TOKYO MXの人気バラエティ番組「バラいろダンディ」で、玉袋筋太郎(以下:玉さん)&RHYMESTER 宇多丸(以下:宇多さん)の映画好きコンビが月に一度とっておきの映画を解説するコーナー「水曜バラいろショー」。
10月のテーマは「時代劇映画」。コーナー開始2周年を迎えた今夜は、スペシャルゲストを招いて、時代劇の魅力をたっぷりと語ってくれました!
祝コーナー2周年!スペシャルゲストは時代劇研究家・春日太一さん
宇多:玉さん、信じられないことに、このコーナーも今月で2周年ですよ!
玉:2周年!!
宇多:はい、始まった当初はですね、すぐTSUTAYAさんが怒って終わるかなと(笑)
玉:そうそう。撤退かと。
宇多:『グリーン・インフェルノ』っていう映画で「美味しいお肉映画」なんてテーマをやっちゃってんだからさ、すぐ終わるかと思ったら。
玉:2周年!見てよ、これ。
宇多:(お祝いの花を)TSUTAYAさんとFilmarks(フィルマークス)さんからいただいて。
玉:これは、うちのスタッフの自作自演じゃない?
宇多:違いますよ!スナック玉ちゃんじゃないんだから。
玉:さあ、本日のテーマはこちらだ!
玉:時代劇映画!
宇多:2周年記念で急にテーマを広げすぎまして。
玉:幅広いよ〜。
宇多:わりと今まで狭いところをね、たとえば「車飛ばし映画」とかってテーマをやってましたけど。今回は2周年で気負ってテーマを広げすぎて、我々の手には負えないと。そこで、素晴らしいスペシャルゲストをお呼びしました! この方!
宇多:時代劇研究家の春日太一さんにお越しいただきました。
[ゲスト紹介映像ナレーション]
日本でただ1人の時代劇研究家・春日太一。撮影所や俳優への徹底取材をもとに、これまで数多くの時代劇に関する書籍を出版。京都時代劇の歴史を追った映画『時代劇は死なず ちゃんばら美学考』の制作にも携わる。
春日:よろしくお願いします!
宇多:春日さんのいろんな研究というか、著書が、本当に日本映画史的にめちゃめちゃ価値がある。読み物としてもめちゃめちゃ面白いですし。
玉:すごいんだから。
春日:ありがとうございます。
宇多:本を読むと、すぐにその映画を見たくなる。素晴らしい。
玉:そして、まだ40歳の若さでですよ。
宇多:めちゃめちゃモノ知ってます。そして、我々の飲み仲間でもあるというね(笑)
玉:この後どうなの?
春日:空いてます(笑)
宇多:私はツアー初日なんですけど、まあ行きますよ。さあ、世の中の皆さん、今の若い人も含め、時代劇映画というとどんな作品を思い浮かべるのか。TSUTAYAさんがオススメする国内最大級の映画レビューサービス「Filmarks(フィルマークス)」によるランキング。Filmarksのランキングなかなか信頼できますから、見てみましょう。こちらです、どうぞ!
Filmarks時代劇映画ランキング TOP15
15位:『たそがれ清兵衛』(2002年)
14位:『徳川セックス禁止令 色情大名』(1972年)
13位:『壬生義士伝』(2003年)
12位:『股旅』(1973年)
11位:『蜘蛛巣城』(1957年)
10位:『赤穂浪士 天の巻・地の巻』(1956年)
9位:『隠し砦の三悪人』(1958年)
8位:『座頭市物語』(1962年)
7位:『仇討』(1964年)
6位:『幕末太陽傳』(1957年)
5位:『用心棒』(1961年)
4位:『赤ひげ』(1965年)
3位:『椿三十郎』(1962年)
2位:『切腹』(1962年)
1位:『七人の侍』(1954年)
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宇多:1位『七人の侍』! これはもう時代劇映画というか、日本映画史のトップ級だと思います。
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玉:先生から見てどうですか? このFilmarksのランキングは。
春日:もうセンスの塊ですね。僕がゲストに来るのを知っていてやったんじゃないか、みたいな。
玉:ぐらい?
春日:ぐらいの。
宇多:Filmarksの評価は本当に信頼できます。やはり黒澤明監督強しって感じはあるけど、どのあたりが「わかってるな」と思います?
春日:あとでゆっくり話そうと思うんですけど、時代劇って実はなんでもありの世界なんですよ。『七人の侍』の黒澤明の人馬入り乱れる大アクションもあれば、2位の『切腹』は竹光(削った竹を刀身に見せかけて作った偽物の刀)で切腹する貧しい侍のお話ですよ。
宇多:封建社会の理不尽ですね。
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春日:と思ったら、3位の『椿三十郎』は世界初のスプラッター映画ですよ。4位の『赤ひげ』は人情劇があり、5位『用心棒』は西部劇、6位の『幕末太陽傳』は落語、それから7位の『仇討ち』はちょっとまた変わり種の悲劇があり、そして『座頭市物語』。それから9位の『隠し砦の三悪人』、これは「スター・ウォーズ」の元に(なっている)。
玉:『スター・ウォーズ』の元だもんね!
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春日:13位『壬生義士伝』と15位『たそがれ清兵衛』は新しい、2000年代に入ってからの作品になりますけど、基本的に時代劇が面白い時代は、1950年代、60年代、70年代なんですよ。
宇多:これは、後ほどのお話につながります。特定の技術が非常に必要なジャンルなので。
春日:14位が『徳川セックス禁止令 色情大名』、見事ですね。
宇多:これが入っているのがさすが!
玉:これはさすがだよ。
春日:見事ですね。時代劇はポルノもできる。
玉:なんでもあり。
春日:しかも、これは社会派ポルノですからね。
宇多:今日は、そんな時代劇のさまざまな魅力を、春日さんにぜひ解説していただきたいということで、お願いいたします。
MARVELもびっくり!時代劇映画はファンタジーだ
玉:春日先生が挙げる時代劇の1つ目の魅力はこちら! 時代劇映画の魅力その壱「時代劇はファンタジーである」と。
宇多:その心は?
春日:時代劇って、よく「水戸黄門」だとか「暴れん坊将軍」とかみたいに、勧善懲悪でめでたしめでたしみたいな、そういうものをみんなすぐ思い浮かべて、ちょっと古臭いとか。
玉:お約束のね。
春日:ある種、ご高齢の方が見るみたいなイメージがありますけど、Filmarksのランキングをもう1回ご覧になっていただければわかるんですけど、実は時代劇の最大の強みは何かっていうと、何をやっても許されるというところなんですね。
春日:例えば、日本の普通のアクション映画や現代劇で、大きなスケールで何かやるってなかなか難しいんですけど、時代劇であれば、『七人の侍』のように大量の野武士と侍たちが大アクションを雨にまみれながらやることができるとか。
宇多:西部劇を置き変えて、『用心棒』とかも出てきたり。
春日:『仇討』なんていうのはちょっとまた変わり種で、仇討ちっていう、恨みを晴らす武士をテーマにしてますけど、これをショーにしちゃうわけですね。そこに、お客さんを入れて興行にしちゃうっていう映画。
玉:スゲェ!
春日:そんなのもあれば、『股旅』なんていうのは当時のヒッピーですね。青春映画!これを時代劇に置き換えてある。
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春日:『徳川セックス禁止令 色情大名』はポルノ映画なんですけど、社会批判、権力批判をやっちゃってる。それをエロに置き換えてやれるっていうことで。実は時代劇はなんでもやれるという。要は昔話なので。
玉:そっか!
春日:そうなんですよ。現代だったら、今のお客さんが見て「それはないよね」とか「そんなこと今ありえないよ」って言えますけど、昔ですから。「知らねぇよ」と基本的にはなるので(笑) 何をやってもいい。だから、たとえば今BGM音楽が流れている『服部半蔵 影の軍団』。
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春日:ものすごいスペシャルな強い忍者がいて、すごい忍法をやって相手を倒していくなんていう奇想天外な話も成り立てば、剣豪だったりとか、武将だったりとか、こんな人や世界があったらいいねっていうのを具現化できる場所ですから、そういう意味ではファンタジーで。
玉:ファンタジーだな!
春日:何をやってもいいんですよ。
玉:マーベル・コミックもびっくりだな、これ。
宇多:本当本当。トリッキーなことできるしね。
春日:日本でマーベルやるなら、時代劇が一番やりやすいっていう。
宇多:『七人の侍』なんてアベンジャーズ的な、チームものの要素もある。
玉:アベンジャーズだよ。
宇多:いろんなキャラクターがいて。
春日:強大な敵に立ち向かっていくって話ですから。それができるわけですよね。
高い技術力があってこそ「ちゃんばら」は面白い
玉:じゃあ続いて、2つ目の魅力はこちら! 時代劇の魅力その弐「ちゃんばらの美学」。
宇多:まさにDVDが発売される映画『時代劇は死なず ちゃんばら美学考』ですね。
春日:はい、この『時代劇は死なず ちゃんばらの美学考』っていう映画は、僕も出させてもらっていて。タイトルの「時代劇は死なず」って、僕が最初に書いた本のタイトルを今回この作品つけさせていただいたという。いろんな時代劇の関係者たちの証言をやっている作品なんですけれども。
宇多:ちゃんばらの魅力といえば?
春日:やっぱり日本映画って、なかなかアクションって難しいわけですよ。なんでかっていうと、ピストルとかカーチェイスとかって、日本でやると嘘くさくなる。撮影もしにくいしっていう。そこで助かるのが、時代劇にすれば刀っていうものがあるので、侍なら刀を使うだろうと。それで殺し合うだろうということで、日本でなかなかできにくい「命のやり取りのアクション」っていうのが、時代劇なら成り立ってしまうという。だから、時代劇のアクションの一番の魅力はちゃんばらである、という。
玉:ちゃんばらね。
春日:ちゃんばらの迫力をどれだけ出していくかっていうことで。しかも、刀を振ってる人たちが技術があればかっこいい。
宇多:『時代劇は死なず ちゃんばらの美学考』に出てくる松方弘樹さんもね!
玉:松方さんやっぱりすごい。今やっている時代劇の人たちも確かにいるんだろうけど、やっぱりね、本物ですからね。
春日:(松方さんの)動きを見たらわかるんですけど、刀を持っていなくても、持っているような迫力がある。動きができてるのでね。(刀を振るのが)速い。あと、速く見えるのは、松方さんもこの映画の中で解説していますけど、「止め」があるから。静かに止めるところ。
宇多:振り切るんじゃなくて。
春日:止めて、グッと見せるところ。動き的には、最近の時代劇映画のほうが遥かに速いですけど。
宇多:キュッと(止めて)、見栄をきちっと。
春日:緩急をつけているんですよね。野球と同じで、ストレートを投げてからカーブを投げるからストレートが速く見えますけど、ストレートばっかり投げてたら速さを感じなくなってくる。その緩急を松方さんは全てできているので、ササっとすごく速く見える。
玉:(技術に)価値があるな。
春日:そこがまたアクションの魅力になってるっていう、素晴らしいわけですよ。
多くの“技”が集まってつくられる、それが時代劇
玉:時代劇の魅力の3つ目は「スタッフの職人技」。
宇多:ある意味、これ一番大事なところ! まさに春日さんが研究されてきたところ。ちゃんとスタッフの技術が積み重ならないとできないわけですよ、時代劇っていうのは。
玉:撮影!照明!ね!
春日:ファンタジーなので、現代だったらそのまま場所を映せますけど、時代劇はゼロから世界をつくらないといけない。美術だったりとか照明だったりとか、全部ゼロからスタッフがつくっていくわけです。
宇多:昔だったら、セットをドンってやって、スタッフでワーッといって、それをぼんぼん量産していたけど。
春日:そうです。そのセットも、ただ単に美術館的に再現すればいいんじゃなくて、人が住んでいるわけなので、そこに垢(あか)の跡だったり、ほこりの跡だったり、それも全部スタッフが再現していくっていう。
宇多:春日さんは学生時代、撮影所に住みこまれて研究されてきていらっしゃる。
春日:現場のスタッフさんたちと一緒に寝泊まりして。
宇多:役者さんインタビューも素晴らしい研究がいっぱいありますので、春日さんの本を読めば、もう全部わかる。
春日:よろしくお願いいたします。一度、エキストラやってひどい目に遭いました(笑)
玉:出たんだ(笑)
春日:出ましたよ。そしたら、歩き方から…。
宇多:でも、歩き方ひとつをとっても、時代劇のリアリズムっていうのがありますから。
玉:仲代達矢さんが黒沢監督に歩き方ひとつで怒られたっていう。
春日:そう。半日指導されたっていう。エキストラなのにね。
宇多:有名な話ですね。そんなことも春日さんの本に出てきますからね。ということで、春日さんの時代劇映画に関する魅力を語っていただきましたが、最後にまとめよろしくお願いします!
春日:はい、こちらです!
春日:「気楽に見てください!」というね。
玉:いろいろ解説はしたけれども(笑)
春日:はい、とにかく時代劇っていうと、知識がないといけないんじゃないかとか、昔のこと知っていないといけないんじゃないかとか、昔の言葉がわからないとかいろいろありますけど、気楽にエンターテイメントとして楽しんでほしいです。(僕の本を読めば)こんな風に見るポイントがあるんだってこともわかってきますけど、そうじゃなくても普通に映画を見てもらって、かっこいいっていうところを探してもらえれば。どこかしら面白いところが見つかると思うので、気構えずに見てもらればと思っております。
玉:時代劇は死なないぜぇ!
宇多:ありがとうございました。このあと、一杯やりにいきましょう。
次回11月のテーマは「クズ男映画」
宇多:玉さん、次回11月のテーマは何でしょうか。
玉:時代劇ときたら、来月も堅く!
宇多:堅くね!
玉:「クズ男映画」!
宇多:春日さん、今回はどうもありがとうございました。ということで、以上、
宇多・玉:「水曜バラいろショー」でしたー!
■オトナの夜のワイドショー!「バラいろダンディ」番組公式サイト
(月〜金曜日 21:00〜21:55放送)
水曜バラいろショー過去放送分 書き起こし
- 宇多丸おすすめのフィルム・ノワール新傑作『マジカル・ガール』
- 男性必見!悲哀なプレイボーを描いた名作『カサノバ』
- Jホラーを代表する2大巨頭のデスマッチ映画『貞子vs伽倻子』
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