こんにちは! Nekuboです。
前回の記事「サメ映画が人気なワケを紐解く!《前編》〜基礎を築いた『ジョーズ』〜」では、1975年にスティーヴン・スピルバーグ監督が撮った映画『JAWS/ジョーズ』がサメ映画の原点だといえるワケをお話しました。
『ジョーズ』以前のモンスターパニック映画はデート向けのチープで中身のない映画というイメージでしたが、『ジョーズ』ではそれなりの予算をかけて、モンスターの要素だけでなくドラマとしても重厚なものにした結果、大ヒットを生みました。
さらに『ジョーズ』のストーリーは「サメ映画の六ヶ条」として表すことができ、後のサメ映画のストーリーの基盤ともなりました。
今もなお、量産をつづけるサメ映画ですが、それがすべて単なる『ジョーズ』の焼き直しでは誰も見向きしなくなってしまいますよね。そうならないために、『ジョーズ』以降のサメ映画はどのような変化を遂げていったのでしょうか?
さっそく紐解いてみましょう。
【あわせて読みたい】
PART.1:『ジョーズ』以降のモンスターパニック映画~70年代の黄金期~
『ジョーズ』の大ヒットが与えた影響はサメ映画にかぎったことではなく、モンスターパニック映画というジャンルそのものに多大な影響を与えています。
それこそが『ジョーズ』の大ヒットの波に乗ったモンスターパニック映画の量産という70年代の黄金期です。
たとえば『ジョーズ』の翌年76年には巨大クマが大暴れする『グリズリー』や、犬が人を襲う『ドッグ』が誕生しました。(『ドッグ』に関しては63年のアルフレッド・ヒッチコック監督作『鳥』の影響が強いですが…)
さらにその翌年77年には『ジョーズ』の影響をダイレクトに受けて製作されたシャチのパニック映画『オルカ』や、巨大タコが登場する『テンタクルズ』などがありました。
また、今年(2019年)になってひっそりとDVD化されて注目を集めた、バラクーダという狂暴化したカマスの恐怖を描いた『呪われた毒々魚〜人類滅亡の危機〜』という映画が78年に登場しています。
その他にもネズミの『巨大生物の島/巨大ネズミの逆襲』(76年)、ミミズの『スクワーム』(76年)、アリの『巨大蟻の帝国』(77年)等タイトルを挙げればキリがありません。
モンスターパニック映画にも歴史があり、黄金期というものがあったからこそ、今もジャンルが廃れずにあるということは覚えておいても損はないですね。
PART.2:サメ映画のいま①~受け継がれる『ジョーズ』の影響~
今年(2017年)に入ってからも『PLANET OF THE SHARKS 鮫の惑星』などといったような日本国内では一部劇場公開されたものや、DVDスルーとしてソフト化された作品がいくつもあります。
去年でいえばライアン・レイノルズの奥さんでも知られるブレイク・ライヴリーを主演に迎えた本格的なサメ映画『ロスト・バケーション』が日本でも劇場公開され、作品の出来もさることながら、あらためてサメ映画が多くの人の目にとまるようになりました。
そもそも、これほどまでに多くのサメ映画が作られる背景には一体何があるのでしょう?
そこにもやはり『ジョーズ』の存在は欠かせません。というのも、75年に製作された『ジョーズ』を観て育った世代の人々というのが今では立派な大人になっており、今まさに現在の映画界の最前線にいるのです。
あの頃『ジョーズ』を観て夢中になった世代が今の時代にも新しいサメ映画を…と製作に力を注いでくれているおかげで、現在のサメ映画の人気にも繋がっているのです。
また、サメ映画の生産量No.1であるアメリカでは、このジャンルは非常にポピュラーなのです。
実際に『ジョーズ』の物語の舞台となった港町アミティのモデルになったマーサズヴィニヤード島(場所はアメリカのマサチューセッツ州、ケープゴットの南海岸に位置しています。)では毎年、『ジョーズ』のファンが集う祭典“JAWS FEST”が開催されており、どれほどまでにアメリカ国民にとって『ジョーズ』が愛されるべき映画なのかがよく分かります。
ある意味、『ジョーズ』は日本でいうところのゴジラのような存在なのかもしれません。いつの時代にもファンがいて、彼らのおかげで次の世代にも語り継がれ、その存在が忘れられることもなく、今もなお“モンスターの王”として君臨しつづけているのです。
PART.3:サメ映画のいま②~驚異のジャンルミックス化とハイブリッド・シャーク~
みなさんは「現代のサメ映画」といえばどんなものが思いつきますか?
それこそ2017年にDVDがリリースされ、ニコニコ動画でも生配信された『シン・ジョーズ』というサメ映画は、まさに日本が誇る怪獣王の復活となった『シン・ゴジラ』の影響もあり、その“便乗タイトル映画”としてほんの少しだけ話題になりました。
その他では「シャークネード」シリーズや「シャークトパス」シリーズあたりを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか?
「シャークネード」シリーズとは多種多様のサメ群が大型の竜巻に巻き込まれ、そのまま街に降り注ぐという、ディザスター要素にサメ要素をトッピングした映画です。そして「シャークトパス」シリーズとはサメとタコが合体したモンスターが登場する映画です。
両者とも、とんでもない設定やシチュエーションのサメ映画ですが、まさにこれこそが現代のサメ映画を象徴しているとも言えます。
現代のサメ映画とはつまり「サメ×○○」というジャンルミックス化や、巨大化しただけでは留まらないハイブリッド・シャークが登場する映画が主流であるということです。
とくに『シャークネード』シリーズは「サメ×ディザスター」というジャンルミックス化で成功し人気を博しており、現在はシリーズが四作目までリリースされています。
(ちなみに2017年に入ってからは第五作目にあたる“『シャークネード5 グローバル・スウォーミング』(原題)”の撮影もスタートしているとのこと。)
また、日本国内での人気も高く、本国でノベライズ化されたものが日本でも翻訳されて出版されましたし、シリーズの二作目『シャークネード カテゴリー2』はニコニコ動画で実況配信されるなど、多方面で盛り上がりをみせました。
「シャークトパス」シリーズはサメとタコという海洋系モンスターパニック映画に代表される二大生物の合体というアイデアで人気を博し、いわゆる普通のサメではないハイブリッド・シャークが登場する映画の代表例といっても過言ではないでしょう。
現在、「シャークトパス」シリーズは三作目まで製作されており、二作目からは『シャークトパスVSプテラクーダ』、三作目は『シャークトパスVS狼鯨』といった具合でシャークトパスが同じようにハイブリッド化されたモンスターと戦う怪獣映画のようになってきています。
(C)2014 Emerald City Pictures, LLC All Rights Reserved
サメ映画のジャンルミックス化やハイブリッド・シャークの登場というのは間違いなく00年代以降に主流となりました。
先ほど紹介した「シャークネード」シリーズも「シャークトパス」シリーズもあくまでジャンルミックス化とハイブリッド・シャークの代表例として挙げましたが、実際にその先駆けとなったのは、私が記憶するかぎりでは『メガ・シャークVSジャイアント・オクトパス』(2009年)だったように思います。
Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】
この映画は超巨大なサメ(メガ・シャーク)と超巨大なタコが激闘を繰り広げるという怪獣映画のような作品でしたが、この映画に登場するメガ・シャークというのは、これまでのサメ映画に登場するサメのように現実味のある恐怖感や存在感からはかけ離れた表現が成されていたのです。
たとえば、大橋に食らいついたり、海面から飛び上がって、はるか上空の飛行機を叩き落としたりとこれまでのサメ映画ではありえないアクションができる、まさにハイブリッド・シャークの先駆けでした。
『メガ・シャークVSジャイアント・オクトパス』以降、サメ映画のサメの表現に広がりが生まれ、例えば雪原を泳いで人を襲うサメの『アイス・ジョーズ』や、砂浜を泳ぐサメの『ビーチ・シャーク』、そして後に大ヒットシリーズとなる『シャークネード』や『シャークトパス』が生まれていったのではないかと思います。
PART.4:サメ映画はジャンル映画のマイナスをプラスに変える
私が前後編で書かせていただいたサメ映画についてはあくまで基本的なことにしか過ぎません。本稿で紹介したサメ映画以外にも数多くのサメ映画が存在します。
もちろん『ジョーズ』以外の硬派なサメ映画だって存在しますし、ジャンルミックス化でもハイブリッド・シャークでもない“サメ人間”の映画だって存在します。
サメの祖先ともいえるメガロドンの映画もあるし、ハイブリッド・シャークの代表として紹介した『シャークトパス』以前にも、実はサメとタコが合体したモンスターが登場する『ジョーズ・アタック2』(ビデオタイトル『死神ジョーズ・戦慄の血しぶき』)という映画もあります。
『ジョーズ』こそサメ映画の歴史を作った立役者であるだけに映画史においても重要な名画の一本ではありますが、その後のサメ映画はあくまで“ジャンル映画”としてローバジェット化せざるを得なくなっているのが現状です。
それはある意味で仕方のないことなのかもしれません。70年代の黄金期のように一時は世界的なブームが巻き起こっても「サメの恐怖を描いた映画」という時点ですでにモンスターパニック映画というジャンルからは抜け出すことができないからです。
『ジョーズ』も四作目までシリーズは続きましたが、当時の一般客からしてみれば一作目の『ジョーズ』の面白さは分かっていたとしても、それが何度もつづけば「どうせまたサメが出てきて人を襲うだけなんでしょ?」とマンネリ化してしまいます。
そうなると作り手がいくら頑張ったとしてもヒットが見込めなくなり、サメ映画にかける予算は徐々に減っていきます。その結果、誰も知らないような役者ばかりが出てきて、映像としても非常にチープなサメ映画しか作れなくなりますよね。
そして次第にサメ映画はスクリーンの外へ追いやられ、ビデオ映画やTV映画としてのバジェットが主流になってしまいます。それが現代のサメ映画です。
もちろん中には『ロスト・バケーション』のようにそれなりの予算をかけて製作されているサメ映画だってありますが、それはほんのごく一部にしかすぎません。
その他の「シャークネード」シリーズや「シャークトパス」シリーズは、実はTV映画だったりします。(一部の国や地域ではイベント的に劇場でかけてもらえたりしますが…)
しかし、現代のサメ映画におけるローバジェット化は決して悪いことばかりでもないのです。
低予算だからこそできた…つまり、大作映画としてのノルマが無いぶん、作り手が好き放題にサメ映画を製作できるため、バカバカしいようなジャンルミックス化やハイブリッド・シャークを生むことも可能になったのです。
その結果、あまりの突拍子のなさに話題を呼び、「シャークネード」シリーズのヒットに繋がったという経緯もあれば、日本ではサメ映画のコアなファンも一気に増えたように思いますし、そもそも「サメ映画」という言葉がよく聞かれるようになったのも比較的最近の話ですから……。
(※筆者のサメ映画コレクションですが、まだまだ未完全…。)
さて、次回からはサメ映画と私自身の出会いにも通じる、いわゆるDVDスルー映画の魅力についてお話しできたらと思います。
レンタルショップの片隅で…「『アルマゲドン20××』ってなに~?パクリじゃん!ゲラゲラ…」と言われてしまうような映画の何が人を魅了するのか?を一緒に考えていきたいですね。
また次号でお会いしましょう。
あわせて読みたい
※ 『ブルックリン』から紐解く!ファッションが表現する色彩メッセージの秘密
※一瞬も目が離せない!劇中に没入しちゃう「長回し」が魅力的な映画3本
※園子温監督の衝撃ドラマ「東京ヴァンパイアホテル」
※2021年4月21日時点のVOD配信情報です。