【ネタバレ解説】映画『ゴーストバスターズ/アフターライフ』なぜ脱コメディ作品となったのか?真のテーマとは?徹底考察

ポップカルチャー系ライター

竹島ルイ

映画『ゴーストバスターズ/アフターライフ』をネタバレ解説。

ゴーストバスターズ』(1984)、『ゴーストバスターズ2』(1989)の正式な続編『ゴーストバスターズ/アフターライフ』。監督は、オリジナル・シリーズの監督を務めたアイヴァン・ライトマンの息子ジェイソン・ライトマン

『gifted/ギフテッド』(2017)のマッケナ・グレイス、『アントマン』(2015)のポール・ラッド、ドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のフィン・ウルフハード、ドラマ『FARGO/ファーゴ』のキャリー・クーンが出演し、“新しいゴーストバスターズ”の物語が描かれる。

という訳で今回は、『ゴーストバスターズ/アフターライフ』をネタバレ解説していきましょう。

映画『ゴーストバスターズ/アフターライフ』(2021)あらすじ

シングルマザーのキャリー(キャリー・クーン)、その息子のトレヴァー(フィン・ウルフハード)と娘のフィービー(マッケナ・グレイス)は、父イゴン・スペングラー博士が残したオクラホマ州サマーヴィルの屋敷に移り住む。かつてイゴンはゴーストバスターのメンバーとしてニューヨークの危機を救った英雄だったが、晩年は一人サマーヴィルの家に立てこもり、家族やゴーストバスターズの仲間とも断絶していた。やがてフィービーは、イゴンの遺品の中から不思議な機械を発見。それは、かつてゴーストバスターズがオバケ捕獲のために使用していた「ゴーストトラップ」だった…。

※以下、映画『ゴーストバスターズ/アフターライフ』のネタバレを含みます。

遅々として進まないパート3企画、そしてハロルド・ライミスの死

まずは、この映画が作られるまでの経緯をおさらいしておこう。

シリーズ第一弾『ゴーストバスターズ』(1984)は、出演・脚本を務めたダン・エイクロイドによる企画。そもそも彼の一族は、幽霊に“取り憑かれた”人ばかり。「幽霊の歴史(A History of Ghosts)」という本を書いた父親、幽霊を見たことがあると主張する母親、ラジオで死者と接触する公開実験を行なった祖父、著名な霊能者の曾祖父などがいて、彼も幼少時から心霊現象を読み漁ってきたという。

やがて、『エクソシスト』(1973)のように祈祷で悪魔祓いするのではなく、「現代のテクノロジーで幽霊を捕獲する」というアイディアを思いついたダン・エイクロイドは、『ゴーストバスターズ』の原型となるシナリオを書き上げる。その時点では、アメリカの人気コメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」の仲間だったエディ・マーフィ、ジョン・ベルーシの共演を想定していたという。

本作の監督として白羽の矢が立ったのが、『ミートボール』(1979)や『パラダイス・アーミー』(1981)の監督を務めたアイヴァン・ライトマン。アメリカン・コメディを知り尽くした彼ならば、映画を確実に成功へと導いてくれるだろう、とダン・エイクロイドは考えた。さっそくアイヴァン・ライトマンにコンタクトをとり、話し合いを重ねる。さらに『パラダイス・アーミー』に出演したハロルド・ライミスも参画して、シナリオの骨格が形作られていった。

主演のピーター・ヴェンクマン博士役には、「サタデー・ナイト・ライブ」で人気を博していたビル・マーレイを招聘。ビル・マーレイ、ダン・エイクロイド、ハロルド・レイミス、そしてアーニー・ハドソンを加えた4人がゴーストバスターズのメンバーとなり、映画は1984年に公開。世界興行収入はおよそ3億ドルの大ヒットとなり、レイ・パーカー・ジュニアの主題歌もバカ売れ。続く『ゴーストバスターズ2』(1989)も大成功し、本シリーズは’80年代を代表するコメディ映画となった。

ダン・エイクロイドは、さっそく次作『ゴーストバスターズ3』の企画に着手。「死後の世界に転送されたゴーストバスターズの面々が、悪魔と対決する」というアイディアを思いつくが、ビル・マーレイがこのプロットを気に入らず、企画は頓挫してしまう。最終的にこのアイディアは、2009年に発売されたビデオゲーム『Ghostbusters: The Video Game』に踏襲されることに。ちなみにこのゲームの内容は、自然史博物館に飾られたゴーザが強大なエネルギーを放ってニューヨークを飲み込み、ゴーストバスターズたちが「ゴーストワールド」と呼ばれるポータルを通じて死後の世界へと向かう、というものだった。

ダン・エイクロイドとコロンビア映画は引き続き、『ゴーストバスターズ3』の可能性を探っていくが、なかなかアイディアはまとまらない。周囲に期待を持たせたまま、時間だけが残酷に過ぎ去っていく。そして2014年、イゴン・スペングラー博士役のハロルド・ライミスが69歳で死去。ゴーストバスターズは、共同脚本家でもあった重要なメンバーを失ってしまったのだ。

まさかのジェイソン・ライトマン登板

もはやオリジナル・メンバーでのシリーズ継続は困難と判断された『ゴーストバスターズ』は、2016年にポール・フェイグ監督の手によってリブート版が公開される(ビル・マーレイ、ダン・エイクロイド、シガニー・ウィーバーら主要キャストはチョイ役で登場)。メンバーが全員女性というフレッシュな内容だったが、興行的には大惨敗。当初は視野に入れていたリブート版の続編も、白紙となってしまう。

もはやこの偉大なフランチャイズは、完全に途絶えてしまうのか…という時に、監督として手を挙げたのがジェイソン・ライトマン。そう、アイヴァン・ライトマンの実の息子にして、アカデミー監督賞に二度ノミネートされた実績を持つ、実力派フィルムメーカーである。

筆者は、『ゴーストバスターズ/アフターライフ』の監督を彼が務めると聞いて、心底驚いた。予期せぬ妊娠をしてしまった16歳の少女を描く『JUNO/ジュノ』(2007)にせよ、一人の中年男性が人生の新しい価値観に気づく『マイレージ、マイライフ』(2009)にせよ、身勝手ヒロインが生まれ故郷に戻って青春の輝きを取り戻そうとする『ヤング≒アダルト』(2011)にせよ、彼の作風はスウィート&ビターな人間ドラマ。ブロックバスター作品には無縁な監督だと思っていたからだ。

実際ジェイソン・ライトマンは、MTVのインタビューで「もし、『ゴーストバスターズ』を自分で作るチャンスがあったらどうしますか?」と聞かれた際に、「史上最も退屈な『ゴーストバスターズ』になるだろうね」と答えている。ちなみに彼は、『ゴーストバスターズ2』で「(ゴーストバスターズは)たわごとばかりだ!」と一刀両断する子供の役で出演しているのだが、リアルな人間ドラマ志向の彼にとって、「SFお馬鹿コメディーはたわごとでしかない!」という率直な想いにも感じられて、ちょっと面白い。

だが結果的に『ゴーストバスターズ/アフターライフ』は、完全にジェイソン・ライトマンの映画になっている。父親のアメリカン・コメディ・タッチを継承するのではなく、『ゴーストバスターズ』というお題を自分の得意なテリトリー…すなわち「家族の再生の物語」に持ち込んで、自家薬籠中のものにしているのだ。

象徴的なのは、フィービーが劇中何度もジョークを披露するも、ことごとくスベっていること(ゴーザに対しても果敢にジョークをブチかましている)。それは、「この映画はコメディではなく、家族の再生のドラマなのだ」という、ジェイソン・ライトマンの所信表明のように思える。

本当の家族のサポートを受けて作られた、”家族の再生の物語”

ジェイソン・ライトマンが『ゴーストバスターズ』復活にあたって導き出したアイディアは、ハロルド・ライミス演じるイゴン・スペングラー博士を、物語の中心にすえることだった。スペングラーは研究に没頭するあまり、娘のキャリーと良好な親子関係を築くことができず、ゴーストバスターズのメンバーとも疎遠になってしまっている。そして、オクラホマ州サマーヴィルで大きな災厄が訪れることを予見し、未然に防ごうと孤軍奮闘するも、その地で命を落としてしまう。

やがてキャリーとその息子トレヴァー、娘のフィービーがサマーヴィルに居を移し、父の遺品を整理していくうちに、彼がこの荒れ果てた地で何をしようとしていたのか、そして娘のキャリーをどれだけ愛していたのかを知ることになる。完璧すぎるほどに「家族の再生の物語」なのだ。

家族の物語を語るにあたっては、本当の家族のサポートが必要となる。ジェイソン・ライトマンはプロジェクトの発足にあたって、父親のアイヴァン・ライトマンとハロルド・ライミスの家族に脚本を確認してもらい、了承を得るというプロセスを踏んだ。

「最初に脚本を読んだのは私の父でした。次に脚本を読んだのは、ハロルドの妻のエリカ、その子供たち、娘のヴァイオレットで、私自身も撮影現場で知り合ってそのまま大人になりました。彼らは映画の初日からこの作品の一部だったんです。脚本を読み、撮影に参加し、編集に参加する。私にとって、この映画はとても重要なものでした。彼らがOKを出さない限り、私はこの映画を作るつもりはありませんでした。私の知る限り、彼らはこの映画をとても誇りに思っています」
(出典元:ジェイソン・ライトマンへのインタビューより抜粋)
https://www.polygon.com/interviews/22792218/ghostbusters-afterlife-casting-story-interview-jason-reitman

キャリー役のキャリー・クーン、フィービー役のマッケナ・グレイスは、ハロルド・ライミスの娘ヴァイオレット・レイミス=スティールが出版した自伝「Life with My Dad, Harold Ramis」を読んで、役作りに活かしたという。本当の家族の想いを受け止めた上で、家族の物語を懸命に演じ切ろうとしたのだ。

「本当の家族」の話でいうと、金物屋の店主を演じているのはキャリー・クーンの夫トレイシー・レッツで、メドジャック保安官代理を演じているのは、ダン・エイクロイドの娘ステラ・エイクロイド。この映画、どこまでも「家族」にこだわっている。

ちなみに筆者的が一番アガったポイントは、ビル・マーレイとハロルド・ライミスが同じ画面に収まっていること(もちろん、ハロルド・ライミスは完全CGだが)。実はこの二人、『恋はデジャ・ブ』(1993)の撮影中に仲違いをしてしまい、犬猿の仲状態のままハロルド・ライミスは鬼籍に入ってしまった。

現実世界ではケンカ別れしてしまった二人が、スクリーンの中では二人が和解している姿を見ると、素直に感動してしまう。ジェイソン・ライトマンは映画という名の魔法を使って、ビル・マーレイの心を救済したのだ。

新しい世代への継承〜コメディからジュブナイルへ

オリジナル『ゴーストバスターズ』は、大都会ニューヨークを舞台に「サタデー・ナイト・ライブ」出身のコメディアンたちが丁々発止の会話を繰り広げる、都会派コメディだった。地球規模の災厄が訪れているというのに、悲壮感をまるで感じさせないお気楽な感じが、この映画のキモ。

しかし、『ゴーストバスターズ/アフターライフ』にそのようなテイストはナッシング。筆者が本作を観た時に一番感じたのは、『グーニーズ』(1985)や『エクスプロラーズ』(1985)のような、郊外を舞台にした’80年代アドベンチャー映画の影響だ。最近でも、Netflixドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』が大きな話題を呼んだが、この作品の舞台も’80年代インディアナ州の郊外だった。そこで描かれるのは、ジュブナイルの物語である。

トレヴァーを演じるフィン・ウルフハードは、『ストレンジャー・シングス 未知の世界』にマイク・ウィーラー役で出演。しかも、ハロウィンにゴーストバスターズの衣装で登場するシーンもあったりする。明らかにジェイソン・ライトマンは、『ゴーストバスターズ/アフターライフ』を「中年男性のコメディ」から、「少年少女のジュブナイル」へと変貌させようとしているのだ。つまり、「新しい世代への継承」である。

それは、『ゴーストバスターズ』という巨大なフランチャイズを父から息子に継承されたということでもあるし、ゴーストバスターズのメンバーがティーンエイジャーの若い世代に継承されたということでもある。映画のラストクレジットで流れるのは、フィービー役のマッケナ・グレイスが作詞・作曲・歌唱した「Haunted House」。さすが、かつて『gifted/ギフテッド』で天才少女を演じたマッケナなり!

偉大なコメディアンたちによって産み落とされた『ゴーストバスターズ』シリーズは、今後若い才能によって引き継がれていくのだろう。

ゴーストバスターズ/アフターライフ』作品情報

■公式HP:https://www.ghostbusters.jp/
■配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

(C)2021 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.

※2022年2月12日時点の情報です。

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