『ヒトラー暗殺、13分の誤算』公開記念!様々な側面からヒトラーを描いた映画8選

感受性複雑骨折

寂々兵

本日(2015年10月16日)より、映画『ヒトラー暗殺、13分の誤算』が全国公開されます。平凡な家具職人によるヒトラー暗殺計画の全貌を描く戦争ドラマです。

今年は戦後70年。ということは即ち、アドルフ・ヒトラーの没後70年でもあるわけです。ヒトラーと言えば、第二次世界大戦時の日本最大の同盟国であったドイツの首相。彼には「独裁者」「ユダヤ人迫害」など負のイメージが付きまといますが、実際のところどのような人物だったんでしょうか。

今回はアドルフ・ヒトラーという男にフォーカスを当て、様々な視点から彼を描いた作品を「ドキュメンタリー」「劇映画(史実)」「劇映画(完全フィクション)」に分けて8本紹介したいと思います。

ドキュメンタリー部門

ザ・ヒトラー ヒトラー家の人々(2005)

4ヒトラーの人々

出典:http://www.amazon.co.jp/dp/B000SSLRDI/

出生や親族の存在を明らかにしなかったヒトラー。本作は彼の近親者や資料から彼の家族などの実像を暴き出すドキュメンタリーです。

ヒトラーに迫るドキュメンタリー作品は同時にナチスやホロコーストなどの実態を浮き彫りにするものが多いですが、彼の兄弟などが取り上げられるものは珍しいのではないでしょうか。彼の家族がヒトラーとの関わりを伏せる理由は察しがつきますが、彼自身が家族の詳細を明かさなかった理由も本作を鑑賞すると頷けるところがあります。

他では見られない彼のある種のルーツが垣間見える貴重な一作です。

意志の勝利(1934)

4意志の勝利

第6回全国ナチスドイツ党大会の3日間を描いたダイジェスト映像。女性監督レニ・リーフェンシュタールによって撮影されました。

本作でのヒトラーの演説の映像は多くのメディアで引用されており、一度は目にしたことがあると思います。ゲッペルズやワーグナーなど要人たちも短いスピーチを行いますが、比較するといかにヒトラーが達者な演説をしているかが伺えます(内容はさて置き)

「政治やプロパガンダに興味はなく、美を追求しただけ」の言葉が語るように、雲から俯瞰したような序盤のショットに始まり、街中を練り歩くような目まぐるしい構図のカメラワークが続きます。今なお多くの映像作家に影響を与えているのも頷けるところ。

画面中を埋めつくす鉤十字の行進、扇動された国民の熱狂。題材はともかく一つの記録映画として圧巻の極みです。

ヒトラーを殺す42の方法(2008)

4ヒトラー42

出典:http://www.amazon.co.jp/dp/B0118OACXQ/

判明したものだけで42回もあったと言われるヒトラー暗殺計画に迫るドキュメンタリー。今回、『ヒトラー暗殺、13分の誤算』が公開されるに当たりDVD化されました。

本作は単に暗殺計画を紹介するだけではなく、暗殺寸前で失敗した事例を取り上げ「もし条件が整えば暗殺が本当に成功したか?」を検証しているのが面白いところ。

中でも「ヴァルキューレ計画」に関わるヒトラー暗殺未遂に関して、「当初の予定通り爆薬が2倍あったらヒトラーは致命傷を負っていたか」を検証するシーンは必見。爆薬もそっくり同じものを使い、ヒトラー人形にアイスを詰め込み、救急医療隊員が検死をするなどかなり本格的です。(本作戦は映画『ワルキューレ』『オペレーション・ワルキューレ』等に詳しい)

『ヒトラー暗殺、13分の誤算』の題材になった家具職人のエピソードも含まれています。これを観るとヒトラーがいかに強運の持ち主だったか、感心を通り越して呆れかえってしまうでしょう。

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劇映画(史実)部門

ヒトラー ~最期の12日間~(2004)

4最後の12日

今回公開される『ヒトラー暗殺、13分の誤算』と同じくオリヴァー・ヒルシュビーゲル監督作。アドルフ・ヒトラーという人間の内面に迫った作品ではもっとも有名なのが本作ではないでしょうか。

あまりにリアルで手堅い作りではあるものの、ヒトラーの側近であったローフス・ミシュ(ヒトラーが自殺した地下壕にいた人物で最後の生き残り、2013年に逝去)が本作に関して「あまりに大仰、事実を捻じ曲げた」とご立腹なのでノンフィクションとは言い難いかもしれません。しかしながら敗戦間際の上層部の苦悩や激動がこれでもかと言うほど描かれており、岡本喜八監督の『日本のいちばん長い日』を彷彿とさせます。群像劇としても優れていますね。

しかしながら本作は「ドイツ人が第三帝国崩壊の全容を映画化した」という部分に大いなる価値があるのです。ゲッペルズもヒムラーもシュペーアもドイツ人俳優が演じています。ヒトラーを演じたブルーノ・ガンツもスイス出身ではありますがドイツで活動する俳優です。これまででは考えられないことでした。ドイツ映画界の変容の一つと言っていいでしょう。

現在ではプレミアがついて鑑賞が容易ではないですが、『アドルフ・ヒトラー/最後の10日間』『モレク神』といった作品もヒトラーを描いた作品として評価が高いです。

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ヒットラー 第1部:わが闘争/第2部:独裁者の台頭(2003)

4ヒットラー2部作

クリスチャン・デュゲイ監督によって製作された2003年のテレビ映画です。

ヒトラーの出生からミュンヘン一揆(ナチス党員によるクーデター未遂)までを描いた第1部「わが闘争」、そしてクーデター未遂によって逮捕されたヒトラーが釈放され、党員として頭角を現していく第2部「独裁者の台頭」に分けられます。

ヒトラーの幼少期の虐待や恋愛事情、関わった人々の悲劇などを随分と丁寧に描いており、テレビ映画とは思えないクオリティではありますが、製作国がアメリカなので登場人物たちが英語を喋ります。青年期のヒトラーを演じたロバート・カーライルやヒンデンブルク大統領を演じたピーター・オトゥールなど、馴染みの顔が揃っているので少し違和感を感じる方もいるかもしれません。

また、第2部では「長いナイフの夜」事件までしか描写がないので、その後のヒットラーの動向については先述した『ヒトラー 最後の12日間』(こちらは全編ドイツ語)と併せて鑑賞するとより深く知ることができます。

劇映画(完全フィクション)部門

わが教え子、ヒトラー(2007)

4教え子ヒトラー

心を病んでしまったヒトラーを何とかすべく、ユダヤ人俳優を講師として差し向けて演説指導を依頼するお話です。

タイトルやジャケットなどから、若き日のヒトラーと恩師を描くシリアスな人間ドラマを想像しがちですが、蓋を開けてみるとこれが完全なシニカルドラマ。特に序盤はコメディ色が強く、ナチスのおちょくり方などは安直ですがなかなか笑えます。顔面パンチでノックアウトされたり、犬の真似をさせられるヒトラーはなかなかお目にかかれません。

実話のように描かれていますが現実にアドルフ・グリュンバウムのような人物が存在した記録は明確ではなく、「ユダヤ人によってヒトラーが救われた」という設定からして最大の皮肉というわけです。

イングロリアス・バスターズ(2009)

4イングロリアス

クエンティン・タランティーノ監督が10年近くの構想期間を経て実現させた超ぶっ飛びの戦争映画です。

ナチス親衛隊大佐に家族を殺された少女の復讐と、ナチスの暗殺を目論む米陸軍秘密部隊の暗躍が並行して描かれます。「面白い映画を作るためなら史実をどう裁こうが俺の勝手だ」とでも言いたげなタランティーノの姿勢には大いなる賛辞を与えたいものですが、それにしてもこのヒトラーをはじめとするナチス高官たちの裁き方には高鳴りました。

昔の戦争映画は勿論のこと、西部劇や犯罪映画へのオマージュも多く取り入れられており、新旧の映画ファンに楽しめる一作になっています。

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独裁者(1940)

4独裁者

先日ノーベル平和賞が発表されましたが、誰よりもこの賞を受賞すべきだった映画人はやはりチャップリンでしょう。ラストの演説シーンばかりが取り上げられる本作ではありますが、単純に一つのコメディ映画としても大傑作です。

その表現力や映画的技法も去ることながら、もっとも恐ろしいのは戦時下において彼がいかなる方法でここまで描写することができたのかということ。ホロコーストの存在を知らず、ましてやこの映画の製作中にはアウシュヴィッツ強制収容所すら建てられていなかったというのだから、その嗅覚に驚くばかりです。

本作は公開後ヒトラーの元に送られ、彼は2度鑑賞したという逸話が残っています。鑑賞したヒトラーは何を思ったのでしょう。少なくとも上映禁止処分にした以上、彼が怒り狂ったであろうことは想像に難くありません。

同様にナチスを盛大に茶化したエルンスト・ルビッチ監督の『生きるべきか死ぬべきか』(1942)、そして本作に影響を与えたとされるファシズムを批判したレオ・マッケリー監督とマルクス兄弟の『我輩はカモである』(1933)も見逃せません。

おわりに

戦後70年、これまでにナチスやホロコーストを扱った映画が多く製作されてきました。

その中で最近になってヒトラーがユダヤ人におちょくられたり、派手に爆死したり、はたまたサイボーグ化したりと様々な形のヒトラー像が描かれています。

戦争の記憶は風化させてはいけませんが、これも平和になった証拠なのかもしれませんね。

 

※2022年7月28日時点のVOD配信情報です。

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    3.7
    ヒトラーを暗殺しようと企てた平凡な家具職人。 彼はなぜ暗殺を計画したのか。黒幕は存在するのか。ドイツは何故真実を隠したのか。 1939年11月に、ヒトラー暗殺未遂を起こしたゲオルク・エルザーの実話を映画化。 彼がどのようにして犯行を計画・実行し、最終的にどうなったかまでが描かれています。 彼の計画はほぼ完璧です。不完全だったのは、ヒトラーの当日の動き。 その日ヒトラーはいつもより13分早く演説を終え、13分後に爆弾が爆発しました。つまり、いつも通りの演説だったら、ヒトラーは暗殺され、今の世界も少し違ったものになっていたのではないでしょうか。 ナチスは、誤差はただのミス、単独での犯行はあり得ないとしていましたが、ゲオルクが天才というのが証明された瞬間は嬉しかったです。それと同時に、ナチスの理不尽さに腹が立ちました。 見ていて辛かったのは拷問シーン。  吐くまでムチ打ち等されます。毎日傷だらけです。それが非常に痛々しい。 あと、ゲオルクの恋人であるエルザが暴力を受けるシーン。 なぜあんな酷いことが出来るのか不思議でならないです。妊婦の腹を蹴るなんてあり得ない。人間として終わってます。 ヒトラー暗殺はたまに見ていますが、単独犯というのは初めてでした。ヒトラーを疑問視し、ドイツの未来を考えて行動した人間がいたなんて。 非常に興味深い内容でした。
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    3.7
    この暗殺計画が成功していたら、一体どれだけの人間の命が救われたのだろう。ドイツ国民がヒトラーを盲信する中、彼は1人変化する日常に恐怖を覚え、計画を実行した。盛り上がりには欠けるかもしれないが、なかなかに考えさせられる映画。
  • -
    ゲオルク・エルザー本人が暗殺計画を企て失敗し、捕まってからの話 基本的にゲオルクの過去、そして尋問のシーン ただの一般市民がナチスドイツというものが出来た事により日常がどんどん崩されていく 当たり前の日常が当たり前でなくなっていく様 その若さで暗殺を単独で企てた事、失敗してしまったけれど実際成功していたらすごかったんだろうなと。 また暗殺警察実行犯を最後まで生かし続けた理由が 「ドイツが戦争に勝利した後の公開裁判でイギリス情報部の仕業であることを国際社会に暴くつもりだった」 って戦後の事まで考えていたというのがまぁ驚き。 そしてこの人の功績が称えられるまでとても長い時間が掛かっている事にも驚き。
  • no6club
    -
    当たり前みたいに拷問とか秘密警察とかいうワード出てきて「こんなことあってたまるかよ…」という気持ちになった。歴史なんてこんなことあってたまるかよの連続だが…須賀しのぶの『革命前夜』を思い出す。時代はちょっと違うけど、こういう作品の影響でドイツに対するイメージが「徹底的」とか「容赦無し」とかで固まってしまう。実話なので、これ計画が成功していたらどうなってたんだろうと思う。たいして歴史は変わらずただ順序が早まっただけかもしれないのかなとも思う。
ヒトラー暗殺、13分の誤算
のレビュー(4599件)