「辛いのは自分だけじゃない」映画とつながれる瞬間を感じてほしい『生きてるだけで、愛』趣里【インタビュー】

世界のディズニーを翔る元映画サイト編集長

鴇田崇

劇作家で小説家の本谷有希子が2006年に発表した同名小説を、テレビドラマ『ブラックペアン』の好演も記憶に新しい趣里を主演に実写化した『生きてるだけで、愛。』が公開となる。
趣里演じる寧子は、自分にも他人にも嘘がつけず、真っ直ぐすぎるためにエキセントリックな言動に走ってしまうが、そんな彼女の葛藤を、「現実との折り合いが上手くつけられない」という、ある種一般的な事象に近づけて共感を誘う力作だ。
自身も人生で大きな挫折を経験したという趣里は、寧子をどのような想いで演じたのか。本人に聞いた。

趣里

ーーとても高い評価を得ている原作ですが、読まれてみていかがでしたか?

趣里 これまでにも本谷有希子さんの作品は何冊か手に取ったことがありますが、「生きてるだけで、愛。」は読んでいませんでした。先に脚本をいただいてから原作本を読ませて頂きました。本谷さんの描くキャラクターはエキセントリックで、一見するとエッジが効いていることが多い印象です。とても人間味があって共感する部分が多くあり、この作品でも同じように感じました。

ーー津奈木役の菅田将暉さんと共演していかがでしたか?

趣里 菅田さんがとても自然体な方なので、特に演技についてどうこうという会話はなく、自然と津奈木と寧子の関係を現場で段取りしていました。1日だけ、読み合わせはありましたが、自然に会話のように演技が成り立った感覚があります

生きてるだけで、愛。

ーー演じられた寧子というキャラクターについては、どう思いましたか?

趣里 生きていると楽しいことだけではなく、苦しいことや、変わりたいと思っているけれども変われないことがあるじゃないですか。だから彼女は“過眠”になっているのですが、そういう人間の心理はよくわかりました。津奈木との生活もそうですが、その日常の中に倦怠感を持っていることも、よくある普遍的な物語のようにも感じました。

生きてるだけで、愛。

ーー彼女の挫折を乗り越えて生きていかなくてはいけない姿は、ご自身の経験に照らして共感されたそうですね。

趣里 そうですね。以前わたしはバレエのことだけを考えていましたが、けがをして、1日で将来の目標を失ってしまいました。自分は何のためにいるのかという思いに襲われました。前には進まなくてはいけないけれど、どうしていいのかわからない状態も寧子が感じている壁みたいだなあと感じて、自然に共感することが出来ました。

ーーけがをされた後、エンターテインメントに救われたそうですが、具体的には?

趣里 もともとバレエをやっている時から、舞台はよく観に行っていました。けがをしてバレエが出来なくなってから何度も舞台を観に行きました。その時だけ現実を忘れられて違う世界に連れて行ってもらうことが出来て、女優に興味を持ちました。辛い目に遭っている登場人物を見ると、自分だけじゃないなって思ったし、エンターテインメントって、私たちの生活に本当に必要なものだなって、その時に強く思いました。

趣里

ーー寧子が直面している壁の種類とは違うと思いますが、自分と似た経験のあるキャラクターを演じることって、すごくエネルギーが必要になると聞いたことがあるのですが。

趣里 わたしの場合、寧子と似てはいないのですが、自分なりに、その役柄に命を与えるには、自分の経験や、自分が想像していることを出していくのかなと思っています。

ーー今回、どのような準備をしたのですか?

趣里 とにかく脚本を読み、寧子の感情を、ただただ想像するという時間を過ごしました。そうすることで必然的に自分と置き換えて考え、自然と思い出されてきました。自然と自分のことと重ね合わせていた時間が多かったのかなとは思いますね。監督は「自由でいてください」と言ってくださいました。

ーー監督は当初、寧子は“嫌われる存在”であってもいいみたいなスタンスだったそうですね。

趣里 監督は(寧子は)最後にちゃんと自分の気持ちを言うので「大丈夫でしょう」とおっしゃってました。人間誰しも嫌われたいと思って生きてはいなくて、一方でどうしようもないことってあるから、理由もなくまき散らしているということではないんです。

生きてるだけで、愛。

ーーところで現在の仕事についてですが、看護師役が話題となったドラマ『ブラックペアン』の反響などをみていると、それこそ挫折があってこそ、いま現在のご活躍にもつながっているわけで、人生の皮肉みたいなことは感じますか?

趣里 とてもありがたく思っていますが、すごく心配性でいまが一番だとは思えていないところが正直な気持ちですね。もちろん新人賞をいただくことなど、いいことがあればすごくうれしいですが、まだまだだと思います。もうちょっとうまく楽に生きられたらいいなあとは、ずっと思っています。

趣里

ーー世間の反応を冷静に受け止めているのですね。

趣里 とてもありがたいですし、とても励みになっているのですが、どうしても一歩引いて見ている自分もいます。まだまだ人間としてやるべきことはあるだろうなとは思いますし、お芝居はものすごく好きなので、真摯に向き合いたいとは思っています。バレエを突然断念する事になったので、正直なところ、何があるかわからないから、とはずっと思っています。

ーー岩松さんの舞台のように、映画で衝撃を受けたことはありますか?

趣里 何作品かありますが、小学生くらいの時に『アイ・アム・サム』を、その後『ミスティック・リバー』などを拝見して、ショーン・ペンさんという同じ俳優さんなのにまったく違う演技をしていることに衝撃を受け、すごく感動しました。彼の演技に泣いて泣いて熱が出てしまい、次の日学校をお休みしたことを覚えています(笑)。後は『ゴッドファーザー』や、邦画では『蒲田行進曲』なども影響を受けました。

ーー当時の映画には、猛烈なエネルギーがありましたよね。

趣里 そうなんです。当時の勢いというか、においまで伝わってくる感じがありますよね。そういう、引き込まれちゃう映画が好きですね。最近では『セッション』です。映画館で観た時に、客席から拍手が起こり、いい体験をしました。

生きてるだけで、愛。

ーーさて今作『生きてるだけで、愛。』ですが、観たほうがいい人たちが定数いそうな作品ですよね。どういう人たちに観てほしいですか?

趣里 わたしはいろいろな方向から観られる映画だなと思っています。私がエンターテインメントを観ていて、「辛いのは自分だけじゃない」と思えて、映画とつながれる瞬間があったので、そういうことを感じてもらえたらうれしいです。倦怠期のカップルでもお友達同士でもご夫婦でも、シチュエーションは違うけれどそれぞれ感情移入できるところがあると思うので、色々な方に観て頂きたいです。

趣里

ーーこの映画の主人公は、「映画を観ているあなた」的なタイプの作品かもしれないですね。

趣里 “これはあなた自身の物語”みたいなこと、ですよね。原作も、そう思った方たちが多かったから、支持されたのかもしれません。自分の想いを代弁してくれたと思ってくれるかもしれない。映画の感想が早く聞きたいです。(取材・文=鴇田崇/写真=林孝典)

映画『生きてるだけで、愛。』は2018年11月9日(金)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー。

生きてるだけで、愛。
(C)2018『生きてるだけで、愛。』製作委員会

【あわせて読みたい】
※ 【今月の観たい映画No.1は】11月公開映画の期待度ランキングTOP20発表
※ 黒木華×野村周平、文化系と体育会系のまったく違う撮影苦労エピソード『ビブリア古書堂の事件手帖』【インタビュー】
※ 映画『愛がなんだ』今泉力哉監督&岸井ゆきの「今泉監督は役者と一緒に悩んでくれる人」【インタビュー】

記事をシェア

公式アカウントをフォロー

  • RSS
  • あきほ
    4.0
    生きてるだけで、疲れる。本当にわかる。「自分は自分と別れられない」辛い。見つかっちゃったって気持ち、すごくわかる。大丈夫かもって、居場所が見つかったかもって思っても、ふとした瞬間ひっくり返る。ああ、やっぱり違うんだ、私はダメなんだ、違うんだって思う。わかってるつもりでも、慣れたつもりでも、苦しいのだ。同じ熱量でぶつかってほしい、めんどくさくても、それが正しいことでも、感情的なことには、感情的にぶつかって欲しい。その気持ちがすごくわかった。最後はずっと泣いてた。綺麗だった。生きるのが辛いことは変わらなくても、それを理解し合える相手がいれば幸せだろうな。救われたかどうかわからないけど、この先も苦しくて生きていくしかないんだよね。やっぱり苦しいな
  • MikiShima
    3.6
    趣里ちゃんの飛び感と映像がマッチしてた。 2人はわかりやすい例だったけど、皆持ってるちょっとした感覚のズレを、世の中に合わして無にするか、やっぱり違うって持ち続けるのか。そんな自分て、わかってるかい?て言われてる気がした。
  • Ayaka0227
    4.3
    「いいな、ツナキは私と別れられて。 私は私と別れられない」 このセリフが見終わった後もずっと頭に残ってます。 なんでこんなに苦しくもがいてるのに美しく感じるんだろう。 二人が全力でぶつかりあってたら、きっと三年も一緒にいれなかったはず。 周りの人は、寧子を「甘えてる」とか言うけど、全く甘えてない。 彼女は、自分で全てを背負って生きてる人なんだ。自分しかなんとかできないし、自分と向き合っていくことしかできない。 あと、趣里の父親である水谷豊は、娘の全裸をスクリーンに映し出すことを怒ってたみたいだけど、私は必要だったと思う。 あの作品をより美しいものに仕上げてくれたように感じる。
  • じゅりお
    -
    中身のない言葉に悲しくなること、 自己嫌悪に陥る感覚、無意識に面倒な事を遠ざけがちなこととか寧子にも津奈木にも共感できる部分もあって胸が痛かった 別れ際の雰囲気がリアル 本当はちゃんと分かりたかったよ でちょっと救われたかな
  • EIKUNN
    -
    鬱になります。思ったことあるけどここに書きたく無い。私は私と別れることができないから。
「生きてるだけで、愛。」
のレビュー(4954件)