ギレルモ・デル・トロという名前を聞いて、作品がいくつも思い浮かぶ人はおそらく監督のファンでしょう。おそらく多くの人が「名前は耳にしたことがあるけれど、いまいち知らない…」と感じているはずです。しかし、ギレルモ・デル・トロ監督はアカデミー賞をはじめ数々の賞を受賞しており、映画界では“鬼才”と呼ばれています。
監督の名前を世に広めた作品が『パシフィック・リム』です。子役で有名な芦田愛菜の演技が絶賛されたことでも話題となりました。監督の独特の世界観は、世界でも高く評価されており「監督の作品を観ずして映画は語れない」と言っても過言ではないほどです。
そんな鬼才ギレルモ・デル・トロ監督の最新作『クリムゾン・ピーク』が本日1月8日、公開となりました。今回は最新作を鑑賞する前に、監督の作品の魅力をいくつかの作品とともにご紹介致します。
誰もが魅了される魅惑の世界~幻想的な“現実と空想の狭間”~
『パシフィック・リム』で有名なギレルモ・デル・トロ監督ですが、作品の多くはどちらかと言えばホラー要素が強く不気味な印象があります。そのため“ホラー映画”にジャンル分けされることが多く、ホラー映画が好きな人以外はなかなか観る機会がないことでしょう。しかし、それだけで観ることをためらうのはもったいないと私は思います…というのも、監督作品は社会風刺をしているものが多く、安易に恐怖描写をしている訳ではないからです。
まずは、美しくも残酷な世界観、何より独自の世界観で高い評価をされている監督作品の魅力に迫ります。
美しくも残酷な世界~美しさを際立たせる要素~
ギレルモ・デル・トロ監督は、子供の頃からホラー映画が好きだったそうです。そこで、監督はあの『エクソシスト』で特殊メイクを手がけたディック・スミスに師事しました。そのため、監督の作品にはほかに類を見ないほど不気味なキャラクターが数多く登場します。
そうしたキャラクターをはじめギレルモ・デル・トロ監督作品を構成する不気味さは、美しさを際立たせる要素となっています。最新作の『クリムゾン・ピーク』でも、不気味なゴシック様式の広大な邸宅が登場しますが、その美しさに思わず見とれてしまうほどです。しかし、彼の独特の世界観を彩る美しさは不気味さだけでなく、監督がこだわり徹底された設定…とりわけ時代設定が大きく影響しています。
こだわり抜かれた時代設定と痛烈な社会風刺
アカデミー賞を受賞した監督の代表作『パンズ・ラビリンス』は、1944年の内戦後のスペインを舞台としたダーク・ファンタジー作品です。ダーク・ファンタジーは、空想世界が主体であるファンタジーとは異なり、あくまで現実世界が主体となっています。
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辛く残酷な現実に直面する主人公オフェリアは、ふとしたきっかけで地下の迷宮へ足を踏み入れることになります。この幻想的な迷宮は、内戦という残酷な時代背景によってその美しさを増しているのです。反対にその美しさがあるからこそ、内戦だけでなく戦争そのものに対する社会風刺としての強い意味合いが感じ取れるのです。
一方で、近未来を舞台とした作品もあります。1997年に公開された『ミミック』では、謎の伝染病が流行っている近未来を舞台に、遺伝子操作をキーワードに物語が進んでいきます。公開当時、遺伝子操作はいわゆる“ホット・ワード”でした。
また、同じ時代設定と言えば監督の名を一躍世界に広めた『パシフィック・リム』も近未来が舞台となっています。
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余談ではありますが、この『パシフィック・リム』は、どちらかと言えばSF映画にありがちな設定です。しかし、突如、海溝の裂け目から現れた“Kaiju(怪獣)”に巨大ロボットで立ち向かうストーリー。何より“Kaiju”というネーミングに多くの日本人がハートを掴まれました。こうした、ちょっとした遊び心も監督の魅力の一つです…
では、他にも監督作品の魅力はあるのでしょうか?
禁断の果実~禁じられた行為と人間の欲望~
監督の作品には必ずと言っていいほど、主人公たちに“禁じられた行為”が用意されています。『パンズ・ラビリンス』では主人公オフェリアに課せられた試練の中に登場し、『パシフィック・リム』では“Kaiju”を研究する生物学者がその禁を破ることで物語が進んでいきます。もちろん、最新作『クリムゾン・ピーク』でも“禁じられた行為”が登場します。
しかし、禁じられていることほどしたくなるのが人間というもの…そうした人間の心理を物語の起爆剤として、監督は作品に組み込んでいるのです。観ている私たちも思わず「それはダメだよ…」と言いたくなるような緊張感を味わうことになります。
けれど、私たちは“怖いもの見たさ”で物語の続きを知りたくなってしまうのです…そう、気づいた時にはギレルモ・デル・トロの作品の世界に引き込まれているのです。
ここまで、監督作品の魅力について触れてきましたが、彼の原点は一体どこにあるのでしょうか?
鬼才の原点~デビュー作『クロノス』と海外ドラマ『ストレイン』~
監督の長編デビュー作は、1993年の『クロノス』という作品です。この作品は、カンヌ国際映画祭の批評家週間グランプリに選ばれ、映画界で一躍脚光を浴びることとなりました。今作が言わば、ギレルモ・デル・トロ監督の原点なのです。
残念ながら『クロノス』はレンタル等がほとんどされていません。しかし、海外ドラマ『ストレイン 沈黙のエクリプス(以下、ストレインと表記)』はレンタル可能で、監督の原点回帰と言える作品となっています。
『ストレイン』は、デビュー作『クロノス』を彷彿させるだけでなく、これまでの監督作品のアイディアが全て詰まった作品となっています。やはり映画とは異なり作品を縛る制約が少ない海外ドラマのため、監督が本当に描きたい世界が描かれており、まさに傑作と言えるでしょう。
『ストレイン』では、現代における吸血鬼神話をベースに“愛”というキーワードが登場します。思い返せば、これまでの作品にも“愛”がテーマと言える場面が数多く登場します…
しかし、私を含め、ホラー要素に目が行きがちで本来のテーマが見えていない人が多いのではないでしょうか?監督が本当に描きたいものが“愛”だったとすれば、最新作『クリムゾン・ピーク』はとても重要な作品となります。
最新作『クリムゾン・ピーク』とは?
本作は監督作品史上最も美しい映画と謳われており、不気味ながらも美しい邸宅、そして登場人物たちを彩る豪華な衣装がポイントです。その美しさは「アカデミー賞にも絡んでくるのではないか」と話題になっています。
(C) Universal Pictures.
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野心溢れる作家イーディスは、謎に包まれた英国紳士トーマスと恋に落ちる。そんな彼女は、幼い頃から死者の魂と通じ合う力を持っていた。ある日、彼女は10歳の頃に亡くした母親の霊から不思議な警告を受ける。
クリムゾン・ピークには気をつけなさい―。
父の死をきっかけに、トーマスと結婚したイーディスは彼の屋敷で暮らすことに。その場所こそ「クリムゾン・ピーク(深紅の山頂)」だったのだ…。
冬になると地表の赤土が雪を紅く染める丘にそびえる不気味な屋敷で、彼の姉ルシールと暮らすことになったイーディスは不可解な現象を目にすることになる―。
独特の世界観の中で描かれる“愛”とは?
恐怖描写や美しい描写など数多くの見所がある中で、本作はイーディスと実業家のトーマス、眼科医のアランの恋の三角関係も見どころのひとつと言われています。屋敷に隠された秘密が明らかになるとき、彼らの運命はどうなるのでしょうか?それは是非、ご自身の目でたしかめてください!
ギレルモ・デル・トロ監督自身が「世界で最も美しい映画」だと語る『クリムゾン・ピーク』は、2016年1月8日から公開です。