【ネタバレ解説】映画『憐れみの3章』主題歌に隠された意味とは?R.M.Fとは何者か?徹底考察

ポップカルチャー系ライター

竹島ルイ

鬼才ヨルゴス・ランティモス監督とオスカー女優エマ・ストーンがタッグを組んだ『憐れみの3章』。オムニバス形式で綴られる、不条理かつ奇想天外なストーリーについてネタバレ解説。

『女王陛下のお気に入り』(2018年)、『哀れなるものたち』(2023年)に続いて、鬼才ヨルゴス・ランティモス監督とオスカー女優エマ・ストーンがタッグを組んだ話題作『憐れみの3章』(2024年)が、9月27日(金)より全国公開中だ。

オムニバス形式で綴られる、不条理かつ奇想天外なストーリー。もともとクセの強い作風が持ち味のランティモス作品だが、今回はいつもにも増して強烈なパンチの効いた一作に仕上がっている。という訳で今回は、『憐れみの3章』についてネタバレ解説していきましょう。

映画『憐れみの3章』(2024)あらすじ

「R.M.F.の死」

ロバート(ジェシー・プレモンス)は、会社の上司であるレイモンド(ウィレム・デフォー)に人生の選択権を握られている。結婚相手からセックスのタイミングまで、彼はどんな命令でも従うしかない。そんなロバートがレイモンドから与えられた新たなミッションは、R.M.F.という人物が乗った車に追突することだった。

「R.M.Fは飛ぶ」

調査に出かけたまま行方不明となった海洋学者のリズ(エマ・ストーン)。その夫で警察官のダニエル(ジェシー・プレモンス)を励まそうと、同僚のニール(ママドゥ・アティエ)とそのマーサ(マーガレット・クアリー)が彼の自宅を訪れる。

「R.M.F.サンドウィッチを食べる」

エミリー(エマ・ストーン)とアンドリュー(ジェシー・プレモンス)は、カルト教団の信者。ある女性が人間を蘇らせる能力があるかどうかを確かめるため、死体安置所を訪れる。

※以下、映画『憐れみの3章』のネタバレを含みます

エピソードごとに異なる3つの役柄

ヨルゴス・ランティモス監督は1973生まれ、ギリシャのアテネ出身。祖国で非常に風変わりな映画を撮っていた頃から、彼は盟友のエフティミス・フィリップと共同でシナリオを書き続けてきた。

エマ・ストーンとタッグを組んだ『女王陛下のお気に入り』と『哀れなるものたち』では、オーストラリアの劇作家トニー・マクナマラを招聘していたが、この『憐れみの3章』では再びエフティミス・フィリップが脚本にクレジットされている。最近は作風がややおとなしめ(もちろん、普通の作品と比べればかなり風変わりなのだが)な印象のあったランティモス作品だが、ここにきてギリシャ時代のアクの強さが戻ってきた。

本作は、①「R.M.F.の死」、②「R.M.Fは飛ぶ」、③「R.M.F.サンドウィッチを食べる」の三幕から成るオムニバス映画。エマ・ストーンをはじめ、ジェシー・プレモンス、ウィレム・デフォー、ホン・チャウら主要キャストが、エピソードごとに全く別の役柄を演じるという、奇抜な構成となっている。観ていてだいぶ混乱するので、各俳優が各エピソードでどの役を演じているのか、整理しておこう。

エマ・ストーン

①リタ:ロバートがバーで出会う女性
②リズ:行方不明の海洋学者。ダニエルの妻
③エミリー:カルト教団の信者。死者を蘇らせる力を持つ女性を探している

ジェシー・プレモンズ

①ロバート:レイモンドに人生を管理されている男
②ダニエル:警察官でリズの夫
③アンドリュー:カルト教団の信者。エミリーと行動を共にする

ウィレム・デフォー

①レイモンド:ロバートの上司
②ジョージ:リズの父親
③オミ:カルト教団の指導者

マーガレット・クアリー

①ヴィヴィアン:レイモンドの愛人
②マーサ:ニールの妻
③ルース、レベッカ:一卵性双生児で、二人とも獣医

ホン・チャウ

①サラ:ロバートの妻
②シャロン:リズの同僚の妻
③アカ:オミの妻

ママドゥ・アティエ

①ウィル:サラの水泳コーチ
②ニール:ダニエルの親友でパートナー
③死体安置所の看護師

ジョー・アルウィン

①収集品鑑定人
②ジェリー:酔った車の乗客
③ジョセフ:エミリーの別居中の夫

Yorgos Stefanakos

①R.M.F.:ロバートに車で追突される男
②R.M.F.:リズをヘリコプターで救出する男
③R.M.F.:サンドウィッチを食べる男

もともとこの映画はオムニバスではなく、複数の事柄が並行して描かれるような形式が考えられていた。やがて「同じ俳優がエピソードごとに違う役を演じる」というアイディアを思いつき、オムニバス形式に変更されたのだという。しかも、最初に構想されていたストーリーの本数はなんと10本! それを、ヨルゴス・ランティモスとエフティミス・フィリップが3本に絞ったのだ。

残り7本の話も観てみたいような、観てみたくないような。

<支配>、<被支配>というテーマ

①「R.M.F.の死」、②「R.M.Fは飛ぶ」、③「R.M.F.サンドウィッチを食べる」の3エピソードは、それぞれがそれぞれの物語を補完しあったり、伏線を回収したりすることはない。①でこの世を去ったR.M.F.氏が③で復活するという流れは存在するが、基本的には関連性のない、完全に独立した物語だ。

だが、共通するテーマはある。それは、<支配>と<被支配>という欲望。これまでのヨルゴス・ランティモス作品に共通するテーマと言っていいかもしれない。例えば『籠の中の乙女』(2009年)では、子どもたちが自宅に軟禁され、両親による徹底した支配下で育てられてきた。『ロブスター』(2015年)では、恋人のいない独身者が施設に拘束され、45日以内に相手を見つけないと動物に変えられてしまうという、ヤバすぎる支配が描かれていた。

『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(2017年)は、裕福な家庭が謎の少年によって支配されていく話だったし、『女王陛下のお気に入り』(2019年)は、三人の女性たちによる王室支配バトル。そして『哀れなるものたち』は、この世界が男性支配社会であることを、主人公が体感していく物語として構築されていた。

『憐れみの3章』もまた、この<支配>と<被支配>というテーマが、非常に不条理かつシュールな設定で前景化している。①では、レイモンドがロバートの生活すべて(結婚相手からセックスのタイミング、家と車にいたるまで)を支配し、②では妻が偽者だと疑うダニエルがリズの生殺与奪を支配し、③ではオミ率いるカルト教団がエミリーたちを支配している。

非常に興味深いのは、被支配者が支配者の要求にことごとく応えていること。それによって①ではロバートが殺人者になってしまうし、②では自らの肝臓を取り出してリズは死んでしまう。関係性を維持するために、もしくは相手に愛情を伝えるために、彼ら/彼女らは<被支配>を受け入れる。客観的にみれば虐待にも見える倒錯的な愛を通して、ヨルゴス・ランティモスは人間の本質をあぶりだすのだ。

だがヨルゴス・ランティモス自身は、<支配>と<被支配>というテーマを自覚的に扱っている訳ではない、と明言している。

「私たちは分析的に仕事をするわけではないので、テーマが何なのか分からないんだ。(中略)分析的ではない、創造的なプロセスなんだ。信仰のテーマとか、支配のテーマとか、そういうことではないんだ。決してそんな風には始まらない。そして完成する頃には、そのようなことは考えもしないんだ」
indiewireによるヨルゴス・ランティモスのインタビューより抜粋)

とはいえ、<支配>というテーマがこの作品に大きく影響を与えていることは間違いない。彼は、別のインタビューでこんなコメントをしている。

「当時、ちょうど『カリギュラ』を再読した頃だったのを覚えている」
A.FRAMEによるヨルゴス・ランティモスのインタビューより抜粋)

『カリギュラ』は、専制的なローマ皇帝を描いたアルベール・カミュの戯曲。つまり<支配>に関する物語だ。暴君として知られるカリギュラからインスパイアを受けて、ヨルゴス・ランティモスは『憐れみの3章』を創り上げたのである。

主題歌「Sweet Dreams (Are Made of This)」が表すものとは?

本作の主題歌として使われているのが、ユーリズミックスの「Sweet Dreams(Are Made of This)」。1983年1月にシングル・リリースされたこのポップ・ソングは、全米ビルボードで1位を獲得するほどの大ヒット曲となった。このミュージック・ビデオで、ヴォーカリストのアニー・レノックスはオレンジ色に刈り上げられた髪型で登場し、男性用のスーツに身を包んで、Sweet Dreams…甘い夢について歌う。

注目したいのは、その歌詞。『憐れみの3章』の<支配>と<被支配>というテーマが、「Sweet Dreams(Are Made of This)」にもはっきりと刻印されているのだ。

Sweet dreams are made of this
Who am I to disagree?
I travel the world and the seven seas
Everybody’s looking for something

Some of them want to use you
Some of them want to get used by you
Some of them want to abuse you
Some of them want to be abused

甘い夢はこれでできている
反対する私は誰?
世界と7つの海を旅する
誰もが何かを探している

あなたを利用したい人もいれば
あなたに利用されたい者もいる
あなたを虐待したい者もいる
虐待されたいと思う人もいる

<支配>と<被支配>を、Sweet Dreams(甘い夢)というタイトルで歌ってしまうセンス! そして「Dreams」と聞いて思い出すのは、②「R.M.Fは飛ぶ」でリズが語っていた夢の話だ。

そこでは犬が人間を支配していて、嫌いなチョコレートを大量に食べさせられていたという。だが彼女にとって、それは屈辱的な体験ではなく、心の奥底で求めていたことだったのではないか? 彼女にとってのSweet Dreams(甘い夢)だったのではないか?リズはこの夢を通じて、「毎日枯渇していくものよりも、コンスタントに手に入るものに頼ったほうがいい」と結論づけている。それは自らが<被支配者>になることで、<支配者>から分け与えられることを望んだものとも考えられるのだ。

R.M.Fとは何者か?

それぞれのエピソード・タイトルに名前が冠されているとおり、キーとなるのは謎の人物R.M.F.氏だろう。本作の原題は『Kinds of Kindness』だが、元々は『R.M.F』というタイトルが考えられていたくらいだ。

彼は、すべての物語に登場する唯一のキャラクター。ある時は車に轢かれ、ある時はヘリコプターを操縦し、ある時は死から蘇る。しかも、<支配><被支配>というテーマを有する本作において、彼はその構造に与しない。物語に大きく関与せず、世界を俯瞰して見つめ、中間者としての役割を担っている。

「同じ俳優がそれぞれの物語で異なるキャラクターを演じるという事実以外に、3つの物語を繋ぐ方法だと感じた。主人公を再登場させるのではなく、登場時間が短いキャラクターを登場させたかったんだ」
digitalspyによるヨルゴス・ランティモスのインタビューより抜粋)

R.M.F.氏を演じているYorgos Stefanakosについて調べてみると、ヨルゴス・ランティモスとエフティミス・フィリップの昔からの友人で、職業俳優ではなく、ギリシャ・アテネ在住の公証人だという。公証人には、文書の認証や宣誓供述書の作成を行うNotary Publicと、それに加えて公正証書の作成も行うNotaryに分かれているのだが、Yorgos Stefanakosの場合はNotary Publicに該当。物事を客観的に見つめ、法律紛争を未然に防ぐ仕事をしているのだ。なんとなく『憐れみの3章』におけるR.M.F.氏の立ち位置にも通じるものを感じてしまう。

R.M.F.氏は生と死の両方のサイクルを体験し、神のごとき存在と化している。まるで映画制作における監督のように。Yorgos Lanthimos(ヨルゴス・ランティモス)=Yorgos Stefanakos。謎の男は、<支配>の物語を<支配>する者なのだ。

 

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※2024年9月27日時点の情報です。

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