泣ける!と評判のTVアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の魅力とは?ネタバレありで徹底解説!

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アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が泣ける理由は?ネタバレありで本作の魅力を徹底解説!

「泣ける!」といった触れ込みで近年紹介されることの多い、京都アニメーションが2018年に制作・放送したアニメーション作品『ヴァイオレット・エヴァーガーデン。放送以来続編の劇場版が製作されるなど、長らく親しまれる作品となりました。
そんなヴァイオレット・エヴァーガーデンはなんと、TVアニメシリーズが日本テレビ系列で放送をしていた作品ではないながら、日本テレビ系列の「金曜ロードショー」にて2021年10月29日にTVアニメのエピソードを厳選して編集した『ヴァイオレット・エヴァーガーデン特別編集版』として異例とも言える形での放送が実施されるという快挙を果たします。そんな特別編集版でもピックアップされる内容を中心に、予習・復習に抑えておきたい見所を紹介していきます。

TVアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のあらすじ

ヴァイオレット・エヴァーガーデン

とある大陸の、とある時代。大陸を南北に分断した大戦が終結し、世の中は平和へ平和へと向かう機運に満ちています。しかし孤児であり、軍人として育てられた少女ヴァイオレット・エヴァーガーデンは、唯一自身を大切にしてくれたギルベルト少佐と戦地で離ればなれになり、別れ際に告げられたある言葉を胸に抱いたまま、軍を離れて大きな港町を訪れます。人間らしい感情をあまり表に出さないまるで人形のような彼女は、そこで手紙の代筆業と出会い、“自動手記人形”の仕事に従事していくことになります。手紙を通じた経験を経て、次第にヴァイオレットは人の感情を知り、そしてかつて少佐に告げられた言葉の真意を知っていくことになります

もともと原作小説がお墨付きの『ヴァイオレット・エヴァーガーデン

アニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』にはもともと、暁佳奈氏による原作小説が存在します。京都アニメーションが主催する、小説・漫画・シナリオを対象としたコンクール「京都アニメーション大賞」に投稿された作品です。

「京都アニメーション大賞」は、これまで全10回開催されていますが、唯一大賞を獲得したのは、第5回京都アニメーション大賞で、小説部門にエントリーしたこの『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のみです。

『中二病でも恋がしたい!』、『境界の彼方』、『Free!』といった京都アニメーション作品も実は、同賞出身の作品なのですが、それらの作品群が届かなかった大賞を獲得しているという点でもすでにそのストーリーはお墨付きと言える状態だったわけです。

そして、すでに同賞からのアニメ化作品が多数輩出されていることもあり、原作の暁佳奈氏も賞への応募の際に、映像化を想像していたように、2016年には早くもTVアニメ化が発表されることになります。

ここまで高い人気を生み出した京都アニメーションの底力

原作がすでに高い実績を残しているとはいえ、今となってはここまでアニメーション版が高い支持を受けるほどにまでの作品に昇華できたのも、原作の物語に加えて、京都アニメーションの高いセンスと技術の功績も大きいでしょう。

実はTVアニメシリーズが放送される以前に、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は、小説版のプロモーションビデオとして2016年にアニメ化を果たしています。この時点ですでに、のちにTVアニメシリーズで監督を務める石立太一氏が絵コンテ、演出に名を連ね、キャラクターデザイン、作画監督には、小説版でイラストを担当している高瀬亜貴子氏の名前が確認できます。

詳細なストーリーを説明できないわずかな尺の中で、かつヒューマンドラマが中心となる本作の魅力をいかにして伝えるか。それを見事に、華美で鮮やかな映像に落とし込んで印象的な映像へと仕上げることに成功しており、京都アニメーションが早い段階から、いかにして映像に落とし込むかを考えていたのかが分かります。

舞台が作り出す受け取りやすい距離感

TVアニメの放送がスタートしたことによって、以前よりも多くの人に親しまれることとなった『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』ですが、これだけ浸透するに至った理由は、感動的なストーリー、緻密なアニメーションといった要素に加えて、本作が“受け取りやすい”作品になっていたことも要因の一つでしょう。

実は原作小説では、TVアニメシリーズよりも時系列が混在した状態で描かれています。それをヴァイオレットが戦場を離れ、手紙の代筆業に興味を持つところから物語をスタートし、無垢な状態から成長していく物語として見せるようにしています。おかげで、オムニバス形式の作品でありながらも、物語の推進力を感じながら物語を追っていくことができました。

作品の時代感も視聴している我々にちょうど良い距離感を生んでくれているように思います。観ているとすっかり、忘れてしまいそうになるのですが、実は本作が描いているのは“異世界”の物語。架空の国、架空の時代の物語で、ヴァイオレットの義手の技術などから分かるように、実は現実とも少し文明の違いもある世界です。ただし、描かれる舞台のライデンの街は第一次世界大戦後の欧州のような雰囲気を持っており、我々の世界と地続きのように思えます。そして本作のテーマとなっている手紙自体が、今やその多くがメールやチャットアプリに置き換わっていることなども相まって、本作がどこか懐かしい感覚で観られる作品となっています。

これが現代の物語であったり、現実の国の物語だったとしたら、もっとここで描かれる物語は生々しくなったりと、作品との距離感は変わっていたのではないでしょうか。架空の国のかつての時代に似ている世界の物語だからこそ多くの世代・立場の人が、ここで描かれる物語をフラットに楽しめるのでしょう。

ヴァイオレットはなぜ両腕を失うのか?

素朴な疑問として、そもそもなぜヴァイオレットは義手なのでしょうか。その両腕を失っているという特徴は、他のアニメーション作品であれば、もっと掘り下げられてもいい部分なのですが、その腕を失くしてしまったことに対して、ヴァイオレット自身はあまり嘆くこともなく、さらに言ってしまえば実はその腕を失くしていなくても大半のお話は成立します。それでもなぜ、ヴァイオレットが腕を失くしている必要があるかといえば、その腕がヴァイオレットの“喪失”そして、ヴァイオレット自身の機械地味た性格を象徴していると言えるでしょう。

孤児で何も持っていなかったヴァイオレットにとって、これまでは軍人という生きる道しかありませんでした。しかしそんなヴァイオレットは冒頭からいきなり戦争も終わり、兵士として戦う使命も、武器としての価値も、そして慕っていたギルベルト少佐さえも失ないます。そんなヴァイオレットにとっての消えない傷跡……忘れられない過去を象徴するように彼女は腕を失っているのです。

TVアニメ10話では、母の病を嘆く少女アンに対して、ヴァイオレットは珍しくその腕に言及し、仕方がないことの例としてアンを諭します。彼女の腕が過去を暗示していると思うと、よりヴァイオレットの言葉の重みが増してきます。

ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は恋愛物語ではない?

そんなヴァイオレットにとって、手紙の代筆をするきっかけとなる言葉こそ、ギルベルト少佐の「愛してる」という言葉でした。ヴァイオレットが、その言葉の真意を探るという筋書きだけをなぞると、一見恋愛を描いた物語のように思えるかもしれません。しかしTVアニメシリーズは、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』はヴァイオレットのその境遇をフックに、他者をいかに理解していくのか。そして喪失からどう立ち直っていくのかを描きます。そこには友人・家族・さらにより広く他者に対していかに理解していくのか、大切にしていくのか、という広義な愛が描かれています。そんなテーマも多くの人が物語を受け取りやすく感じられる理由の一つなのでしょう。

ただし、悲しいのはヴァイオレットはギルベルトの思いを後から理解するばかりで、ヴァイオレットの思いは今からは届かずじまいなところは切ないです。恋愛物語と思って観始めた人には、心残りとなる部分があるかもしれません。しかし、手紙は返信があってこそ。TVアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の物語は、映画『ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝 -永遠と自動手記人形-』で時代は進み、『劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン』で、ヴァイオレットの物語も次の段階へ進んでいきます

※2021年10月29日時点の情報です。

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