名探偵コナンの劇場版シリーズ第3弾『名探偵コナン 世紀末の魔術師』はタイトルの通り、1999年の世紀末のまっただ中に公開された映画です。
名探偵コナンの劇場版シリーズでは実際の歴史をベースにした作品もいくつか登場しているのですが、そんなストーリーに初めて挑んだのがこの映画でした。
シリーズ初期の作品であるが故の意外な“初めて”であったり、最新の研究の結果、嘘になってしまった内容など、今現在本作をなぞってみるとより面白く観られる要素が詰まっているので、今回はそんな『名探偵コナン 世紀末の魔術師』の見所をネタバレありで解説していきます。
『名探偵コナン世紀末の魔術師』(1999)のあらすじ
鈴木財閥の蔵から発見されたロマノフ王朝の遺産とされる“インペリアル・イースター・エッグ”。それを奪いにやってくるという予告状が怪盗キッドから届くという事件が発生。会長である鈴木史郎は、警察たちの他にも毛利小五郎にも、護衛を依頼するのだった。
エッグが展示される大阪へと向かった小五郎に同行するコナンと蘭は、そこで平次と和葉に合流する。共にエッグの護衛をすることになるが、コナンはなぜキッドがエッグを狙うのか疑問に思っていた。そんな矢先、ついに怪盗キッドが動き出す……。
※以下より、『名探偵コナン 世紀末の魔術師』のネタバレを含みます。
レギュラーキャラクター総出演の豪華な映画!
名探偵コナンの劇場版シリーズにおいても、『名探偵コナン 世紀末の魔術師』は、多くの人気キャラクターが初登場となる記念すべき劇場版です。
予告編やポスターの時点で目立った活躍を予感させる怪盗キッドの劇場版シリーズへの登場は今作が初めてです。今作が初登場となるキャラクターはそれだけではありません、コナンのライバルでもある西の名探偵・服部平次と、その幼馴染である遠山和葉。コナンと同じく体が小さくなってしまう薬・アポトキシン4869を飲んだ灰原哀といった、今ではおなじみの準レギュラーキャラクターたちがこの映画で初めて登場しています。
なぜ劇場版第3弾に至るまで登場に間が空いてしまったかと言えば、今では当たり前の存在として活躍する彼らも、それまで本編には未登場だったから。TVアニメシリーズに登場したのは、1997年に服部平次と怪盗キッドが、1998年に遠山和葉、そして1999年に灰原哀がそれぞれ初登場となり、劇場版への出演がこのタイミングとなりました。
今まで劇場版に登場してこなかったキャラクターたちが初めて一堂に会する機会ということで、それだけでも本作がどれだけ特別な企画だったのかが分かるのではないでしょうか。
ちなみに劇場版シリーズで今ではおなじみとなっている阿笠博士のなぞなぞコーナーもこの映画が初登場。『名探偵コナン 世紀末の魔術師』は意外な“初めて”が詰まった映画でした。
インペリアル・イースター・エッグは実在する?
『名探偵コナン 世紀末の魔術師』を印象的にしているアイテムが、インペリアル・イースター・エッグ。複数種存在するエッグの中でもメモリーズ・エッグと呼ばれる51個目のエッグが物語の鍵となっていました。一見、架空のものと思われるかもしれませんが、実はこのインペリアル・イースター・エッグ自体は実際に存在します。
19世紀の後半に、ロシアの皇帝の依頼によりピーター・カール・ファベルジェという金細工師が制作したものがインペリアル・イースター・エッグ。精巧に作られている上に、仕掛けが組み込まれていたりと、その造形が支持され、皇室直々の金細工師となったファベルジェは、毎年のようにエッグの製作を受けることになります。このエッグは、皇帝が変わっても製作が続けられることになるのですが、最終的にその数が50個つくられたとされています。
『名探偵コナン 世紀末の魔術師』はそんな50個のエッグに、実は隠された51個目があったとしたら……というアイディアから物語が紡がれていきます。残念ながら映画に登場するメモリーズ・エッグは存在しませんが、もしかすると将来本当に51個目が見つかる、なんてこともあり得ない話ではないかもしれません。
ラスプーチンとは一体何者なのか?
ロシアが鍵となる物語の『名探偵コナン 世紀末の魔術師』ですが、その他にも実在のロシアの歴史とつながりのある要素が盛り込まれています。それが、グレゴリー・ラスプーチンの存在です。
今回の連続殺人事件の犯人である国際指名手配犯であるスコーピオンの正体、浦思青蘭は実はラスプーチンの子孫であったことが映画のクライマックスで明らかになります。
このグレゴリー・ラスプーチンは実在の人物。1869年に生まれ、農民の出身でありながら、神秘的な力を持っていると、皇帝に気に入られ、ついにはロマノフ王朝の影の支配者として影響力を持つほどの人物となりました。
浦思青蘭はラスプーチンに傾倒するあまり、ロマノフ王朝の財宝は、ラスプーチンのものであると考え、今回のメモリーズ・エッグも手に入れようとしたことが明らかになります。
浦思青蘭という人物はもちろんこの映画だけの架空の人物なのですが、実際にラスプーチンの子孫は存在しているので、なかなか際どいキャラクター設定ですよね。
横須賀にノイシュヴァンシュタイン城!?
『名探偵コナン 世紀末の魔術師』の中の架空の人物といえば、ロマノフ王朝時代にピーター・カール・ファベルジェの工房で働いていたとされる香坂喜市という人物も、ファベルジェこそ存在していますが、こちらは存在しない人物。
インペリアル・イースター・エッグの当初の所有者である香坂夏美の曾祖父にあたり、実はタイトルの“世紀末の魔術師”も彼のからくり人形が評価された際についた異名のことでもありました。
香坂喜市のすごいところは、横須賀にドイツ風のお城を建てているということ。それが映画の後半の舞台となるお城なわけですが、もちろんこのお城は実在しません。
ただ、実はモデルとなるお城は存在します。それがドイツに存在するノイシュヴァンシュタイン城。1869年に第4代バイエルン王ルードヴィヒ2世によって着工された城で、中世の思想や芸術に憧れを持っていたことがそのまま反映されたかのような美しいデザインで人気の高いお城です。アメリカ・カリフォルニア州アナハイムにあるディズニーランドの「眠れる森の美女」の城のモデルにもなったとされるお城です。
後年に“間違い”であることが明らかになったマリア皇女の行方
このように多くの実在の人物や建造物をストーリーに取り込んだ内容が面白いのですが、中には、公開後に新たな歴史的な発見があり、映画の内容と齟齬が生まれるなんてことも発生しています。
それが、香坂喜市と共に日本へ亡命したと作中では描かれている、夏美の曾祖母であるニコライ2世の第三皇女・マリアです。ロシア革命時にニコライ2世の家族は全員殺されたとされていたものの、皇太子アレクセイと皇女マリアの遺体が見つかっていないことから、実は生き延びていたのではないかという説が存在していました。
しかし、2007年にそれは覆されます。ロシアのウラル地方にて二人のものと思われる遺体が発見されるのです。専門家らの研究などから、遺骨が本人たちの物であることが正式に発表されることになります。
『名探偵コナン 世紀末の魔術師』では、皇女マリアの遺体は亡命先である横須賀のお城に埋葬されているという展開でしたが、映画の公開から数年後、現実で本当の遺体の在処がロシアにあることが判明し、映画の設定と齟齬が生まれてしまいました。
それまでいろんな想像をめぐらせることができた謎に対して、決定的な答えが見つかってしまうのは少し寂しく思いますが、謎に包まれていたものも、手がかりを掴んでいけば、いつか真実にたどり着けると思うと、それはそれでコナン的。
今観てしまうと、明らかな“嘘”となってしまう内容ですが、当時は不明だったことを知っていると、世の中への探求を深めたくなるような一つのフックとして受け取ることができるのではないでしょうか。
真実と虚構が入り混じった名探偵コナンシリーズだからこそ、作中に登場する人物を掘り下げてみると、意外と映画の中だけでなく現実への繋がりが見つかったりします。美術や歴史など、教養を深めるきっかけにも、名探偵コナンの劇場版シリーズを見返してみるのも良いかもしれないですね。
※2021年3月19日時点の情報です。