2016年2月24日、ギレルモ・デル・トロ監督がツイッターで以下の連投をしたことで、老若男女問わず、世界中の“元小学生”たちが歓喜しました。
Met w DeKnight and we are all so happy with our choice to take Pac Rim 2to where we know it can go!!
— Guillermo del Toro (@RealGDT) 2016, 2月 24
Dream of Kaijus and Mecha!!
— Guillermo del Toro (@RealGDT) 2016, 2月 24
「(スティーブン・S)デナイトと会って“パシ・リム2”について幸せな合意に達した!」「カイジュウとメカの夢よ!」
ハリウッド版『ゴジラ』や『キング・コング』など巨大怪獣映画を有する製作会社レジェンダリー・ピクチャーズの思惑(ゴジラ/キングコング/イェーガーのクロスオーバー作品!)により、続編製作に暗雲がたれこめるニュースが続いた『パシフィック・リム』新作の具体的な進行を伝えるツイートです。
監督にはテレビ・ドラマ『スパルタカス』シリーズや『デアデビル』を手がけるスティーブン・S・デナイトが就任し、デル・トロはプロデューサーとして企画を支えるようです。
そして、晴れて“第1作目”となる予定の『パシフィック・リム』が3月5日に地上波初放送されます!
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この放映を記念して、『パシフィック・リム』を構成する要素を読み解いてみます。実は画面に映っているものの他に、意外な要素が隠れているのです。
まずは“カイジュウ”と“メカ”
よく知られているように、『パシフィック・リム』には日本が育んだポップ・カルチャーが取り込まれています。
登場する“カイジュウ”たちは中に人間が入って演じることが出来ることを前提にデザインされています。これは、本作を手がけたギレルモ・デル・トロ監督が幼少期にテレビで見た「ウルトラマン」「ウルトラセブン」などのテレビ・シリーズや、『ゴジラ』や『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ』といった怪獣映画など、円谷英二が特撮を担当した作品への敬意です。特に必ず海から上がってくるパシリムの“カイジュウ”たちは、同じ様に必ず海から上がってくるゴジラへのオマージュとして見ることも出来ます。
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ハリウッド作品に登場する「ロボット」というと、『スター・ウォーズ』シリーズの“ドロイド”に『ターミネーター』など、等身大か2~3メートルほどの大きさで意思を持って動くものが主流です。日本でも「鉄腕アトム」や「ロボット刑事K」といった傑作がありますが、主流と言えるのはやはり「人が操作する巨大ロボ」です。
金田少年によって操作される「鉄人28号」や、戦隊モノで登場するロボット群。中でも「マジンガーZ」を始めとする永井豪作品は海外にも輸出され世界中の子供たちを熱狂させていたそうです。
デル・トロや新監督のデナイトもこれら日本製の“怪獣”と“メカ”に熱狂したと告白しています。さらに、『パシフィック・リム』を構成する要素はこれだけではありません。もうひとつ、物語の根幹を成す重要な要素があるのです。
スポ根映画!?
「ボコボコにされた格下が一念発起して、いけ好かないライバルを出し抜いて勝利する。」
「寄せ集め軍団が、それぞれの特性を活かして勝利する。」
「栄華を極めたスポーツ選手が慢心からトップの座を追われた後に、反省して再起を賭けた猛特訓に打ち込み、再び頂点を極める。」
スポーツを題材にした物語の多くは、これら常套展開の構造を持っています。実際のスポーツの試合でも、勝ち目が無いと言われているチームが勝利する場面は観客たちを大いに沸かせるものです。近年では日本のラグビー選抜チームが格上の南アフリカリームに勝利を収め、ブームとも言える熱狂を巻き起こしたことが記憶に新しいでしょう。
そういった熱狂を生み出すため、勝ち目の無い試合にいかに勝利するかを描くのがスポーツ映画だと言えます。
『パシフィック・リム』も鑑賞者を熱狂させるために、スポーツ映画的構造を取り入れています。
映画が始まってすぐ、主人公となるローリーとヤンシーの兄弟が浮かれ気味で出撃しますが、予想外の強さにヤンシーは殺され、ローリーはショックのあまりイェーガー乗りから引退してしまいます。
スポーツ映画で言う「慢心からトップの座を追われる」の常套展開です。
カイジュウ防御壁の工員に身をやつしたローリーは、ペントコスト司令官の呼びかけに答え、再びイェーガーに乗る決意をします。香港のイェーガー基地「シャッター・ドーム」には世界各国のイェーガー乗りが終結しています。
この場面はスポーツ映画の「寄せ集め軍団」と言えるでしょう。力強いロシアの夫婦、軽快はチームワークを見せる中国の3つ子、そしてライバルとなる負け無しなオーストラリアの親子と、様々な特性を持った混成チームになります。
ローリーの新たなパートナー、森マコも強いトラウマを抱えており、2人が試験搭乗したイェーガーは、あわや基地を破壊しかけてしまいます。この事故で2人は混成チームの中でも“補欠”扱いになってしまいます。
この展開構造もスポーツ映画における、序盤から中盤にかけての「反省して再起を賭けた猛特訓」や「いけ好かないライバルとの確執」にあたります。
この様に『パシフィック・リム』にはスポーツ映画の構造が分かち難く組み込まれているのが解ります。
スポーツ映画とは娯楽の王様である
実は、いずれにせよ「戦う映画」というのはスポーツ映画の構造を持っているものなのです。スポーツの勝負を「殺し合い」に置き換えれば、そのまま同じ構造の作品が出来上がります。
例えば、戦場で謎の存在に壊滅させられた部隊の生き残りが、敵の特徴の裏をかいて勝利する『プレデター』も、「ボコボコにされた格下が一念発起して、いけ好かないライバルを出し抜いて勝利する」物語だと言えます。
第二次大戦中、重罪犯罪者ばかりを集めた愚連隊が決死の特攻作戦を行う『特攻大作戦』は「寄せ集め軍団が、それぞれの特性を活かして勝利する」映画です。
ジャッキー・チェンの名作『酔拳』は「栄華を極めたスポーツ選手が慢心からトップの座を追われた後に、反省して再起を賭けた猛特訓に打ち込み、再び頂点を極める」そのまんまな展開をします。
さらに解釈を拡大していけば、先物取引の化かし合いを描いた『大逆転』や、法律事務所の不正と戦う『ザ・ファーム 法律事務所』に、グルメを描いた伊丹十三監督の『タンポポ』ですら「戦いの物語」として同じ構造を当てはめることが出来ます。
この様に、スポーツ映画の構造は、様々な映画作家たちにより、様々な方法で繰り返し描かれ、洗練されてきた歴史があり、ある種「鉄板の展開」になっていると言えます。
それら確立された様々な「鉄板の展開」の、さらに「いいとこ取り」をして組み立てられたのが『パシフィック・リム』であり、当然のように血沸き肉踊る作品となっているのです。
DVD/BDで何十回何百回と鑑賞した人も、そんな「鉄板さ」加減を意識して、冷静な鑑賞をしてみるのも良いかもしれません。
初めての人は、デッカいロボットと凶悪なカイジュウの戦いを、まずは無心に鑑賞してください。
理性は捨ててロケット・パーンチ!
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※2021年9月20日時点のVOD配信情報です。