「天才、鬼才」。映画『笑いのカイブツ』で岡山天音演じる主人公の“伝説のハガキ職人”ツチヤタカユキを観ていると、その2文字が脳裏に浮かんでは消え、才能に震える。お笑いにすべてを投げうち、燃えさかる情熱を傾けるツチヤ。その本人が書いた同名私小説の映画化にて、岡山はツチヤと完全に一体化し、ゾクゾクする視線を何度もスクリーンに刻み込んだ。
そのツチヤの転換期に大きく携わるピンクを演じたのは、菅田将暉。主演作が相次ぐ菅田が、「伝説のハガキ職人の映画化、岡山天音主演と聞いて全身がよくわからない震えに襲われ参加しました」と惚れ込んだ座組みで、ピンクというこれまた型破りで危うい男をまっとうする。
笑いにのみ人生を捧げるツチヤの半生は、演じるという俳優業に身を置く彼らと、ものづくりに向き合うという点で通じるところがあるのかもしれない。作品を届けることを生業とした人間の覚悟と思いも、本作では感じさせてくれる。鮮やかで、痛く、毒のような傑作『笑いのカイブツ』について、岡山&菅田に語り合ってもらった。

情報解禁時の岡山さんのコメントでは「なんとか生き延びて今日にいます」とありました。笑いに対して常にストイックなツチヤを演じるにあたり、どのように向き合っていたんですか?
岡山:ツチヤはビビッドなキャラクターではあるんですけど、役を演じるまでの工程としては、実はこれまで演じたほかの役よりも少なかったかもしれないです。というのも、原作や台本を読ませていただいたとき、強く自分とつながりが見えたんです。最初から共感していたというか。どちらかと言うと、普段は自分の身体や精神をいろいろ加工したり、割と理詰めで考えたりするんですけど、この作品では割と最初から近いものを感じられて臨めた役でした。

菅田さん、実際にそんな岡山さん演じるツチヤと向き合ってみて現場でどのような感情を受け取りましたか?
菅田:もう、気持ち悪かったです。
岡山:誤解を生むってー(笑)! これが活字になると……。
菅田:いや、褒め言葉ですよ!
岡山:いやいや。
菅田:本当に台本以上のエネルギーがあって。まるでネフェルピトー(漫画「HUNTER×HUNTER」)のような……。
岡山:例え、おかしくない(笑)?
菅田:本当にまがまがしかったです。「生き物として負けた」という感じがありました。サバンナとか動物界で生き物としてツチヤに出会ったとしたら、たぶん俺は逃げますから。

それほどに強烈なものを受け取ったんですね。動物界という言い方をされましたが、ツチヤは人間界、社会生活においてうまくなじめない描写も出てきますよね。
菅田:そうですね。ツチヤは人間社会においては大変かもしれないけど、生き物としての計り知れないエンジンみたいなものを積んでいる、という感じをすごく受けました。言うならば、ネズミにハーレーとかポルシェみたいなエンジンがぐっと入っている、みたいな。初見では「壊れるぞ!?」というくらい変なエネルギーの爆弾みたいな感じがありました。
実際、現場ではいかがでしたか?
菅田:まず監督がすごくおもろくて。監督と天音を見ていて、「その感じ、いいなぁ」って俺は思っていました。とにかく信頼感があって、お互いがお互いを面白がっている感じが伝わってきたんです。それを見ただけで「絶対この映画、面白いんだろうな」と思いましたし、同時に「面白くしなきゃな」とも思いました。
岡山:うれしいです。監督は面白いですよねぇ。
菅田:監督が「こんな感じ」とやるのが一番面白いんだよね。やらないでよ、っていう。
岡山:こっけいな芝居がうまいですよね。
菅田:めっちゃうまい! 無意識に人を傷つけたりする感じとか、めっちゃうまい。
お二人は超えていかなきゃいけないので、それも大変ですよね。
菅田:超えられなかった。数日じゃ全然ダメでした。
岡山:いやいや! そんなことは絶対ないです!

ツチヤさんご本人も撮影現場にはいらしたんですか?
菅田:ご本人もいらっしゃいました。だからピンクのことも聞けました。ご本人とともに天音のやっているツチヤも見られたのが、僕としては結構面白かったです。
ご本人を前にやられるのは、岡山さん的には……?
岡山:やっぱりプレシャーはありました……! いらっしゃる日といない日で、全然プレッシャーが違って(笑)。
菅田:そりゃそうだよね。

菅田さんとの共演は、今回いかがでしたか?
岡山:菅田くんとの初日は、路上のシーンからだったんです。それまでチームで撮影はやってきていたんですけど、その日、菅田くんがパイプ椅子みたいなのに座って待機しているのが……ちょっとよくわかんなかったです。脇にいる菅田くんを見るのはすごい新鮮でしたね。いてくれるんだ、っていうか。
菅田:ああ、そうか。そんなこともないようにも思うけれど、そうかな……?
岡山:いやぁ、うれしかったです! 心強いし、背筋も伸びますし。ピンクインの前の日は緊張しました(笑)。

ツチヤとピンクは、あるとき出会い、友情とも何とも定義できないディープな関係を築きます。二人の関係性については、どう見ていましたか?
岡山:そうなんですよね。なんて言ったらいいか、という関係値で。最初のシーンも、ギリ出会いと呼べるのかどうか。四捨五入したら出会いだけど、すれ違っているようなものなので。だから本当に、ふとしたはずみでその瞬間その時期だけ人生が交差した二人という感じがしているんです。だから(二人を)くくる言葉はあまりないですよね。その関係性のジャンルとして、不思議ですよね。
菅田:んー……何だろう。でもなんか、あるあるなのかもと思う。あるあるといっても、だいぶ小さい世界のあるあるかもしれないけど。
岡山:うん。
菅田:なんか、こう……たどりついた人が出会っちゃう場所、みたいなのがあって。そこにたぶん人よりも多くたどりついてしまっている感じが、ツチヤはやっぱりある。たぶんピンクというのは、その世界を認識している人ではあるんでしょうね。だからリスペクトもあるし、おもろいなと思えてしまうし、笑っちゃうというか。……幽霊が見える人っているじゃないですか?
いますね。
菅田:俺はまったく見えないんですけど。見えない俺らからしたら、わからないし、でも否定するつもりもない。でも見える人からしたら普通にそこにいるというから、もしかしたらピンクはたまたま見える人で、みたいな感じなのかなと思いました。

冒頭で岡山さんから「最初から共感していた」というお話もありましたが、具体的にどのあたりなのでしょうか?構成作家というツチヤの仕事は華やかでいて、自分との闘いであり、才能との向き合いを感じる抉るような感覚もあり、俳優業にも通じる気がしました。
岡山:構成作家やハガキ職人とかの肩書云々は抜きにして、ツチヤが抱えている、持って生まれた核みたいなものと、自分の核がすごい近いなと思っていました。例えば、学校だと同世代の人たちと集められるじゃないですか。「あれ、自分だけカタチ違うな?」と感じたりするときがあって。そうやって自分ひとりで思っていたことを、ツチヤタカユキというキャラクターを原作で知ったとき、初めて誰かにわかってもらえるかもしれない感じがして。「あ、この話ができる人がいたんだ」と思うような出会いでした。
肩書の話でいうと、ものをつくる人は、孤独な時間は絶対ありますよね。俳優もそれはそうだと思います。

菅田:当然と言えば当然ですよね。創作で生きていこうって、やっぱり簡単なことじゃないですし。特にお笑いは、人を笑かすってすごいことなので。僕はやっぱり普通にお笑いが大好きなので、一番格好いいなとも思っているんですよね。自分自身、お芝居の中でもコメディは一番苦手だな、難しいな、と思います。
ツチヤはラジオをきっかけに構成作家になっていきますけど、自分がラジオをやっていたときもリスナーのすごみを5年間すごく感じていました。実際にそこから作家を目指す人も多いですし、なっている人もいるけど、なれなかった人も多いと思うんです。どんな分野でもそうですけど、突き詰める人は報われてほしいと思ってしまいます。

最後に、FILMAGAは多くの映画好きが集まるメディアです。ユーザーにおすすめの「最近観た映画で印象に残っている作品」をそれぞれ教えてください。
岡山:映画だと、あれだー! タイトル、忘れてしまった……。洋画で、図書館から大学生が本を盗もうとする話。
菅田:『図書館戦争』?
岡山:洋画です、違います(笑)。実話をもとにしていて、大学の図書館から人生から何か足りないみたいな、退屈している大学生たちのお話で……。
(編集部:『アメリカン・アニマルズ』ですか?)
岡山:そう! あれ、めっちゃ好きです。実在の事件なので、元になった人たちのインタビュー映像みたいなものが途中で差し込まれるんですけど、その仕掛けが面白くて。最後、主役の子と主役のモデルになった人が同じ画面で重なるんですよ。そういうつくりも新鮮でした。別枠で進行していくのかなと思っていたら、最後そういう絡ませ方になるのも面白かった! 単純にお芝居もめっちゃ魅力的ですし。
菅田:俺も観たやつかな? 気になるな。
岡山:菅田くんは? 菅田くんのおすすめ作品は?
菅田:俺、最近ホラーしか観てないからなぁ……。
岡山:確かに面白いですよね。
菅田:この間、『M3GAN ミーガン』を観て面白かった。
岡山:ああ! 人形ちゃんのやつ。
菅田:ふざけていて、笑いましたね!

最近ホラーばかりを観てしまうのは、何か理由があるんですか?
菅田:いやあ……分析すると、そもそもお笑いを見ている感じなのかなと思うんです。ホラーは大喜利に近い感じになってくるんですよね。
岡山:確かに、大喜利の要素ありますね!
菅田:どうやって怖がらせようかな、と、怖がらないぞ、の騙し合い、いたちごっこというか。そこを観るのが好きなのかもしれないですね。
取材、文:赤山恭子
写真:iwa
岡山天音:ヘアメイク/石川奈緒記、スタイリスト/岡村春輝
菅田将暉:ヘアメイク/AZUMA(M-rep by MONDO artist-group)、スタイリスト/猪塚慶太
映画『笑いのカイブツ』は2024年1月5日(金)よりテアトル新宿ほか全国公開。
出演:岡山天音、松本穂香 片岡礼子/菅田将暉、仲野太賀ほか
監督:滝本憲吾
脚本:滝本憲吾、足立紳、山口智之、成宏基
原作:ツチヤタカユキ『笑いのカイブツ』(文春文庫)
公式サイト:https://sundae-films.com/warai-kaibutsu
配給:ショウゲート、アニモプロデュース
(C)2023「笑いのカイブツ」製作委員会
※2023年12月25日時点の情報です。

