「茨城」×「お茶の間スタイル」が生むリアルだけどフィクションな映画《取材》

箱田さんアイキャッチ

第一線で活躍するCM・映像ディレクターが描く「しょうもない人と時間を、愛せる映画」とは!?

新しい映像クリエイターの発掘と育成を目的に、コンペティションを勝ち抜いた映像企画をTSUTAYAが全面的にバックアップし、制作からレンタル・販売までを総合支援する「TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM 2016」(以下、TCP)。

本コンペにおいて、『ブルーアワー(仮)』で審査員特別賞を受賞した箱田優子さんを取材。地元・茨城県での体験をもとに描かれる、リアルとフィクションの間の物語に迫る。

箱田優子監督『ブルーアワー(仮)』ってどんな企画?

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人生の夜明けなのか日暮れなのか、どちらともつかない時間を過ごす主人公の妙齢女。嫌いな田舎に帰省するも、家族ともすれ違い、埋められない溝を確信し、結果やっぱ田舎嫌いだわーって思うという、みみっちい話を、実話に基づき、しけた田舎で面白おかしく美しく切り取ります。(『ブルーアワー(仮)』企画資料より)

「自分が生まれ育った街なのに嫌い」なのはなぜ?

−『ブルーアワー(仮)』は「実話に基づく」ということですが、箱田さんご自身はどんなエピソードをお持ちなのでしょうか?

私は茨城県出身なんですが、親と一緒に住んでいた時間がすごく少ないんです。田舎ならではのしきたりでいろいろあって、家族と離れて、大きな家に祖母とふたりで暮らすことになったんです。その茨城での二人暮らしが小学校から高校卒業までずっと。

−それは特殊な経験ですね。

実家に帰ると、家族なのに「どうも、元気です」みたいな妙にあらたまったような、不思議な距離感があります(笑) でも仲がわるいわけではないんです。それが私にとっての「家族」なんですね。なので、友だちのうちに遊びに行って当たり前のように家族揃ってごはんを食べていることに「スゴイな!」と驚いたり(笑)

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−箱田さんならではの感覚ですね(笑)

ちょっとしたことがすごく新鮮で、面白いなと思う感覚があります。身近にあるフツウであったり、一見地味なフツウの人たちに興味が向きます。

友だちや仕事仲間と話していても、「家族なのに一緒に居づらい」とか「自分が生まれ育った街なのに実は嫌い」とか(笑) そういうテーマって、意外とみんな何かしら持っていたりしますよね。その理由が何なのかも考えてみたいし、そんな“フツウ”が、自分だけが描けるものかもしれないと思っていて、それをカタチにしたいなと。

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−その“フツウ”は、ちょっと人には隠しておきたいようなネガティブな部分ですね。

そうですね。でも、それって哀しいだけじゃなくて、ちょっとヘンで笑えたりするんですよね。それを踏まえて『ブルーアワー(仮)』は、劇的な物語や展開がある悲劇喜劇でワイワイするより、自分のことに置き換えて見られるような作品にできればと思っています。

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▼TCPプレゼンリハーサルでの一コマ

クリエイターのエゴではなく「お茶の間スタイル」で

−映像ディレクターとして数々のCMを手がけていらっしゃいますが、今回初めて映画制作を手がけるにあたって、どんなことを心がけたいですか?

いいモノであれば、映画であれCMであれPVであれ一緒だろうという気持ちがあります。私がCMをつくる時には、このCMを誰が見ているのか、見た人はどう感じるのかということを一番に考えます。家でご飯を食べながらこのCMを見たら、どう思うのかと。

プロフィール資料にも「表現したい、という気持ちよりも、いち観客としての想いが強い自分としては、本当に観たいものを形にできるのではないかと、(TCPに)希望を持てました」とありますね。

CM制作を仕事にしているので、他のCMを見ると色々と分かることがあるんです。顔見知りのスタッフが制作に参加していて何となく内情を知っていて、こういう企画だったけど色んな事情でこういうCMになったんだろうなとか。それは分かるんですけど…、ひとりの視聴者としたらそんな事情や背景なんて全部関係ないなぁって(笑)

クリエイターのエゴではなくて、できる限り私はお茶の間視点でCMをつくっているし、映画もそのスタイルで撮りたい。映画で言えば、劇場の観客席スタイルですかね(笑)

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▼TCPプレゼン本番直前の舞台袖で出番を待つ箱田さん

−本作はやはり茨城県で撮る予定ですか?

そこは悩ましいところで…、『ブルーアワー(仮)』は、茨城という土地とそこでの体験をベースにしたお話ですが、それは、目立った観光地があるわけでもない中途半端な田舎を舞台にちょっと卑屈な人が出てくるっていう(笑) そういう、いい意味でしみったれた感じに面白さがあると思っているんです。

それと、今回の作品では、出演者がつらくなる状況を脚本の中に入れていきたいなと思っていて。

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−出演者がつらくなる、ですか!?

例えば、本作の主演をやっていただく女優さんが、その昔、生まれ育った地方でアイドルをやっていたけど、当時は全然売れなかったという過去を持っているとします。

−それは映画の中の設定ではなくて、現実に?

そうです現実に。あくまで例え話ですが。主演の女優さんは現実に売れなかった時代があって、有名になった今はその過去について触れてくれるなという思いを抱えている。だけど、『ブルーアワー(仮)』の脚本の中に、なぜかその不遇の時代に触れる内容が入っている、みたいな。出演者自身が、自分の過去やキャリアに向き合う仕掛けが脚本の中にあるといいなと考えています。

−演じる方はかなりエグられますね(笑)

エグられます(笑) ただ、エグっていくことで生まれる面白さがあると思っています。

−箱田さんが過去に手がけたTVCMにも近いものを感じます。

「この映画って半分フィクションだけど、半分ドキュメンタリーだよね」みたいな味わいのある作品がいいなと。うまく役を演じられるよりも、そのキャストがそのシチュエーションの中でいつもと違うところが出てしまっている、そういう感情の揺らぎが描けると面白い。

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−キャスティングも大事なポイントになりますね。

地元や自分の過去にコンプレックスがある人をキャスティングするところから、この作品は色々と決まっていくのかなという気がしています。ひとまず、東京生まれ東京育ちの人はないかなと(笑) 茨城で撮れたらいいなとは思いますが、茨城じゃなくてもきっと成立するし、舞台が変わっても話の流れは変わらないと思います。

−主演女優については、審査員の女優・鈴木京香さんとのやりとりもありましたね。

女優さんの素の部分に触れる演出について、お話を聞くことができてとても勉強になりました。

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−リアルなコンプレックスに触れつつも、仕上げは笑えるように?

そうですね。『6才のボクが、大人になるまで。』って映画がありましたよね。あの映画は簡単に言ってしまえば「6才の子どもが大人になるまでの記録」だけど、毎年出演者が集まって撮って、その年月をリアルに追っていく。そこに面白味がある。

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例えば、あの映画の中でいうと、キャスト本人は当時撮って欲しくなかったであろう10代の頃のダサい時代が “映っちゃっている感じ”。それが、やっぱり面白いなと。この映画を各世代でベストキャスティング、ベストアクトで撮っても意味がない。リアルとフィクションが絶妙に混ざり合っている映画が面白いですよね。

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−箱田さん、ありがとうございました。完成を楽しみにしています!

(取材・文:斉藤聖/撮影:柏木雄介)

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■TSUTAYA CREATORS’ PROGRAM公式サイト
http://top.tsite.jp/special/tcp/

(C)2014 boyhood inc./ifc productions i, L.L.c. aLL rights reserved.

※2022年7月30日時点のVOD配信情報です。

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  • さー
    3.7
    内容自体は面白い❕とは言えないけど 大人になるのって一瞬で、人生山あり谷あり辛いこともあるけど時間が経てば人間関係も修復できるんやな〜、と☁️ 自分の人生を振り返って、、今後の生き方も考えさせられた 人生の決断に家族が沢山アドバイスしてくれるからこそ自分が納得いく決断をしていかなやんね👌 母親が自立しなさい!って言う反面、実際に家を出ていくってなると寂しかったり子離れしたくない自分がいたりするんかな?って思った 私は主人公の立場しか経験したことないけん10年後、20年後とかに再鑑賞したいな〜!
  • you
    -
    まず12年かけて作られた映画の存在を全然知らなかった。しかもそれは大好きなビフォアシリーズの監督作品だということも。 じんわり優しい気持ちで終わった。 私はこういう誰でもないそこらへんのひとのドラマが好き。それぞれの人生がドラマなんだわなぁと思うのが好き。モダンラブしかり イーサンホークが演じた父親役、いつもいないんだけど、でもちゃんといつもブレずにいてくれる感じが安心する。 あとハリーポッター発売当初がやっぱ楽しそうで😭
  • ck
    3.7
    なんか面白かった気がする
  • あい
    4
    山場がある訳でもないし、名脇役的な登場人物がいる訳でもないし(てかみんな名脇役だし)、超感動的名台詞がある訳でもないから、終わった後大満足💯面白かった‼️って感覚ではないんだけど、ちょっとずつこんな事あったなって思い出せるのが自分の人生振り返る感覚と似てていいな。視聴者からすれば表層的とも言われるこの映画で、良くも悪くもまぁ人生ってこんなもんだよなと思える。 時間経過と共にキャストもリアルに歳を重ねていて、自分の人生を生きていて、この作品やご縁がメイソンくんの幼少期に刻まれていると思うと、とても価値のある素敵な作品でこっちまで幸せになるなぁ 「一瞬とは常に今ある時間のことだ」
  • 青乃雲
    -
    役者がリアルに年齢を重ねていく姿を撮ることは、必ずしもリアリズムや時間の本質を描くことにはつながらない。6歳の少年が18歳になるまでの12年間を、実際の12年間で撮ったということは、もしかすると映画史的には意味があるのかもしれない。けれどそれを観るこちら側としては、あくまで表層的なことのように思えてならない。 そのため、リチャード・リンクレイターが真に描いているのは、そうした空間的で量的な変化ではないのではないか。 同監督が『ビフォア』シリーズによって描き出したのは、人生における時間が物理的に示される量的なものではなく、心理的な意識の連続性によってもたらされる分水嶺(ぶんすいれい)のようなものだった。分水嶺とはその境界をまたぐ前と後とでは、質的に何らかの変化がもたらされることを意味し、人間にとっての本来的な時間とは、量的なものではなく質的なものということになる。 選択と変化によって、ある領域から別の領域へと移動したことを、連続性のなかにではなく、断続性のなかにこそ僕たちは見出すことになる。 したがって、同じ役者の実際の経年変化を用いるということは、その物理的な連続性(同一性)によって、むしろ心理的な時間の断続性を浮上させることにこそ企図があるように感じる。 そうした意味では『ビフォア』シリーズの3部作は、3作品が連続されることで描かれる断続性や不可逆性にこそ味わいがあり、シリーズ中おそらく最も不人気な3作目『ビフォア・ミッドナイト』こそが、最も鮮やかにこのテーマを描き出していると僕は思っている。同シリーズは男女関係にとっての時間(分水嶺のような断続性)を描き、本作では家族にとってのそれを描いている。 少しずつ、時には大きなトラブルを経て、確実に変化していく家族模様。生きることの愛おしさは、その不可逆性のなかにこそあると映画は静かに語っている。そして本作のラストシーンで語り合うハイティーンの少女と少年は、『ビフォア』シリーズへと円環していくように感じられる。 * 少女: You know how everyone's always saying,"Seize the moment"? I don't know, I'm kinda thinkin' it's the other way around. You know, like, the moment seizes us. ねぇ、どうしていつもみんな 「一瞬をつかまえろ」って言うのかな? わからないのよね ある意味それは逆だとわたしは思うの。 そう…ね、一瞬がわたしたちをつかまえるのよ。 少年: Yeah, I know. It's constant,the moments,it's just… it's like always right now, you know? うん、そうだね。 一瞬一瞬はずっと続いていて、それはほんとうに… いつもここにあるたった今みたいなものだよね? * 彼女たちが話している「the moments(一瞬一瞬)」とは、時間の「長さ」のことではなく、連続しながら断続している「変化の最前線」のことを指している。それはつかまえようと思ってつかまえられるものではなく、むしろ向こうから僕たちをつかまえにくる。 哀しみであれ美しさであれ、僕たちがそれをつかまえるのではなく、哀しみや美しさが僕たちをつかまえにくる。そうした感情をもたらす「the moments」は、変化や断続性をともないながら否応なくいつでも向こうからやってくる。僕たちはその最前線にいつでも立っている。またその最前線としての実感は、時間によって立ち上げられることになる。 愛する対象は空間として目の前に現れるものの、その愛おしさは時間によってこそ愛おしさになる。またその愛おしさは「always right now」という最前線での出来事として、僕たちをつかんで離さない。彼女たちは、そう言っている。
6才のボクが、大人になるまで。
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