毎年5月10日から5月16日までの1週間は、愛鳥週間(バードウィーク)。
愛鳥週間とは、鳥類保護連絡協議会が野鳥保護思想普及のために設けたもので、愛鳥週間用ポスター原画コンクールや愛鳥標語募集が実施されるなど、野鳥を通して環境保護の大切さを広く知ってもらうことを目的としている。
ちなみにこの時期が愛鳥週間になった理由は、野鳥の活動が活発になる季節だからという。
空にはばたき、遠くへ飛んでいく鳥。
そんな鳥への憧れが人間にはあるのだろう。映画の中でも、鳥という存在が印象的に扱われている作品を時々見かける。それは、鳥そのものが重要な役割を果たしていたり、あくまでも象徴的なモチーフとして使われていたり。
そこで今回は、鳥が印象的に使われている映画12本をご紹介しよう。
『バーディ』(1984)
鳥になりたい
ベトナム戦争のショックから精神病院に入れられ、心を固く閉ざしてしまった高校時代の親友を助けるため、ベトナム負傷兵が治療に協力することになる。
病室での彼は、1日中格子窓を見上げたまま、鳥のように身をすくませて動かない。そう。もともと鳥に執着していた彼は、精神に異常をきたしてからは自分が鳥になることを夢見ているのである。
幻想に囚われている彼をなんとか立ち直らせようとする友人も、戦場で顔面に重傷を負い、包帯を巻いている。戦争で傷ついた2人が再会し、心の交流をする様子が感動的。過酷な戦場で空を見上げると、そこには自由に飛び回る鳥がいた。ニコラス・ケイジのシリアスな演技に注目したい反戦映画。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】『中国の鳥人』(1998)
習えば飛べるのか
商社マンの主人公が仕事で中国雲南省の奥地を訪れてみると、そこは鳥人伝説が残る小数民族の村であった。
その村にはなんと人間に飛ぶことを教える鳥人学校があり、イギリス人の血を引く美少女が先生だという。そんなところへやってきた男たちは、穢れのない楽園のような場所で過ごすうち、のどかな大自然や純粋無垢な村人たちに惹かれていく。
その村を溺愛するあまり、文明の毒から守らなければと狂ったような行動を起こすのが、ヤクザだという皮肉な展開。アイドルから演技派俳優へ脱皮しつつあった頃の本木雅弘が、村人の信頼を取り戻すために鳥になって飛ぼうとする主人公を演じ、ホロ苦い後味のある大人の寓話である。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】『バード・ピープル』(2014)
鳥になってみたら
フランスの空港に隣接するホテルで働く女性清掃員が、現実に疲れてふと屋上に出てみたところ、なぜかスズメに変身してしまう。
同じホテルに滞在するアメリカ人男性は、突然仕事の予定をキャンセルし、そのまま会社を辞めて離婚もしてしまう。出張先で全てを捨てる決心をするなんて、これはいわゆる中年クライシスなのだろうか。一大決心をした彼が、解放感と高揚感でハイテンションになるのではなく、しんみりしている様子が心に残る。
一方、大学休学中の彼女は、小さなスズメになってパリの空を飛び回り、解放感に酔いしれながら人々の暮らしを覗いたりして楽しそうだが、人間に戻れるのか不安にならないのが不思議。人生に行き詰った時には、鳥にならないまでも、こんな風に境界線を越えてみるのもいいかもしれない。
『鳥』(1963)
狂った鳥たち
恋心を抱いた男性の家をこっそり尋ねたヒロインが、手紙と鳥を置いて帰る途中、突然カモメに攻撃されてケガをしてしまう。
ヒッチコックの『鳥』といえば、映画ファンで知らぬ人はいないほどの歴史的名作。彼女が2羽のラブバードを購入したあたりから、じわじわと雲行きが怪しくなり、子供たちがカモメの大群に襲われるわ、大量のスズメが家に飛んでくるわで、鳥の脅威に怯える日々が続くようになる。
ジャングルジムに一羽、また一羽とカラスが増えていくシーンは、日常がすでに狂ってきていることを皮膚感覚で悟る名演出だ。なぜ突然こんなことになったのかわからないまま、鳥の大群にやられっぱなしの無力な人間たちよ。ラストはまさに嵐の前の静けさ。
ビデオマーケットで観る【初月無料】『トリガール!』(2017)
それでも飛びたい
密かに想いを寄せているイケメンの先輩に誘われて、人力飛行サークルに入会してしまった女子大生が、鳥人間コンテストに挑むことになる。
理系の独特なノリについていけなかったくせに、バリバリの理系知識を必要とするサークルに入ったのは、憧れの先輩と一緒に空を飛びたかったから。しかし実際のパートナーは、ヤンキー系で好きになれそうにないタイプの先輩だった。
鳥のように飛ぶといっても、実際は競輪選手のようにひたすら自転車を漕ぐわけだから、空の世界を楽しむ余裕はなさそう。それでも人は飛んでみたい。犬猿の仲だった2人の行く末が想定内ではなく、あろうことかクライマックスの大会中に明らかになってくる人間関係が、面白い。叫びながら汗を流しまくる青春コメディ。
『レディ・バード』(2017)
飛んでいきたい
カルフォルニアの片田舎で暮らしている女子高校生が、地元から離れて都会の大学に行きたいと母親に打ち明けたことから、大げんかになってしまう。
彼女は本名ではなくレディ・バードと名乗り、周囲にもそう呼ばせているちょっと変わった女の子。母と衝突を繰り返し、たった一人の親友とは信頼関係が崩れて疎遠になり、ボーイフレンドとも複雑な理由でうまくいかず、生まれ育った町から出ていきたいと思っている反抗的でモヤモヤ中の女の子だ。
もがけばもがくほど、壁にぶち当たったり空回りしたり。それは誰にでも身に覚えのある痛み。飛び立つ練習をしているだけだ。ここではないどこかへ飛び立っていきたい。そんなことばかり考えていたのに、一度離れてみないとわからないことがある。普遍的テーマを扱いながら、変化球の散りばめ方にセンスが光る一作。
『WATARIDORI』(2001)
とにかく飛び続ける
北半球に春が訪れ、生まれ故郷の北極を目指して飛び続ける渡り鳥たちを捉えたドキュメンタリー。
撮影期間3年。世界20ヶ国以上を訪れて100種類もの渡り鳥を追い、鳥の大群と一緒に飛空しながら撮影したという前代未聞の映画。もちろんCGなし。そこには鳥の視点から見た地球の姿があり、今まで誰も目にしたことのない世界が映し出される。
昼夜問わず飛び続けている鳥。時々羽を休めながら向かう鳥。中には親鳥からはぐれ、間違ったルートを1羽で飛んでいる幼い鳥や、ドロ沼に足をとられて出発に出遅れてしまう鳥もいて、自然界の過酷さを改めて感じてしまう。バッサバッサという大きな羽ばたき音。彼らも必死で飛んでいるのだと目からウロコ。
『天国でまた会おう』(2017)
鳥の姿をして
戦争が大好きな上官の攻撃命令により、戦地で死にかけた主人公。その彼を助けた男が顔に重傷を負ってしまったことで、二人は共に人生を歩むようになる。
生き埋め状態で空気を調達する方法が、なんて奇想天外で魅力的。そして、画家を夢見ていた御曹司が顔の傷を隠すために仮面を被り始めるあたりから、この物語の独創性に惹き込まれてしまう。その憂鬱で美しく、哀しみとユーモアに彩られた世界観は、どことなくジャン=ピエール・ジュネ監督を思い起こさせる。
表情を隠した彼は次々と仮面を変えるのだが、それは彼の内面を表しているかのよう。彼は父親との確執に苦しみ続け、復讐に全てを賭ける。そんな彼が父親の本当の気持ちを知るシーンで鳥の姿をしているのは、何故だろう。反戦的なテーマと父と息子の物語がうまく絡み合い、不思議な余韻を残す。
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(2014)
また飛べるだろうか
スーパーヒーローを演じて一世を風靡したものの、その後長い間落ち目になっていた60代の俳優が、再起をかけて自作の舞台に挑む。
彼はかつてバードマンという名のヒーローだった。今では時折そのバードマンが現れては彼をあざ笑い、誘惑するようなことをささやく。実際に「バットマン」役で人気を博していたマイケル・キートンを主役に抜擢したことで、落ちぶれ方にリアリティがある上、この作品で彼が復活。まるで本人役のような錯覚に陥ってしまう。
ほぼワンカットの映像に度肝を抜かれ、現実と舞台と妄想が交差しながら展開するストーリーから目が離せない。彼は再びヒーローに戻り、空を飛べるのだろうか。俳優としても父親としてもうまくいかない彼が、追い詰められて行き着いた場所とは。今を時めくエマ・ストーンの出世作。
『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017)
君のために飛ぶ
同居している男性に依存しながらも嫌悪している女性が、別の男性とつきあい始めるようになるが、ある時元恋人の失踪を知らされる。
無職で何もしていない彼女の自堕落ぶりや、相手を心底蔑んで罵る姿の醜さときたら、どうしようもなく身勝手で忌々しく、演じる蒼井優の真骨頂ともいえる憎たらしさ。そんな彼女に犬のように扱われても、辛抱強く尽くし続ける阿部サダヲ。2人がこんなことになっている理由は何だろう。
元恋人が消え、新恋人の周りでも変なことが起き始めると、彼女は同居人を疑う。元恋人との美しい思い出がフラッシュバックすればするほど、サスペンスフルな展開が不気味に。彼はまるで親のような愛を彼女に捧げ、それが彼自身の喜びとなる。タイトルの意味は最後にわかる仕掛け。
『クロウ/飛翔伝説』(1994)
カラスの力を借りて
結婚を明日に控えたカップルが、無法者たちの手によって惨殺されてしまうが、1年後に彼だけが死者の国から甦り、復讐を誓う。
主演はブルース・リーの息子ということで注目されていたが、撮影中に彼が発砲事故で死亡してしまうというショッキングな出来事があった作品。死国の使者であるカラスに導かれ、不死身の復讐者となった彼が、悪人たちを次々と処刑していく様子にスカッとする。
彼は、全身真っ黒の衣装に身を包んだカラスの化身。哀しみに満ちた復讐を遂げて、愛の不滅を謳うダーク・ヒーローだ。彼が火をつければカラスの形に燃え広がり、去りゆく彼の肩にもカラスが……徹底的にカラスをモチーフにしているところが、コミックの映画化らしくて楽しい。
『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』(2016)
鳥に守られて
子供の頃に「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」が暮らす家で過ごしていたことを話していた祖父が、ある日両目をくり抜かれた姿で発見される。
小説「ハヤブサが守る家」の実写化。お腹で蜂を飼っていたり、透明人間だったり、指で火をつけたりする異能の子供たちを保護する女主人も、鳥になることができる種族。彼女はなんと、時間をループさせる力を持っていた。そんな気高く美しいハヤブサ人間を演じたエヴァ・グリーンが、しびれるほど魅力的だ。
こんな風に、ティム・バートンが得意とするファンタジー要素が盛りだくさん。特に、大人に助けてもらえない絶体絶命に陥った子供たちが、子供なりに知恵を絞り、持てる能力を出し切って力を合わせる姿が健気で泣ける。悪役のサミュエル・L・ジャクソンが、予想より怖くてよい。
いかがでしたか?
空を飛ぶ鳥は、太古の昔から人間の憧れ。
それゆえ鳥は自由の象徴として扱われることが多いが、でも鳥だって大変だよという映画もあったりして、なかなか興味深い。
映画に登場する「鳥」には、いろいろなメッセージが込められていることもあり、それを探るのもまた映画の楽しみだろう。
アイキャッチ画像:Photo on Visualhunt
(C)Archipel 35 – France 2 Cinema – Titre et Structure Production、(C)2017「トリガール!」製作委員会、(C)2017 InterActiveCorp Films, LLC./Merie Wallace, courtesy of A24、(C)2017 STADENN PROD. – MANCHESTER FILMS – GAUMONT – France 2 CINEMA (C)Jerome Prebois / ADCB Films、(C)2014 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.、(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会、(C)2016 Twentieth Century Fox Film Corporation.
※2021年10月22日時点のVOD配信情報です。