【映画ファン必見】生誕100年、回顧上映で振り返る稀代の天才オーソン・ウェルズ

Nobody's Perfect.

久保田和馬

10月22日から開催される東京国際映画祭の共催企画として、東京・京橋の東京国立近代美術館フィルムセンターにて、10月23日から11月8日まで「生誕100年オーソン・ウェルズ —天才の発見—」と題した回顧上映が行われます。

映画史上に残る天才であり、後世に多大なる影響を残した偉大な映画人、オーソン・ウェルズの軌跡を振り返るこの上映は、映画ファンなら絶対に外せない大イベントであります。

呪われた作家、オーソン・ウェルズ

うぇるず

出典:東京国際映画祭ホームページ

オーソン・ウェルズについて語るとき、必ず付いて回るのが「呪われた作家」という呼称です。

同じように形容される映画作家には、センセーショナルな作品を連発し、上映禁止を食らった挙句、多くの国々を転々とし、挙句には高評価を受けた作品が反宗教的だと言われ国籍を剥奪されたことでおなじみのルイス・ブニュエルなどが挙げられますが、そこまで激しくはないものの、ウェルズもまた壮絶な映画人生を歩んできました。

幼い頃に母親を亡くし、アルコール中毒の父とオカルト信仰の祖母に育てられたウェルズは、演劇の道に進みます。22歳で演出を務めたミュージカルは、組合側からの圧力によって上演中止を余儀なくされ、会場に集まった観客を引き連れて別の劇場の何のセットも組まれていない舞台上で演じたという逸話も。

また、ラジオに進出した際にも、あまりにも有名な火星人襲来の事件など、ウェルズの行く先々にはトラブルが付いて回ります。

そんな災難は映画界に進んでも続き、監督デビュー作『市民ケーン』は、70年経った今だからこそ、映画史上ベストワンに選ばれ続けるような名作として語り継がれていますが、公開当時は主人公ケーンのモチーフとなった新聞王ハーストの妨害工作により、批評的にも興行的にも大失敗。

その年のアカデミー賞で9部門にノミネートされるも、受賞に至ったのは脚本賞のみで、それでも大ブーイングが巻き起こるという事態に見舞われます。

完璧主義な性分も祟り、映画製作も頓挫が相次ぎ、活動の中心が俳優業となった晩年。映画製作への資金のためにB級映画への出演が続き、結局(よりによって)86年の『トランスフォーマー ザ・ムービー』が遺作となってしまうのです。

そんなウェルズの映画人生をインタビューを中心に辿ったドキュメンタリー映画が、この回顧上映でも上映されます。『ディス・イズ・オーソン・ウェルズ』と、『映像の魔術師オーソン・ウェルズ』の2本。オーソン・ウェルズを知っている人も知らない人も、どちらにとっても興味深い作品であります。

—天才の発見—

今回の回顧上映では、前述のドキュメンタリー映画以外にも、監督作である6本と、俳優としてのウェルズの代表作である1本の計7本が上映されます。

『市民ケーン』や『偉大なるアンバーソン家の人々』といった代表作が外されているのが少し意外なところですが、それでもとても興味深い作品がラインナップされているので映画好きの方は要チェックです。

『不滅の物語(英語オリジナル版)』

ふめつ

©gaumontfilms

1966年にフランスでテレビ放映用に製作された中編劇。共演には大女優ジャンヌ・モロー。ウェルズは年老いた豪商を演じております。日本ではまったくソフト化されていないどころか、上映機会自体が極めて稀少な作品

嬉しいことに、東京国際映画祭の会期終了後の11月に2回上映されますので、このチャンスを逃さずにおきたいところです。

『上海から来た女(復元版)』

しゃんはい

©1948, renewed 1975 Columbia Pictures Industries, Inc. All Right Reserved

当時ウェルズと夫婦関係にあったリタ・ヘイワースとの共演作である、傑作フィルムノワール。何と言ってもその撮影技法の見事さに驚愕する一本で、撮影監督を務めたチャールズ・ロートン・ジュニアの手腕もさることながら、カール・Th・ドライヤー作品で知られるルドルフ・マテが、監督業転向前に最後に撮影部の仕事をした作品でもあります。

『第三の男』

だいさん

© Studiocanal.

今更この映画について何も語る必要性もないくらい、完璧すぎる映画史上の名作。今回の回顧上映の中で唯一(ドキュメンタリー等を除く)の、ウェルズ以外の監督作です。

キャロル・リードの素晴らしい演出、ジョセフ・コットンとアリダ・ヴァリの共演の見事さ。そしてウェルズ自身が書いたと言われる「鳩時計の台詞」は、映画史上最高の台詞のひとつです。この映画が劇場で観れるという幸せを逃すのは勿体ないです。

『Mr.アーカディン(最長版)』

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Image courtesy of Hollywood Classics

日本では『秘められた過去』もしくは『アーカディン/秘密調査報告書』というタイトルでビデオリリースされている超傑作ミステリー。

『市民ケーン』を彷彿とさせる構成に、ウェルズの迫真の演技。しかも、VHSでは99分版が収録されていますが、今回上映されるのは2006年にリストアが施された105分の最長版。この上映機会も貴重ですので、絶対に外せません。

『審判(復元版)』

しんぱん

© Studiocanal.

劇場用長編映画として初めてフランツ・カフカの原作が扱われたのがこの映画。(以後もストローブ=ユイレの『階級関係』やフォーキンの『変身』など、あまり多くないですが)不条理で難解として知られるカフカの原作も、天才ウェルズの手にかかればこれほどまでの完成度の高い映画に仕上がるわけです。

主演は『サイコ』でおなじみのアンソニー・パーキンス。

『フォルスタッフ(復元版)』

ふぉるすたっふ

©Mr Bongo Worldwide.

『マクベス』、『オセロ』と、いかにも演劇人らしくシェイクスピアに傾倒してきたウェルズが、最後に手がけたシェイクスピア劇は、『ヘンリー4世』などで知られる脇役フォルスタッフの物語。

前作のあとヨーロッパに拠点を移したウェルズが、スペインで撮りあげた意欲作で、本作の後にブニュエルのフランス期のカメラを務めるエドモン・リシャールが撮影監督を務めております。

『フェイク』

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出典:東京国際映画祭ホームページ

オーソン・ウェルズ最後の監督作として、8年ぶりに発表された、映画的な遊びに富んだ挑戦的な一本。

フランスとイランと西ドイツの合作という異色感溢れるだけでなく、ミシェル・ルグランが初めてウェルズとタッグを組んだことでも、他の作品とどこか違う雰囲気がある本作。それでも天才の手腕は最後まで衰えることはありませんでした。

未知のウェルズ

今回の回顧上映では、「未知のウェルズ」と題してミュンヘン映画博物館に所蔵されている資料を中心にした上映も行われます。その中では未完成作品の抜粋上映も行われるというのだから、これはファン必見の貴重な上映です。

あざーさいど

出典: EL CULTURAL

また、ウェルズの未完成作品といえば、『The Other Side of the Wind』の動向にも今後期待が高まります。

70年代に約6年がかりで撮影された、フランスとイランの合作映画である同作は、映画監督として著名なジョン・ヒューストンとピーター・ボグダノヴィッチ、デニス・ホッパーらが出演しており、老いた映画監督が復活のために映画製作を行うという、当時のウェルズを思わせる物語。

資金難や権利関係などで、死の直前までトラブルに見舞われたウェルズの最後の執念を、劇場で見られる日が来ると思うだけで、他の映画を観て待っていようという意欲が湧きます。

昨年暮れの発表では2015年5月の公開が予定されていましたが、現在まだ編集作業中のようで、果たしていつ公開されるのか、非常に楽しみであります。

 

東京国際映画祭ではメイン上映以外にも、興味深い共催・提携企画上映が開催されます。ホームページや配布されているプログラムにも掲載されておりますので、是非そちらもチェックしてみてはいかがでしょうか。

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  • 朧げ
    4.2
    あの有名なエビスビールCMソングに元ネタがあったのが衝撃。 良い意味で凡庸、堅物で一般人然としたホリーと数少ない登場シーンでもユーモアあふれて強烈な魅力を醸しだすハリーの対照的な姿がとても良かった。 そしてそしてスーツでばっちり決めた紳士的な装いを崩さずに鬼ごっこする2人が最高。おじさん好きの私の心を分かってらっしゃる…分かってらっしゃる……! クライマックスでの2人の言葉のないやりとりは胸に来た。 映像もカットの一つ一つが絵になっていて惚れ惚れした。白黒映像をどう魅せるか考えて撮ったことを窺わせる綺麗さ。とくに下水道でのチェイスシーンは光と影の強い対比がすばらしくて、本当にきれい。 見てて画家オディロン・ルドンのモノクロの版画を思い出した。 私にとってモノクロも鮮やかな色彩の一つであることを感じさせてくれる衝撃的な映画だった。これはカラー化しなくていい。 しかしうまく言語化できないんだけどもハリーってモテるんだろうなあと思わせるあの魅力すごい。アンナが惚れるのも納得してしまう。ホリーとハリー、この2人ならば私もハリーに惚れると思う……。
  • vivafett
    4.8
    WW2直後のウィーンを舞台に、親友ハリーを探す作家と、ハリーの恋人の運命が絡み合うフィルム・ノワールの名作。 自分は白黒映画はあまり馴染みがなかったが、カラーとは一味違った映像の美があることを初めて知れた。アカデミー賞を受賞しただけあって、光の濃淡を絶妙に使い分ける描写が物凄く上手い。技術が今ほど進歩していない時代でも、工夫のしようによってカラー作品を凌駕すると言っても良い程の味わいを出すことができる、これはモノクロだけがなせる技ではないか? 古い作品ということで、その時代にありがちなコマ使いや、不自然に見えるような動きはあることを覚悟して観たが、意外にもすんなりと作品に入る事が出来た。 また、ハリー役のオーソン・ウェルズの好演も光っていた。ラストのセリフ無しで、演技だけで感情を表すシーンは最高。前に観た作品の感想でもクドく言ってしまっているが、無駄な音楽や台詞無しでクライマックスをやる映画が最近は本当に少ないから、想像しながら楽しむ事が出来て良い。
  • ももがだいすき
    4
    なんでだろ、作り、余裕あるなー。 顔が効いてるね! 音楽と、ラストも。
  • のりこ
    4
    父親に勧められて鑑賞。白黒でここまで作り込めるのって凄い。映画への愛を感じた
  • かねこ
    3
    フィルムノワールの傑作のひとつ。カンヌでパルムドールを受賞した作品。 オーソンウェルズの顔があまりに有名すぎるけど、主演は大好きなジョゼフコットンじゃないですか!!そして、ファムファタールはヒッチコック作品にも出ていたアリダヴァリ。 フィルムノワールだけど、ヒロインのアリダヴァリはそこまで悪女じゃない。もっと悪女を期待してたので本当にフィルムノワールなのか?という感じ。 アメリカからウィーンまで行って友達を訪ねたのになぜか死んでいて、その原因究明をする話。ヒッチコック作品でよく見る巻き込まれ型っぽいけど、そこまでモヤモヤする感じではない。ウィーン舞台のため、現地の人の会話が分からず、歯痒いのは主人公も観ている人も同じ。洋画ってどこの国で撮ってても基本英語だからこの点は珍しい映画かも。 そしてサスペンス映画に似合わないツィターの音色が印象的。音楽は個人的には好きじゃなかったなあ。サスペンスにはスリルを煽るBGMがいい。 カメラワークは凝っていてあえて斜めにカメラを構えて撮っている場面が多い。そして闇夜に照らされるオーソンウェルズの顔!モノクロだからできるカットですね。 ヒロインのアリダヴァリ、序盤で誰かに似てる、、、と思ってたけどエミリーブラントに激似!多分共感してくれる人いないと思うけど、、、。
第三の男
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