映画『タイタニック』超大ヒット映画の製作の裏側が過酷すぎる…!狂気じみたこだわりを徹底解説(後編)【ネタバレあり】

ポップカルチャー系ライター

竹島ルイ

映画『タイタニック』をネタバレありで徹底解説。大ヒット映画の製作秘話はとは?

1912年、世界最大の豪華客船が氷山に衝突し、1513人が亡くなった「タイタニック号沈没事故」。“20世紀最大の海難事故”とも呼ばれるこの悲劇をベースに、上流階級の娘と貧しい青年の悲恋を描いた感動のスペクタクル大作が『タイタニック』(1997)だ。

第70回アカデミー賞では、14部門でノミネートされ11部門で受賞。興行収入は全世界で21.9億ドルに達し、当時の世界最高興行収入を記録。批評的にも興行的にも大成功を収めた。

という訳で今回は、前編に引き続き、ネタバレ解説の後編。不朽の名作『タイタニック』について解説して行きましょう。

映画『タイタニック』(1997)あらすじ

時は1912年。豪華客船タイタニック号に乗り込んだ画家志望の青年ジャック(レオナルド・ディカプリオ)は、船から飛び降りて自殺しようとしていた上流階級の娘ローズ(ケイト・ウィンスレット)を助ける。ひょんなことから出会った身分違いの二人。二人の仲は急速に進展していくが、タイタニックの行く先には巨大な氷山が待ち構えていた……。

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※以下、映画『タイタニック』のネタバレを含みます。

プロダクション・デザイン、撮影、音楽…招聘された超一流のスタッフ

いよいよ撮影が始まった。ジェームズ・キャメロンは『タイタニック』製作にあたり、一流のスタッフを招聘していた。

例えば、プロダクション・デザイン。担当したのは、『007』シリーズをはじめ、『エイリアン2』(1986)、『トゥルーライズ(1994)でキャメロンと仕事をしたピーター・ラモント。当時彼は引退していて、映画製作から離れ悠々自適の生活を送っていたのだが、キャメロンに口説かれて現場復帰。タイタニック号を見事なまでに再現するという、ブランクを感じさせない仕事ぶりが評価されて、アカデミー美術賞を受賞する。

撮影監督には、過去6度のアカデミー撮影賞ノミネートを誇るキャレブ・デシャネルが呼ばれた(ちなみに、『500日のサマー』のサマー役で知られる女優ズーイー・デシャネルは彼の実娘)。だが、デシャネルとキャメロンは撮影方法を巡って意見が対立。色調を抑えた淡いトーンで撮ろうとするデシャネルに対し、キャメロンはクッキリ鮮やかな色調を主張したのだ。

二人の溝が埋まることはなく、結局デシャネルは途中降板。『トゥルーライズ』(1994)の撮影を務めたラッセル・カーペンターが、急遽招聘される。皮肉なことだが、カーペンターが『タイタニック』の撮影にあたってインスピレーションを得たのは、デシャネルが撮影監督を務めた『ナチュラル』(1984)だったという。

作曲を担当したのは、ジェームズ・ホーナー。かつて『エイリアン2』で仕事をしたことがある二人だったが、この時に音楽の方向性を巡って対立。険悪な仲になってしまっていた(それにしてもジェームズ・キャメロン、よくスタッフとケンカする奴である!!)。当初キャメロンは、アイルランド出身の歌手エンヤにオファーすることを考えていた。しかしエンヤがそれを固辞。すっかり困ってしまったキャメロンが、たまたま観た『ブレイブハート』(1995)の音楽に感銘を受け、ジェームズ・ホーナーに依頼したのである。そう考えてみると、ホーナーが作曲したスコアはエンヤの作品によく似ている。

有名な主題歌「My Heart Will Go On」を歌ったのは、カナダの歌姫セリーヌ・ディオン。実は彼女、このレコーディングに乗り気ではなかったのだが、周りに説得されてしぶしぶ録音。それが世界的大ヒット曲になってしまうのだから、世の中わからないものだ。

ジェームズ・キャメロンの狂気じみたこだわり

ジャームズ・キャメロンは、一切の妥協を許さない完璧主義者だ。そのこだわりたるや、ほとんど狂気の一歩手前。

例えば、海底に眠るタイタニック号の外観を映し出す、深海での撮影。フツーならば、潜水艇で潜ってその中から撮影することだろう。潜水艇の外から撮ろうとしても、水圧の問題で機材がすぐ壊れてしまうからだ。だが、それではあまりに一辺倒で、つまらない絵になってしまう。そこでキャメロンは、弟のマイク・キャメロンとパナビジョン社の協力を得て、水深400気圧に耐えられる深海用カメラシステムを開発。彼は欲しい絵を撮るために、新しいハードウェアをイチから作り上げてしまったのである。

大量の水がドアを突き破るシーンでも、キャメロンはこだわりまくった。スタッフが一生懸命用意した4万ガロンの水では全然足りないと文句を言い、その3倍の量を要求したのだ。既存のセットでは12万ガロンの水の重さに耐えられなかったため、プロダクション・デザインのスタッフはセットを作り直すハメに。

そして、船首でローズが「私飛んでいるわ、ジャック!(I’m flying, Jack)」と語りかける印象的なシーン。キャメロンはCGではなく本物の夕日での撮影にこだわった。しかし、チャンスは1日に数分間。予定ではこの撮影に8日間のスケジュールが組まれたが、なかなか納得できる絵が撮れなかった。

最終日も曇り空だったため、今日はダメだろうとスタッフ全員諦めていたところ、奇跡的に突然空が晴れて、美しい夕日が顔をのぞかせた。キャメロンは慌ててスタッフを招集。あまりにも急な撮影だったため多少ピンボケしてしまったが、キャメロンはそのテイクを本編に採用したのである。あのきらめくような美しい夕景は、自然光によってもたられたものなのだ。

撮影日数165日!過酷を極めた『タイタニック』撮影

撮影は過酷そのもの。毎日、長時間労働と徹夜の連続。撮影日数はもともと135日を予定していたが、結局一ヶ月遅延してしまい165日に。さすがのキャメロンも撮影終了間際には疲労困憊となり、サプリを摂取して体調維持に努めていたという。

もちろん役者にとっても、『タイタニック』の撮影は過酷極まりないものだった。冷たい水の中で何時間も待機する必要があったからだ。特にケイト・ウィンスレットは、設定上ウェットスーツを着ることが許されなかった。おかげで彼女は低体温症になってしまい、作品から離脱することも検討したが、キャメロンに説得されて撮影を続行したという。

だが一番辛かったのは、トイレ問題だったかもしれない。キャメロンは、「トイレ休憩のために水槽から出ようとする者は、全員クビにする!!」と脅していたのだ(今なら大問題だが……)。仕方なく、レオナルド・ディカプリオやケイト・ウィンスレットなど、少なからぬ役者が水の中で用を足したというのは有名な話。

後年ウィンスレットは、

ジェームズ・キャメロンと再び仕事をするんだったら、大金を支払ってもらう必要があるわね

といたずらっぽくコメントしているが、半分は本気だったのかもしれない(ちなみに彼女は、2022年公開予定のキャメロン最新作『アバター2』に出演)。

だがジェームズ・キャメロンにとって一番辛かったことは、過酷な撮影そのものではなく、大幅なスケジュール遅延、コスト超過、セットの安全性の問題といったネガティブな報道が頻発したことだった。まだ作品は作り終わってもいないのに、マスコミから執拗に非難されるようになったのだ。

キャメロンは反論することもなく、ひらすら沈黙を守る。作品を観てさえくれれば、きっと非難は止むだろう…そう考えたのだ。彼には、評価される映画を撮る道しか残されていなかった。

スタジオとの確執、そして記録的な大成功へ

結局、撮影には2億ドルという巨額な費用が投下された。映画の製作費が、タイタニック号の建造費よりも高くついてしまったのである。

莫大な予算超過のため、20世紀フォックスは3時間の上映時間を2時間にするように提案する。上映時間が長いと劇場でかけられる回数が減ってしまい、売上も減少してしまうからだ。だが、キャメロンはこの申し出に真っ向から異を唱える。

私の映画をカットしたいのですか?カットしたいのなら、私をクビにしなければなりませんよ。そして私をクビにしたいのなら、私を殺さなければなりません!

業界アナリストは1億ドルの損失を予測。ジェームズ・キャメロンには、監督料として800万ドルが事前に支払われていたが、それも予算超過を懸念した20世紀フォックスに没収されてしまう。それでも、キャメロンは自分の映画を守ることに全力を傾けた。

フタを開けてみれば、映画は大成功。興行収入は全世界で21.9億ドルに達し、当時の世界最高興行収入を記録。第70回アカデミー賞でも11部門で受賞を果たした。キャメロンはアカデミー監督賞の受賞スピーチで、劇中のディカプリオのセリフ「俺は世界の王だ!(I’m the king of the world!)」を絶叫。名実ともに映画界のトップ・クリエイターに上り詰めた。

だがキャメロンにとって一番重要だったのは、この映画で5番目となる妻スージー・エイミスと出会ったことかもしれない。彼女はローズの孫娘リジー役を演じた女優。当時キャメロンは別居中のリンダ・ハミルトンと結婚していたが、『タイタニック』撮影中に恋に落ちてしまったのだ。これまで短い結婚生活ばかりの彼だが、現在に至るまで彼女との結婚生活は続いている。

※2021年5月14日時点の情報です。

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