韓国三大未解決事件を基にしたノンフィクション映画3本

腐女子目線で映画をフィーチャーしてみる。

阿刀ゼルダ

映画で観る韓国三大未解決事件

解決に至らなかっただけに、長く人々の記憶に留まり続ける未解決事件。今も犯人は何食わぬ顔で、あなたの近くで暮らしているかもしれない……と思うと、背筋が寒くなります。

未解決事件は、社会的な関心の高さから、映画の題材に取り上げられることもしばしば。映画の中でもう一度事件をなぞり、解決の糸口を探してみる、という切り口だけでなく、一体なぜ解決に至らなかったのか? という未解決事件ならではの視点も加わって、ドラマとしての奥行きの深さは、事件が解決してスッキリと終わる作品以上かもしれません。

今日はそんな未解決事件を扱った映画の中から、韓国で1990年前後に起きた3つの未解決事件(いわゆる「韓国三大未解決事件」)を扱った作品をご紹介しましょう。

CASE1:『殺人の追憶』(03)

殺人の追憶

まずは、韓国の人気監督ポン・ジュノが手がけ、韓国内で記録的な大ヒットになった『殺人の追憶』から。この作品は、1986年から1991年にかけて発生した通称「華城(ファソン)連続殺人事件」をもとにしたものです。

華城(ファソン)連続殺人事件とは?

事件が起きたのは、ソウルの南約50キロの位置にある華城郡(当時)。のどかな農村で、1986年から5年の間に10人もの女性が殺害されるという前代未聞の事件が起きます。犯行の手口は、夜遅く帰宅する女性を農道で待ち伏せして襲い、手足を縛った上、顔を見られないよう、被害者の下着などを頭にかぶせた状態で強姦や自慰行為を行った後、被害者を絞殺するという残忍きわまりないもの。

一連の事件の特徴として、「秋冬期の雨か曇りの日に犯行が行われる」「被害者の所持品を使って陰部に暴行を加える」「2~5回目の被害者は全員赤い服を着ていた」などの奇妙な規則性も確認されています。

この事件には延べ180万人の警察官が動員され、容疑者及び操作対象者2万人あまりの取り調べが行われましたが、犯人逮捕にはつながらず、2006年、全ての事件の時効成立に至りました。

鋭い問題意識と娯楽性とが絶妙なバランスで両立した傑作映画『殺人の追憶』

映画『殺人の追憶』の中でこの事件を追うのは、ソン・ガンホ演じる地元の叩き上げ刑事・パクと、キム・サンギョン演じる都会から来たイケメン熱血刑事・ソのでこぼこコンビ。パクは男前で都会人のソに対して強い対抗意識を燃やしていて、この2人のバトルも見どころになっています。

もちろん、事件の描写もしっかり。雨の夜見知らぬ男に襲われる被害者の恐怖、また、当時の捜査の実態に鋭く斬り込んだ描写も秀逸です。見渡す限り水田が広がる農村だった1980年代の事件現場の、大事件とはまるで無縁のようなのどかさ。そんな中で、科学捜査には程遠い刑事たちの強引な誘導尋問に拷問、現場の人手不足など、当時の地方警察の古い体質・ずさんな捜査体制を、泥臭く、必死に捜査を続ける刑事たちの姿の中にじわじわと浮かび上がらせる仕掛け。劇中で、パク刑事が手掛かりほしさのあまり占いに頼るシーンがありますが、これも当時警察が心霊術師に伺いを立てていた事実に基づいたエピソードだそうです。

事件の捜査を通じて、警察、ひいては当時の韓国社会が見えて来るような立体感。犯人逮捕のカタルシスを確実に上回る「映画的面白さ」がたっぷり詰まった、見応えたっぷりの作品です。

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CASE2:『あいつの声』(07)

あいつの声

続いては、ソル・ギョング主演の『あいつの声』。1991年にソウル市内で起きた小学生誘拐事件を題材にした作品です。

イ・ヒョンホ君誘拐殺人事件とは?

この事件で誘拐されたイ・ヒョンホ君(当時9歳)の父親は会社経営者で、ソウル市内でも高級住宅街とされる地域に住む富裕層でした。犯行は、それを知った上での身代金誘拐。犯人は公衆電話を使ってヒョンホ君の自宅に電話をかけ、身代金を要求します。

しかし途中、警察のミスも重なって、交渉は40日以上もの長期戦となった。その間、両親に60回余りの電話などで絶えず脅迫した末に、イ・ヒョンホ君の遺体発見に至るという最悪の結末に。しかも、遺体の解剖結果から、イ・ヒョンホ君は、誘拐された直後に殺害されていたことが判明。その後公開捜査に切り替えられたものの、犯人の目星がつかず、2006年に時効を迎えています。

被害者の父親を人気ニュースキャスターとして描いた『あいつの声』の意図

あいつの声

『あいつの声』では、ソル・ギョング演じる被害少年の父親を、会社経営者ではなく報道番組の人気ニュースキャスターという設定で描き、同様の事件に対するマスコミの興味本位な報道姿勢を問う一面を盛り込んでいます。

また、この作品でも、ここぞという時にミスを連発する警察のずさんな捜査体制がクローズアップされており、事件で憔悴しきった少年の両親を一層絶望に突き落とすシーンも。犯人からの電話で聞かされる被害少年の悲痛な叫びとあいまって、なんともやるせない思いを駆り立てられます。

実際の事件での脅迫電話の会話を再現したり、映画のラストには実際のモンタージュが映し出され、脅迫電話の音声が流れるなど、時効を迎えても決して消えることのない残酷な事件だという印象を強く受けます。

あいつの声

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CASE3:『カエル少年失踪殺人事件』(11)

カエル少年失踪殺人事件

最後は、1991年に韓国東南部にある大邱広域市で起きた、少年失踪事件・通称「カエル少年事件」を扱った、『カエル少年失踪殺人事件』。

すでにお気づきかもしれませんが、韓国三大未解決事件と呼ばれる3つの事件には、「華城連続殺人事件」の最後の事件、「イ・ヒョンホ君誘拐殺人事件」、それにこの「カエル少年事件」とも全て1991年に起きているという共通点が。単なる偶然なのか、それとも何か要因があるのか……この事実もまた、一連の事件を一層ミステリアスなものにしています。

カエル少年事件とは?

失踪したのは、同じ小学校に通う当時9~13歳の少年5人。失踪直前、少年たちは「臥竜山(付近の山)にサンショウウオを捕まえに行く」と言い残しており、そこから転じて「カエル少年事件」と呼ばれるようになったようです。(当時韓国でカエルが主人公のアニメが流行っていたことに由来するという説も。)

失踪が発覚した直後から、警察・軍合わせて延べ50万人を動員しての大規模な捜索が行われたにもかかわらず、全く足取りはつかめず。「家出では?」「少年たちは拉致されて、物売りをさせられている」「殺人を目撃した人物がいる」などの噂が飛び交い、無責任なマスコミ報道が続く中、事件から11年経った2002年になって、少年たちの白骨遺体が臥竜山で発見されます。

当初警察は「山中で迷い凍死した」と事件性を否定しますが、司法解剖の結果頭骸骨に損傷が見つかり、他殺と判明。
当時現場近くには軍の射撃場があり、軍の関与が疑われましたが、有力な手掛かりが得られないまま時効を迎えています。

遺族を深く傷つけ、怒らせたマスコミ・警察の姿勢を糾弾する『カエル少年失踪殺人事件』

カエル少年失踪殺人事件

映画『カエル少年失踪殺人事件』では、「被害少年の1人の父親が少年らを殺害して自宅敷地内に埋めた」とするある心理学者の「推理」に基づいて家宅捜索が行われた事実をクローズアップし、被害者の家族に対するマスコミ・警察の心無い仕打ちを糾弾する姿勢を打ち出しています。

カエル少年失踪殺人事件

また、少年たちの遺体が臥竜山で見つかるシーンでは、事件性の追及を怠ろうとした警察の姿勢を描き、警察のずさんな対応も、事件が未解決のまま時効を迎えた一因である可能性を暗に指摘。この遺体発見時の警察の対応に対しては、後日遺族が国家を相手取り損害賠償を求める訴訟を起こしており、当時の遺族の怒りを汲み取った描写にもなっています。

終盤、パク・ヨンウ演じるテレビ局員が自力で犯人を追うというオリジナル展開も。

カエル少年失踪殺人事件

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事件の背景に見えてくる当時の韓国社会

それにしても何故、1991年という年に未解決事件が重なったのでしょうか? 1991年の韓国は盧泰愚政権。初めて国民の直接選挙で選出された盧泰愚大統領の下で、ソウル・オリンピックが開催されたのが1988年、そして1991年には北朝鮮とともに国連加盟を果たすなど、80年代後半から90年代初頭は、韓国の民主化が進み、また国際的な地位も上昇した激動の時代でした。

こうした過渡期に生じがちな社会構造の歪みが、あるいは事件解決を阻んだ一因だったのかもしれません。『あいつの声』の中で、盧泰愚大統領の「総力を挙げて犯罪・暴力と戦う」という宣言が実際のニュース映像の形で流されますが、こうした宣言が行われたのも、当時犯罪・暴力事件が多発し、対応に追われていたことの裏返しとも受け取れます。

上に挙げた3つの作品では、独自の角度から事件を追いながら、何故これらの事件が未解決に終わったのか?また、社会にどんな課題を残したのか?を垣間見せてくれています。ぜひ、それぞれの作品のメッセージを汲み取りつつ、迷宮入り事件のミステリーをじっくりと味わってみてください。

参考文献:『世界の未解決ミステリー100』(著者:鉄人ノンフィクション編集部【編】鉄人文庫)・『殺人の追憶』映画パンフレット(シネカノン)

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