2012年に劇場公開された『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』。本作は2021年には2K解像度での再撮影や、映像の編集を加えた『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q EVANGELION:3.333 YOU CAN (NOT) REDO.』が上映されるなど、公開以来多くのアップデートを経ている映画です。今回はそんな作品の中でも、広く観られることが多いであろう『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』TV版をベースに多くの人が抱くであろう疑問について、追求していきます。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(2012)のあらすじ
地球の衛星軌道上に、アスカとマリは居た。第10の使徒との戦いを経て、NERV(ネルフ)の手によって地球の衛星軌道上に封印された状態にあったシンジ、そして初号期を奪還するために。戦いの中で、先行してマリが離脱してしまい、窮地に陥るアスカだったが、シンジのことを叫んだその瞬間、目覚めた初号機によって救われることになる。こうしてアスカ達と共にシンジと共に封印されたEVA初号機は地球に戻ってくるのだった。
ついに回収されたシンジは目を覚ます。そこは新組織Wille(ヴィレ)の戦艦ヴンダーの中だった。状況が掴めないシンジだったが、ミサトたちと再会したのち、前回の戦いからすでに14年の時が経過し、状況が一変してい流という事実を伝えられるのだった……。
※以下、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』のネタバレを含みます。
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q TV版 』とはどんな作品なのか?
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q TV版』は他の作品同様、放送時間や演出の制限などに合わせて、色彩などの再調整がされたバージョンになっています。
最初に放送された2014年には、当時同時上映となった『巨神兵東京に現わる』も一緒に放送されるという嬉しいサービスもあったのですが、ピアノの演奏シーンなどストーリーに違和感がない程度に一部のシーンがカットされていたりと縮小版となっていました。
また、宇多田ヒカルの「桜流し」が印象的な、エンドロールがカットされているのも意外と大きな違い。一度はTV版を観た人も、Blu-rayやデジタル配信などでもう一度『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』を観ると、TV版を観た時とは違った印象が得られるかもしれません。
TVアニメシリーズにはなかった世界へ
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』はついに新劇場版シリーズが今までに体験したことのない新展開へと本格的に突入した作品です。
これまでの新劇場版シリーズは、TVアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』のストーリーにある程度沿った内容となっていました。しかし前作、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の最後で迎えた第10の使徒との戦いで、綾波レイが使徒に捕食され、シンジがそれを決死の思いで救い、それによりサードインパクトが発生するというTVアニメシリーズを観ていた人も体験したことのない展開へと突入しました。
その結果、物語の舞台も一気に時間が経過し、前作から14年後にシンジはやってきます。14年後だというのに、シンジは歳をとっていませんが、実はそれはアスカやマリなどEVAシリーズの乗組員に共通していることが明らかになります。アスカがこれを“エヴァの呪縛”と表現している通り、EVAのパイロットになると老いることがなくなるようです。TVアニメシリーズでは、14年もの年を経過する展開がなかっただけに、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』で判明した新事実となりました。
冒頭の宇宙空間での戦いはなんだったのか?
そんなアスカとマリの戦いで『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』は幕を開けます。初見では一体二人は何と戦っていて、何をしようとしているのかわかりませんが、のちにこれが宇宙空間で封印されているEVA初号機、そしてシンジの奪還であったことが分かります。作中でこの任務には「US作戦」という名前が付いています。
そもそもなぜシンジが宇宙空間に封印されていたのかですが、前作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の最後のシーンでおおよその見当がつきます。サードインパクトを引き起こしてしまったシンジは、映画の最後で渚カヲルの手によって、それを止められます。完全にサードインパクトを起こしきるには至らなかったものの、危険な存在である初号機そしてその中に居たシンジは世界を滅ぼしかねない危険な存在であり、地球外へと出されてしまったのでしょう。ただし、ゲンドウを始めとしたNERVにとってはシンジは人類補完計画の大事なコマ。地球外でありながらも手の届く範囲である衛星軌道上に置いておくのはおかしくない話でしょう。
その証拠に、アスカとマリはただの奪還任務でありながら、戦闘を強いられます。封印されたEVA初号機の警備のために配備されたと思われる兵器の登場です。実はこのマシンはEvangelionMark.04。封印されていた初号機がNERVの管轄にあったことが分かります。
そんなNERVサイドに苦戦を強いられるアスカたちでしたが、アスカの声に反応したかのように初号機がEvangelionMark.04を撃退。成層圏へと落ちていき、物語が進み出します。
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新組織WILLE(ヴィレ)とは何か?
シンジが目覚めて最初に保護される組織が、WILLE(ヴィレ)です。かつてはNERVに所属していた葛城ミサトや赤木リツコといった面々や、アスカやマリらEVAの搭乗者、さらには今作から登場したまだ組織に慣れておらず、つい最近まで民間人をしていたと思われるメンバーで構成されています。サードインパクトを経た地球上には、インフラ整備もままならい荒廃した世界となっています。資源も見当たらないこの世界で生き残ったとしても、NERVやWilleなどの組織に加わらなければ、生活もままならないであろうことは想像できます。
そんな14年前には存在していなかったこのWilleですが、なんと対立している相手がなんとNERVであり、その目的がNERVの壊滅であるとミサトの口から明言されています。
対立までの経緯は明かされていなくても、反旗を翻した理由はおおよそ見当がつきます。かつては襲いかかる使徒の対抗組織として働いていたミサト達ですが、実はその上層部ではNERVそしてSEELE(ゼーレ)により人類補完計画が進められていました。サードインパクトをきっかけに、その思惑が明るみになり、その計画を知ったミサトたちが反抗したという見方ができそうです。
謎の巨大戦艦AAAヴンダーの正体は?
そんなWilleのメンバーが乗っている巨大な戦艦が、エヴァンゲリオンシリーズでも今回が初登場となる巨大戦艦・AAAヴンダーです。作中ではそのままヴンダーと呼ばれています。
大きく広げた手の平にも似た翼を持ち、中央には肋骨のような芯のようなものを持っています。一見すると、巨大な生き物の骨のような特徴的な外観を持っています。そしてその動力源が、冒頭のUS作戦で手に入れたEVA初号機とされています。
この戦艦の情報も多くは語られていません。ですがリツコが意味深なセリフを吐いています。
これが神殺しの力。ヴンダー、まさに希望の船ね…
神殺しの力というのが、どういった意味を含んだ異名なのかは気になるところですが、ただの戦艦ではないことは明らかです。また作中後半で登場するセリフも意味深です。
アダムスの器はヴンダー本来の主!初号機から本艦の制御を奪い返すつもりだ!
アダムスとは、使徒を生み出したとされる存在であり、その器と呼ばれているのが、綾波レイらしき少女アヤナミレイの乗るエヴァンゲリオンMark.09。かつてはヴンダーの主機として利用されていたことを示唆しています。ヴンダーは元からWILLEの機体だったというよりも、NERVが所有していたものと考えた方が良さそうです。
また、わざわざ“主”という表現を使うところも生物的。アダムスに準じた存在とするのであればヴンダーは使徒のような存在にも受け取れます。
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カヲルの思惑とフォースインパクト
結局はNERVに保護されることになるシンジは、そこで自分をきっかけに世界が崩壊していることを知ります。そんなシンジに手を差し伸べるのが渚カヲルです。NERVに所属しているようですが、後の冬月のセリフで「ゼーレの少年」と称しているので、厳密にはSEELE側の人間のようです。
落ち込むシンジに対して、カヲルはNERV本部の地下に残された二本の槍を手に入れようと持ちかけます。
それが補完計画発動のキーとなっている。僕らでその槍を手にすればいい。そうすればネルフもフォースインパクトを起こせなくなるし、第13号機とセットで使えば、世界の修復も可能だ。
カヲルの発言から分かることに、NERVはその槍があればフォースインパクトを起こせること。そしてその槍とエヴァンゲリオン第13号機があれば世界を修復できることが明らかになります。
シンジにとって未知の力を秘めているロンギヌスとカシウスと呼ばれるこの二つの槍。カヲルの言葉に希望を持ち、シンジはついにエヴァンゲリオン第13号機に乗り、槍を手にしようとするのですが、ここでそれまで余裕そうにしていたカヲルの様子がおかしくなります。
おかしい、二本とも形状が変化して揃っている。
実はロンギヌスとカシウスの二本のうち、カシウスの槍と呼ばれる方の槍がなく、どちらもロンギヌスの槍の形状をしていることが明らかになります。
これはおそらくゲンドウの仕業であることが明らかになります。
始まりと終わりは同じというわけか。さすがリリンの王。シンジ君の父上だ。
リリンとは人類のこと。カヲルが人類でないかのような発言や、ゲンドウのことを人類の王と表現しているところがまた意味深ですが、不覚にもロンギヌスのみを手にした二人はフォースインパクトを引き起こして、さらに世界を壊滅へと導いてしまいます。
ゲンドウの目的とは?物語は“シン”へ続く
結局、アスカやマリの奮闘、そしてカヲルの死によってフォースインパクトは途中で止まることとなります。マリのおかげでエヴァンゲリオン第13号機から脱出したシンジは、アスカに手を引かれるところで映画は次回作へと続いていきます。
シンジにとってはもちろんカヲルにとっても予想だにしない結末を思わせますが、これらの顛末をあらかじめ知っていたと思われる人物が複数居ます。冬月、そしてゲンドウです。
「ひどい有様だな。ほとんどがゼーレの目論見通りだ。」
「だが、ゼーレの少年を排除し、第13号機も覚醒へと導いた。葛城大佐の動きも計算内だ。今はこれでいい。」
冬月とゲンドウのこの会話から、ここまでの事態はSEELEの思惑であったこと、そしてゲンドウにとってもそれは折り込み済みだったこと。そして「今はこれでいい」という発言から、まだゲンドウにとってはこれから何かが起こることを想定していることが明らかになります。果たしてゲンドウはどんな先を想定しているのか。それが次回作『シン・エヴァンゲリオン劇場版』で描かれるのではないでしょうか。
14年という時が経っても、未だゲンドウの手の上で踊らされている状態のシンジ。果たしてこれにカウンターを喰らわせられるような事態が起こるのかに注目していきたいところです。
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※2021年1月29日時点の情報です。