映画『アス』に隠されたテーマとは?タイトルの意味、謎のナンバー“1111”が示すものとは?【ネタバレ解説】

ポップカルチャー系ライター

竹島ルイ

映画『アス』に散りばめられた名作映画のオマージュは?謎のナンバー“1111”が示すものやタイトルの本当の意味とは?ネタバレありで徹底考察。

初めて監督・脚本を手がけた『ゲット・アウト』(2017)が絶賛を浴び、スリラーの新旗手として頭角を現したジョーダン・ピール。彼の2作目となるホラー映画が、2019年に公開された『アス』だ。

アメリカの週末ランキングでは、オリジナルのホラー映画としては史上最高となる7111万ドルを稼ぎ出す大ヒットに。実写映画としても『アバター』(2009)の7700万ドルに次いで2番目に高い興行成績となった。

 

しかしながらこの映画、単なるホラー映画にあらず。アメリカ社会の闇を暴き出す、優れた社会派映画でもあるのだ。という訳で今回は、アス』をネタバレ解説していこう

映画『アス』あらすじ

小さい頃、ミラーハウスに迷い込んで自分とそっくりな少女と出会った経験を持つアデレード。その後成長し、結婚して夫のゲイブ、娘のゾーラ、息子のジェイソンと幸せな生活を送るようになっても、あの日の記憶が脳裏から消えることはなかった。

そんなある日、サンタクルーズのビーチハウスで夏休みを過ごすことになったアデレード。昔この場所で不気味な出来事に遭遇した彼女に、忌まわしい記憶がフラッシュバックする。やがて、このビーチハウスに、アデレード一家と全く同じ姿をした4人の家族=“わたしたち”がやってくる。果たして彼らの正体とは?

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※以下、映画『アス』のネタバレを含みます。

『シャイニング』、『ジョーズ』、『鳥』…古今東西ホラー映画へのオマージュ

『ゲット・アウト』に続いて、社会派ホラーを世に放ったジョーダン・ピール。もともとコメディアンだった彼は、バラエティ番組の製作を手掛けていたが、同時にホラー映画にも強烈な愛着を感じていた。彼は筋金入りのホラー映画オタクなのだ。

本作の製作にあたって、古今東西のホラーフィルムに精通しているジョーダン・ピールは、選りすぐりのホラー映画11本を出演者に鑑賞するように指示したという。

『鳥』(1963年/アルフレッド・ヒッチコック監督/アメリカ映画)
『ジョーズ』(1975年/スティーヴン・スピルバーグ監督/アメリカ映画)
『シャイニング』(1980年/スタンリー・キューブリック監督/アメリカ映画)
『愛と死の間で』(1991年/ケネス・ブラナー監督/アメリカ映画)
『ファニーゲーム』(1997年/ミヒャエル・ハネケ監督/オーストリア映画)
『シックス・センス』(1999年/M・ナイト・シャマラン監督/アメリカ映画)
『箪笥』(2003年/キム・ジウン監督/韓国映画)
『マーターズ』(2008年/パスカル・ロジェ監督/フランス・カナダ映画)
『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008年/トーマス・アルフレッドソン監督/スウェーデン映画)
『イット・フォローズ』(2014年/デヴィッド・ロバート・ミッチェル監督/アメリカ映画)
『ババドック~暗闇の魔物~』(2014年/ジェニファー・ケント監督/オーストラリア映画)

これらの映画の影響は、『アス』のあちらこちらに見て取れる。例えばタイラー一家のエロい双子姉妹は、『シャイニング』の幼い双子姉妹(グレイディ姉妹)の参照だろう。彼女たちは「さあ、一緒に遊びましょう」という有名すぎるセリフをハモって喋るが、タイラー姉妹も喋る時にやたらハモっている。廊下に血まみれで横たわるタイラー姉妹は、グレイディ姉妹の撲殺死体の構図と激似だし、ラストシーンでアデレードが運転する救急車を俯瞰で捉えたショットは、『シャイニング』のオープニングによく似ている。

実はこの映画、『シャイニング』で主演を務めたジャック・ニコルソンの孫デューク・ニコルソンの映画初出演作品でもある。役名はダニーとトニー(片方はテザードとしての名前)。ダニーは『シャイニング』の少年の名前であり、トニーはダニーのイマジナリー・フレンドの名前だからして、非常に意味深。もっともジョーダン・ピール自身は、デューク・ニコルソンがジャック・ニコルソンの孫であることを知らなかったようだが。

『シャイニング』だけではない。ウィルソン一家が自宅でテザードたちに罵倒されるシーンは、『ファニーゲーム』へのオマージュだろうし、『アス』でテザードたちが手にしている植木バサミは、同じ武器を使う『箪笥』や、アンティークのハサミが印象的に使われている『愛と死の間で』の参照だろう。ジェイソンが着ているTシャツにはジョーズのロゴが書かれているし、海岸で大量のカモメが舞う姿は、ヒッチコックの『鳥』を思い起こさせる。

アス』には、ジョーダン・ピールのホラーフィルムへの偏愛が至るところに刻印されているのだ。

テザードの正体、映画タイトル『アス』に込められたもう一つの意味とは?

そもそも“テザード”とは何者なのか?

アデレードのドッペルゲンガーである“レッド”の説明によれば、彼らは政府によって極秘に製造されたクローン人間。外界からは完全に断絶され、地下での生活を強いられているが、地上にいるオリジナルとは魂が繋がっていて、その行動は常に同調してしまうという。

同じ容姿・同じ能力を有していても、出自によって天国と地獄の差がある生活を強いられてしまう…。それは、「富裕層」か「貧困層」かによってその後の人生が決定してしまう、階級社会への異議申し立てではないだろうか?『ゲット・アウト』では人種差別問題を扱ったジョーダン・ピールは、『アス』では階級差別問題をテーマとして選択したのだ。彼のインタビュー記事でのコメントを引用してみよう。

The Tethered are essentially an ill-treated underclass, the “them” to our “us,” who both represent the sins we have committed and the retribution for those sins.
テザードは本質的に虐待された下層階級であり、私たちの「私たち」に対する「彼ら」であり、私たちが犯した罪とそれらの罪への報復の両方を表しています。
(DEN OF GEEKインタビュー記事より)

そういえば、アデレードのテザードであるレッドが「私たちはアメリカ人だ」と語るシーンがある。彼らはアメリカ貧困層の象徴。映画タイトルの『Us』とは、「私たち」という意味だけでなく、「アメリカ合衆国」(The United States of America)そのものを意味しているのかもしれない。

「ハンズ・アクロス・アメリカ」とマイケル・ジャクソン

もう一つ象徴的なのが、テレビモニターで流れる「ハンズ・アクロス・アメリカ」の映像だ。1986年に実施されたこのイベントは、アメリカ国内のホームレス問題・貧困問題を救済しようと立ち上げられたもの。西海岸と東海岸まで数百万人もの人々が一斉に手を繋ぎ、皆で『ウィー・アー・ザ・ワールド』などのチャリティー・ソングを歌うという、大掛かりな試みだった。

「みんなで手を繋いで連帯しよう。構造的不平等を打破しよう」というメッセージ自体は、文句なく素晴らしい。だがこの「ハンズ・アクロス・アメリカ」が問題だったのは、有料のチャリティ・イベントにしてしまったこと。“人間の鎖”に参加するには、10〜35ドルの寄付金が必要だったのだ。当たり前だが、貧困層はなけなしの10ドルを払ってこのイベントに参加する訳がない。アメリカ国民の連帯を謳いながらも、その実態は中産階級と富裕層による、偽善チャリティショーだったのだ。

1億ドルの寄付金を目指したものの、収益は目標の半分以下の3400万ドルに留まり、結局慈善団体に分配された金額はわずか1500万ドル。途方もない時間と経費を費やしたわりには、結果も伴わなかった。ジョーダン・ピールはこの「ハンズ・アクロス・アメリカ」を、ご大層なお題目を唱えた割にはアメリカ階級差別社会をあぶりだしただけの、サイテーなパフォーマンスと感じたのではないだろうか?手を繋ぐテザードたちを見て、ゲイブが思わず「パフォーマンス・アートか」と呟くシーンがあるが、それはジョーダン・ピール自身の想いだったに違いない。

よくよく観察してみると、テザードは全員赤い服に身を包み、手袋を着用している。まるで、『スリラー』をパフォーマンスするマイケル・ジャクソンのように。映画の序盤で、アデレードの父親が射的でゲットしたアイテムも、『スリラー』のTシャツだった。何年も地下に潜伏していたテザードたちにとって、マイケルは彼らの記憶にある最後のポップ・アイコンだったのだろう。

そもそも「ハンズ・アクロス・アメリカ」は、USAフォー・アフリカとして立ち上げられた『ウィー・アー・ザ・ワールド』の成功を受けて開催されたものだった。『ウィー・アー・ザ・ワールド』の作詞・作曲は、マイケル・ジャクソンとライオネル・リッチーによるもの。映画を通して、マイケル・ジャクソンは重要なアイコンとして位置付けられている。

謎のナンバー“1111”が指し示すものとは?

この映画には“1111”というモチーフが何度も登場する。オープニングでミラーハウス近くに佇んでいた謎の男は「エレミヤ書11章11節」と書かれた札を持っているし、夜中にジェイソンが指差す時計の時刻は「11時11分」。ゲイブがテレビで観戦している野球の試合のスコアは11対11で(しかも“双子”を想起させるツインズの試合だ)、ラストシーンで救急車を真上から捉えるシーンには、屋根に1111という数字がはっきりと刻まれている。

アデレード一家がビーチを訪れるとき、彼らの長い影が1111という数字に見えるのも偶然ではないだろう。しかも、「オリジナルの彼らに、その影となる存在が復讐を果たしにやってくる」という、図像的な暗示にもなっている。

もちろんこの数字は、人類とテザードのように左右対称であることの暗喩だが、人類に対する警告という意味も含まれている。「エレミヤ書11章11節」を引用してみよう。

それゆえ主はこう言われる、見よ、わたしは災を彼らの上に下す。彼らはそれを免れることはできない。彼らがわたしを呼んでも、わたしは聞かない。

「エレミヤ書」は、旧約聖書における三大預言書の一つ。神ヤハウェに従わないイスラエルの民は、バビロンによって滅ぼされるだろうという「破滅」が予言されている。事実、この警告を聞き入れなかったイスラエルの民は、バビロニア地方へ捕虜として連行される「バビロン捕囚」という憂き目を味わっている。

地上に暮らす我々人類は、いわばイスラエルの民だろう。近い未来に大きな災いがもたらされ、我々は破滅する運命にある……。ビーチに向かう車のなかで、ゾーラはこんなセリフを言う。

政府が水にフッ素を混ぜて国民を洗脳してるって。…世界の終わりには無関心ね

階級差別問題に対する無関心、そしていつか訪れる災いを“1111”を指し示しているのではないか?

レッドの正体を暗示する、周到な伏線

アデレードのテザードである、レッド。彼女は唯一「言葉を話すことができる」存在だが、実はそれが彼女の本当の正体(元々は地上にいたオリジナル)の手がかりとなっている。アデレードが彼女のドッペルゲンガーだったのだ。

レッドの声がかすれているのは、何年も誰とも喋っていなかったから。逆にアデレードが失語症になってしまった(と思われていた)のは、トラウマのためではなく、実際に喋る能力がなかったから。彼女はビーチで「人と会話するのが苦手なの」と語るシーンがあるが、実はこれが伏線になっていたのだ。

もう一つ、重要な伏線がある。アデレードのシャツは、映画全体を通してどんどん血(=赤)に染まっていくが、これ自体が「アデレードの正体はレッドである」ことの暗示。

それだけではない。常に顔をマスクで覆う息子ジェイソンは、『13日の金曜日』シリーズの殺人鬼ジェイソンの明らかなインスパイアだが、よくよく考えてみれば、第一作の『13日の金曜日』(1980)の真の悪役は彼の母親だった。

映画に登場する白いウサギや鏡の部屋は、明らかにルイス・キャロルの小説『鏡の国のアリス』の符合だが、さしずめレッドは“赤の女王”だろう。怒りの女神として書かれたこのキャラクターは、女王の資格をアリスに問いかけ、当惑させる。

アス』には、映画、小説、音楽、あらゆるポップカルチャーが暗喩として用いられているのだ。

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※2020年8月7日時点の情報です。

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