どこのDVDレンタルのお店でも、邦画コーナー端の端に、おどろおどろしい背表紙がズラリと並ぶ棚があると思います。「実録!本当にあった呪いのビデオ!」とか「稲川淳二が行く恐怖の現場!」といった心霊ドキュメントものです。ヤンチャな若者たちが誰かの家に集まってパーティーを開催する際、肝だめし替わりに借りられることが多いため、不動の人気を誇るジャンルだそうです。
紹介される「投稿された心霊動画」はもちろん作為的に演出や合成が行われた完全なフィクションです。監督が存在し、スタッフが準備をして、俳優に「素人」として演技をさせ、合成した幽霊に慄いてもらうのです。その構造を逆手に取った怪作がオリジナルビデオ『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズです。
口裂け女を捕まえろ! 河童を倒せ!
心霊動画が撮影された現場へ調査に赴く「コワすぎ!」スタッフたちが怪奇現象に襲われるという、実録心霊モノ最大公約数的な展開がシリーズのお約束です。しかし、メンバーのキャラクター設定がふるっています。
ディレクターの工藤は口が悪く短気ですぐに人を殴る横暴な人物。その彼がカメラマンの田代とアシスタント市川をドツキまわしながら、口裂け女を恫喝し、幽霊に殴りかかっていくのです。
そもそも、幽霊という存在は理不尽なものです。触れることも出来ないし話も通じない上に、ところ構わず一方的に現れて、酷い奴になると肉体的ダメージを与える「霊障」攻撃までしてきます。そんな霊的理不尽に対抗し、暴力的理不尽で立ち向かうのです。
幽霊の狂気と暴力の悲しみ
シリーズ全作を作った白石晃士監督のフィルモグラフィには一貫したテーマがあります。
それは「狂人」です。
幽霊の行動を生きた人間がやっていたとしたら。人の家に勝手に入り、虚ろな目でボーっと突っ立っていたら、それは「狂人」です。同じ様に自分勝手な論理で他人を蹂躙し殴りつけるのも、やはり「狂人」だと言えます。白石監督は常に「狂人」に焦点を合わせます。その上で常識の脆さや、狂人の悲哀までも描いてしまうのが凡百のホラー作家とは一線を画している所以でしょう。
「コワすぎ!」シリーズ最終作では「あの世」へ行ってしまったディレクターとアシスタントを救うために、(白石監督自身が演じる)カメラマン田代の常軌を逸した行動の数々が描かれます。客観的な視点だけなら、脈絡の無い狂った行動に見えますが、モキュメンタリー特有のPOV:主観的な視点で見ていくことで、狂っているとは自覚しながら、そうしなければいけない悲しさや蛮勇を描くのです。
現在、シリーズは全7作リリースされています。「劇場版」が作られたことでも自明のように面白さは保障付きです。そして、「最終章」で終わったシリーズは「戦慄怪奇ファイル 超コワすぎ!」となって帰ってきました!
最新作『戦慄怪奇ファイル 超コワすぎ!』予告編
※2021年4月20日時点のVOD配信情報です。