『ヴェノム』(2018)から3年。アメリカではコロナ禍における最大のオープニング記録を樹立し、全世界興行収入は400億円以上を記録したシリーズ第二弾『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(2021)が、いよいよ2021年12/3日(金)より日本でも公開された。
前作から引き続き、トム・ハーディ、ミシェル・ウィリアムズが続投。そして、“もう一人のヴェノム”こと宿敵カーネイジをウディ・ハレルソンが演じる。という訳で、今回は『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』をネタバレ解説していきましょう。
映画『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』あらすじ
地球外生命体のヴェノムと、奇妙な同居生活を始めることになったジャーナリストのエディ(トム・ハーディ)。彼は失ったキャリアを取り戻そうと、伝説の連続殺人犯クレタス・キャサディへの独占インタビューを敢行する。やがて、エディの腕に噛み付いたクレタスは、ヴェノムをも上回るパワーを持つカーネイジへと覚醒する…。
※以下、映画『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』のネタバレを含みます。
ヴェノムに関する基礎講座
まずは、ヴェノムに関する基礎講座。簡単にこの作品についておさらいしておこう。ヴェノムは、’80年代に刊行されたコミック「シークレット・ウォーズ」にヴィランとして初登場。その正体は、シンビオートと呼ばれる地球外寄生生命体である(毒ヘビやサソリが分泌する毒液のことを英語で venom=ベノムというが、名前はそれに由来している)。
最初はピーター・パーカーに寄生して“黒いスパイダーマン”となり、その後は新聞記者のエディ・ブロックに取り付いて、ヴェノムが誕生した。このあたりは、映画『スパイダーマン3』(2007)でも描写されているので、未見の方は是非チェックしてほしい。
シンビオートは、寄生した相手の能力をコピーできるというヤバい特性があるため、スパイダーマンに寄生したコミック版では壁に張り付いたり、蜘蛛の糸を出すことも可能。胸に白い蜘蛛のシンボル・マークがあるのはそれ故だ。映画『ヴェノム』にはスパイダーマンが登場しないため、コピー能力やシンボルマークはナシの設定になっている。
そして今回登場するのは、シンビオートが連続殺人犯クレタス・キャサディ(ウディ・ハレルソン)に寄生して誕生したカーネイジ。carnageとは大殺戮の意味で、泣く子も黙る超凶悪キャラである。
すでに前作の『ヴェノム』には、その布石が打たれていた。エディがアン(ミシェル・ウィリアムズ)に「スゴい人の伝記を書くんだ!」と豪語し、サン・クエンティン州立刑務所に出向いてクレタスにインタビューするシーンが、エンドロール後にインサートされているのだ。そしてクレタスはこんな不吉な予言をつぶやくのである……「いいか?ここを出たら大殺戮(カーネージ)になるぞ」と。
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そして物語は、今作『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』に引き継がれるのである。
バディ・ムービーというよりも、ほとんどラブコメ路線の第二弾
第1作『ヴェノム』の監督を務めたのは、『ゾンビランド』(2009)、『L.A. ギャング ストーリー』(2013)などで知られるルーベン・フライシャー。しかし今回は『ゾンビランド:ダブルタップ』(2019)のポスト・プロダクション作業で手一杯となり、やむなく続投を断念することに。
トラヴィス・ナイト(代表作:『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』(2016) )、ルパート・サンダース(代表作:『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017))、ルパート・ワイアット(代表作:『猿の惑星:創世記』(2011))などの名前が監督の候補に挙がったが、最終的に『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』監督の座を射止めたのはアンディ・サーキス。『モーグリ: ジャングルの伝説』(2018)の監督を手がけた人物……というよりは、モーションキャプチャ(人体など3次元の動きをデジタルデータに変換する技術)専門の俳優として、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのゴラムや、『猿の惑星』シリーズのシーザーを演じた人物、といった方が分かりやすいだろう。CGアクターとしての経験と知識が、本作の演出に投入されたのである。
とにかく驚くのは、ややホラー・テイストが強かった前作と比べて、圧倒的にコメディー要素が濃いこと。エディとヴェノムの微笑ましすぎる掛け合いが、本作のキモ。性格の異なる凸凹コンビが(というよりもこの作品では地球人と異星人という設定だが)、命がけでお互いを補完し合い、助け合うバディ・ムービーに仕上がっているのだ。
エディはこの映画で、NFLチームのデトロイト・ライオンズのジャケットを羽織っているが、これは’80年代を代表するバディ・ムービー『ビバリーヒルズ・コップ』へのオマージュ。この作品で主演のエディ・マーフィが、全く同じジャケットを着ているのだ(しかも、どちらも名前がエディである!)。
また、アンディ・サーキスは本作の製作にあたって、映画『おかしな二人』(1968年)を参考にした、と明言している。ニール・サイモンが原作・脚色を手がけ、ジャック・レモンとウォルター・マッソーが主演を務めたこの映画は、性格の異なる2人が同居することで巻き起こるコメディ作品。エディとヴェノムが取っ組み合いのケンカをしたり、意気消沈のエディを励まそうとヴェノムが朝食を振舞ったりするシーンには、明らかに『おかしな二人』の影響が見て取れる。
だが筆者はこの映画を観て、「バディ・ムービーというよりも、倦怠期カップルの痴話喧嘩を描いたラブコメなんじゃね?」と思ってしまった。ヴェノムはエディと出会って、初めてしっくり“寄生”できる相手を見つけた。二人はさっそく同棲生活を始めるも、ささいなことでケンカばかり。ヴェノムはエディに三行半を下して去っていくが、ぴったり“寄生”できる相手が見つからない。自分にはやはりエディしかいない……。アンのとりなしもあって、エディに「自分が悪かった」と謝らせ(そのとき、アンにヴェノムが寄生していることで、エディのアンに対する謝罪=愛の告白という構図になっているのも、巧い演出)、元サヤに戻る、という話。もう、完全にラブコメである。
『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』は、何よりもまず、ヴェノムとエディのイチャイチャぶりを堪能すべき映画なのだ。
ウディ・ハレルソンをキャスティングした意味とは?
連続殺人犯クレタス・キャサディを演じるのは、ウディ・ハレルソン。『ハンガー・ゲーム』(2012)、『スリー・ビルボード』(2017)、『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018)などで知られる名優だ。だが、このキャスティングには、いろいろな意味が含まれている(と勝手に筆者は思っている)。
ウディ・ハレルソンの父親は、マフィアに雇われていた殺し屋だった。殺人の罪で終身刑となり、獄中死。リアル連続殺人犯が実の父、というヘビーな状況で彼は育ったのである。やがて彼はニューヨークに渡り、本格的に演劇の道へ。ニール・サイモンの舞台でデビューを果たす。ニール・サイモン…そう、『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』の製作にあたって、アンディ・サーキスが参考にした映画『おかしな二人』(1968年)の原作・脚本を務めた人物だ。しかもウディ・ハレルソンは、1985年にニール・サイモンの娘ナンシー・サイモンと結婚している(数ヶ月に離婚しているが)。
さらに、ウディ・ハレルソンの代表作といえば『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(1994)。監督をオリバー・ストーン、原案をクエンティン・タランティーノが務めたこの作品は、ミッキーとマロリーのカップルが行く先々で殺人を繰り返す超バイオレンス・ムービー。実在の銀行強盗ボニーとクライドを思わせる設定だが(『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』にも、ボニーとクライドというワードが出てくる)、そのミッキー・ノックスを演じているのがウディ・ハレルソンなのだ。
連続殺人犯を父親に持ち、自らも連続殺人犯を演じたことがあり、ニール・サイモンにゆかりのある人物。クレタス・キャサディ役にウディ・ハレルソンがキャスティングされたのは、非常に理にかなった選択と言えるだろう。
MCUとSSUの合流!?ミッドクレジットシーンが意味するものとは
『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』のミッドクレジットシーンは衝撃的だった。どこかの南国らしきホテルでまったりしているエディとヴェノム。やがてヴェノムが「我々には800億光年にも及ぶ、シンビオートの集合知がある」と語り始め、その一端を少しだけ見せると豪語する。
やがて周りの景色がガクガクと歪み始め、二人はどこか別の場所に移動。そしてテレビでは、デイリー・ビューグル編集長のJ・ジョナ・ジェイムソン(J・K・シモンズ)が、「スパイダーマンの正体はピーター・パーカーだ」と伝えている。そう、『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019)のエンディングと同じシーンが描かれているのだ。これは、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)と、ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)の、歴史的合流とも言える。
ここで、スパイダーマンの歴史を少しだけおさらいしておこう。スパイダーマンといえば、MCUの人気キャラクター。当然そのヴィランであるヴェノムもその一員になりそうなものだが、かつてマーベルスタジオが映画化権をソニーに売却してしまったため、この作品はSSUのシリーズ第一弾作品という扱い。
紆余曲折あって、キャラクターの版権はディズニー傘下のマーベル、映画化権はソニーという複雑な状況になっているのだ。このあたりの顛末については、拙稿 映画『スパイダーマン: スパイダーバース』アメコミの世界をかたち作る多元宇宙とは?謎すぎるラストの意味とは?徹底考察【ネタバレ解説】をご一読ください。
つまり『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』は、『ヴェノム』の続編にして、SSUのシリーズ第二弾という訳。そのSSUが、まさかのMCUとの合流とは! ミッドクレジットシーンが意味するところは、エディとヴェノムが別のユニバース=MCUへ移動した、ということだろう。
来年公開される『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2022)の予告編で、サム・ライミ版『スパイダーマン』のヴィランだったドック・オクが登場していたことから、あらゆるスパイダーマン映画のマルチバース化が期待されている。今後『ヴェノム』シリーズも、そのマルチバース(すなわちスパイダー・バース!)の中で展開される、と考えてもいいのではないか。
すでにSSU第三弾として、ジャレッド・レト主演『モービウス』の公開がアナウンスされている。予告編ではヴェノムへの言及があるばかりか、『スパイダーマン:ホームカミング』に登場したヴァルチャー博士(マイケル・キートン)が登場していることからも、MCUとの関連性もバッチリありそう。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)DCエクステンデッド・ユニバース(DCEU)、そしてソニーズ・スパイダーマン・ユニバース(SSU)。アメコミ好きにはたまらない環境が整ってきた!
※2022年8月8日時点の情報です。