2016年、異例のロングランメガヒットを記録した映画『君の名は。』が、1月3日、朝日系列にてついに地上波初放送となる。
それを記念して、以前FILMAGAで敢行した新海誠監督のインタビューを再度お届けしたい。
2016年、映画界の最大の話題はなんと言っても『君の名は。』のメガヒットでしょう。ほとんど誰も予想できなかったようなヒットになりましたが、公開されるやいなや、興行成績はうなぎのぼりで、SNSなどでも好意的な反響が数多く寄せられました。
国内最大級の映画レビューサービス「Filmarks(フィルマークス)」においても、サービス史上最速となる公開後8日間でレビュー数1万件突破を記録し、★スコア平均もいまだに4.0以上をキープし続け、多くの方に愛されている作品です。
そんな歴史を塗り替えるヒットになった『君の名は。』が、日本で最も実績と権威のある映画賞「毎日映画コンクール」の一般投票部門である「TSUTAYA × Filmarks映画ファン賞」を受賞。今回は受賞特別記念として、新海誠監督に、若いファンそして昔から支え続けてくれたファンへの想いを伺ってきました。
参照:【発表】日本で最も権威のある映画賞、一般投票第1位に輝いた映画は!?
何かを語らずにはいられなくなる『君の名は。』
—『君の名は。』の大ヒットおめでとうございます。
新海誠監督(以下、新海):ありがとうございます。
—『君の名は。』が毎日映画コンクールの一般投票部門の「TSUTAYA ×Filmarks映画ファン賞」を受賞されました。そのお気持ちをお聞かせいただけますか。
新海:ありがとうございます。すごく嬉しいです。お客様に選んでいただけたのが何より嬉しいです。
—今作は、多くの方からたくさんの意見をもらったと思います。Filmarksでも、公開から史上最速の8日間でレビュー数が1万件を突破するなど、観た人が前のめりになって語りたがる作品だったと思います。ご自身で、それは何が要因になったとお考えでしょうか。
新海:作っている時に考えていたのは、過剰な映画にしたいということでした。
比較的短い時間の中に、こぼれ落ちるギリギリまで情報を詰め込んだ映画にしたいと。それは起きる出来事やキャラクターたちの感情もそうだし、RADWIMPSの音楽もそうだし、あるいは画面がとても綺麗だったり。余裕を持ってゆっくり咀嚼できるような映画ではなくて、何かすごいことを体験してしまったと感じられる作品にしたいと思ったんです。
ただ映画の構成としては、時間軸や、男女が入れ替わったりなど、少し複雑な面はあるのですが、それらが100%理解できなくても、何かすごいものを浴びた気がする、かつ楽しかったと思ってもらえるものにしたいと思ったんです。1回見ただけでは抱えきれないようなものを、持って帰ってもらおうという気持ちで作りました。
ポジティブな感想でもネガティブな感想でも、そうした過剰な部分がそれぞれの方にいろんなアクセスをしたんだとしたらすごく嬉しいですね。
これは嬉しい!映画を観た後に誰かになにかを言いたい心持ちになっていただけたならば、それが良い言葉であってもお叱りであったとしても、これ以上の幸せはありません。感謝です。 https://t.co/RZDjiWKHrT
— 新海誠 (@shinkaimakoto) 2016年9月3日
––公開前から新海監督はプロモーションのため、全国の公開試写の舞台挨拶に行かれていましたが、公開前の反応を見てこれほどの大ヒットを予測していましたか。
新海:いえ、社会現象と言えるようなヒットは、当たり前ですが僕も含めて誰も予測してなかったと思いますね。
でも、ヒットしてほしいとは思っていたし、僕たちとしては良い映画ができて自信作だという気持ちはありました。製作スタッフだけではなくて、宣伝、配給のスタッフもその気持ちは共有してくれていたと思います。
だから関係者はみんな、ヒットさせるんだという気持ちで試写回りもしていたと思います。試写での反応もとてもポジティブなものだったので、ある程度ヒットするといいよねと(笑)。そんな気持ちでしたね。
SNSの力を実感
—公開前から本当にポジティブな意見がすごく多かったというのは、僕もTwitterなどの反応から実感していました。SNSの力による後押しというのは、監督ご自身何か実感されたことはありましたか。
新海:そうですね。分析しているわけではないんですが、今回の映画が、観客が観客を呼んでくれるようになったのは、やっぱりTwitterに代表されるようなSNSの力は相当大きかったんじゃないかと思います。
SNSは、特に若い層中心だと思いますが、公開前からしばらく1ヶ月くらいの間は、本当に若い人たちに観られている映画だったと思うんですよね。実は試写会場に来ていたのも、高校生や大学生が多かったんです。
試写の感想をTwitterとかで検索して、よく見ていたんですが、若い人たちが自分たちの映画だと思ってくれている、そういう感覚は試写以前からありました。
はじめに2015年の12月に、特報を流した段階ですごく湧いたような実感はあったんですよね。それが、4月くらいに今度はRADWIMPSの主題歌を含めた予告編を出した時に、すごく爆発的に広がったような感じがあって。
その第一弾の予告で男女の入れ替わりものだっていうのを初めて見せて、キャラクターの顔も見せて、コメディ要素もあるんだというのが伝わったし、RADWIMPSの疾走感ある「前前前世」も含めて、映画全体の手ざわりが伝わって、若い人たちが自分たちの映画だって思ってくれたような、そういう実感が僕はありました。
—それはもうまさに制作の段階から狙いだったんでしょうか?
新海:もちろんそれはある程度狙って作っているわけですけども、たとえばストーリーも音楽も過剰なものにしたのは、特に若い人たちに向けた過剰さにしようと思ったんですよね。
時々話すんですが、若ければ若いほど、自分が「何が好きか」というのが、まだ理解できていないと思うんです。
でも、年をとっていくにしたがって、自分の趣味嗜好っていうのは固まっていくので、好きな映画のタイプっていうのは出来てきますよね。
まだそれが定まりきっていないような人たちに向けたい、好きな映画がまだないような人たちに向けた映画になればいいなと思って作っていました。
—公開後は、今度はどんどん観客の世代が広がっていきましたね。
新海:そうですね。そこが今回意外なことでもありましたし、映画ってこういう力があるんだなって思いました。それも観客が観客を呼んできてくれたというか。
例えば、クラスで流行っているから両親にお願いして観に行くとか、あるいはおじいちゃん、おばあちゃんと一緒に観に行くとか、そういう広がりというのは、僕は今まで経験したことはなかったので驚きました。
今までのファンも親心を持って喜んでくれた
—新海監督には、以前から熱心なファンがたくさんいらっしゃいました。先ほど言われていたような若い人は、監督の作品を初めて見て自分たちの映画だって思ってくれたというお話がありましたが、今までのファンの方の反応はいかがでしたか。
新海:今までのファンの人たちも、「売れてよかったね」みたいに、親心のような感じで一緒に喜んでくださる方が多いなというのをすごく感じました。集大成だって言ってくださる方も多かったです。
–今までの作品の時も新作の度に全国を回られてましたよね。そういう積み重ねによって、たくさんの熱心なファンを作って来られたからだと思うんです。
新海:最初から大作をやってきたわけでは全くないので、そういうやり方しかできなかったというのもあるんですが。
個人制作から始めて、少しずつ広げてきた感じなので、それはもうやっぱり劇場側と一緒になって観客に直接会って「お願いします」、「観てくださってありがとうございました」と伝えて広げていくしかできなかったですし、それが楽しかったというのもあります。
でも、本当にたくさんの人に会って「次回作が出来たら見てくださいね」みたいな話をずっとしてきて。それは海外も含めてずっとやってきました。
だから、今回の興行の初速、最初の広がりを支えてくれたのは、母数としては過去作を見ていない人の方が多かったかもしれませんが、ベースには10年以上前から今までにお会いしてきたお客さんたちもあったかもしれないですね。
—今までの積み重ねも大きかったんですね。
新海:海外に行くと、本当にそれを感じます。積み重ねというのは、観客とでもあるし、映画館ともです。「この映画館には5年前も10年前にも来た」というくらい上映のたびに何度も行かせていただいたりとか、あるいは各国のディストリビューターとか、通訳の人とか、関係性ができている国がいくつもあるので、彼らが僕の作品を応援しようと、広げようと思ってやってくれているのも、今までの積み重ねなのかもしれないですね。
—お客さんに育てられたような感覚もあるのでしょうか。
新海:それは本当にそう思います。また見てくれた人が、Filmarksなどで何か言おうとしてくれたのが何より幸せですし、嬉しいです。
映画を見た上で、たとえそれが文句であったとしても、楽しかったというポジティブな感想でも、何か言いたくなる映画を作れたことが一番嬉しいですね。
それは観客とコミュニケーションできたってことですから。観た人とコミュニケーションできるような映画を作りたいと思っています。
–私も『ほしのこえ』の時から新海誠監督の作品を見てきましたが、今回の大ヒットは本当に嬉しかったです。そういう昔からのファンの気持ちを「親心」として、監督ご自身も受け止められていたのがとても印象的でした。
情報がソーシャルメディアで拡散していく時代は、こうしてファンと一緒に共感を生んでいくという姿勢は何より重要かもしれません。『君の名は。』が多くの人々の共感を生んだのは、作品内容の素晴らしさもさることながら、新海誠監督のファンを大切にする姿勢からも生まれているのでしょう。
映画『君の名は。』は、全国東宝系公開中。
(C)2016「君の名は。」製作委員会
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(取材・文:杉本穂高、撮影:柏木雄介)
※記事内のFilmarksの★スコア(5点満点)は2017年1月20日現在のものです。
■参照:毎日映画コンクール 公式サイト:http://mainichi.jp/mfa/
※本インタビューは2017年1月21日に掲載した記事を再編集したものです。
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