【伝記映画の製作が決定】ハリウッドの反逆児・モンゴメリー・クリフト

劇場未公開作品を愛してやまない田舎人

フレスコの傘

マジック・マイク』やテレビドラマ『ホワイトカラー』シリーズなどで知られるマット・ボマーが伝説の俳優モンゴメリー・クリフトを演じることが決定!

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出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/モンゴメリー・クリフト

製作などの開始時期は明らかになっていないということですが、『Monty Clift』というタイトルのこの映画は1940年代後半~1960年代にかけて映画界で活躍したモンゴメリー・クリフトの伝記映画となるようです。

Monty(モンティ)とはMontgomery(モンゴメリー)の愛称で、彼もこう呼ばれることを気に入っていたとのこと。

確かな演技力と端正なマスクで二枚目俳優として人気を博しながらも私生活ではアルコールとドラッグの常用で中毒症状に陥り、奇行が目立つなどその人生に安らぎを感じることはなかったモンティ。

本記事では45歳という若さで散っていった名優モンゴメリー・クリフトの生涯を追いかけると同時に出演作の紹介をしていきます。

生い立ち

モンティことモンゴメリー・クリフト(本名:Edward Montgomery Clift)は1920年10月17日 、ネブラスカ州オマハにて二卵性双生児として誕生しました。

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出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Montgomery_Clift

10代の頃からブロードウェイで演技を磨き、舞台が大好きだったモンティ。演技に対する情熱は底知れず、エリア・カザンらが創設した俳優養成所アクターズ・スタジオで1940年代に確立されたメソッド演技法を学ぶなど、早くからメソッド演技を実践する演技派俳優でした。

『赤い河』で映画の世界へ

映画の世界にあまり興味はなく、舞台に立ち続けていたモンティですが1948年、ハワード・ホークス監督の『赤い河』でついに銀幕デビュー。

その後は次から次へと映画出演が舞い込むようになりますが、モンティは自分が本当に演じたいと思う役しか引き受けないという信念の持ち主でもあったため、大作映画への出演を蹴ることが多かったといいます。

シェーン』、『エデンの東』、『白鯨』、『波止場』などはモンティが出演依頼を断った作品です。

自動車事故

自分が演じたいと思う役だけを厳選しながらも、『山河遥かなり』、『陽のあたる場所』、『地上より永遠に』ではアカデミー賞主演男優賞にノミネートされるなど輝かしいキャリアを着実に積み重ねていくモンティ。

しかし1956年、『愛情の花咲く樹』の撮影期間中に悲劇は起こります。エリザベス・テイラー宅のパーティーの帰りに自動車事故に遭い、あろうことにその美しい顔がめちゃくちゃに破壊されてしまったのです。

整形手術を繰り返した結果、顔はほぼ元の状態に戻ったものの、顔の一部に麻痺が残り表情は張り付いたようにぎこちなくなります。また術後の痛みも酷かったため、鎮痛剤を大量に服用。さらには以前から常用癖のあったアルコールとドラッグの量も目に見えて増えていきます。

事故後は自分の演技に自信が持てなくなり、台詞覚えも悪くなるなどモンティのせいで撮影が進まないこともしばしば。次第に現場ではトラブルメーカーのような存在になりつつあるのでした。

悲劇の連鎖はこれだけに終わらず、中毒症状のせいか全裸で町を歩き回るなど奇行が目立つようにもなり、見かねた友人たちは彼の元を去り、映画出演の依頼もめっきり減るようになってしまいます。

あの事故さえなければ・・・とモンティ本人はもとより周囲の人間誰しもが思ったことでしょう。心と体の傷は癒えることはなく、むしろ深まっていくばかりでしたが、それでもその死の直前まで演技に対する情熱だけは決して冷めることはなかったのです。

45歳の若さで逝く

1966年7月23日。その日は奇しくもマリリン・モンロー、クラーク・ゲーブルと共演した『荒馬と女』がテレビで放送されていた日。

モンティは自宅で倒れているところを付き人に発見されました。死因は心臓発作。モンティが愛したというニューヨーク、マンハッタンにある自宅で息を引き取ったことは幸せだったかも知れません。

またモンティはホモセクシュアル、正確にはバイセクシュアルという一面を持ち合わせていましたが、カミングアウトしたくてもモンティが生きた時代がそうはさせなかった。結果として息の詰まる二重生活を送らなければならず、その苦痛から逃れるために頼ったのがアルコールとドラッグだったといいます。

さらにモンティは演技に対する信念を持つと同時に、ハリウッドの華やかな生活そのもの自体も嫌っており、その協調性のなさから異端児、反逆児扱いを受けていました。今でこそこういった信念はひとつの個性として認められるのでしょうが、やはり時代がそうはさせなかった。ある意味では時代に殺された人だったのかもしれません。それでも彼は死ぬまで自らの信念を貫いた真の役者でした。

赤い河(1948年/RED RIVER)

赤い河

モンティの記念すべきデビュー作。

ストーリーはリオ・グランデの近くで牛を放牧しているカウボーイたちが1万頭にまで増えた牛をミズーリまで運ぶロングドライブを描いたシンプルなもの。大人数のカウボーイたちと牛を引き連れての果てしない旅路にはトラブルが付き物なのですが、ジョン・ウェイン演じるリーダーのダンソンは他者を顧みない過酷な旅を続けてしまいます。

モンティの役は幼い頃にダンソンの養子となった若いカウボーイ、マシューの役でダンソンのやり方に疑問を持ち反発、対立する役を演じています。

男臭くて牛臭い荒野の中に、父と息子の物語を垣間見せることで濃厚な人間ドラマが展開されていきます。中盤に挟み込まれる牛の大暴走シーンにはぜひとも注目して欲しいところ。

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山河遥かなり(1948年/THE SEARCH)

第2次大戦直後のベルリンを舞台に戦争孤児となった少年と偶然にも彼を保護したアメリカ兵との友情を描く。

モンティ演じるアメリカ兵に拾われた少年は恐怖のあまり人間不信に陥り、失語症までもを患っている状態でしたが、心優しいアメリカ兵と生活を共にし、英語を教えてもらったりしながら過ごしていくうちに本来の人間性を取り戻していきます。

時には父のような、またある時には兄のような目線で少年に接するモンティの姿が生き生きと輝いていて、本当に素敵です。

戦争の爪痕が痛々しく感じられるシーンももちろんあるのですが、フレッド・ジンネマンによる決して感情に走ることのない目線と手堅い作りがそれらを見事に中和しています。

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女相続人(1949年/THE HEIRESS

女相続人

監督は『ローマの休日』や『ベン・ハー』で有名なウィリアム・ワイラー。

よくある遺産絡みの愛憎劇かと思いきやラストの展開に一捻りあり。

内気な性格だったキャサリンがあることがきっかけで父親から見放され、愛する男からも捨てられるとその性格や話し方までもが豹変。前半と後半では全く違う印象を与えるキャサリンを演じたオリヴィア・デ・ハヴィランドの凄絶な演技に加え、階段の昇降や鏡を使った演出が女性の持つ二面性を上手く引き立てています。

モンティの役は遺産目当てにキャサリンを誑かす青年モリスの役で、いい役とは言い難いのですが、身のこなしと端麗な容姿が大変美しく撮られている点においては喜ばしいことこの上ない作品だと思います。むしろこういう役だからこそ映えるのかもしれませんが。

陽のあたる場所(1951年/A PLACE IN THE SUN)

陽のあたる場所

貧しい家庭に育ったジョージ・イーストマンは上流階級への憧れを持つ青年。運よく上流階級の令嬢と仲良くなるも、他の女性との関係も持っていたために次第に彼女の存在が邪魔になってくるのだが・・・。

モンティとはその死まで兄妹のような固い絆で結ばれていたエリザベス・テイラー(愛称はリズ)との記念すべき初共演作。セオドア・ドライサーの『アメリカの悲劇』が原作で本作は映画化2作品目にあたります。

陽のあたる場所

出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/陽のあたる場所_(映画)

陽のあたる場所とあたらない場所を行き来しながら貧しい青年ジョージの心はどこを彷徨うのか。場面と場面が重なりあうオーバーラップという映像技法が日影と日向の世界を上手く表しています。そしてモンティ演じるジョージ・イーストマンが背負う影の大きさには誰しもが息を呑むことでしょう。

Monty Cliftではこの映画を起点とし、リズと出会ったエピソードなどを中心に構成されるようです。

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地上(ここ)より永遠に(1953年/FROM HERE TO ETERNITY)

地上より永遠に

1941年、ホノルルの陸軍基地へ配属となったプルーイットは中隊長の命令に背いたことがきっかけで孤立し、軍隊内でのいじめや強制労働に日々耐えることになるが…。

モンティの数少ない出演作品のなかでも最高傑作と言われている本作。頑固で要領が悪く、自分の信念を最後まで貫き通したプルーイットの姿とハリウッドの反逆児であったモンティの姿は、どうしても重なって見えてしまいます。

監督は『山河遥かなり』と同じくフレッド・ジンネマンで、本作でも感情に走ることのない目線とあくまで中立の立場から真実を誠実に映し出していくスタイルは健在。

また、ジャケットにも使われているバート・ランカスターとデボラ・カーの波打ち際でのラブシーンは、映画史に残る名シーンと言われるだけあって、大変美しいラブシーンとなっています。

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私は告白する(1953年/I CONFESS)

私は告白する

ある殺人者の告白を聞いた神父は苦悩する。自らが容疑者になろうとも、告白によって知った罪は完全な秘密を守るように義務づけられているためだ。

モンティはこの苦悩する神父の役を演じているのですが、本作ではとにかく視線で全てを物語る。告解室で殺人の告白を聞くシーン、法廷でのシーン、どこをとっても強烈に焼きつくのはモンティの瞳、ただそれだけ。

真実を知っていながらもその内容を絶対に話すことが出来ないという神父の職業が最大限までに活かされた巧みなストーリーにヒッチコックの手腕が光ります。

ちなみにモンティはメソッド演技にこだわるがゆえに、ラストシーンの歩き方だけで4時間も悩んでしまったというエピソードが残っています。それに反しヒッチコックはメソッド演技にはさほど興味を示さなかったとか。

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終着駅(1953年/STAZIONE TERMINI)

イタリア映画界の巨匠・ヴィットリオ・デ・シーカによる人妻(ジェニファー・ジョーンズ)と青年(モンゴメリー・クリフト)のメロドラマ。

筆者がはじめてモンティを目にしたのがこの作品。ジェニファー・ジョーンズもきれいな人だけど、相手役の男の人もきれいだなあと惚れ惚れしたものです。かっこいいと思う俳優さんはたくさんいますが、その中でもきれいだなあと思う人は本当に少ないんですよね。母性本能をくすぐるひた向きな眼差しとどこか影を纏った青年の役に公開当初は世界中の女性がときめいたことでしょう。

駅に溢れかえる群像。駅という建物は、始まりで終わりの象徴。列車から降り立つ人々、列車に乗り込み旅立つ人々。違う角度から見れば、この男女の別れの物語も駅の中で起きた一部分に過ぎないのかもしれない。

この映画が単なるメロドラマで終わっていないという理由は、駅に行き交う人々の人間模様が目を凝らすほど繊細に展開されているからこそ。舞台となったローマ・テルミニ駅の構内も大変魅力的で美しく撮られています。

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若き獅子たち(1958年/THE YOUNG LIONS)

若き獅子たち

本作はナチの青年将校クリスティアン(マーロン・ブランド)、ユダヤ人ゆえに差別を受けるアメリカ兵ノア(モンゴメリー・クリフト)とその友人マイケル(ディーン・マーティン)の3人にそれぞれフォーカスを当てた戦争映画です。

『地上より永遠に』で演じたプルーイットと同じく軍隊内から酷いいじめを受ける役ですが、事故後の作品なので顔に覇気がなく、実年齢よりうんと老けて見えるのが痛々しい。

最後に若き獅子たち3人が相見える瞬間は刹那的でありながらも印象に残りますが、マーロン・ブランドとモンティ、共にアクターズ・スタジオの出身で、ネブラスカ州オマハの出身という共通点を持つこの2人の絡みが皆無というのが残念でなりません。

『去年の夏 突然に』(1959年/SUDDENLY, LAST SUMMER)

SUDDENLY, LAST SUMMER

ビネブル夫人の息子セバスチャンが去年の夏、突然に死んだ。それ以来、夫人の姪であるキャサリンの様子がおかしいという。見かねた夫人はクックロウィッツ博士にキャサリンへのロボトミー手術を施して欲しいと頼むが…。

テネシー・ウィリアムズの戯曲を映画化した作品ですが、本作は長回しが多いのが特徴ともいえる作品。モンティはリズとキャサリン・ヘプバーン、気の強い女性たちによる演技合戦の見聞き役クックロウィッツ博士を演じていますが、この頃既に心身ともにボロボロの状態であったモンティはこの長回しに耐えられず、撮影は困難を極めたそうです。

タイトルである「去年の夏 突然に」というフレーズがまるでなにかの呪文のように繰り返し出てくるのも印象に残ります。

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荒馬と女(1961年/THE MISFITS)

荒馬と女

脚本を書いたアーサー・ミラーは撮影当時、マリリン・モンローの夫だったということでどうもマリリンのためにこしらえた映画という感じが否めませんが、The Misfits=適合せざる者たちが傷ついた心をなめ合うかのような物語にはなんとも例えがたい雰囲気が漂っています。

この映画がとりわけ有名なのは出演者のクラーク・ゲーブルが本作の撮影後に急死、続けてマリリンも謎の死を遂げ、モンティもその数年後に若くして逝ったという点でしょう。最後に亡くなったモンティは死人は必ず3人1組なんだ…と恐れていたそうです。モンティが亡くなった日にもテレビで放送されるなどこの映画にはどこか数奇的なものを感じます。

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ニュールンベルグ裁判(1961年/JUDGMENT AT NUREMBERG)

ニュールンベルグ裁判

ナチス・ドイツの司法関係者たちを裁いた国際軍事裁判、ニュルンベルグ裁判を元にした作品。

長くて重い3時間の作品ですが、スペンサー・トレイシーをはじめマクシミリアン・シェル、リチャード・ウィドマークらの演技合戦、そしてバート・ランカスターの圧倒的な存在感にただただ引き込まれるばかり。

証人として法廷するジュディ・ガーランドとモンティの演技も本当に素晴らしい。この2人の出演は短いながらも強烈に焼きつくのです。そしてガーランドとモンティ、晩年はアルコールとドラッグの中毒症状に体も心も蝕まれていたという共通点が見えてなんとも言えない気持ちになってしまいます。

本作品でモンティはアカデミー助演男優賞にノミネートされましたが、受賞ならず。

ハリウッドの反逆児

井上義照著『モンゴメリー・クリフト―エリザベス・テーラーの人生を狂わせた男 挽歌への旅路 』(人間の科学新社)の一説にはこう書かれています。

モンティと呼ばれた男、モンゴメリー・クリフトが逝って、今年(二〇一〇年)で四四年、生誕九〇年になる。いまでは、彼のことを思い出す人は、非常に少なくなった。いや、その名前さえ知らない者が、多くなった。それほどに、かつての大スターのキャリアは遠くなってしまった。

モンティのことを忘れてしまった人、名前すら知らない人は確かに存在するでしょう。しかし、映画を通してモンティと出会い、この素敵な俳優さんは誰だろう? と新たに興味を持ってくれる人は少なからず存在するのではないでしょうか。きっとそこに映画がある限り・・・。

そして伝記映画Monty Cliftがどんな風に仕上がるのかこれから注目していきたいですね。

 

※2021年6月9日時点のVOD配信情報です。

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  • yoshi
    4
    https://ameblo.jp/yuuqyu/entry-12798463195.html
  • すず
    4.8
    濱口竜介監督のオールタイムベストから 内容としては親子喧嘩、恋愛、仕事、銃撃戦etc...とてんこ盛りだけど西部劇という枠にはめることでちゃんと一つにまとまっていた。 古臭さも感じるけどテンポ感と展開の面白さで飽きることなく見ることができた。 今で言うMCUとかそう言うジャンルなんだろう。 そりゃ昔の人たちは西部劇やりまくるわ。 画の迫力というのはやはり物語に説得力を持たせてくれると思う。 こんな大自然で大量の牛を使った撮影は今じゃもうできない。 ラストは結構あっさりしていたけど、クスッと笑える昔のアメリカらしいハッピーエンドになっていた。
  • メイデン
    3.7
    壮大なる親子喧嘩の巻 モノクロ 命懸けで牛一万頭を大移動させるお話 牛の大移動は壮観 逃げる牛たちの迫力は圧巻 とにかく画力が凄い 対立に仲間割れ、父と子は敵対関係になり大移動で疲労続きの中先住民とも戦うというてんこ盛りなお話ですが、基本の人間ドラマには事欠かないので面白いです ただ昔の映画あるあるですけどラストのあっさり加減にえっっとなりますがそれで良いのかいと問いたい
  • DAG
    4.3
    またまたスゴイ映画や… 牛さんをゾロゾロと連れてく映画なんで 最初は何度も寝落ちしたが、その後がすごいや。 一万頭の牛さんが暴走するシーンは圧巻。 開いた口が塞がらへんよ。 さぞ撮影は大変だったろうに… 西部劇だが、父と子の対立の構造となっており、 壮大な親子ゲンカ、オヤジVS若者を象徴しているよ。 まあ、やっぱ親父ジョンウェインは強いわけだが、息子メンゴメリークリフトの繊細な演技の対比も面白い。 最後はそれで良いのか!? ショーシャンクの空に並みにラストが爽やか!
  • 茶一郎の記録用
    -
    【3】2023.10.22 鑑賞
赤い河
のレビュー(1334件)