『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』(1981)に続く「インディ・ジョーンズ」シリーズ第二弾、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984)。今度はインドを舞台に、邪教集団と熾烈な戦いを繰り広げる。
というわけで今回は、みんな大好き『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』についてネタバレ解説していきましょう。
映画『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984)あらすじ
世界的に有名な考古学者にして冒険家のインディ・ジョーンズ(ハリソン・フォード)は、上海のクラブでギャングと危険な取引を行っていた。だが敵の策略により危機に陥ったインディは、歌手のウィリー(ケイト・キャプショー)と、相棒のショート・ラウンド(キー・ホイ・クァン)と共に、飛行機で脱出。
やがて命からがらインドの小さな村にたどり着いた彼らは、長老からシヴァ・リンガと呼ばれる秘宝を邪教集団から奪い返して欲しい、と懇願される。シヴァ・リンガとは、所有する者に富と栄光をもたらす秘石サンカラ・ストーンのことだった。インディ一行は、悪の巣窟と噂されるパンコット宮殿へと向かう…。
※以下、映画『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』のネタバレを含みます
『レイダース』公開直後に練り始めた、続編の構想
スティーヴン・スピルバーグとジョージ・ルーカスがハワイで意気投合し、インディ・ジョーンズの構想を語り合った時点から、全3作から成るシリーズものになることは予定されていた。しかし、記念すべき第1作『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』が公開され、世界的な大ヒットを記録した時点でも、まだ続編のアイディアは固まっていなかった。
『レイダース』公開の2週間後になって、ルーカスとスピルバーグは慌てて構想を練り始める。実は、尺の関係で『レイダース』で盛り込めなかったアイディアがふんだんに残されていた。イカダで川を下るシーンやトロッコ・チェイスは、前作から考えられていたもの。二人はそのアイデアを元に、新しいインディ・ジョーンズの物語を膨らましていく。
頭を悩ませたのは、「新しい敵を誰にするのか」問題。再びナチスにしてしまうと、前作の二番煎じになってしまう。そこで生まれたのが、インディがインドの邪教集団に立ち向かうというアイデアだった。
「ジョージは暗い要素を織り込みたかったようだ。『スター・ウォーズ エピソード5/ 帝国の逆襲』のようにね。2作目はそんな路線をイメージしていた。そして邪神カリを崇める邪教のアイデアを出した」
(メイキング映像より、スティーヴン・スピルバーグへのインタビュー抜粋)
脚本の執筆は、前作『レイダース』に引き続きローレンス・カスダンが務める予定だった。だが彼は、自身の監督作『再会の時』(1983)を製作中だったため、このオファーを断ってしまう。
後年カスダンは、「とても意地悪な作品だ。『魔宮の伝説』はルーカス、スピルバーグの混沌の時期を象徴している」とコメント。確かにルーカスは実生活で離婚を経験し、スピルバーグもガールフレンドと別れたばかりだった。「この映画の異様な残酷性は、彼らの私生活の反映である」との指摘だが、そのあたりについては後述しよう。
最終的に脚本を手がけることになったのは、ウィラード・ハイクとグロリア・カッツ。ジョージ・ルーカスの出世作『アメリカン・グラフィティ』(1973)のシナリオを担当したコンビだ。彼らはインドに造詣が深く、「この作品にはうってつけだろう」との判断からの抜擢だった。
ちなみに時代設定が1936年だった『レイダース』に対して、『魔宮の伝説』は1935年。物語の時系列でいうと、本作の方が先なのである。
『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』を時系列で徹底ネタバレ解説
では、ここからは時系列で『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』を解説していこう。DVDの音声解説のようなノリで読んでいただければと。
オープニング〜ラオ・チェとの取引(0:00:00〜)
いきなりミュージカル風の演出で始まるのが、この映画の粋なトコロ。たくさんのダンサーを引き連れてウィリーが中国語で歌うのは、『エニシング・ゴーズ』。コール・ポーターによる傑作ミュージカルからの楽曲だ。いかにも’30年代の上海租界という風情の、エキゾチックな雰囲気がよく出ている。
シャロン・ストーンも有力候補に挙がっていたというウィリー役を演じるのは、ケイト・キャプショー。実は彼女、この役を「金切り声をあげるばかりの、間抜けなブロンド」と酷評していた。映画データベースサイトIMDBによれば、彼女はこの映画で71回も叫んでいるそうな。
「興味があったのは文芸もので、シリアスな演技を勉強していたの。作品に興味はなかったけど出演はしたかった。この映画に出演すれば、出演のオファーが格段に増えるからよ」
(メイキング映像より、ケイト・キャプショーへのインタビュー抜粋)
やがて上海暗黒街のボス、ラオ・チェとヌルハチの遺骨をめぐる取引が開始される。ラオ・チェを演じるロイ・チャオは、『燃えよドラゴン』(1973)で少林寺の高僧を演じていた俳優。老けメイクで気づかなかったよ!
上海からの脱出(0:10:53〜)
インディはウィリーを連れて、ナイトクラブを脱出。このとき「クラブ・オビ=ワン」という看板が見えるが、もちろんこの名前は『スター・ウォーズ』(1977)に登場する偉大なジェダイ、オビ=ワン・ケノービへのオマージュ。前作『レイダース』でも、魂の井戸でアークを持ち上げるときに、R2-D2とC-3POの壁画がちらっと見えていたが、このシリーズは『スター・ウォーズ』ネタが多い。
そして、インディの若き相棒ショート・ラウンドが登場。演じるのは、これが映画デビュー作となるキー・ホイ・クァンだ。次作『グーニーズ』(1985)では発明好きのデータ役を演じて、たちまちアイドル的な人気を得た。
ちなみにショート・ラウンドという名前は、脚本家ウィラード・ハイクが飼っていた犬の名前から採られたもの。インディという名前もジョージ・ルーカスが飼っていた名前にちなんだものだから、このシリーズは犬が大きな貢献を果たしていると言えるだろう。
インデイたちを貨物機に乗せる男を演じているのは、『ゴーストバスターズ』(1984)や『花嫁はエイリアン』(1988)で知られるコメディアン、ダン・エイクロイド。顔がほとんど映らないので分かりにくいが、実はサプライズのカメオ出演なのである。
貨物機の墜落(0:13:59〜)
インディ・ジョーンズはもともと「007」シリーズへのリスペクトから生まれたシリーズだが、最初に白いタキシード姿で登場するのは、ジェームズ・ボンドへのオマージュという意味もあるのだろう。その白いタキシードから、フェドーラ帽子をかぶったいつもの格好に着替えるインディ。つまり、ここからインディ・ジョーンズの本当の冒険がスタートする、という合図だ。ワクワクしますね。
やがて貨物機からゴムボートで脱出し、命からがら難を逃れるインディ一行。『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(2008)でもそうだったが、やたら激流に飲み込まれる男だ。
インドの村メイアプール(0:20:01〜)
いよいよ舞台はインドへ。だが実際に撮影が行われたのは、インドではなくスリランカ。インド側は、人間を生贄にする邪教や、奇怪なゲテモノ料理が登場するこの作品を「差別的で不快なもの」と判断。内容を巡って、映画のプロデューサーと交渉が決裂したんだそうな。まあ、そりゃそうですよね。
インドの小さな村メイアプールで、インディたちは長老からシヴァ・リンガと呼ばれる秘宝を邪教集団から奪い返して欲しいと懇願される。その長老役を演じたD・R・ナーナヤッカーラ氏がなかなかいい味を出しているが、この撮影が大変だった。
彼が全く英語を解さなかったため(何でそんな人物をキャスティングしたんだ!)、スピルバーグが喋るセリフをそのまんま真似たんだとか。セリフとセリフの間に妙な間があるのは、もったいぶった芝居をしているのではなく、単にスピルバーグの指示を待っているだけなのである。
パンコット宮殿へ出発(0:28:43〜)
いよいよパンコット宮殿へ出発。象になかなか乗れないウィリー、それを呆然と眺める村人たちを、カットバックで繋いでギャグにするスピルバーグ。普段よりも残酷シーンが多いと思ったからなのか、とにかくこの映画ではベタなギャグがふんだんに盛り込まれている。
インディとショート・ラウンドがカードゲームに興じる夜営のシーン。イカサマを働いたとショート・ラウンドが非難するが、オーディションではこのシーンをキー・ホイ・クァンが即興で演じたという。その素晴らしい演技によって約6,000人のオーディションを勝ち抜き、彼はこの役を勝ち取ったのだ。
パンコット宮殿への到着〜ゲテモノ料理のディナー(0:37:37〜)
ある意味で『魔宮の伝説』の白眉と言えるのが、パンコット宮殿での夕食シーンだろう。ヘビの詰め物だの、サルの脳みそのシャーベットだの、目玉のスープだの、とにかくグロテスクな料理のオンパレード。
このシーンは、「サギー教に関する説明をどう絵的に面白くするか」についてジョージ・ルーカス、スティーヴン・スピルバーグ、ウィラード・ハイク、グロリア・カッツの4人が話し合ったことから生まれた。パンコット宮殿の宰相チャター・ラル(ロシャン・セス)、イギリス軍大尉ブランバート(フィリップ・ストーン)、インディの三人がサギー教の復活について語り合いながら、その一方でゲテモノ料理がどんどん出てくれば、単なる説明描写にならず、面白いシーンになるだろうと考えたのである。
とはいえ、ホントにこのシーンはグロテスクの極みですよね。スピルバーグの悪趣味っぷりがスパークしてます。
宮殿の地下へ(0:46:24〜)
「インディ・ジョーンズ」シリーズといえば、グロテスクな生き物が登場するのが定番。前作『レイダース』ではヘビ、今回は大量の虫。ただ今回は、直前にゲテモノ料理を見せつけられているので、いまひとつインパクトが弱くなってしまっているのが残念。
2,000匹以上の虫がウニョウニョと蠢く部屋に放り込まれたケイト・キャプショーは、恐怖を克服するために鎮静剤を飲んで撮影に挑んだという。
サギー教の密儀(0:59:57〜)
ハイやってまいりました、『魔宮の伝説』で最も残酷な場面!邪神カーリーに生贄を差し出すため、人間の心臓を抉り出したうえに燃え盛るマグマで焼き殺すという、目を覆いたくなるような「サギー教の密儀」シーンである。
お子様には刺激が強すぎるため、当初『魔宮の伝説』は17歳未満の観賞は保護者の同伴が必要となる「R指定」に設定されていた。当時のアメリカでは、保護者の検討が望ましい「PG指定」と「R指定」の間にレイティングがなかったのだ。
スピルバーグは、『魔宮の伝説』と自身がプロデュースした『グレムリン』(198年)が「R指定」にされたことに異議を唱える。その結果、13歳未満の観賞は保護者の厳重な注意が必要とされる「PG-13」が新しく設定された。さすがスピルバーグ。彼の一言で新しいレイティングが制定されたんだから、ものすごい影響力です。
サギー教司祭モラ・ラムを演じるのは、アムリッシュ・プリ。彼はこの役のために頭を剃ったが、この映画をきっかけにインドで最も人気の悪役俳優となり、丸坊主スタイルを維持することになる。スピルバーグは後年、「アムリッシュは私のお気に入りの悪役だ。世界がこれまでに生み出した、そしてこれから生み出すであろう最高の人物だ」と激賞している。確かに怪演というべきか狂演というべきか、とにかく強烈な存在感である。
ちなみにアムリーシュ・プリとチャター・ラル役のロシャン・セスは、『ガンジー』(1982)ですでに共演している仲です。
囚われたインディ(1:10:47〜)
悪魔の血によって洗脳されてしまうインディ。ここからハリソン・フォードは上半身裸の芝居が続く。これに備えるため、彼はトレーナーと腕立て伏せ、腹筋、懸垂などの激しいトレーニングを重ねて、役作りに励んだという。
スピルバーグもハリソン・フォードを励ますために同じトレーニングを行ったが、ものの数週間で辞めてしまったんだとか。
子供たちの救出〜トロッコ・チェイス(1:27:33〜)
顎髭を生やした教団の怪力男と、インディとの対決の場面。演じるパット・ローチは有名なプロレスラーで、実は『レイダース』にも出演。しかも、大男のネパール人役と、飛行機のプロペラに巻き込まれて絶命するドイツ兵の二役だ。『インディ・ジョーンズ/最後の聖戦』(1989)にも出演しているシリーズ常連俳優だが、2004年に67歳でこの世を去ってしまったため、『クリスタル・スカルの王国』への出演は叶わなかった。
そして、トロッコ・チェイスのシーン。実はほとんどがミニチュアを用いたストップモーションで、特殊視覚効果チームによる見事な技術が光る。線路を走る音は、ディズニーランドのジェットコースターを録音したんだとか。
渡り橋の上での戦い(1:41:51〜)
クライマックスの舞台となる渡り橋。作るのには相当苦労しそうだが、実はスリランカのロケ地近くでイギリスの会社がダムを建設していて、そこのエンジニアが橋を設計・製作してくれたんだとか。
エンディング(1:49:58〜)
「インディ・ジョーンズ」シリーズのナニがいいって、エンディングがいい。どの作品のエンディングも、とっても気が利いている。今作でも、顔を隠すショート・ラウンドの全身ショットからカメラがドリーバックしていくと、口づけを交わすインディとウィリーのアップとなり、さらにカメラが引いていくと村の子供たちに囲まれるワイドショットになるという、多幸感溢れる演出。いやー最高ですね。
ちなみにウィリーはインディにとって大切な女性の一人だったようで、『クリスタル・スカルの王国』ではチラっと彼女の写真が飾られているのが見える。
「インディ・ジョーンズ」シリーズ唯一の“ホラー映画”
この映画の最初の原題は『Indiana Jones and the Temple of Death(死の宮殿)』。しかし、あまりにも不吉な響きであったため『Indiana Jones and the Temple of Doom(運命の宮殿)』と改題された経緯がある。つまり『魔宮の伝説』は、死についての映画…ホラー映画だったのだ。
そしてスピルバーグは、本質的にホラー作家である。『ジョーズ』(75)にせよ、彼が実質的な演出を行なったとされる『ポルターガイスト』(82)にせよ、恐怖の本質をとことん掘り下げ、それを最適な方法でスクリーンで表現することで、スピルバーグは映画館を絶叫で埋め尽くしてきた。
スピルバーグは、あまりにも暗い題材の『魔宮の伝説』に対して反発を覚えたこともあったという。彼はそれをユーモアで埋めようとした。その結果、ギャグと残酷さが不思議に同居する、独特すぎるテイストの作品が生まれる。『ジョーズ』のようなパニック・ホラーではなく、かといって『プライベート・ライアン』(1998)のような阿鼻叫喚の戦争映画でもない。この作品には、キッチュな残酷描写とも言うべき悪趣味テイストが横溢している。『魔宮の伝説』は、「インディ・ジョーンズ」シリーズ唯一の“ホラー映画”なのだ。
スピルバーグは現在に至るまで、この作品に思い入れがないことを告白している。良い意味でも悪い意味でも、彼の露悪的な作家性が滲み出ているからかもしれない。最後に彼のコメントを抜粋しよう。
「2作目は最も思い入れのない作品だ。本作を振り返って一番よかったと思うことは、ケイトと出会い結婚したことだ。そのためにこの作品を作る運命にあった。彼女を射止めたのはインディではなく私だったんだ」
(メイキング映像より、スティーヴン・スピルバーグへのインタビュー抜粋)
※2021年9月24日時点の情報です。