役所広司と吉沢亮が初顔合わせとなった映画『ファミリア』は、国際色豊かで骨太な人間ドラマだ。違う環境で育った異国籍の者同士が諍いを起こしたり、家族として結びついていったり、家族や友達とも呼べない固い絆で結ばれたりもする。観終わった後、心の中に感動の波紋が広がるような感覚に陥る。
陶器職人の神谷誠治(役所)は、妻を早くに亡くし長い間独居していた。ある日、ひとり息子の学(吉沢)が赴任先のアルジェリアで出会ったナディアと結婚すると言い、その報告で帰省する。ささやかな幸せをかみしめていた矢先、隣街の保丘団地に住むマルコスや彼を取り巻くブラジル人と出会い、誠治の生活は少しずつ変わっていく。
静かで穏やかだった誠治の毎日が、ブラジル人たちとの交流や学の環境の変化から、少しずつ色を変えていく。ほどなくして起こった事件から、善意と悪意、様々な気持ちが絡み合い、胸がえぐられる展開を迎え物語は進んでいく。ひたすら耐えてぶつかっても信念を通す誠治を演じた役所の名演と、家族に寄り添う愛情の眼差しがやさしい吉沢の好演が忘れがたい。
本作は、撮影がコロナ禍で一度は中断したものの、ふたりや製作陣は作品を届けたい一心で気持ちを切らさずにいたという。名匠・成島出監督のもと、役所と吉沢がともにほれ込んだ本作について、インタビューした。
心が何度も動かされる映画でした。役所さん、吉沢さんは脚本を読みどこに惹かれて出演を決めたんでしょうか?
役所:やっぱり誠治の生活とブラジルの若者たちの描写が絡み合ってきたところが、いつもの日本を舞台にした脚本と違うなと思って、不思議な感覚はありました。いろいろな家族との関係、血のつながっていない人だけども家族と同じような気持ちを持っている人たちがいたりして、盛りだくさんだなと。それらの要素がうまく絡み合ってひとつの映画になれば、あまり観たことのない映画になるのかなと思ったのでお引き受けしました。
吉沢:いろいろなかたちの家族、いろいろな人物のストーリーがあって、全員が家族や他人に向けた愛みたいなもので動いているお話だなと思いました。すごく残酷でもあるけど、温かい話だなというふうにも感じました。僕は、この作品で描かれているような移民問題について、お話をいただくまで詳しく知らなかったんです。もちろん物語はフィクションではあるけれど、こういうものを作品にすることが何か意義があることなのかなと思いながら読んでいました。
おふたりは初共演ですよね。吉沢さん、役所さんとご一緒していかがでしたか?
吉沢:これまで役所さんの様々な作品を観させていただいていましたし、本当に嬉しかったです。この作品に出演するにあたり、役所さんと一緒にお芝居ができることが何より出たい理由のひとつでした。間近でお芝居を見てみたいという思いがすごく強かったので。実際に一緒にお芝居できてすごく勉強にもなりましたし、すごく素敵だなと思いました。
役所:そんな。吉沢くんは、よくこんな土くさい映画に……(笑)。
吉沢:(笑)。
役所:吉沢くんみたいな人が出てくれるんだなあ、と思って僕は頼もしかったですね。一緒にシーンを作りながら、とても自然で気負うこともなく、すーっとそのシーンを一緒に作れていく感じが心地よかったです。誠治にとっては、吉沢くんの演じた学は一番大きな存在ですからね。ちゃんと存在してくれて、とても助かりました。
すごく自然な親子関係が映されていましたが、どうやって作り上げていったんですか?
役所:この物語に至るまでの(役の)人生のメモを監督からもらったんです。それが基本にあるので、「どんなエピソードがあった、どんなお母さんだった、どんな子供時代だった」というものが頭に入っているんですね。だから、会ったときからすんなり「学はこういう子だ」と思えました。共有できる過去があったのは、監督のひとつの演出なんでしょうね。
本作には神谷家と深く関わることになるマルコス役のサガエルカスさんや、学の婚約者・ナディア役のアリまらい果さんなど、演技初挑戦のキャストも多かったですよね。すごく説得力のあるお芝居に引き込まれましたが、いかがでしたか?
吉沢:とにかく素晴らしいです。本当に演技なのかわからないぐらい、ここ(物語の中)に根付いている感じがするというか。それがこの作品の良さなのかなという気もするんです。1度、コロナの影響で撮影が中断してしまい「本当に撮り終われるのだろうか?」という状況になったんです。僕はその間大河ドラマに入ったこともあり、長い期間、この作品から離れていて。その後「再開できるかもしれない」というタイミングで、今まで撮った映像を観させていただいたんです。マルコスたちのシーンを軽くつないだものを観せていただけたのですが、そのとき、あまりにも素晴らしすぎて「これは絶対に世に届けなきゃダメなものだ」と強く思ったんです。だから、より撮影の再開に気合いが入りました。
役所さんは陶器職人ということで、実際にろくろをまわしたり形成したりしていました。かなり練習されたんでしょうか?
役所:クランクイン前から練習していました。電子ろくろをスタッフが借り出してくれて、家に土も持っていって、うちの駐車場でずっとやっていました。最初は、さすがに手元は吹替なんじゃないかと思っていたんですけれど、できるだけやろうと思って練習していたんです。けど、監督はもともとまったく吹替の手元をやる気はなかったみたいで(笑)。だから、クランクインしても工房で、時間があるだけ練習していましたね。
吉沢さんも、役所さんと一緒にこねるシーンもありました。
吉沢:ちゃんとした形になるまで何回か練習させていただいたんですけど、難しかったです。
役所:いやあ、(吉沢は)けっこう器用なんですよ。僕は苦労しているのに、彼は結構早くて……。
吉沢:いえいえ!
役所:僕なんか腰痛にもなったし。
吉沢:僕も腰、痛かったです。手のダメージも半端じゃなかったですし、背中とかも痛くなりました。
朝焼けの高速道路、熱い温度の窯、家族で歩くあぜ道、学のアルジェリアでの出来事、数々の映像が印象的ですが、おふたりが印象に残ったロケ先はどこでしたか?
役所:吉沢くんは……アルジェリアロケでしょ?
吉沢:えっと……。あれは大変でした!
役所:大変な砂漠だったもんねぇ。
……あの……行かれていないですよね(笑)?
役所&吉沢:はい(笑)。
吉沢:ロケ地として印象に残っているのは団地です。すごい寒くて大変な撮影ではあったんですけど、実際にそこに住んでいる方が出ていたような感じで、空気感がとても暖かかったんです。みんなで挨拶し合ったりしてとてもアットホームだったので、寒かったけど楽しかったです。
役所:僕もそのシーンいましたね。本当に長い時間、みんな頑張ってくれましたよ。
役所さんはどのシーンが印象深いですか? 強いて挙げるならば。
役所:僕はやっぱり工房ですね。ずっとあそこで土をこねたりしていたので。指導してくれたポールさんがどろどろな(作業着の)人で、そのイメージがあったからか、衣装さんも僕の衣装は1回も洗っていなかった(笑)。汚しても全然平気だったし、あそこはなんとなく居心地が良かったですね。
陶器づくりが新たな趣味になる予感もありますか?
役所:一応ね、やろうと思って。ろくろとあそこで使った土ももらいました。……まだ駐車場に置いたままなんですけどね(笑)。
いずれ、ですね(笑)。インタビューを掲載するFILMAGAは、映画やドラマ好きな読者が集まるWEBマガジンです。おふたりが最近観た中で、心に残った作品は何ですか? 新旧問わず教えてください。
吉沢:Netflixの『ドント・ルック・アップ』がめちゃくちゃ面白かったです。僕が最近、唯一観た映画なんですけど、お芝居はもちろん、ちょっと皮肉めいたコメディ感というか、話のつくりもすごい素敵でした。「出てくる人たちがめちゃくちゃ豪華じゃん!」みたいな感じも含めて、全体がすごく笑えましたし。話がしっかりしているからこそ、その感じが僕は本当に好きでした。
役所:映画ではなく配信ドラマでもいいんですか? 配信ドラマはたくさん観てはいないんですけど、スペインの「ペーパー・ハウス」にはドはまりでした。一気に全部観ましたね、面白かった! 日本版ももしあるなら……どうなるか観てみたいかな(笑)。
役所さんはキャリアも長く、出演本数もとても多いです。ご自身の出演作の中で、FILMAGAユーザーに「これぞ!」という1本をぜひ伺いたいです。
役所:え~!……そうですね~。直近では、西川監督の『すばらしき世界』とか、どうですか?
最初から最後まで、引き込まれる作品ですよね。昔の作品を観返すこともありますか?
役所:いや、ないんですよ。僕は、自分の作品を初号でしか観なくて。映画祭なんかに行くと、お客さんと一緒になると2回目を観ますけどね。
観ないことがこだわりでもありますか?
役所:いやぁ、いつかね。老後に(笑)。観てしまうと反省したり、いろいろなことを考えるだろうけど。観ないのは何でかなあ…観る勇気がないのかなあ……?
将来、観返すときは何からご覧になるか決めていますか?
役所:んー!『Shall we ダンス?』から観るんですかね(笑)。……ああ、でも青山(真治)監督が亡くなったので『EUREKA ユリイカ』は読者の方に見てほしいです。時間は長いんですけど、やっぱりいい作品だと思います。
『EUREKA ユリイカ』は当時から、国外からの評価も高かった作品ですよね。
役所:そうですね、本当に。フランスに行ったときなんか、現地の方からは「『Shall we ダンス?』(の役所広司)」と言われるかなと思ったら、「『EUREKA ユリイカ』!」と言われますからね。本当に……本当に奇跡的に良い作品だな、と思います。
(取材、文:赤山恭子、写真:iwa)
映画『ファミリア』は2023年1月6日(金)より公開。
出演:役所広司、吉沢亮、サガエルカス、ワケドファジレ ほか。
監督:成島出
脚本:いながききよたか
公式サイト:https://familiar-movie.jp/
(C)2022「ファミリア」製作委員会
※2022年12月27日時点の情報です。