恐怖の復讐劇『殺されたミンジュ』公開!闇の韓国クライム・サスペンス映画4選

シネマは身体の一部です。

イトウタクマ

韓国映画と言えば、イケメンと美女が織りなすラブコメディや、不治の病や禁断の関係から男女の想いがすれ違う切ないラブストーリーに人気が集まっていますが、骨太でヘビーなクライム・サスペンスの傑作も数々生み出されております。

2012年公開『嘆きのピエタ』で第69回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した韓国映画界の鬼才キム・ギドク。彼の最新作殺されたミンジュ』が1月16日より全国順次公開されます。

今回は『殺されたミンジュ』を深く知るための韓国発クライム・サスペンス傑作映画を、闇レベル4段階に合わせ、4作品ご紹介します。え~…ハッピーな映画体験をお望みの方はご遠慮なくお引き返しを…

闇レベル1 : アクション軽め、話は重め

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『殺人の告白』

連続殺人犯を取り逃した刑事(チョン・ジェヨン)。時は過ぎ時効成立後、「私が連続殺人事件の真犯人です」と名乗り出た男(パク・シフ)。出版した殺人の暴露本がベストセラーとなり、一躍時の人となった彼に対し、被害者の遺族たちは復讐心を募らせていく。

2013年の第50回大鐘賞(テジョンサン)映画祭で新人監督賞を受賞した本作は、イケメン俳優のパク・シフが堂々と初主演を飾り、その後の人気を不動のものとしました。

まずはじめに、闇の韓国クライム・サスペンス映画を知るためのキーワードはズバリ「復讐」です。復讐とはすなわち”仕返し”。悪行を行った者へ悪行を返すという負のスパイラルです。

パク・シフの、感情の掴めないような不適な笑み、彼が隣にいたら思わず殴りたくなるようなリアルさで、その他にも胸をえぐられるような、衝撃のシーンが目に飛び込んでくるのですが、それ以上に驚きなのがアクション描写です。

アクションスクール出身のチョン・ピョンキル監督は、冒頭の追走劇、中盤のカーチェイスと、アクションシーン等、暗いストーリーのテンションとは正反対の愉快さで、良い意味で呆気にとられます。

取り敢えず、本作は韓国産クライム・サスペンス映画の入門編程度ですので、さらに黒い映画が好きな方は闇レベル2に進みましょう。

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闇レベル2 : 孤独な美しき復讐鬼

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『親切なクムジャさん』

美しく残忍な誘拐犯クムジャ(イ・ヨンエ)は、監獄の中での振る舞いを称えられ「親切なクムジャさん」と呼ばれていた。刑期を終え出所した彼女は、とある復讐計画を進め、あるターゲットを虎視眈々と狙うのだった。

美しさと確かな演技。天より二物を与えられた韓国実力派美人女優イ・ヨンエの代表すべき映画です。本作を監督したパク・チャヌクは、他に『復讐者に憐れみを』と『オールド・ボーイ』を監督しており、本作と合わせ”復讐3部作”と呼ばれています。

この映画に含まれているキーワードは「女性」です。韓国クライム・サスペンス映画でよくあるパターンは「加害者は男性、被害者は女性」というケースです。物理的に力の強い男性が、女性に襲い掛かるシーンというのは、痛さや辛さが心にグサリと刺さり、フィクションであると分かっていても嫌な印象はぬぐえません。

本作の主人公・クムジャも例に漏れず、最初は被害者なのですが、話が進んでいくにつれ彼女の殺意が端々に見え始めます。そして、彼女の復讐達成を待ち望んでいる自分がいるという、ある種の共犯感覚の麻痺に一番恐怖を覚えます。

クムジャが本当はか弱い”女性”であるがゆえに共感を覚えるのかもしれません。女性の立場・目線から生まれた復讐心は、愚直で欲望にまみれた男性のそれとは異なり、どこか哀しさを漂わせた”執念”のようなものを感じるからでしょう。

暴力で塗り固めた正義は本当に正義なのか? 彼女の空虚な殺意は救われるのか? 正義なんてものは実はあやふやな定義でしかないことを投げかけている本作は、復讐3部作の中で一番ライトな印象ですが、一番闇が深い映画です。

闇レベル3:都会の闇、人間の闇

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『チェイサー』

元・刑事で今はデリヘルを経営しているジュンホ(キム・ユンソク)。音信不通となったデリヘル嬢を探す内に、彼は住宅街で連続殺人犯ヨンミン(ハ・ジョンウ)に行き付き、苦労の末に確保するが…。

この映画は「ソウル20人連続殺人事件」という実際の事件をモデルにしており、実は私事ですが、当分見直したくない作品のひとつでもあります。

この映画のキーワードは…「郊外」とでも言いましょうか。

韓国映画や韓国ドラマを見ている人にはご存知の通り、ソウル郊外の住宅地は石造りで作られています。道や壁、住宅の建材にも石がよく使われており、日本のアスファルトの道や集合住宅とは趣がかなり異なります。また、ソウルは都会でありながら山合の地域なので、坂や階段も多く、車が必要不可欠ですね。

この石造りの冷たそうで歩きづらそうな郊外は、人間関係や人の心さえも遮断しているような雰囲気を醸し出します。クライム・サスペンス映画には不可欠の危機的状況を演出するのに一役買っているのではないでしょうか。

しかも本作の殺人犯ヨンミンは心が空っぽなんです。都会の闇、閉鎖空間で人知れず育ってしまった怪物。この殺意の見えない殺意ほど怖いものはありません。

ソウル、冷たいコンクリートのビルが建ち並ぶ都会から離れ、閉鎖的な石造りの郊外。救いようのない展開と映像の力にただただ引きずり込まれる、夜の海の渦のような映画です。観終わった後の疲労感や脱力感から、闇レベルは相当高いです。

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闇レベル4:スター俳優×スター俳優=暴力の連鎖

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『悪魔を見た』

いたいけな少女を狙う連続強姦魔ギョンチョル(チェ・ミンシク)。彼を肉体的・精神的に痛めつけ追い詰めていく謎の男スヒョン(イ・ビョンホン)。永続的な暴力は更なる暴力を産み、衝撃的な結末を迎える。

韓国2大スター俳優、イ・ビョンホンとチェ・ミンシクの豪華共演…という表の宣伝文句により軽い気持ちで観ると、とんでもないしっぺ返しを受ける、紛れもない闇レベル4の上級者向け映画です。

本作のキーワードは「暴力」。上映時間143分全体を、純粋培養した暴力のエキスで覆い尽くしています。

今までご紹介しました3作品には、被害者遺族の悲しみや、感情的な復讐心、失った者への愛おしい気持ちなどが表面的に描かれてきました。本作にもそういった要素はもちろん存在しているのですが、それをも凌駕する暴力の陰惨さに脱帽し、唖然とします。

スヒョンの報復の恐ろしさは、対象を”殺さない”ところにあります。生かし、逃がし、また痛めつける。イ・ビョンホンの演じるダークヒーローっぷりは、勇ましさと冷酷さを共存させた、悪意の完璧像です。

死にも勝る暴力が、新たな暴力を呼び、その連鎖は留まることを知らず物語は展開していきます。そしてラストシーン、この結末を観てあなたはどう思いますか? 韓国クライム・サスペンス映画の闇の神髄が潜む傑作です。

『殺されたミンジュ』、闇レベルは?

“少女殺害”、”拷問”、”武装集団”。鬼才キム・ギドク監督の最新作『殺されたミンジュ』には闇レベルが高そうな単語が並びます。今までも『嘆きのピエタ』や『メビウス』等、人間の闇を描いた話題作を数々生み出したキム・ギドク監督なので、否が応でもヘビーで濃い味なクライム・サスペンスに期待大です。

『殺されたミンジュ』は、1月16日より全国で順次公開です。今回紹介した4作で韓国クライム・サスペンス映画を予習し、ぜひ劇場へ行きましょう!…あ、道中の暗い通りではお気をつけてくださいね…。

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※2021年2月17日時点のVOD配信情報です。

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  • ヤムチャン
    3.3
    個人的に今は亡きキム・ギドクの思想が色濃く作品に反映されていると思う。同じ俳優を何度も登場させる意図や強者と弱者への視点転換、すべては人間模様を暴力という装置で力業にみせることで、他人を攻撃し、自らを正当化する現代社会への投石。殺されたミンジュの委細にあまり拘らない点も大局的には物語をエンタメ化するため、何者でもないコスプレによる偽装社会に準じているからに他ならない。
  • ホリエ
    3
    他作品よりもキム・ギドク感は薄いけど、バリエーション豊かなコスプレバイオレンスが楽しめる。拷問する度みんな「指示されたから実行した」と自分に罪はないことを主張し続ける人達も、自分には無関係の復讐を利用して他人を痛めつける事を正当化している人達も、被害者でもあり加害者でもあるんだな。 一度悪い事をした人なら何されても許されるという現代の風潮にも通ずる問題をテーマにしていて、考えさせられる部分が多かった。
  • ozp
    3.2
    搾取する側とされる側、民主主義が崩壊している自国の批判。搾取する側を1人何役か同じ人が演じているあたりが少し変化球ではあるけど全体通してキムギドクにしては単調な表現の仕方と思った。珍しく(?)演技派マブリーは良かったのに仲間の意志の弱さに終始イライラ。このへんも風刺に含まれてるんだろうけど。
  • 松井の天井直撃ホームラン
    -
    ↓のレビューは。鑑賞直後にメモしていたモノを、以前のアカウントにて投稿したレビューになります。 ☆☆☆★★ 【毒をもって毒を制す】 いつもの様にキム・ギドク節炸裂。 暴力に対抗しうる最大の武器は、やはり暴力なのだろうか? それを自制する心が人間にはあるのか? 本当の暴力とは何か? キム・ギドクが観客に問い掛ける。 終盤で将軍が「俺がライギョになってやる」と挑発する。 映画では併せ鏡の様な存在の二人に、最後は鉄拳制裁を与える結果になる。それを遂行するのは現場の言わば《作業員》。 だがその前にある人物が、リーダーの前に現れていた。 1人8役らしいのだが(7役まで気が付いた)同一人物がこの映画の鍵を握っている。 ・このリーダーの住家に現れる2役は、暴力と平和との対比として。 ・隊の中に唯一存在する女のDV彼氏は、日常に蔓延る暴力の象徴として。 ・アメリカ留学の経験がある男隊員の兄は、言葉の暴力の象徴であり。取り立て屋として弱い人間に対しての暴力。 ・レストラン勤めの男隊員と、若い女性に対してセクハラ紛いの行為をする男は。客と店員:男と女と言った立場を利用する暴力の象徴として描かれている様に見受けられる。 隊員達の意見は割れ、次第に秩序は崩壊する。 以下は私がこの作品を観ての一方的な感想ですが。一見すると暴力の連鎖の恐ろしさや、虚しさを扱っている様に見えるのだが。実はある程度の暴力が存在するからこそ、社会には秩序が保たれている…と描かれている様にも感じた。 極論になるが、死刑制度の有無や功罪にまで、話が及んでいる可能性すら秘めている作品とも言えまいか。 (2016年1月23日 ヒューマントラストシネマ有楽町/シアター2)
  • 2.7
    全部安っぽいのがほんまイラつく
殺されたミンジュ
のレビュー(1681件)