今回ご紹介するのは、1月22日に公開された韓国から届いた究極のラブ・ストーリー『ビューティー・インサイド』です。正直、紹介するのが惜しまれます。と言うのも、全国で約20の劇場、しかも初日から公開されているのは僅か8つの劇場のみ…公開劇場が少ないにも関わらず、“超”がつくほどの良作だからです。
2015年、カンヌ国際映画際に出品されると、世界のバイヤーたちから熱烈な評価を受け先行買付が即決定。本国・韓国で公開された際には、世界中で人気の『ミッション:インポッシブル』シリーズ最新作や数々の話題作おさえ、ラブ・ストーリーとしては異例の大ヒットを記録しています。
韓国のラブ・ストーリーと聞くと“べたべた”なイメージをお持ちの方も多いと思いますが、少女漫画の実写化が流行っている今の日本からすると、この作品は大人びた作品となっています。作品に込められたテーマはとにかく直球なのですが、本作は観る人の価値観を打ち砕く不思議な力があります。
ストーリー
目覚めるたびに姿が変わってしまう僕が、ひとりの女性を愛してしまった。
ウジンは 18 歳になってから、目覚めるたびに姿が変わるようになってしまった。男、女、老人、子供、外国人…性別も年齢も国籍さえも異なる毎日。人に会う仕事ができない彼は、才能とインターネットを活かして家具デザイナーとして働いていた。
そんなある日、彼はアンティーク家具店で働くイスに出会い、恋に落ちる。やっとの思いでイスをデートに誘ったウジンは眠気を我慢し、彼女とロマンティックな 3 日間を過ごす。しかし、眠気に負けてウジンはうっかり寝てしまう ― 。
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『ビューティー・インサイド』は、韓国が得意とするラブ・ストーリーではありますが、完全オリジナルではありません。実は、この映画には“意外な”原案が存在しました。
世界2大広告祭で脚光を浴びた原案“The Beauty Inside”
映画『ビューティー・インサイド』の原案は、2013年に世界2大広告祭であるカンヌ国際広告祭 で3 冠、クリオ国際広告祭で金賞の偉業を成し遂げたソーシャル・フィルム“The Beauty Inside”です。
これは、Intelと東芝が共同制作をした40分あまりのフィルムで「誰でも主人公の男を演じることができる映画」をコンセプトに、目覚める度に姿が変わるアレックス(映画でのウジン)役を、視聴者が Facebookを介して演じるという手法が採用されています。
そのため、原案となったフィルムでは実に100人あまりの視聴者の映像が使われており、その斬新さが広告祭でも話題となりました。本作でも姿が変わるウジン役として、21名の韓国などの人気俳優陣たちを中心に、世界各国から集められた123人が演じています。その中には、韓国でもブームを巻き起こしたドラマ「のだめカンタービレ」でヒロインを演じた上野樹里もいます。
広告界から映画界への挑戦
本作は韓国で“最高のビジュアル・アーティスト”と名高いCMクリエイターのぺク監督が手がけた、初の長編作品です。そのため2015年カンヌ国際映画際で、出品されるやいなや、世界のバイヤーたちから熱烈な評価を得て、世界11カ国の先行買付が即座に決定しました。
CMと言えば15~30秒程度のものが一般的ですが、その短時間でも目を奪われるような作品を生み出すのが彼の才能です。そんなぺク監督は、常識ではありえない設定の本作においても、脚本作りにも自ら加わることでそのストーリーに説得力を持たせています。CMクリエイターが解き放つ卓越したセンスが、今までの映画にはなかったきらりと光るものを創りあげているのです。
広告界の巨匠が描く繊細な世界
CMは、音楽とビジュアルのタイミングが重要です。映画でもそれは同じ…「ちょっとここでBGMはいらないかな」と思ったこと、皆さん一度や二度はあると思います。しかし、本作では音楽とビジュアルが見事にマッチしており観ている側も気が散ることなく、最後まで鑑賞することができます。
また、本作は原案を忠実に再現しており、原作ファンを裏切ることなく最初から最後まで“The Beauty Inside”の世界観を壊す部分はありません。それどころか、原案で登場したアレックスという名前が、ウジンのオートクチュールの家具制作を行う会社の名前として登場し、元の作品を知っている人からすると喜ばしいアイディアが満載となっています。
さらに、原案のフィルムでは主人公が恋した女性に自分の秘密を打ち明ける部分で終わっていますが、本作ではその先の物語も描かれています。この“物語の続き”が、胸をしめつけられるほどの繊細な展開になっており、是非注目して観て欲しい部分でもあります。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】“2”という数字にまるわる本作の魅力
この作品では、ウジンとイスの2人をはじめ様々な部分で“2”という数字が隠れており、そこから作品の魅力を探ることができます。
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2つの物語が交差し“愛”の本質を突きつける
本作は主人公ウジンの物語ではありますが、ウジンが恋に落ちたイスの物語でもあります。もっといえば、ウジンを愛するイスの視点がなければここまで胸に突き刺さる作品にはなり得ないのです。
ウジンは目覚める度に姿が変わってしまうため、人の目を避けて生活をするようになりました。そんなおかしな自分を受け入れてくれたのは母と、友達のサンベクだけでした。しかし、一生一人だと思っていた人生に、突然運命の人・イスが現れます。
ウジンはイスに出逢ったから、目覚める度に姿が変わる自分を見て胸が痛むようになりました。今日は一度しかやってこない…明日起きれば姿は変わってしまう…そんな不安を感じながらも、一途に彼女を想い続けることを決意するのです。しかし、その壁は分厚いもの…ウジンは「姿が変わってしまう僕が変なのか?」と自分に問いかけるようになります。
一方、日々外見が変わるウジンを愛する決意をしたイスではありますが、やはり中身が同じだとは言え、毎日知らない顔の相手と接するのは難しいことです。「心が変わってしまう私が変なのか?」…相手を想い続けることができない残酷な現実に直面し、彼女は悩みます。
「大好きなあなたを、私は見つけられない」…イスは必死に“本当の”ウジンを探そうとしますが、その想いが彼女の心を蝕むことになります。そして、信じ合っていた2人の“愛”が次第にすれ違っていく…このことをきっかけに2人は“愛”について深く考えるようになるのです。
2人を結ぶ“アマポーラ”
そうした複雑な状況の中、重要となるのがウジンとイスを結びつける曲“Amapola(アマポーラ)”です。この曲は、ひなげしの花を愛おしい人に見立てたもので、1920年代に作曲されてから今なお、世界各地で様々な形でカバーされている名曲です。
花と聞いて、個人的に気になったのが花言葉です。調べてみるとひなげしの花言葉は「恋の予感」…まさにぴったりです。2人の“原点”とも言えるこの曲が聴こえたとき、2人はどんな想いを抱いていたのでしょうか?
ハン・ヒョジュの二面性~女優と脚本家~
イス役をつとめるハン・ヒョジュは、今韓国で人気急上昇中の女優です。本国では「現代的な魅力と古風な美しさが共存する演技」として高く評価を受け、これまでに映画『ただ君だけ』、『セシボン』や、ドラマ「華麗なる遺産」「トンイ」など数々の名作に出演…日本でも、人気グループ嵐の相葉雅紀が主演をつとめた『MIRACLE デビクロくんの恋と魔法』に出演しています。
そんな彼女、実は女優としての才能だけでなく、本作では脚本家としての一面を開花させています。実は、印象的な最後のシーンのセリフ、ハン・ヒョジュがイスとしてウジンに対して伝えたいことを監督に提案し、脚本に組み込んでもらったそうです。
本作の撮影時には、イスの役柄にのめり込み、苦しかったという彼女…その想いから生まれたチェコの家具屋でのラストシーン、本当に鳥肌ものですので、要チェックです!
“愛”が持つ2つの顔
「愛はすべてを解決するけど、愛は全てを壊す」
これは本作で登場するウジンのフレーズです。全編を通して印象的なセリフは山ほどあったのですが、その中で最も胸に突き刺さる言葉はこれでした。大切なのは外見なのか中身なのか…一見するとチープなフレーズに聞こえるかもしれませんが、これほどまでにストレートに「愛の本質は何か?」と問いかけてくる映画に出逢ったのは初めてです。
単純な問いかけ、だけど考え始めると奥深い…本作はまさに“愛”の本質を考えさせる作品です。
明日もあなたに会いたくて。
映画ライターの山中久美子は本作について「恋が生まれるものであるとすれば、愛は育つものなのだろう」と語っています。正直なところ、私はこの作品を観ても“愛”が何かという明確な答えは見つかりませんでした。しかし“愛”についてのヒントは沢山隠されています。
もちろん、外見が大事だという人もいれば、中身の方が大事という人もいるでしょう。愛の形は人それぞれだから、何が正しくて、何が間違っている…そう考えることはナンセンスでしょう。ですが、誰しもが共通することが1つだけあります。
それは、愛する人に「明日も会いたい」という気持ちです。
『ビューティー・インサイド』は、この大切な気持ちを私たちに届けてくれる名作です。気になる方は是非、劇場へ足を運んでみてください。なお、公開されている劇場は少ないので、あらかじめ公式サイトで確認してからの鑑賞をオススメします。
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