「劇場版名探偵コナン」シリーズの記念すべき20作目を飾った作品が、2016年公開の『名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)』です。アニバーサリー作品らしく、人気レギュラーキャラクターが集まったり、宿敵である黒の組織が本格的に事件に絡んできたりと、既存の劇場版シリーズとは一味違った作品になっています。
今回はそんな『名探偵コナン 純黒の悪夢』をより楽しむ為の見所から、知っているとより楽しめる映画の意外なポイントまで紹介していきます。
映画『名探偵コナン 純黒の悪夢』(2016)あらすじ
警視庁に何者かが侵入。それを察知した公安警察の安室透、そしてFBIの赤井秀一はそれを追いかける。車で逃走する犯人だったが、赤井の銃撃により車は橋から落下。結局、二人は犯人の身柄を確保し損ねてしまう。かろうじて、車から脱出する女性は東都水族館に行き着く。水族館の鮮やかなライトを見た彼女は、頭を抱えて苦しみだす。翌日、逃走劇による爆発事件が話題になる中、江戸川コナンたちはリニューアルオープンを迎えた東都水族館へ来ていた。コナンはそこで記憶を失ったオッドアイの女性と遭遇するのだった……。
※以下、『名探偵コナン 純黒の悪夢』のネタバレを含みます。
映画『名探偵コナン 純黒の悪夢』はシリーズ史上異例の映画?
『名探偵コナン 純黒の悪夢』は、実は「劇場版名探偵コナン」シリーズでもかなり特殊な映画。
前述したように、レギュラーキャラクターの多くが共演することや、宿敵が登場するといった特徴がありますが、それ以上にこれまでのコナン映画と異なり、アクション重視の“アクション映画”となっているのが特徴です。
これまでのシリーズでは、“犯人”という存在が暗躍する推理・ミステリー映画が前提となっていて、その犯人をコナンが突き止めるという内容でした。しかし、本作で犯行を犯すのは黒の組織。犯人が誰かということに物語の比重に重きを置いてないですし、犯人を捕まえてしまってはコナンの物語が終わってしまいます。というわけで、コナンが協力者たちの手を借りて、黒の組織の犯行を食い止めることが主軸になるという、「劇場版名探偵コナン」シリーズのこれまでのフォーマットとは異なる異例の映画となりました。
また、そんなアクション性に特化した特徴から、シリーズでは初めての4DX/MX4D版が上映されています。シリーズ20作目にして、観る映画から体験する映画へとパワーアップが感じられる作品となりました。
キュラソーとは何者だったのか?
そして、シリーズでも異例と言えるフォーマットを実現した仕掛けこそ、『名探偵コナン 純黒の悪夢』のキーパーソンであり、映画のみのゲストキャラクターでもあるキュラソー(声:天海祐希)の存在です。彼女がコナンたちとの出会いによって改心し、その身を挺して人を守ろうとする展開に、これまでのシリーズにはない新鮮なドラマを生むことになりました。
キュラソーは黒の組織のナンバー2とされるラムの腹心であり、組織における幹部クラスの人物です。銀色の長い髪とオッドアイを持っていて、5色のプラカードを用いて膨大な量の情報を記憶できるという特殊な能力を持っていました。
映画では記憶喪失になり、あまりその実力を発揮することはできませんでしたが、追走する安室と赤井の二人を振り切る実力者。冒頭のアクションからも、記憶を失う前はかなり粗暴な性格だったことが分かります。敵に回したらどれだけ厄介だったかを思うと、記憶喪失になったのは不幸中の幸いだったかもしれません。
キュラソーは、映画のクライマックスで記憶を取り戻しましたが、少年探偵団との交流を経て黒の組織を裏切ることを決意。そして暴走する観覧車を止める活躍をみせ、爆発に巻き込まれて死んでしまいました。
実は長きに渡る「名探偵コナン」シリーズの中でも、黒の組織のメンバーは末端の人間ですらなかなか登場しません。そんな中で、幹部クラスのメンバーが登場したのは、非常に珍しいことだと言えます。
正体不明のNo.2ラムとは?
気になるのは黒の組織のNo.2とされるラムの正体。
ラムの存在が明らかになったのは2014年。『名探偵コナン 純黒の悪夢』が公開された当時の2016年には、まだその素性も明らかになっておらず、その正体は謎に包まれていました。そのため、今作ではその姿こそ明らかになっていませんが、ラムが喋っているシーンが流れたり、その存在が顕著に描かれたのはファンにとって衝撃的な内容の一つでした。
2020年に突入した現在もラムの正体は明らかになっておらず、未だ謎のままです。ですがついにラムの可能性が高いキャラクターも絞られてきており、コナンがラムの正体を突き止めるのも時間の問題となってきました。近い将来、ラムの正体が明らかになった後に『名探偵コナン 純黒の悪夢』を観ると、また何か新たな発見があるかもしれません。
“観覧車映画”としての映画『名探偵コナン 純黒の悪夢』
『名探偵コナン 純黒の悪夢』ほど観覧車が活躍する映画も珍しいのではないでしょうか。見慣れない形状のゴンドラは、イギリスに実在する観覧車、ロンドン・アイがモデルとなっています。
観覧車の使い方もコナン映画らしい大胆な使い方で、安室と赤井は骨組みの上という危険な場所で格闘技を披露したり、黒の組織はオスプレイに乗り観覧車を大胆にも射撃したりと盛りだくさんです。そして一番の見せ場と言えるのが、クライマックスの車輪のように回転する観覧車です。もはや“観覧車映画”というジャンルを開拓したのではないかというほど、“観覧車”という舞台が活躍しました。
ジャンル化こそ半分は冗談といえど、実は『名探偵コナン 純黒の悪夢』と同時期に、観覧車を車輪のように走らせる映画は他にも登場していました。
3DCGアニメーションと実写映像を組み合わせた『スマーフ2 アイドル救出大作戦!』(2013)では、魔法によりパリの街を観覧車が滑走する場面が登場。CGが用いられているとはいえ、実際の街を走る観覧車のインパクトは大きいです。また、アニメ映画『ガールズ&パンツァー 劇場版』(2015)では、観覧車を車輪のように走らせて敵の戦車を襲撃する、という場面が登場。公開時期も近いので『名探偵コナン 純黒の悪夢』を観て、この映画を連想した人も多いようです。上映当時は密かに観覧車映画ブームが到来していたのかもしれません。
風見裕也の記念すべき初登場作品
『名探偵コナン 純黒の悪夢』が多くのレギュラーキャラクターが一同に集う作品だった一方で、本作はあるキャラクターの初登場の場にもなっています。それが、公安部所属の風見裕也。行動の制限が多い安室を支える有力な協力者の一人です。近年登場の場も多い風見は、実はもともと原作漫画やTVアニメには登場していないキャラクターで、この『名探偵コナン 純黒の悪夢』で初登場となりました。
今作の登場以降、原作漫画や『名探偵コナン ゼロの執行人』(2018)などに登場するようになり、現在ではグッズのラインナップに登場するほどの人気キャラクターとなりました。「名探偵コナン」シリーズでは、白鳥警部や綾小路警部など劇場版での登場を発端に活躍の幅を広げたキャラクターは多いのですが、その中でも近年の活躍の著しさから風見の台頭は快挙と言えます。
シリーズの中でも異質な作品だからこそ、『名探偵コナン 純黒の悪夢』はこれまでの「劇場版名探偵コナン」シリーズとは違った切り口でも楽しめるシリーズ屈指のエンターテイメント作品。他の劇場版にピンと来なかったという人が居たら、もしかすると本作なら気に入るかもしれませんよ。
(C)2016 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
※2023年9月22日時点の情報です。