【考察】映画『シン・ゴジラ』に込められた“シンの意味”を解き明かす!

Why So Serious ?

侍功夫

2016年7月29日から『シン・ゴジラ』の上映が始まりました。

エヴァンゲリヲンシリーズの庵野秀明が総監督と脚本を、進撃の巨人 ATTACK ON TITAN樋口真嗣が監督と特技監督を担当しています。現在の日本の“オタク文化”の礎を築いたと言っても過言では無い2人の共同作業によって、2004年のゴジラ FINAL WARS以来12年ぶりの日本製ゴジラ映画が、ついに! ようやく! 登場したのです!

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この『シン・ゴジラ』がどんな背景を持った作品なのか? また、どんな想いが込められているのかを、7月28日深夜0時からTOHOシネマ新宿にて開催された最速上映で鑑賞した筆者が考察していこうと思います。

ちなみにこの「最速上映」には日本のみならず、海外からも審美眼ならぬ“審ゴジラ眼”の肥えた多くのゴジラファンたちで埋め尽くされて、場内ほぼ満席! 上映終了後には終電を逃した満席の観客全員から賞賛の拍手が湧き上がりました!

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「シン」って何だ?

久しぶりの日本発のゴジラですが、タイトルが『シン・ゴジラ』と、非常に特徴的なものになっています。

1954年の最初の『ゴジラ』以降、「昭和ゴジラ」から「平成ゴジラ」、「ミレニアム・ゴジラ」と、2度のテコ入れがされました。「平成ゴジラ」は「1954年に一度、巨大な怪獣“ゴジラ”が襲来した。」という設定を持っていますし、「ミレニアム・ゴジラ」は「平成ゴジラ」と地続きに物語が構成されています。

しかし、この最新作『シン・ゴジラ』は過去のどのゴジラ作品とも繋がりは無く、「未だかつて巨大な怪獣が人々を襲うなどという事態が起こったことの無い世界」にゴジラが登場するという「新しいゴジラ」作品になっています。つまり「新ゴジラ」なワケです。

また、おそらく、庵野監督が好きだった特撮番組「帰ってきたウルトラマン」への目配せの意味もあるでしょう。今では「ウルトラマン・ジャック」というバタ臭い名前がついていますが、かつては「新しい方のウルトラマン」として「新マン」と呼ばれていたのです。

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おたくが生む文化“ファンダム”

アニメ「機動戦士ガンダム」作品世界では、高度なテクノロジーを持ちながら、戦争となるとロボット同士の白兵戦(しかもサーベルや斧を使用する)という原始的なものになります。

これには明確な理由があります。レーダーによる追尾を困難にするために「ミノフスキー粒子」という物質が全域に散布され、戦闘は目視で確認できる範囲に限定されている、というものです。

ロボット同士の戦いを正当化するための方便ですが、優れた設定だと言えるでしょう。ただ、その一方で巨大な空母が大気圏内でプカプカと浮いている描写もあり、全てにおいてSF的にすら説明が出来ていたワケではありません。

そこで「ミノフスキー粒子には磁石のような性質があって、それを制御して物を浮かせることが出来る」という設定が後付けで加えられました。この設定はファンの二次創作から生まれたという話があります。

「スター・ウォーズ」シリーズや「スター・トレック」シリーズなどでも、ファンによって創られた微に入り細を穿つ設定が本家に影響を与えることがあります。こういった文化は「ファンダム」と呼ばれています。

過去作品でのゴジラは「氷漬けになっていた恐竜が水爆実験で溶け出され、蘇生し、放射能により奇形的に巨大化した」という設定を持っていましたが、今の時代では現実味の無いファンタジー的な設定です。

そこで、ゴジラの熱狂的なファンでもある庵野/樋口両監督が「もしも、100メートルを超える巨体で、背びれを持ち、2足歩行し、口から放射熱線を吐く怪獣がいたとしたら、それはどんな生物なのか?」について、ファンダム的に再構築しています。それが『シン・ゴジラ』に登場するゴジラなのです。

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日本のいちばん長い日

ファンダム的に再構築されたのは生物としてのゴジラの設定だけではありません。本作では、もしも日本の首都東京に巨大な怪獣“ゴジラ”が現れたら、現実的に政府や各国はどんな対応をするか? が、描かれます。ある種の政治的なシミュレーションになっているのです。

今までのゴジラ作品でも国会が紛糾したり、自衛隊作戦室での会議といった描写はありましたが、基本的にはゴジラが大暴れする様子がメインに据えられ、その脇を美男美女が右往左往する様子が、ファンタジックに描かれていました。

『シン・ゴジラ』では、ゴジラの出現に伴い、まずは総理大臣を含めた関係閣僚が召集されて形ばかりの決起会的な会議があり、各省庁で収集された情報を議題にあげる会議があり、対策本部設置の会議され、出来た対策本部でまた会議があり、それが終わると今度は隣国やアメリカとの政治的な駆け引きがあり……と、靴の上から足を掻くようなもどかしい「民主主義的」会議とキナ臭い政治的駆け引きの描写が続くのです。

実はこの「会議と駆け引き」が続く様子には、元ネタがあります。

『シン・ゴジラ』の劇中に、ゴジラの生態について重要なカギを握る行方不明の科学者が写真のみで登場します。この写真に写っているのは、60年代以降の日本映画界を支え、数々の名作を世に送り出した、故・岡本喜八監督なのです。

その岡本監督の代表作に日本のいちばん長い日があります。第二次世界大戦終盤、すでに広島、長崎に原子力爆弾を投下され、軍隊も消耗しきった1945年の8月14日。閣僚による御前会議と、未遂に終わったクーデター「宮城事件」、そして翌日の玉音放送までの1日が描かれます。

この作品では、内閣閣僚に官僚、陸海空軍上層部など大量の登場人物によって行われる会議につぐ会議が行われるのです。『シン・ゴジラ』で繰り返される緊迫感溢れる会議は、この『日本のいちばん長い日』へのオマージュになっています。

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会議+大怪獣=超おもしろい!

「え~~! 会議ばっかりなの? 退屈じゃない?」と不安になる人もいるかもしれません。が、この会議がめっぽう面白いのです。

序盤。正体不明の原因で東京湾アクアラインに亀裂が入り浸水事故が起き、同時に事故現場付近の海水が沸騰しモクモクと水蒸気煙を立ち上げるのが発見されます。大方の予想は海底火山の噴火か、火山活動による海水の沸騰だとされるのですが、矢口内閣官房副長官は巨大な生物の可能性を示唆します。

会議ではその可能性は無碍にされるのですが、次の瞬間巨大な尻尾が登場し、矢口の説が証明されます。そこで、大学研究室から動物や海洋生物の権威が呼び寄せられるのですが「今の段階では何も言えない!」とこれまた無碍にされ、とはいえ生物ならこれだけ巨大だと自重を支えきれないから上陸は無いと断言され、総理大臣による「生物の上陸はありえない」との記者会見発表中に、謎の怪物が多摩川を遡り、蒲田から東京方面へ上陸してしまうのです。

ここまでが映画が始まって10分ほどの出来事です。

様々な設定の登場人物たちが、壮絶な情報量を猛スピードでまくしたて、その一方でゴジラが大暴れします。ほぼ全編に渡ってダレ場は無く、緊張感溢れる会議の重なりにゴジラの大破壊が合いの手を入れる構成になっています。

また、瞳に生気や意思を感じさせない狂気溢れるゴジラの禍々しい造詣や、特撮の見栄えどころを押さえたキメキメ演出は樋口監督の本領発揮といったところでしょう。

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新しいゴジラが今作られたワケ

『シン・ゴジラ』で描かれるのは実際に日本が、ごく最近体験した出来事が元になっています。

2011年3月11日。東日本大震災と、それに伴う東京電力福島原子力発電所の事故です。あの当時、内閣閣僚と関係省庁、東京電力幹部と現場の指揮者による昼夜を問わない会議につぐ会議が行われました。

伏魔殿な体質から古い情報を上げたりウソの報告をする電力会社に、そのウソがバレてキレる総理大臣。加えて相次ぐ余震で遅々として進まない被災者救護や行方不明者の捜索。白煙を上げ近づくことすらままならない原子炉……。

そもそも「核の脅威」を纏った設定を持つゴジラをいま作るならば、明るみになったあの時の「会議につぐ会議」の様子を作品に取りいれるというのは、心ある創作者にとっては避けては通れぬ矜持だったのでしょう。

しかし、あの「311」以来、日本は少しずつおかしな方向へ舵を切り続けています。本当ならあの未曾有の惨事を期に、より良い国へと変貌出来たかもしれません。しかし、実際はより腐敗し、よりアホでマヌケな方向へ進み、今では何故か積極的に他国間の戦争に参加できる国へ変貌しようとしています。

「違くない? おかしくない? 自衛隊の武力行使は対怪獣だけにしない?」

『シン・ゴジラ』が描いているのは“取れたかもしれない正しい態度”なのかもしれません。そんな映画をこの夏に、劇場で鑑賞すること自体に、意味があると思います。

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(C)2016 TOHO CO.,LTD.
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  • 3.5
    テンポ早くて見やすかった! 何言ってるか分かんないけど政府たち頑張ってるな
  • はる
    3.6
    生物を超えた、神のような存在で描かれたゴジラは圧巻だった 「でかい」「怖い」「圧倒的」「絶望」みたいな雰囲気を描く力はさすがだなと思った その映像だけでも見る価値がある ただ人物のセリフが状況説明にしかなっていなくて、感情移入しにくい 途中エヴァやんけって思う瞬間が何度もあった
  • ninja
    3.8
    エヴァ感強めのゴジラ、第1形態キモすぎ
  • ショータ
    3.6
    第1形態のキモさよ
  • kei
    3.5
    自衛隊の作りが完璧すぎて国家機密が漏れないように、国が監視してたみたいな噂のある作品。 喋り口調が早くて理解が追いつかない。
シン・ゴジラ
のレビュー(215519件)