<日本で最も有名な怨霊>貞子を世に放った中田秀夫監督による映画『リング』(98)から20年、日本のホラー映画界を牽引してきた「リング」シリーズ最新作『貞子』が完成した。若手実力派女優の池田エライザをヒロインに迎え、中田監督率いるオリジナルチームの手で令和時代に誕生した本作は、従来のファンの想いを汲みながらも、新たな時代の映画ファンも楽しめるギミックも満載だ。本作を撮るにあたって過去作をすべて観返したという中田監督に、最新作のこと、貞子のことなどいろいろと聞く。
ーー今回の『貞子』、どのような思いで取り組みましたか?
表現があれですが、なるべく質の高いお化け屋敷を提供したいという思いで始めました。というのは、出てくるものが“貞子”ということがわかっているわけで、どこでどう怖いのか、でも貞子以外の怖いものが出てくるかも?なども思わせないといけない。今回は呪いの動画も出したほうがいいとか、恐怖については豊かなリッチ感を保ちつつ、どうやって恐怖を上げたり下げたりするか、いろいろと試行錯誤をする必要もありました。
ーー今回、過去作との差別化みたいなことも意識したのでしょうか?
自分が過去に撮ったものを観ていたほうが、今回はいいだろうという判断はありました。井戸から出てくる貞子は、以前の映像は使えないので、古めに再現するように撮りました。そもそも僕自身が変えてしまうこともおかしいので、テレビから出てくるまでは同じにして、出てからは演出を変えるとか、21年前の貞子を踏襲するところはして、そうじゃないところはスピード感などの変化も付けたかった。
『リング』はよく出来ているなあと(笑)。『リング2』はハチャメチャにやっていますが、あれはあれで僕は好きで。「リング」シリーズで自分がやってきたことをプレイバックした時に、『ザ・リング2』への自己批判が一番強かった。アメリカでは撮り方、編集法など、いろいろと違ったので、自分の生理には合わなかったとか、自分へのふつふつとした怒りが沸いたり、そういうことはありましたね。
過去の自分に対して全面戦争を仕掛けてしまうと、「あれ? 貞子って?」と思われてしまう。「これが貞子だ!」という感想と同時に、「今度の貞子はここが違う!」とも思われたい。全面戦争はダメだけれど、局地戦は戦えるみたいな(笑)。そういうものだと思わせてくれたことが、過去作をプレイバックしてよかったことですね。
ーー池田エライザさんの目の恐怖演技も凄まじかったです。
ホラー映画のヒロインで怖がる側の人、「リング」シリーズの犠牲者たちはみな目をあらぬ方向に見開いて死ぬのですが、池田さんも、目がそもそも大きい。でも、だからといって手を抜かないというか(笑)、怖いものを感じた時に目が大きいほうがいい。
ーー撮影中、限界まで目を開かせると伺ったことがあります。
貞子はテレビの中だけではなくて、すぐ後ろにもいるという虚構性の高いホラーでは、ドキッ!として目を見開くことが重要で、冒頭のともさかりえさんにもやってもらったし、気配を感じた時は思いきりテンション高いほうがいい。そこまで開けたら目がこぼれ落ちちゃうって、池田さんも現場で言っていたような気もしますが、そういう時の説得材料としては、「大丈夫。どれだけどぎつくやっても、それ以上にどぎつい音入れるので、これ以上できないというくらいまでやって」と必ず言います。
ーー池田さんの好演で、貞子の恐怖が際立ちますよね。
池田さんは大きなお目めをお持ちで、それでもさらにやってもらう。ホラー映画って怖いものを観るよりも、怖がっている人物を観るほうが怖い場合がある。今回は特にそう。貞子は確かに怖いかもしれない、でも見慣れたものはアイコン化している。だとすると、ヒロインの池田さんは貞子に迫られることは初めてで、僕の作品で言えば代々、松嶋菜々子さん、中谷美紀さん、彼女たち全員に大きく見開いてもらった。彼女たちの不安や恐怖に乗っかって、映画を観てほしいから。音楽的な流れもホラーには必要なので、もともと目の表現力がある池田さんはよかったですよね。
ーーところで『リング』(98)以降、この20年間で自分の価値観が変わるほどの影響を受けた作品はありますか?
難しいですね(笑)。いまだに古い映画を観てしまうので上手く絞り切れないですが、数年前、松竹の清水宏監督の作品を観返したりしていました。小津安二郎監督の先輩にあたり、子どもが大得意だった。ホラーとは直接関係ないですが、清水さんの映画群は影響を受けているかもしれません。角川の前進である大映でも撮られています。
子どもを撮ることにすごく長けている監督で、同時に母もの、親子の情、いまでいう児童養護施設の子どもたちの生活など、日常生活の中での人情の機微や辛くとも逞しく生きていくといったかなり情感豊かになる映画をいっぱい撮っている人で、何十年か早かったヌーベルバーグとも呼ばれている。ここ近年で思い出すと、もっとも感動している監督ですね。
ちょうど清水さんの映画をたくさん観ていた頃、僕はNHKで安藤サクラさん主演の『ママゴト』というドラマを撮っていて、すごく参考にさせていただいたということはあります。
ーー中田監督ご自身も映画では『終わった人』(18)など、テーマが通じるような作品を残されていますよね。
夫婦や親子、家族、恋人同士であればラブストーリーですが、ものすごくベーシックな人間関係を描いて、どストレートなドラマだけであれば成立しないのであれば、サスペンスがあってもいいかもしれない。今回の『貞子』も一応姉弟ものと言っていいわけで、その姉弟ものにフォーカスを当てたようなもの、よりシンプルなものに興味が沸いているかもしれないです。
ーー『スマホを落としただけなのに』(18)も最高でしたが、ファンとしては、そういう路線も楽しみです!
はい、ご期待に沿うべく、いろいろな映画を撮っていきたいですね(笑)。(取材・文・写真=鴇田崇)
映画『貞子』は、2019年5月24日(金)より全国ロードショー。
出演:池田エライザ、塚本高史、清水尋也 ほか
監督:中田秀夫
公式サイト:https://sadako-movie.jp/
(C)2019「貞子」製作委員会
※2021年11月30日時点のVOD配信情報です。