映画『#マンホール』中島裕翔×熊切和嘉監督、見たことのない中島裕翔に出会えるネタバレ厳禁の1本「自分が今までやってこなかった表情が出せた」【ロングインタビュー】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

映画『#マンホール』主演の中島裕翔×熊切和嘉監督のロングインタビュー。撮影秘話から、二人のオススメ映画まで。

都会のど真ん中で、もしも穴に落ちてしまったら? それがマンホールで、誰にも見つけてもらえなかったら? さらには、それ自体が自分の知っている誰かの策略だとしたら……?

思いつく限りの様々な恐怖の「もしも」を映画にした『#マンホール』が2月10日から公開される。マンホールに落ちる主人公の川村俊介を演じるのは、Hey! Say! JUMPのメンバー・中島裕翔。社内成績も抜群、同僚の信頼も厚く、社長令嬢との結婚も決まっている好感度マックスの“ハイスペ男”が、文字通り奈落の底に突き落ち、その七転八倒ぶりを中島が全身全霊を懸けて臨んだ。全編出ずっぱり&ほぼひとり芝居状態で、このジェットコースタームービーを果敢に乗りこなした中島、20代のフィナーレを飾るのにふさわしい1作となった。

先の見えないスリラーというオリジナル脚本で中島とタッグを組んだのは、『私の男』や『武曲 MUKOKU』などで知られる熊切和嘉監督。FILMAGAでは、熊切監督&中島にロングインタビューを実施、撮影の裏側や作品に挑んだ彼らの熱意、また映画愛にいたるまで、たっぷりと聞かせてもらった。

ネタバレ厳禁の映画『#マンホール』、予測不能の面白さでした。撮影に入るまで、おふたりがどのような心境で臨むことになったのか、教えていただけますか?

熊切監督:ここまで振り切ったジャンル映画を撮ることが、そもそも初めてでした。シチュエーションはマンホールと限られていて、足かせが多い設定だったので、その中でどれだけ映画的に豊かにできるかな、というのは撮影前からすごく考えました。あとは、徐々に追い詰められていく中で川村(中島)の人間性が少しずつ見えてくる、裏の顔も出てくるあたりが、自分としてはすごく燃えるところでしたね。観る人に体感させながら、そこを描けたらと思ってやっていました。

中島:僕はまず脚本を読んだときに「えっ!?」となりました。衝撃の結末、その道中で起こる数々のアクシデントにとにかく驚いて。「OK、なるほど!」……と1回脚本を閉じたりもして(笑)。これをやるのは大変だと思う気持ちと同時に、すごくチャレンジングなことで、楽しみな気持ちもすごく沸いてきましたね。

脚本を読んで「えっ!」となったんですね。……なりますよね?

中島:はい、とにかく結末にはびっくりしましたね。漫画みたいに読み返しましたもん(笑)。なので、映画を観てくださった方もこの結末に驚いてほしいです。

ハイスペ男子で、ある意味嫌な役を中島さんは当て書きされたわけですよね。読みながら自身が演じることについて、どう受け止めたんでしょうか?

中島:何というか……自覚していることなんですけれど、僕のパブリックイメージから「スーツを着た好青年」という役が、これまでどうしても多かったんです。今20代最後の年というのもあり、そのイメージを壊せるところに少しだけシフトできると自分の幅が広がるかな、と考えていました。そこに、ちょうどこの作品のお話をいただきました。

川村をやるとなると、ドロドロになるし、醜くもなる。「こんなに僕の見たことのない表情を出そうと思ってくれている人がいるんだ!」と思ったときに、すごくうれしくてありがたかったので、もう必死になってやろうと決めました。初めての役どころでしたけれど、その(製作サイドの)意思をきちんと受け取らせていただき、応えたい気持ちでお引き受けしました。

そもそもテーマとしてワンシチュエーションスリラーで見せていくこと自体がしびれますよね。「うわぁ、こういう映画を日本でつくれるんだ!」みたいなワクワクもありましたし。なかなかないジャンルだと思うので、すごく楽しみでした。

熊切監督と中島さんは初めてのお取り組みになりましたよね。

中島:監督と「はじめまして」のときの印象は、すごく物腰の柔らかい方だなあ、と。とてもこういう映画を撮るような感じじゃない、というか(笑)。ですけど、その純粋さが怖いんだなと気づきました……! 純粋に楽しそうな顔をしながらやられていて、増幅して「もっと、もっと!」という感じなんです。あと、最初に「どれだけ汚しても格好良く撮りたい」とおっしゃっていたので、男としての格好いいものが好きみたいなところにも、僕はシンパシーを感じました。

監督は中島さんからどんな格好よさを出そうと考えていたんですか?

熊切監督:そうですね。映画の出だしのほうは、わりと表面的な格好いい男ですよね。彼の本性がどんどんむき出しになっていく中で、汚れた情けない顔も出たり、いろいろあった上での本当の格好良さを出したいと思っていました。それはもう……嫌なやつだったりもするんですけど、その汚れた男のセクシーさについては中島くんが主演だったら絶対いけると思っていたので、そこは自信がありましたね。

中島:汚れに関しても、メイクさんが本当にばんばん汚していってくれたんです。川村というパーフェクトだった男が、泥だらけ・血だらけ・泡まみれになってどんどん変わり果てていくところも見どころです。先輩の岡田准一くんが、以前、「汚しメイクのときは“もっと足してください”と言うくらいじゃないとダメだ」とおっしゃっていたんです。だから、こんなにこの映画で汚してもらって本当にうれしかったというか、「できた! 汚してやったぜ!」みたいな気持ちがありました。口の中までやりましたからね(笑)。どんどん追い詰められているんですけど、後半はその楽しさをひた隠しにしながら、マンホールの中で戦う男をやっていました。

中島さんの演じる川村の人物描写が非常に的確で、それだけでもこの映画を観る価値があると思いました。爽やかな男の仮面が徐々にはがれていく演技のグラデーション、わかりすぎても、わからなすぎてもダメな匙加減はおふたりでどう作り上げていったんですか?

熊切監督:本当におっしゃる通りなんですよね。そうした段階は「細かくすり合わせてやろうね」と最初から中島くんと話していました。

中島:塩梅については、本当にすごく話しましたね。

熊切監督:今回は順撮りでやれたので、「ここはもうちょっとねちっこく、まるで昔DVとかやっていたような感じでできない?」という提案をしてみたり。そうしたら、中島くんはすぐに「なるほど、やってみます」みたいな感じで、どんどんやってくれて。「ああ、こんなに嫌な顔するんだ」と、撮っていて面白くてしょうがなかったですよ。

中島:できちゃう、っていう(笑)。

すごい才能ですね。

中島:いえいえ、才能じゃないです! 熊切さんがくださる言葉がすごく的確なので、「なるほど、DVか!」とイメージできたものがありました。監督とは意思疎通を密に取らせていただきました。

熊切監督は「この映画は体感してほしい」ともお話されていました。体感するために、どんなポイントを散りばめたんでしょうか?

熊切監督:マンホールのセットそのものの質感もそうですし、雨だったり、痛みの部分についても皮膚感覚にくるようにと思っていました。できるだけ皮膚感覚に訴える映画にしたいと考えてやっていたんです。

監督のデビュー作の『鬼畜大宴会』も皮膚感覚が痛すぎる映画でしたし、痛い描写はお得意ですよね。

熊切監督:ああ!……そうですね(笑)。もう性分といいますか、そこで絶対にがっかりさせたくないというのがあります。思ったより痛くしたいので、そこは必死に考えましたね。

ちなみに、マンホールには共演のどなたかが遊びにいらしたりもしましたか?

中島:永山(絢斗)さんはいらっしゃいました。すごく励ましていただいて。

熊切監督:「大変だね……」って、ちょっと引いていたよね(笑)?

中島:引いていましたね。「わっ」て(笑)。

マンホールの作りがすごくリアルな感じだったから、ですかね?

中島:そうなんですよ。本当にセットだと思えないぐらい、マンホールがリアルにつくりこまれていて。地面の濡れ感とか、はしごの錆感とか、どれをとっても本当に精巧にできていました。そういったことも相まって、僕はこの世界を信じることができたんじゃないかなと思いましたね。永山さんが「ここにずっといるんだ……!?」と気持ち悪がるぐらい陰鬱なセットなので……(笑)。

熊切監督:いろいろな汚しで……いろいろなものを使っていたんで、臭いもするんだよね。

中島:そうなんですよね。鰹節とか、青のりとかね(笑)。

そんなマンホールにひとりでずっといた中島さんなので、精神的にも肉体的にもしんどい瞬間もあったんですようか?

中島:そうですね。最初のうちは「ここに行くのが嫌だ」と思うような精神だったので、つらかったのはありました。けど、僕はそれでよかったんだと思うんです。「うわ、なんだよここ、こんなとこに落ちて最悪だな」というところから、もうここに住んでいるんじゃないの、というくらいに見えてくるというか。ずっと真っ暗な状況だからこそ考えることができたと思うんです。

マンホールの中にずっといなくても、倉庫の中にテントを建てていただいて、そこでひとりで暖をとりながら台本を読み直したり、次にやる芝居の気持ちを作ったり、途切れないようにはしていました。マンホールという世界に無関係になってしまう気持ちにならないようにする、というか。

熊切監督:僕も見ていて、やっぱりすごく集中されているなとずっと思っていました。特に後半の追い詰められていくところは、本当にひとりでテントにこもっていたりされたので、邪魔をしないようにいいタイミングで(カメラを)回そう、というのは気をつけていました。

中島:気を遣っていただいて……ありがとうございます!

熊切監督:いやいや、それはうれしかったですよ。

中島:それぐらいすごく難儀な気持ちの作り方でした。

いわば、この作品は中島さんがすべてを背負っているので、中島さんがダメだった場合いかんともしがたくなるわけですよね。けれど、まったくそうならなかった、中島さんとやっていて「大丈夫」という確信を監督が持ったのは、いつからだったんですか?

熊切監督:初日からすごく伝わる感じはありました。初日はパーティーのシーンを撮ったんですね。その後、夜道に消えていくシーンを撮って。あのとき、台本上にはなかったんですけど、現場で思いついた演出をいくつかやったんです。中島くんはそれをすごく理解して、自然にうまくやってもらえました。

長年やっていると、自分の中で通じ合える俳優・通じ合えない俳優がいるんです。中島くんはすっと通じ合えた感じがあったので、「あ、行けるな」と思いました。僕は芝居を見ながら俳優と呼吸を合わせていくようなときがあるんですけど、それがすっと合ったんですね。そうなると、行けるかなという感じになるんです。感覚なんですけど。

中島くんは何というか……僕が意図することをすごく汲んでくださる方で。伝えると彼の中でイメージして「じゃあやってみます」という感じになる。彼の肉体を通してうまく表現してくれるんですよね。もちろん身体能力の高さもありますけど、それ以前に伝わる感じがあったんですね。波長が合うと言いますか。

あとはもうマンホールに入っちゃえば、なんていいますかね。行けるだろうと思っていたので(笑)。

中島:うれしいです、本当にありがとうございます。僕、初号を観たときに初めての感覚になったんです。普段、ドラマでも映画でも、初めて観るときは毎回自分の芝居ばかりに目がいって、客観的に見られないんです。その話自体が面白いかよりも、自分の芝居の反省点ばかりがまず気になっちゃうので。

それでも、今回だけはすごく客観的に観ることができました。なぜだろうと考えたとき、自分が今までやってこなかった表情が出せているから、そういう感覚に陥ったのかなと思ったんです。今までだったら自分の範疇でイメージしたものが出ていたんですけど、この映画で本当に見たことのない表情を引き出していただいたので、初めてに近い感覚で「客観的に観て面白い!」となった映画でした。

だからか、自分がたくさん出ているんだけどあまり違和感がないというか。もちろんその中で気になる芝居のところもあるんですけれど、全体を通して自分でも驚くぐらい見たことのない表情をしていたから、こういう風に見られたのかもしれません。

撮影前後で、おふたりの印象や関係性は変わったんでしょうか?

中島:終始こういう(近しい)感じだった気がします。最初から「初めて会った気がしない」と言われていて、僕も何でだろうなと思っていたんですけど。熊切さんはすごく物腰がやわらかくてやさしくて、しゃべりやすいですし。

熊切監督:僕も印象は変わりないけど……いやもう、好感度大ですね(笑)。顔合わせの日に……詳しくは言えないんですけど、後半に関わるある重大な作業を中島さんとしたんですね。

中島:あっ、あれですね!! 僕は、そこで熊切節を浴びるっていう(笑)。あれはすごく大きかったです。

撮影後の今も交流はあるんですか?

中島:今はお互い観たお勧めの映画とかを、スマホで送り合ったりしています。

熊切監督:そうそう。

中島:熊切さんは「ああ、熊切さん好きだろうな」という映画のタイトルを送ってくださったりするんです。すごくお詳しいですし、僕も同じ系統が好きだったりして。

熊切監督:そう。中島くんは「『ミッドサマー』大好き」と言っていたので、そういうところでも通じ合えるなって(笑)。

中島:僕は熊切さんにギャスパー・ノエの『CLIMAX クライマックス』をお勧めで送りました。あれは、やばかったですよね!

熊切監督:中島くんから「逆立ちして観たくなりますよ」とお勧めされて、何のことかと思ったら途中からずっとカメラが、ね。

中島:逆さになっているんですよね!

中島さんは、監督のフィルムでお気に入りの1本はありますか?

中島:『武曲 MUKOKU』です。とにかく雨が格好よくて。やっぱり男子は、ああいうところで戦っている男が格好いいと思う気持ちがあるというか。あの綾野(剛)さんのだらしない感じもよかったですし、すごかったです。格好よかったです。

中島さんがお好きな『武曲 MUKOKU』(2017年)以来、本作まで監督は新作映画を発表していませんでした。『#マンホール』は5年ぶり待望の新作で、この5年間、監督はやりたい題材をずっと探していらしたんですか?

熊切監督:正直に言うと、『武曲 MUKOKU』まで原作ものがずっと続いていたので、オリジナルがやりたくて、原作ものをいったんお断りすることが多かったんです。オリジナルの企画を結構出していたんですけれど、それがお金が掛かるわりには地味なものだったので、要はなかなか商売にならないというところで、内容的には面白いと言われてもなかなか実現できなかったことがありました。

5年ぶりに『#マンホール』というジャンル映画に挑戦されて、面白さやご自身の中で新たな発見・うごめきはありましたか?

熊切監督:ありますね。ジャンル映画はずっとやりたかったんですけど、なかなかチャンスがなかったんです。「この距離感で見せたらこう見えるかな」とか、そういうことをすごく考えなきゃならないじゃないですか。特にこういうちょっとミステリー的なものなので、そこがすごく面白かったですし、発見でしたね。

では、最後に監督からFILMAGAの映画好きユーザーに最近観たお気に入りの1本をぜひご紹介ください。

熊切監督:古い映画でもいいんですか? ずっと観たかった『眼には眼を』という50年代のフランス映画を、先日ようやく観られました。ベテランの医師が、ある夜、大変な手術を終えてリラックスしているときに、急患の患者さんが来るんです。けど、その医師は断ってしまう。そうしたらその患者が死んでしまい、その旦那さんにつけ狙われる、というスリラーなんです。

その旦那さんの車がすごく印象的なんですけれど、窓を開けたらその車が停まっていたりして、まさに絶妙な距離感で、すごく的確に表現していましたね。スピルバーグの『激突!』みたいな感じの怖さが前半あったりしたので、すごく面白かったです。お勧めしたいです。

(取材、文:赤山恭子、写真:提供写真)

 

映画『#マンホール』は、2023年2月10日(金)より公開。

出演:中島裕翔、奈緒、永山絢斗ほか。
監督:熊切和嘉

原案・脚本:岡田道尚

公式サイト:https://gaga.ne.jp/manhole/

(C)2023 Gaga Corporation/J Storm Inc.

※2023年2月2日時点の情報です。

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