観る前にこれを知れば『マネー・ショート』がもっと面白くなる!5つの経済用語

2016.03.10
洋画

映画好きなサラリーマン。

柏木雄介

本年度アカデミー賞作品賞ほか5部門にノミネートされ、見事脚色賞を受賞したリーマン・ショックの真実を描いた『マネー・ショート』。公開して評価は上々ですが、中にはやはり経済用語が飛び交うことでいまいち楽しめないという声も聞こえてきます。

マネーショート表紙

(C)2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

「MBS」「CDS」といった金融用語は劇中で分かりやすく説明してくれますが、大枠の経済用語などはあまり詳しく説明されないのは事実。マクロ経済の多少の知識は知らないと映画の全体像がぼやけてしまうことでしょう。

反対に全体像がつかめていれば、そこにいる様々な立場の人間の苦悩が垣間見れ、エキサイティングな経済ドラマとして楽しむことができ、深く考えさせられる重厚な社会派ドラマとなります。

今回こちらの映画をより楽しく気軽に観るためにも、予め知っておきたい経済用語と経済の仕組みを少しだけ解説します。誰が誰をだましている話なのか、その真実を知った時、私たちは愕然とさせられます。

しかもその事実は過去のものではなく、今現在も起こっている”詐欺”です。サブプライム・ローン問題により、800万人が失業し、600万人が家を失いました。その事実は他人事ではすまされません。

何も知らないことが厄介なのではない。知らないことを知っていると思い込むのが厄介なのだ。
(冒頭のマーク・トゥエインの言葉より)

まずはイメージから経済を知っていこう!

難しい経済用語の解説をしてもうまく入り込めないと思います。映画のあらましを住宅・金融知識を一切使わず一般的にわかるように、イラストを用いて解説しようと思います。イラストは社会情勢に素早く対応して今話題沸騰中のかわいいフリー素材「いらすとや」さんのものを使用させていただきます。

今回話を身近なものにして分かりやすくするために、住宅市場の代わりにアイドル市場に置き換えて説明しました。(もちろん、実在のアイドル市場とは関係しないのでご承知を。)

サブプライムは、アイドルを目指す女の子と置き換えます。ローンは信用。ある田舎にアイドルを夢見るサブプライムちゃんという容姿に自信のない子がいまして、ある時街中を歩いているとスカウトを受けることから始まります。サブプライムちゃんはアイドルとして活躍するために上京することを決意し、ローン会社から資金も借りることができました。

マネーショート図1

この頃、アイドル市場は好況でした。”MBS”という歌も踊りもできるアイドルグループが人気でコンサートのチケットも売切れ続出。アイドル人気が低迷しないためにも、プロダクションは様々なアイドル志望の人を受け入れました。

中には書類審査もオーディションもせずにアイドルとしてデビューする人も。それがサブプライムちゃんが所属する”CDO48”でした。

たくさんいるアイドルグループの何人かはそういった女の子が入ってもファンからは特に文句も言われることなく、さらにコンサートのチケットは売れ続けました。

マネーショート4

そうしている間に、CDO48のチケットはたくさん売れるのでメンバーもそれに比例するように増えます。今までセンターにいるようなAAAランクのアイドルはそうそう世間にいるわけではないので、必然的にサブプライムちゃんと似た女の子が増えてきます。とうとうCDO48のメンバーの8割はサブプライムちゃんが占めるように。

しかし、それでもコンサートのチケットは売れました。サブプライムちゃんのパフォーマンスはゼロに等しいのにです。なぜでしょう?

その答えは、アイドル好きなら知らない人はいないアイドルを各付けする”アイドルログ”という謎の組織がCDO48の評価を下げないでいたからです。組織を神格化するアイドルファンは疑うことなくそれを信じてコンサートのチケットを買い漁りました。

その結果アイドルグループを作った会社はもちろん儲かり、そのチケットを売った代理店も儲かり、その会社や代理店にお金を投資した株主も儲かりました。サブプライムちゃんも儲かりましたし、サブプライムちゃんをアイドルへ導いたスカウトマンも儲かりました。

そうしてアイドル市場はどんどん膨れ上がりましたが、その実態は先に説明したように”ゼロ”に等しいものでした。ゼロです。このままコンサートを実施してもブーイングの嵐なのは目に見えているのですから。

マネーショート8

しかし、その恐ろしい事態をいち早く気づいた変人がいました。それを伝えたところで誰も信じないことを悟った彼は、逆手にとって戦おうと決意しました。

彼は、”CDS”という救命用具を商品として発明しアイドル市場に作って売ってくれと頼んだのです。CDSはCDO48のコンサートが失敗したとき初めてその真価が試される最強の道具です。毎月その手入れにはお金がかかりましたが、CDSのコンサートは失敗すると信じたためそれをたくさん買い続けました。

CDO48のコンサートチケットはプレミアがつくほどの人気でしたので、失敗したときに使うような道具を買う彼を見て関係者の方は皆嘲笑していました。

マネーショート6

彼はCDOは値打ちのないチケットだということをノートに書きとどめていました。ひょんなところで、そのノートを見てその事実に気づいた人もいました。

そうこうしているうちに、CDO48ファミリーのコンサートが各地で開催されていき、大惨事へと発展していきます。当初は偉い人の思惑でチケットの価格が下がりませんでしたが、CDO48の一つの大きなプロダクションが倒産することで、今までたくさんチケットを持っていたファンたち代理店、投資家はことの重大さに気づき一斉に売り出します。

チケットの価格は暴落。その反面救命道具であるCDSの値段は跳ね上がっていく。そしてサブプライムアイドルたちは町からいなくなっていくのでした。アイドル市場がもたらしたことは様々な人の生活を狂わしていくのでした。

マネーショート10

知ってしまった悲劇の未来を憂い悩む登場人物を知る!

極端なたとえ話として説明しましたが、この悲劇を何となく理解されましたでしょうか。経済用語を全く使わないで解説しましたが、本作でも「MBS」「CDO」「CDS」といった金融用語が多用されます。

もちろんその専門用語を非常にコミカルにわかりやすく解説してくれるのがこの映画の醍醐味のひとつであるのですが、1度のみの説明、2時間も映画が続けば忘れてしまいます。

そんなとき、「CDO」と「CDS」の関係が非常に大切になってくるので、なんとなくイメージとして何が良くて何が悪いのか理解していただければ物語に集中できると思います。

「CDO」という金融商品は様々な債権を組み合わせてリスクを分散させてリターンを大きくさせた証券のことです。金融市場において誰もが自由に買えて、”お得”だと思われていましたが、関係者も何が入ってるのか理解していないというのが実態でした。

サブプライムローンといった、無担保審査なしで借りた低所得者のローン債権(破綻が目に見えているもの)がたくさん含まれていたのです。それをよく見ようともせずに、私利私欲のために各付会社はAAA(安全)と評価しました。それを信じて疑わなかった多くの投資家が損を見たのです。

そんな詐欺まがいの金融市場の実態を知った4人がこの映画で映し出されます。チャンスと思って意気揚々と勝負に出るのでしょうか。そんな軽い話ではないことはリーマン・ショックの事実を知っている皆さんはご存知かと思います。”華麗な”逆転劇では一切なく、切ない男たちの背中になんとも言えない気持ちにさせる映画です。

(交わることはないですが、以下図のように3つのグループのメンバーがCDSを通じて物語が進みます)

マネーショート図2

金融用語は予習しておこう!

以上で軽く説明した金融用語についていくつか簡単におさらいしておきましょう。

①サブプライム・ローン

私たちが家を買うとき、普通は一括ではなく住宅ローンを組むと思います。一般にアメリカでは日本と違い家は資産として考えられ家の値段は下がることはないと考えられているために、低所得者でもその住宅を担保にして金融会社からお金を借りることができました。それをサブプライム(返済能力の低い低所得者の)・ローン(借入債権)と言います。

②MBS(モーゲージ債)

住宅を借りているものは、貸してくれている人に対して毎月返済額と金利を支払います。それをもらう権利を債権と言いますが、それらの債権を金融市場で自由に売り買いできるように金融証券にしたものを言います。

③CDO(債務担保証券)

サブ・プライム債権やMBSを混ぜ合わせて切り刻んだ金融商品です。様々な債権(優良なものやそうでないもの)が組み合わさってできているのでリスクが分散化され、リターンがそれだけ大きい証券のこと。

劇中では後半、合成CDOという以下に説明するCDSも含めた証券もでてきますが、ここまで行くと、実態が分からないギャンブル券みたいなものと考えて良いでしょう。

④CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)

CDOを空売りするために、新たにマイケルが発明した金融商品です。CDSは債券のデフォルトをヘッジするための金融商品と言われますが、要は月々保険料は払う代わりにCDOが紙くず当然の価値になったときに保険金としてもらう権利のことです。

CDO、債権を持たなくともこのCDSだけを持つこともできます。それによって債権の価格が暴落したとき、相対的にCDSの価格が上がるのでそのとき高く売れば利ざやで儲かるという仕組みです。

⑤ビッグ・ショート

通常株式において、値上がりを予測し安値のときに買うことを「ロング」というのに対し、値下がりを予測して高値のときに売ることを「ショート」と言います。

そして、市場の中で値下がるものしか分からないといった風なときに利益を生む取引をするために「空売り」という手法があります。名前の通り、何もないまま先に株を売って、決済する時に株を買い戻してその利ざやで儲ける方法です。

この場合では、債権において空売りという手法ができなかったので、CDSという一種の空売りができる商品を一から作り、住宅市場が大きく下がる方を予測したというわけです。

以上のことを踏まえて映画の中に出ててくる用語を図解しました。

マネーショート図3

真に応援されるべき人が増える世の中を願って

「経済学の父」と称されるイギリスの経済学者アダム・スミスはこう言います。

利己心の発揮は見えざる手を通じて社会の利益を増大させる

市場は需要と供給で成り立っています。みんなから欲しいと思われる商品があってそれが少なければ価格は上がり、逆に商品が沢山あるのだけれど欲しい人が少なければ価格は下がります。

しかしそこに情報格差がある限り市場は正しく働きません。市場を動かすことができる立場にいる一部のひとが私利私欲のために動いていたら、アダム・スミスが唱える自由に発展していく経済なんて存在しないのだと思います。

世の中にとって必要な良いものを供給している人も会社も沢山います。本当にファンを大事にして喜ばせているエンターテイナーとしてのアイドルも然り。株式債権市場は、私たちの生活をより良くするために頑張っている人たちを応援するための仕組みだったはずです。

投資は応援。株式や債権はその人の信用の現れ。世の中を良くするひと、会社に投資するという当たり前の金融のシステム。その本質を見失わければきっとこんな詐欺に引っかかるような失敗は起きないはずです。

この結末には続きがあります。それは映画を見てご自身で確かめてください。本当に応援すべきのは誰なのか、実態がないものを信じ込んで、知っていると思い込んでいるのがどうか判断してください。根拠もなく振り回されるのではなく、真実が何かを考え自分の意思をもち行動できるように。同じ過ちを繰り返すのが歴史ですが、それを繰り返さないために歴史から学ぶことに意義があると思います。

最後に、住宅市場はバブルだと信じてCDSを1点買いしたマイケルが今新たに1点買いしているものがあります。それは何か、そしてそれが何を意味するか、各自で考えてみてください。筆者は評論家でも何でもないただのサラリーマンですが、この映画に関して中立な立場としてAAAを出します。ただし、保証はいたしません。

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  • 賀英雪也
    3.0
    良心と欲望 金は紙か財産か。
  • フラハティ
    3.7
    「何言ってるかよくわからないだろう。ウォール街のやつらは頭のよさそうな言葉を使いたがる。言わせておけ。大切なことなので、マーゴットロビーにわかりやすく教えてもらおう。」 この世で一番恐ろしいことって何か知ってる? それは真実を知ること。 本作の舞台はまだ10年ほどしか経ってない"リーマンショック"の話。 僕が小学生のときに起きた出来事。 実際にめっちゃニュースでやってたから、よくわからんけど凄いこと起きてるんだーくらいの感覚だった。 で、今回も本作を観終わってすぐはその感覚なんだよね。笑 経済用語が交錯しまくる環境で、CDSやら空売りやら色々わからん言葉が多すぎる。 有名人たちがそんな用語を説明してくれるシーンがあるんだけど、面白いしわかりやすい。 でも冒頭のマーゴットロビーだけなんかわかりにくかったんだけど笑 解説があっても、劇中ずっと頭を働かせなければならないため、その解説も数分後には忘れてしまう。 でもこういう言葉って、一般市民とか銀行マンとか含めて知らない人たちのほうが多いんだよね。 だからこそ"リーマンショック"が起き、世界は傾いた。 これって金融業界にのみに言えることではなくて、知った気でいることやそもそも知らないこと自体がどれほど恐ろしいものなのか。 そんなものを突きつける。 そして真実を突きつけられたとき、その瞬間にはもう遅い。 本作のように手遅れなんだよ。 でもみんなは芸能人の誰々が何したとか、野球の結果がどうとかなんてことしか気にしてない。 "リーマンショック"はもうすでに起こってしまった出来事。 その顛末を観客は皆知っているから、結末も大体わかる。 世間では、破綻するなんてあり得ないと散々言われながら、そんなあり得ないことが実際に起きてしまった。 今の僕たちが観れば、登場人物たちのほうが正しいのはわかってる。 でも、当時関係者として生きていればそんな奴らをおかしいと思ってたはず。 劇中での登場人物たちは、これ本当に起こるのか?という不安がありながら、心の中では起きて欲しくないとも思っていた。 だからラストは副題のように『華麗なる大逆転』ではないし、そんなスカッとなど全くしない。 この出来事で一番被害を被るのって誰なのか。 それは僕ら一般人なんだよ。 作品全体がエンタメみたいなものじゃない。でも、一応コメディチックにはなってるのでものすごくつまらないなんてことはない。 監督のアダムマッケイは今まで多くのコメディ作品に関わってる人なのでそこら辺はご安心を。 わからないなりにも楽しめる風に仕上がってる。 どっちかというと、『ウルフオブウォールストリート』みたいなエンタメ作品ではなく、社会的な部分がメイン。 全部を理解できてはいないけど、僕は楽しめた。 金融業界の要素もあるし、その部分が大半なんだけど、結末に至るまでの主要人物たちの心の動きはやっぱり色々と思うところがあるんだろうね。 ただ単に、金儲けしようぜ!なんて自分勝手な考え方をしてるやつらばかりじゃない。 挑戦者vs悪徳野郎。 でもその悪徳野郎たちは表立って出てくるわけじゃないんだ。まじで腹立つよ。 本作で出てくるやつらはとりあえずみんな頭良さそうに見えるっていうね。笑 観客たちは全てを知ろうと頑張るけど、この映画については情報量が多いので、全てを知るのには時間がかかる。 だからこそ僕みたいに諦める人や、様々な解説をしてくれる人もいる。 これは社会の色んな出来事や構造と似てるんだよね。 そういった部分も含めて、全て制作者たちの狙い。 "リーマンショック"当時の人々も、その現状や出来事がわかる人とわからない人がいた。正にこういう状況にあったってことを、映画の作風としても取り入れてるのはよく考えられてるなと思う。 とにかく難しそうだから観ないかなーなんて方は、そういった難しい部分も含めて挑戦という意味でもご覧になってみては? この映画は、金融に対して知識のない一般人に向けて、あえてわかりやすくしすぎないという風に狙って作られているので、一から十まで丁寧に優しく教えてくれる訳ではない、ということはあらかじめご了承を。 あと吹き替えのほうがいいかもしれない。情報量的に。 とりあえずこの副題つけた人なんなの。 どこが華麗なのか。誰目線なんだ。 予告も詐欺的でちょっと嫌だね。 作品の良さがこれで潰されてないかな。
  • -
    公務員になろうと思った
  • yuiri
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    経済用語難。他人を不幸にする稼ぎは、純粋?な幸せを得られない。
「マネー・ショート 華麗なる大逆転」
のレビュー(18942件)