタッフ全員で濃密な時間を過ごしたので、一区切りついた印象はあります。ロックの映画なので熱量が多くて、水が出るわ血が出るわ、やることも多い。カーアクションもある。そういう意味では今回、映像の中でレトロな熱量と物量が投入され、部品が取れながらも最後まで走り切るような感覚を味わいました。合成だけでよしとはしない、実態があっての世界観なので、それなりの熱量を持って走り切ろうと、全員がおのおの思っていたとは思います。おかげで全員、何らか後遺症に悩まされているとは思います(笑)。

音タコ

ーーなんでも石井聰亙(現・岳龍)監督の『狂い咲きサンダーロード』(80)のような世界観やインパクトを、ある意味では目指されたとか?

同じ石井監督の『爆裂都市 BURST CITY』(82)なども公開になった当時の時点で、びっくりしましたけれど、あれくらいの熱量は確かに目指しました。あの時代は、時代全体が怒りの暴走族みたいな、そういうエネルギーに満ち満ちていたじゃないですか。最近はないけれど、若者が毎晩のように街で暴れていたような時代で、そういうニュアンスの類を、どれくらい持ち合わせていこうかみたいな話は、ちょっとはありましたけれどね。

ーー確かに、「タコ!」とタイトルの時点で怒っています。

あと『犬神家の一族』(76)って、最初の段階で全員が怒っているから面白いわけですよね。そのなかで石坂浩二の金田一耕助が、飄々(ひょうひょう)と抜けていく。ああいう怒りのエネルギーがエンターテインメントになるということを、意外と犬神家とか大好きだったので、わかっているつもりでした。昔は全共闘があって、学生運動があって、暴走族があったけれど、2000年代に入ると、いろいろな意味で時代がかしこくなったこともあると思いますね。怒りのエネルギーを街で発散している人ってあまりいなくて、そういうことがエンターテインメントになり得るということは思っていました。

ーーそうすると本作のモチーフは、初期の頃からあったようなものですね。

僕は「シティボーイズ」(の脚本・演出)をやっていたので、大竹まことさんの怒りのエネルギーなどがパーン!と弾けていく様を見ていました。ダウンタウンの浜田さんのツッコミも同じで、パーン!とエネルギーが弾けていく。そういうことを仕事で直接何度も見ていたので、そういうことも含め、頭の悪いエネルギーの塊みたいなものを作りたいとは思っていました(笑)。

三木聡

ーー三木監督が映画界に来た当時、ユルいとか脱力系とか言われていましたよね?

そう。言われていました(笑)。自分では濃密にやっていたつもりですが(笑)。でも自分で言い出しているところもあって、僕の作品の場合、最初のカテゴライズがなかったんですよね。それである時、自分で言い出した。脱力シリーズとか。それがなんとなく残っていて、そういう印象になっていると思います。けっこうセリフも速いし、濃密なんですけれど。

ーー松尾スズキさんなどは、前々から長セリフが多いほうですよね?

そうそう! 今回もすごく速いテンポで喋るなか、阿部サダヲ君がツッコミを入れたり、けっこうやっていますが、これまではユルいなどと言われていた。まあ、描いている内容がユルいから、だと思いますが(笑)。

ーーそういえば石井監督といえば今年は、『パンク侍、斬られて候』がありましたよね。こういう作風のムーブメントが来ているのでしょうか?

アレも限界に近いところまで狂っていましたよね(笑)。まあ飽きてきたってこともあるんじゃないですかね。映画に恋愛のなんちゃら以外のことがあってもいいじゃないですか。しばらく続いていたので、みんなそう思っているはずで、それはあっていいけれど、人はそれ以外のこともやりたいと思うから。石井さんのは狂っていましたよね、悪いけれど(笑)。実はあちらには林田裕至さんっていう、それこそ石井組のスタートラインからやっている人がいて、こっちはこっちで似たようなキャリアの人がいて。まるで分家みたいになっていますけれど、そういう意味では共通する要素はありますね。

ーー中年用の映画はありがたいですね。観客には、昔の日本映画を知っている世代もいるわけなので。

石井監督の『狂い咲きサンダーロード』や『爆裂都市 BURST CITY』に知り合いがスタッフとして関わっていて、もうなんというか終わらない狂気みたいなものがあると言っていましたよ(笑)。そういう熱量がある映画は、こういう機会でもないとできないじゃないですか。今回、幸いスタッフにも恵まれて、全員がそのテンションでやってくるわけですよ。現場は、ちょっと頭のおかしい狂気の集団みたいになっているわけです。「美術がそこまでいくなら、だったらカメラもそこまでいくよ」みたいな。相乗効果みたいなものが生まれて、「録音部こう来る? じゃ俳優部はどうする?」みたいな。よく考えたら、すごい現場になっていますよ。

ーーその俳優部、阿部サダヲさんと吉岡里帆さんの諸設定が、なかなか思いつかないほど面白いですよね。どうも以前から、こういう設定を思いついていたそうで?

ありましたね。『図鑑に載ってない虫』(07)のセリフにもありますが、「なんであんな大きい声で歌ってるんですかね? 自分で嫌にならないのかな?」みたいな、客観性を思ったら不思議ですよね。ある時、日本有数のボイストレーナーの女性とお話ししていたら、それは気持ちの強さみたいなもので、音で気持ちを最大限に伝えたい原始本能みたいなものだと。だから歌は大きな声で歌う、みたいなことを言われたことがありました。

音タコ

ーーそれを踏まえて、対照的なキャラクターにもしているという。

原始本能をどう伝えたらいいか、みたいなことを考えていた当時、ベン・ジョンソンのドーピング問題が起こって、それと結びついちゃいましたね。声はデカいけれど、ある種イリーガルな方法で声を出している奴で、その対局は何だっていうと、一生懸命歌っているけれど、聴こえないほど声が小さい奴という。その時キャラクターの基本はできていたと思いますね。

ーー吉岡さんの初登場シーンが絶妙でしたね。一瞬で彼女の事情が全部わかるような計算が見事でした。

タイミングや、言葉の発し方みたいなものは計算しました。吉岡さん自身の言い方も面白かったですが、リハーサルももちろんやっています。わたし、ちょっと不思議なところがあるんです、みたいなMCって痛々しいじゃないですか(笑)。新宿でも時々ストリートミュージシャンの女の子などを見ていると、そういう人いますよね。そこをボトムに、彼女のスタート地点を決めました。後は彼女の成長譚でもあり、演じているけれど、阿部さん、松尾さん、田中さんとの出会いを経て成長していくというセミドキュメンタルな部分もある。そこで自分がカッコよく映りたいなどと考えちゃうと、彼女が演じるキャラクターの魅力が半減していくことがあるので、それって俳優としてはけっこうマイナスでもあるんですよ。

ーーちょっと吉岡さんの素なのでは?とも思わせる彼女の丸腰感が素晴らしいですよね。

女優さんなので自分でコントロールして、自分で表現するということをしたいはずですが、1回そういう欲をなしにして、そのままそこで丸裸で立ってください、というようなことを言いました。それは主演女優として必要なことだと僕は思うし、僕自身のそれができるかどうかという興味を、吉岡さんもわかっていたと思います。彼女は彼女なりの答えを出してくれて、ふたりの関係も恋人ではないし、独特の感じが出てくる。それこそが僕が目指したふうかとシンというキャラクターになっていました。

音タコ

ーー脚本をベースに、お二人で新たなキャラクターを作り上げてくれたようですね。

そうですね。最初の脚本段階で思い描いたこととはまた違っているのですが、阿部さんと吉岡さんという役者がそろった時にできていく関係みたいなこともあるわけですよね。結局は現実世界で、自分が過去に見た聞いたことを投影するわけだから、それはどういう役柄でもそうじゃないですか。弁護士を演じたところで弁護士を体験できるわけじゃないから、借りの姿ですよね。そこが面白かったし、そのギャンブル性は他の映画監督のみなさんにもおすすめしているけれど、目の前で起こるので楽しいですよ(笑)。

ーー三木作品の醍醐味のひとつには、そういう偶発的なサプライズ効果もありますよね。特に今回の『音タコ!』は、とにかく観ましょう、が一番のメッセージでしょうか。

この手の映画であれば、そういうことができるとは思っていました。もうちょっと別の、構築をしなければいけない映画だと、なかなか難しいけれど、ロックというべースに勢いみたいなものもあるので、やれちゃったことが大きい。つまり調子に乗っているということでしょうけれど(笑)。(取材・文・写真=鴇田崇)

三木聡

映画『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』は、2018年10月12日(金)より全国ロードショー。

音タコ
(C)2018「音量を上げろタコ!」製作委員会

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※2022年2月20日時点のVOD配信情報です。

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