映画『マッチング』土屋太鳳×佐久間大介 憑依型の俳優たちが語り合う「その人になりたい」ワケ【ロングインタビュー 】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

映画『マッチング』土屋太鳳×佐久間大介へインタビュー。お互いの印象や過酷な撮影秘話まで。

映画『マッチング』は、第44回日本アカデミー賞で最優秀作品賞に輝いた『ミッドナイトスワン』の内田英治監督による最新作。ふとしたきっかけでマッチングアプリを始めた主人公・唯島輪花(土屋太鳳)が、アプリを通して永山吐夢(佐久間大介)と出会ったことから、恐怖の連鎖に引きずり込まれていく戦慄の物語だ。

悲惨な運命に身を投じていく輪花を演じた土屋太鳳は、「つらすぎて自分が消えてしまいそうだった」と輪花への率直な思いを吐露しながらも、佐久間との共演および内田監督の現場においては「もっと一緒にやりたかった!」と笑顔を見せる。

そんな輪花に執拗につきまとい追い詰めていく吐夢を担当したのが、佐久間大介(Snow Man)。トレードマークであるピンクの髪色を金に変え、ダークな雰囲気をまとい役に没入した。神出鬼没な気味の悪さで、輪花だけでなく観客もろとも恐怖の底にたたきつけてくれる。

FILMAGAでは土屋&佐久間の二人にインタビューを実施。「その人になりたい」と強く思う憑依型の俳優たちだからこその、濃いエピソードが次々と繰り出された。

土屋さんと佐久間さんは『マッチング』で初共演となりました。撮影前後でお互いの印象に変化はありましたか?

土屋:佐久間さんとは音楽番組でご一緒したことがあって、そのときは明るく朗らかな方という印象でした。でも今回演じられた吐夢は、そのときの印象と真逆……というよりも想像がつかないような、まるでブラックホールのような目をされていて言葉を失いました。そんなに冷たい目なのにどこか守りたくなるような雰囲気もあったので、あの吐夢は佐久間さんだからこそ生み出すことが出来た人物像だと思います。吐夢という役を全力で吸収して生きられていて、真剣に取り組まれていました。

だから、佐久間さんの印象に変化はないんですよね。本当に裏も表もない方だなと感じていて。お忙しいから「疲れた」とかも本当はあるかもしれないのに、そんな姿は微塵も見せないんです。……あ! ご自身で差し入れを買われる、という意外な一面はありました!

佐久間:あれね! お菓子なんですけど(笑)。

土屋:コーヒーも差し入れてくださいましたよね。

佐久間さんは土屋さんの印象とその変化について、いかがですか?

佐久間:太鳳ちゃんが出演しているいろいろなジャンルの作品は、これまでもちろん観ていました。自分の中で感じていた“土屋太鳳像”は芯が強くすごく格好いい人。その印象は変わらずで、座長として立つにふさわしい人は太鳳ちゃんのような方だと思うし、みんなが憧れる理由がわかるなと、身をもって体験しました。……だから、僕も意外な一面がないんですよ! お互いに包み隠すことなく、腹を割って話したりもしましたし。

作品を観た観客はストーリーの想像だにしない展開、壮絶な役どころに驚くと思います。役作りにあたり内田監督とお話をしたり、またはヒントを得たりしたんでしょうか?

土屋:監督からは最初に、「音楽のライブを観て本番には本番の強さがある、1回しかできないことがあるとすごく影響を受けた。太鳳ちゃんにもダンスをやっている人ならではの爆発力があるはずだから、そんな感じでやっていけたら」というお話がありました。身体的表現もさることながら、内田監督は人と人との距離感をすごく意識していらして、場所やトーンを変えて演出してくださるんです。すごくしっくりくる感覚がありました。

佐久間:僕は……一番最初に監督とお会いして台詞を読んだとき、「君、目が怖いね。目つき悪いね、いいね!」と言われたんです。あまり言われたことがなかったので、「あ、褒められているんだ?」と思って(笑)。監督には「目と感情を大事にして」と、虚無感を持つことをよく言われていましたし、現場でもすごく意識していました。

先ほど土屋さんがお話されていた、佐久間さんの「ブラックホールのような」目のことですね。

佐久間:そうです。

土屋:普段明るい方が(役で)暗い目をされるとき、「今、演じてるんだな」と思うし、場合によっては嘘っぽく見えてしまうこともあると思うんです。お芝居だから演じるのは当たり前なのですが。佐久間さんの場合は一切嘘を感じなくて、自然に日常の中に馴染んでいくような目をされていたんです。吐夢として輪花を見ている目には嘘がなかったと思います。

なぜあんなに光のない目をできるんですか? ……という質問も野暮かもしれませんが。

佐久間:なんでですかね!? いま(話している)感じとは違うように感じますよね。何なんだろう??……でも、よくファンの方たちにも言われるんですよ。「佐久間は、急に目のハイライト消せる」って。

土屋:えー、本当に!?

佐久間:そうそう。自分的にはクッと自分の気持ちを入れる、という感じではあるんです。

いわゆる憑依型なんですか?

佐久間:どちらかというと、そうなのかもしれないです。何かを演じるにあたって「その人になりたい」気持ちはすごいあります。

土屋:私も「その人になりたい」と思うタイプなので、すごくわかります。

佐久間:輪花もどんどん目つきが変わっていったもんね。いつもの太鳳ちゃんと違う。どんどんキリっとしていくというか、絶望の目からのだんだんすれていく感じが出ていてすごかった。

土屋:すごくおこがましいのですが、ご一緒していると佐久間さんは本当に吸収される力がある方なんだなと感じていました。吐夢のような暗い役もいっぱいやってほしいけど、暗い役をやったら暗くなっちゃうかもしれないから……。

佐久間:なるほどね、ひっぱられちゃうかもしれないからね(笑)。

土屋:これから違う作品をやられるとき、もっといろいろな面を爆発してもらえるような役をしてほしい! というか、私が観たい! と思います。

佐久間:うれしい~!

今回は精神的にかなりハードなシーンばかり、でしたよね。お二人とも普段の生活で、役の影響を受けたりしませんでしたか?

佐久間:逆に……ちゃんと吐夢としていられるように常に意識していたというか、常に吐夢という引き出しを出せるようにしていた感じでした。撮影時の金髪でやっていたときのファンレターに、いろいろな番組で佐久間を見るとき「いつもよりテンションがちょっと落ち着いていた」と書いてあったんですね。

土屋:気づかれていたんですか、すごいですね!!

佐久間:そうなんですよ。ファンの方って、小さい機微にすごく気づいてくれるんです。情報解禁されたとき、「こういう役だったからか、だからか!」と皆さんの納得している意見まで含めて(笑)、「みんな、自分よりもすごいわかってくれるんだなあ」と思いました。

土屋:私は、今回は本当につらかったです。家に帰っても輪花が全然抜けなくて、家族も心配するくらい憔悴していました。いつもはつらい役でも、その中に光を見つけて感情が立体的になったらいいなと思っているんです。お客さんもそれ観て感じ取ってくれればいいな、と。今回は役づくりというよりも形で入るようにしました。例えば、苦しいときは内臓が冷え切ったような気持ちになって、瞬きがゆっくりになったりするじゃないですか。そういう動きから入った感じでした。

佐久間:そこからマインドを持っていく、というかね。

土屋:そうそう。

初めての内田組の感想も、ぜひ教えてください。

佐久間:監督のことを最初「怖い方なのかな」と思ったらとてもチャーミングな方で。現場を盛り上げて、引っ張ってくださって、的確な演出もされて。そうした明るい雰囲気だけでなく、「ここぞ」のときはきちんと現場をしめてくださるので、本当にすごい方だなと思っていました。作品、スタッフやキャスト、それぞれに対して愛があるから、きちんと話したり行動ができるんだと思うんです。本当に愛が深い方です。

土屋:そうですよね。愛情の示し方がすごく自然な方だと思います。人だけに向ける愛でなく、「映画をちゃんと作りきる」という愛情も持っているんだなと思いました。誰ひとり欠けずに、安全に、お客さんに届ける部分でも愛情があったのかなと。何よりも、監督は自分が積み重ねていった役づくりの時間を活かしてくださる方でした。

佐久間:本当にそうだよね! こっちが持ってきたものをやって「いまの、めっちゃいいね」とおっしゃってくれていて。

土屋:自然に、でもしっかりとキャッチボールをしてくださる監督だと思います。

ちなみに、佐久間さんの金髪についてはどう決めていったんですか? 普段の髪色と違うのもポイントかと思いました。

佐久間:髪色は監督が決めてくれました。普段のピンク色のままでいくと、自分自身を消せなさそうな感じが僕もあったので、髪色を変える変化があったほうがやりやすかったです。自分というよりも役を立たせることができたんじゃないかなと思うので、そのアイデアがすごくありがたかったです。

本作はマッチングアプリを使用したことを機に、運命の歯車が狂っていく物語です。演じるにあたってアプリのリサーチをしましたか? エピソードや印象など教えてください。

土屋:私の周りにも、マッチングアプリで出会ってお付き合いをしたり、結婚している人たちがいるので、時代に合っている出会い方の一つなのかなという印象を持っていました。恋愛や結婚だけでなく、今は就職活動でも企業とのマッチングアプリがあるんですよね? 特にコロナ禍になり人と人が直接出会えなくなる状況も経験したので、これから日常的な存在になるような気がします。マッチングアプリを使うときは、どんな状況であれ、「きちんと人の本質を見よう」という思いが大事なのだろうなと思います。人とちゃんと丁寧に関係性を紡いでいくことが、『マッチング』のテーマでもあるんですよね。

あと……よくよく考えてみると、演技の仕事でのキャスティングも合う・合わないの診断こそないですけど、「はじめまして」の人と家族より多くの時間を過ごしたりするので、ある意味マッチングのようなものかもしれないですよね。

佐久間:確かに、そうだよね!

土屋:これまで一度もお会いしたことのないキャスト、スタッフさん、プロデューサーさん、全員が「はじめまして」でも、そこから関係性を作っていくわけじゃないですか。そういう意味では似ているのかなと感じます。

佐久間:わかるなあ。人によって現場の雰囲気、全然違うもんね。

佐久間さんは、マッチングアプリ自体への印象は何かありましたか?

佐久間:僕はリアルに「役づくりで始めてみようかな」とマネージャーに言ったんですよ。「それはやめてください!!」と、本気で止められました(笑)。でも僕の周りでも、友達で使っている子がいますし、実際に会ったりするらしいんです。何となく連絡をして会わずに終わるものかなと思っていたんですけど、自分が思っている以上に、意外に気軽に人と会うものらしくそれも発見でしたね。それに「この人」と決めたらその人とお付き合いするわけですし。今の時代のアプリはフラットなものなんだな、という印象になりました。

そうですね。吐夢みたいな人がいなければ……。

佐久間:そうですね(笑)、フィクションでございます!

土屋:フィクションでございます!

そして、今回の現場での皆さんのマッチング度はよろしかったですか?

土屋:よろしかったですー!

佐久間:みんなで楽しかったですよねー!

土屋:本当に。撮影期間がすごく短かった気がしています……。

佐久間:わかるー! そうなんだよね。だいたい1か月くらいで撮ったから。

土屋:同じ1か月でも、長いときは長いと感じるんですけど、もうちょっと一緒に撮影したかったと思うくらいの現場でした。

佐久間:あっという間だったけど、本当に楽しかったです。撮影している前半くらいから、監督がすでに「2やりたい」とおっしゃって、「え、早くないですか!?」みたいな。金子ノブアキさんとも「2あるならやりたいですね!」と話しながら一緒に撮影していました。ストーリー的にもしできるならですけど(笑)。だから……僕たちと現場のマッチング度はグッドで「マッチング―(good)」でした。これ、太鳳ちゃんが考えてくれた造語です(笑)。

土屋:はい、「マッチング―」を各種番宣で押していこうと思ってます(笑)。

(取材、文:赤山恭子)

 

映画『マッチング』は2月23日(金・祝)より全国公開。

出演:土屋太鳳、佐久間大介、金子ノブアキ
監督:内田英治
脚本:内田英治
共同脚本:宍戸英紀
公式サイト:https://movies.kadokawa.co.jp/matching/
配給:KADOKAWA
(C)2024『マッチング』製作委員会

※2024年2月14日時点の情報です。

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