テレビドラマ『最愛』や映画『わたしの幸せな結婚』などの監督・塚原あゆ子、『カラオケ行こ!』や『罪の声』などの脚本家・野木亜紀子、TBSのドラマプロデューサー・新井順子の3度目のタッグ作となる『ラストマイル』。本作は、3人がこれまで共に制作してきた大人気TBSドラマ『アンナチュラル』『MIU404』と同一世界線上で展開されるシェアード・ユニバース作品としても注目を集めている。
ブラックフライデー前夜に、世界規模のショッピングサイトから配送された段ボール箱が爆発する事件が次々と発生。西武蔵野ロジスティクスセンターに務める舟渡エレナ(満島ひかり)と、梨本孔(岡田将生)が事件解決に向けて奔走する物語だ。
『ラストマイル』(2024)あらすじ
11月、流通業界最大のイベントのひとつであるブラックフライデーの前夜、世界規模のショッピングサイト「DAILY FAST」から届いた段ボールが爆発する連続爆発事件が発生。爆発した荷物は、どれも西武蔵野ロジスティクスセンターから配送されたものだった。急な辞令でセンター長として赴任したエレナとチームマネージャーの孔は、事件解決とどんなことが起きても稼働率を落とさずに配送し続けることを、余儀なくされる。
※以下、本作のネタバレを含みます。
事件の真相は?犯人は誰?

ブラックフライデーの前夜に発生した最初の爆発。次々に、第二、第三の爆発が発生していく。エレナは事件を調べていくうちに、「DAILY FAUST」と描かれた出稿していないはずのWebCMが流れているのを発見。
そのWebCMは、5年前に西武蔵野ロジスティクスセンターでチームマネージャーを勤めていた山崎佑の名前で制作依頼がされていた。『MIU404』に登場する4機捜や西武蔵野署の刑事たちが山崎について捜査を進めると、彼は5年前に西武蔵野ロジスティクスセンターで発生した落下事故で植物状態になっていた。自殺の疑いがあったが、まだ意識があったときにDAILY FASTを訴えないという覚書をかわしており、しかも当時の社員から山崎は結婚が近い恋人との関係に悩んでいたという証言もあった。
警察が犯人を追うなか、倉庫内に爆弾をしかける方法はなにかを考え続けていたエレナと孔は、物流代行サービスを使用し倉庫内で物流代行サービス商品であることの証明になるシールを剥がすことで、商品と爆弾をすり替える方法に気づく。倉庫の内情を知っているアルバイトであり、なおかつ物流代行サービスの利用者、爆弾が仕掛けられた商品の購入者と絞っていくと犯人の名前とまだ見つかっていない爆弾が仕掛けられた商品が明らかになる。
犯人は、山崎の当時の恋人・筧まりか。彼女は当時ニューヨークのDAILY FASTに勤めていたエレナの元へ事件を訴えに来ていた。エレナは山崎の事情を知った上で西武蔵野ロジスティクスセンターに赴任しており、上司から山崎のデータを消すように言われていたのだ。

無事、犯人を明らかにし爆弾の処理にも成功するが、何かがおかしい。犯人はブラックフライデーの2週間前にセール対象商品を把握し、それらに爆弾を仕掛けた。しかし最初の爆発が起きたのは、そのときにはまだ発売していなかったデリフォン。
『アンナチュラル』に登場するUDIの面々が最初の爆発の被害者を解剖すると、爆発の被害者と思われていた遺体は、里中浩二という男性ではなく筧まりか本人だった。彼女はコンロの火がついた部屋で、故障した爆弾を作動させることで自殺していたのだ。
すでに配送済みだった最後の爆弾も、配達員である佐野親子が処理することで、連続爆破事件は無事解決した。
ロッカーに残されたメッセージの意味

事件を捜査するなかで、浮かび上がった山崎の落下事故。彼は自分のロッカーに「2.7m/s →(矢印の下に70kg)0」と書き残していた。このメッセージはチームマネージャーに引き継がれ、5年の時を経て孔に伝わった。事件を捜査するなかで、孔はこのメッセージをエレナに見せる。エレナは筧まりかから聞いた山崎が働いていたころの姿や自身も仕事で心身を病んで休職した経験を思い出し、涙を流す。
2.7m/sは倉庫内で稼働するベルトコンベアの速さ、70kgとはベルトコンベアの耐荷重だ。二重にぐるぐると描かれた0は、倉庫の稼働率を表す0%という数字と受け取れるが、全てをリセットしたいという意図も感じられる。
心身を病みながら仕事をしていた山崎は、自分が落下してベルトコンベアを止めれば、人間性を無視するような社内構造の暴走を止め、解放されると考え、3階相当の高さからベルトコンベアへと飛び降りた。しかし、止まったベルトコンベアは怪我をした山崎を降ろしてすぐに動き始め、山崎は植物状態となり死ぬこともできなかった。搬送先の病院で久部六郎は、山崎が「バカなことをした」と漏らしたのを聞いていることから“止められなかった”のだと推察できる。

このメッセージを見たエレナは、山崎からの「止めたい」というメッセージを受け取る。これまで、電話で配送業者の羊急便に対して高圧的な態度で指示を出していたエレナは、はじめて羊急便関東局オフィスの八木竜平(阿部サダヲ)の元を訪れて、すべてやめようと提案。配送業者からDAILY FASTへのストライキに協力して、稼働率を0%にするのだった。
欲しいと思った瞬間に、注文すればすぐに届く荷物。そして送料無料が当たり前になった。速く、安くを求める世界に、DAILY FASTの社員も、配送業者も同じように疲弊していく。エレナは、山崎がロッカーに残したメッセージによって、流通業界の上流も中流も下流も、一回止める勇気を持ち、自分たちの権利を主張するべきだということに気づいたのだ。
『アンナチュラル』の白井 、『MIU404』 勝俣の事件とは?
本作には、ドラマ『アンナチュラル』からUDIラボのメンバー、『MIU404』から第4機捜のメンバーが登場する。その他にも、『アンナチュラル』第7話から白井一馬(望月歩)と『MIU404』第3話から勝俣奏太(前田旺志郎)の未来も描かれている。

『アンナチュラル』第7話当時、白井は高校1年生だった。いじめを受けていた白井を、横山伸也(神尾楓珠)がかばったことで、横山はいじめの標的になってしまう。いじめグループへの仕返しとして、自殺を図り罪を被せようと考えた白井と横山。白井自身は遊びだったつもりが、横山は本気だった。
横山は自殺を図るが、いじめグループにアリバイがあったことで罪を被せられなくなってしまった。白井は、「殺人者S」と名乗り、法医解剖医の三澄ミコト(石原さとみ)に死因といじめを明らかにさせようと配信を行う。彼はミコトにいじめがあったことを語らせた後に、自殺をしようと考えていたのだ。白井は、間一髪のところで、UDIラボのメンバーに自殺を止められる。
彼は、中堂系(井浦新)に「僕だけが生きてていいのかな」と問いかけ、「赦されるように生きろ」という言葉をもらった。『ラストマイル』では、久部六郎(窪田正孝)へメディカル便を届けるバイク便のドライバーとして登場する白井。横山の自殺を止めることができなかった白井は、荷物を届け命を繋ぐこともできるドライバーとして活躍しているのだ。

『MIU404』第3話当時、高校3年生だった勝俣。陸上部だった彼は、部活の先輩がドラッグを販売していた責任を負い、高校生活最後の大会への出場も許されず、陸上部は廃部を余儀なくされていた。勝俣を含む陸上部は、鬱憤をはらすように、連続して発生していた女子高生襲撃事件を装って虚偽通報をおこない、警察から走って逃げるというゲームを繰り返していた。
4機捜のメンバーは、虚偽通報をおこなっていた陸上部メンバーを捕えるために捜査を行うが、その際陸上部のメンバーと共に行動していた勝俣の恋人・真木カホリ(山田杏奈)が本当に襲われてしまう。勝俣を追っていた伊吹は、真木を助けにいくことを勝俣に告げ、来るか来ないか今決めろと言葉をかける。勝俣は4機捜メンバーに涙ながらに謝罪し、真木を助けてくださいと懇願。志摩と伊吹の活躍により、真木は無事助け出される。
虚偽通報事件を操作するなかで4機捜の隊長・桔梗(麻生久美子)は、「犯罪を犯したとしても、救うべきところは救う。それが5年後、10年後の治安につながる」と告げている。『ラストマイル』で、勝俣は4機捜のメンバーになっており、陣馬(橋本じゅん)の相棒として登場する。4機捜の活躍により救われた高校生が、治安を守るために活躍しているのだ。
ラストマイルという言葉の意味とは

タイトルになっているラストマイルという言葉は、通常はラストワンマイルと呼ばれ、「物流サービス」で使われる「荷物を顧客に届ける最後の区間」を意味する。物流サービスのなかでは、配送をおこなうドライバーが担うことになるラストマイル。作中でも羊急便の八木が、「昔はやりがいを持っていた」と語っていたように直接お客さんの顔を見て、荷物を届ける大切な役割だ。
しかし、ネットでの買い物が一般的になり、なるべく便利に速く安くが追求された結果、最も皺寄せをくらい、安く買い叩かれる立場になってしまった。どんなにやりがいがあっても、雨の日も風の日も食事の時間を切り詰めて働き続ければ、どんどん疲弊していく。
この映画で描かれた爆発事件は、ラストマイルを担う配達員である佐野親子の活躍で幕を閉じる。父である佐野昭(火野正平)が、お客さんときちんとコミュニケーションを取り信頼を得ていたこと、数日前に配達していた場所をきちんと覚えていたことで最後の爆発での被害を最小限に抑えることができたのだ。

『ラストマイル』というタイトルがついているものの、この映画は、ドライバーを賞賛するだけのものではない。物の流れは人が作り出している。しかし、それに翻弄され心身を病み、疲弊しているのも人だ。ラストマイルを担当する配達者の先には、注文をした消費者がいる。この事件を引き起こしているのは、簡単に言ってしまえば、私たち消費者一人ひとりの欲望なのだ。とはいえここまで便利になった時代にネットでの買い物をやめるのは現実的ではないし、注文が無くなったら物流サービスは成り立たなくなってしまう。
荷物を受け取る一人ひとりが物流サービスの末端にいることに自覚的になることが大切だとこの映画は伝えている。そして映画を見て、気づきを誰かに届けることができれば、視聴者自身もラストマイルを担うことになるのだ。
(C)2024「ラストマイル」製作委員会
※2024年8月30日時点の情報です。

