【ネタバレ】映画『みなに幸あれ』タイトルの意味や表現される“世界の仕組み”とは?結末はどうなる?歴史を塗り替えるJホラー作を徹底解説

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omonthy

第1回日本ホラー映画大賞受賞の社会派ホラー『みなに幸あれ』をネタバレありで徹底解説。

第1回日本ホラー映画大賞で大賞を受賞した下津優太の商業映画監督デビューにして、これまでに観たことのない斬新な恐怖の世界を創り上げた『みなに幸あれ』。主演を務めるのは古川琴音

総合プロデュースとして日本ホラー映画界の重鎮である清水崇が務めたことでも話題になっている。

映画『みなに幸あれ』(2023)あらすじ

看護学生の“孫”は、ひょんなことから田舎に住む祖父母に会いに行く。久しぶりの再会、家族水入らずで幸せな時間を過ごす。しかし、どこか違和感を覚える孫。祖父母の家には「何か」がいる。そしてある時から、人間の存在自体を揺るがすような根源的な恐怖が迫って来る……。

※以下、『みなに幸あれ』ネタバレを含みます。

コンセプトが先立つホラー表現

物語は主人公の“孫”が、田舎の祖父母に会いに行くことから始まる。ところが、祖父母の様子がどこかおかしい。人里離れた祖父母の家で過ごすことになった孫を襲う悲劇としては、M・ナイト・シャマラン監督の『ヴィジット』(2015)を彷彿とさせるものがある。だが、本作はそれだけに止まらず、人ならざる「何か」の存在が徐々に明らかになっていくことで物語が大きく動きだす。物語中盤、主人公の両親が田舎に到着したときに、この作品が持つ本当の意味と従来のジャンルホラーの枠組みから大きくはみ出した映画であることに観客は気付かされる。

本作には幽霊や悪意を持って動く人間は登場しない。ホラー映画としてはやや思い切った設定となっている。そこで描かれるのは“世界の仕組み”であり、この世の真理でもある。冒頭の食事場面で祖母が幼い主人公に対して発する「幸せ?」という台詞、祖父母が突然豚の真似を始めること、それらはすべて“世界の仕組み”を表現する伏線として張られている仕掛けだ。しかし、それらは一見不自然な形として観客の目には映る。つまり本作は、ジャンルホラーとしての表現よりもコンセプトが先に立つことを優先した映画とも言える。

明らかになる“世界の仕組み”とは?

世界(とは言っても家族単位のような小さな枠組みの中で)は誰かを犠牲にすることで安寧が保たれている。人々は皆、犠牲者を選び、各家に閉じ込めておくことで自身の幸せを確保している。地元を出て夢を叶える人間/叶えられない人間、誰かをいじめる側の人間/いじめられる側の人間、そのコントラストも幸・不幸という構造にすべて組み込まれている。

この世は残酷な仕組みで動いており、そこに気づいていないのは主人公だけだ。映画内では“世界の仕組み”を理解すること=大人になること=性知識への理解、が同一に描かれている点も非常にユニークだ。幼馴染の父親が親指を立てながら「コレはできたのか?」という問いに対して主人公が曖昧に返答することからも性体験がないことが伺える。つまりは主人公が純粋でウブゆえに“世界の仕組み”に気づかなかったことを示唆している。

ビジュアルで表現される“世界の仕組み”

コンセプトが先立つ映画と言い切ってしまうと、ホラーとしての魅力が損なわれていると感じてしまうかもしれない。しかし、本作ではしっかりとJホラーらしい恐怖表現とゴア描写が表現されている。また、犠牲となる人物を迎い入れる儀式や祖母の出産シーンなど思わず笑ってしまうようなコミカルな場面も本作の見どころだ。

“幸せ”の犠牲者は見る・聞く・話すことをすべて封じられている。誰かの犠牲の上に幸せは成り立っていることが本作ではビジュアルとして直接的に表現されており、そのような“真実”は感覚的には皆理解していても、ビジュアルで表現されるとおぞましく、かなり不気味だ。本作では家族で食卓を囲むシーンが幾度も出てくる。祖母が語るように我々は命を奪って食事をしていることを観客は嫌でも意識しなければならないのだ。

タイトルに込められた意味と結末は?

物語終盤、主人公はかつて自身と同じように“世界の仕組み”に疑問を抱いた叔母の元を尋ねていく。叔母の発言の全てには乗り切ることができず、困惑する主人公。しかし、そこで叔母に言われた「他人の目が自分の幸せの物差しになっている時点で私たちはどうやっても幸せになれない」という台詞に観客はハッとすることだろう。この台詞こそ本作が表現しようとしていることのすべてにも思えるからだ。しかし、そんな叔母も結局は“世界の仕組み”に取り込まれていることがわかる。いくら正論めいたことを言っていても、自身が不幸になることから人は抗ってしまうからである。

そんな主人公も結局は“世界の仕組み”に嵌ってしまい、“幸せ”に見えるか観客に問いかけるような表情を見せて、物語は終幕する。『みなに幸あれ』というタイトルは、鑑賞後には非常に皮肉めいたものであることがわかるだろう。「だって、幸せなんだもん」という台詞に込められた主人公の想いをどう捉えるかは観客次第である。そして、我々は今日も誰かの犠牲の上に生きていることを痛切に感じることになる。

(C)2023「みなに幸あれ」製作委員会

※2023年1月19日時点の情報です。

※最新の配信状況は、各動画配信事業者の公式サイトにてご確認ください。

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