臼田あさ美×太賀 終わりゆく恋に向き合い続けた3週間「いい作品になる予感がずっとあった」【ロングインタビュー】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

役者という仕事は、たとえ人を殴ったり殺したことがなくても殺人者の役をやるし、うつけではなくても本当に間抜けなように見せる役だってやるもの。だから、南瓜とマヨネーズで同棲中の恋人と過去の恋人の間で揺れるツチダを演じた臼田あさ美も、ミュージシャンでありながら曲が書けないためにツチダに甘えヒモ生活を送るせいいち役の太賀も、自分とはほど遠い人物であっても、まるでそういう経験があるかのような佇まい、リアルなトーンで作品に収まった。

「臼田さんが僕の目の前でツチダでいてくれたので、せいいちになれた」と太賀に言わしめたほど、臼田はツチダであり続けたし、本作にてどちらかと言うと「受け」の演技で、感情のひだを表現した太賀との撮影を、臼田は「この時間は二度と味わえなくて、尊いものなんだなとすごく感じた」と讃え合った。濃密に過ごした3週間、劇中では恋が終わっていくふたりなのだが、現実では作品を通して役者としての絆が結ばれたようにみえる。両者に、ロングインタビューを敢行した。

南瓜とマヨネーズ

――久々に、リアルに共鳴してしまうような恋愛映画を観たという感想を持ちました。臼田さんに関しては、特に思い入れの深い作品になったんでしょうか?

臼田:原作を読んだときと、脚本を読んだときと、演じていたときと、今も変わらずに思うことは、せいちゃん(せいいち)をなんとかしてあげたいっていうことです。共感という意味では、ツチダの選んだことややってきたこと、やっていることは、私はあまり共感できない。けれど、せいちゃんのことだけは、ものすごく自分の中でも同じ気持ちになれるところがあって。そこがずっと変わらなくて、この作品をちゃんとやりたいっていう思いにつながったエネルギーになっています。私にとっては、すごく大事なことでした。

――せいちゃんへの思いは、徐々に強くなるような感じだったんですね。

臼田:そうですね。なんか、そう……「もっと頑張ってよ、せいちゃん!」みたいな気持ちはずっとありました(笑)。

太賀:(笑)。

臼田:このストーリーを言葉でなぞると、彼氏のために自分が体を売って、キャバクラでも働いて、結果、全然うまくいかなくて。本当に悲しく、暗いお話になっちゃうんですけれど。それでも一生懸命生きているという説得力は、絶対に持ちたかったんです。ツチダを正当化するわけじゃないけれど、こういうふたりの形は間違っていなかったよ、と思うし。「このときはお互い、こうするしかなかったんだよね」という気持ちは、なんか肯定してあげたいというか、すごく丁寧でありたいと思いました。

南瓜とマヨネーズ

――作品にすごく表れていたような気がします。太賀さんは、原作を読まれて、台本を読まれて、臨まれて、と順を追うと、どのような気持ちで進んでいかれたんですか?

太賀:そうですね……何なんだろう……。原作も脚本もそうなんですけれど、「この作品はいい作品になるんじゃないか」という予感はずっとしていて。だからこそ、やらせてもらいたいと思ったんです。そうなると、自分がせいいちという役を演じるのに、まぁこう……ある種、プレッシャーを感じながらやっていました。でも、臼田さんと一緒にシーンを作っていく段階になると、すごく心強くて。やりながらも、やっぱり「これはなんとか、いいものになるんじゃないか」という思いでやっていけました。

――せいちゃんは、難しくなかったですか?

太賀:うーん。今まで自分が演じてきた役とせいいちって、あまり似ていなくて。別に特徴があるような役でもないんですけれど、掴みどころのなさとか。そういう部分では、ちょっと苦戦した部分はあったかもしれないですね。それまでに、自分とせいいちとの共通点だったり、そこからせいいちと自分との間にある、埋めなきゃいけない溝みたいなものは明確にできたので、そこは役作りしていく上で埋まっていったのかなというような気もします。でも、本当に臼田さんが僕の目の前でツチダでいてくれたので、そういう意味でもスッと、せいいちになれましたね。本番のときは。

――お互いに引き出し合うような面が、現場ではあったと。

臼田:そうですね。自分ひとりで考えたことよりも、目の前で起きていることを見たり、感じたりすることのほうが、その人であれるかなという感じは常にありました。

――すごく生っぽい独特な空気感があったのですが、現場で生まれていったことが多かったんでしょうか?

臼田:演出で、ちょっと脚本にはない部分で付け加えたりというのは、少なからずあったと思うんですけれど。でも、それが急にハンドルを切って、何かが変わるというほどのことではなかったし。そうだよね?

太賀:そうですね。僕は臼田さんとのシーンがほとんどだったんですけれど、臼田さんと僕の中で生まれてくる空気感は、何だろうな……何て言ったらいいんだろう!言葉にするのが難しいけど、作品にとって本当にいい空気だったと思います。

南瓜とマヨネーズ

――ところで、本作では太賀さんの歌声の美しさにびっくりしました。

臼田:(笑)。

太賀:ふふふ、いえーい!

――もともと冨永昌敬監督や制作の方々などは、太賀さんの歌の上手さを知っていてオファーされたんでしょうか?

太賀:いや、分からないんです。でも、プロデューサーの甲斐さんとは、この映画をやる前にカラオケをしたことがありました(笑)。

――説得力のある歌声が、この映画の副産物という気がしています。劇中で歌を披露することは、どんな感じなんですか?

太賀:いやあ……。今回に限ってはちょっとアンサー的な部分があるし、やくしまるさんが書いてくださった曲がやっぱり本当に素晴らしくて、この映画を総括しているような歌にもなっていたんです。ツチダの「せいちゃんの歌を聞きたい」っていうところからも始まっているし、「自分が下手こいたらどうしよう!」っていう。そういうプレッシャーが、本当にあって(笑)。

臼田:あはは(笑)。

太賀:きっと歌にもいろんな種類がある中で、かつ共感を呼べる、呼べなきゃいけない。例えば、サラリーマンの役で、その人が酔っ払った帰りに夜道を歌いながら歩くとか、そういうシーンではないじゃないですか。自分がミュージシャン(役)であるという、ひとつの説得力を持たないといけないから、それはすごくハードルが高かったような気がして、そういう意味でもプレッシャーはすごく感じていました。

南瓜とマヨネーズ

――プレッシャーを跳ね飛ばすような、素敵な場面でした。歌うまでの過程で、せいいちが「何でこんなになっちゃったんだろうな」と言い、ふたりが離れてゆく場面がありますよね。非常に切ないあのシーンのエピソードなどもあれば、教えていただきたいです。

太賀:あそこは、「こうしよう」とかは話していなかったんですよね。

臼田:すごいよね、今思うとね。タイミングとか、カメラの位置とかの関係で、あのシーンは何度かやったんです。

太賀:そうですね、何回もやりましたね。

臼田:壁の向こうで、太賀くんの気持ちも溢れちゃっていて。私は私で、もう何回かやっちゃうと、これちょっと絞り切っちゃってないかも、ぐらいになっていたんです。そのとき、むしろ一言もしゃべっていないよね?

太賀:あのとき、しゃべっていないです。

臼田:そのくらい、絞り切った雑巾を、さらに絞られる状態にいたよね。なんか、「しんどい……」という感じでした。

太賀:映画の中ではそこまでする必要はきっとなかったんでしょうけれど、やっぱり気持ちが溢れる……溢れてしまって、きっと必要以上に、せいいちとしては、なんか感情的になってしまったこともあったと思うんです。それは後々、調節することになるんですけれど。そういうふうに、今まで撮ってきた撮影期間の中では、それぐらいに濃密な時間でした。

南瓜とマヨネーズ

――あの場面以外では、よくお話もされていたんですか?

臼田:「ここってこういうことだよね?」とかは、多少話し合ったんですけれど、技術的なことは一切話していなくて。それよりも、私は太賀くんと、その場のものやその瞬間に思っていることとかを共有するような感覚がありました。だから役や芝居についてとかよりは、同じ空気を吸って、同じ空気をため息で吐き出して、みたいな。それを共有することのほうが、すごい大事だったように思っていました。

もちろん役作りとかは、作品によっても、役によっても絶対違うと思うので、正解はないんですけれど。今回はそういうことからはみ出した感情が、全部、映像に映っていることがベストだったと思うんです。そういう意味では、すごくいい現場というか、この映画を作る上で恵まれたキャストの方だったし、環境だったし。そういう場所に身を置けたなと思っています。

太賀:ホント、そうですね。一緒にいる時間というか、現場の待ち時間でもそうですけれど、別に何かの言葉を交わすよりかは、ボーッと縁側から外を眺めているとか、そういう時間がすごく印象的でした。物語自体も、ふたりがすれ違っているというか、うまくいっていないところからのスタートだから、満たされている時間ってあまりないと思うんです、映画の中で。だから、それ以前の信頼関係というか、そういうものを作る上では、臼田さんとは一緒の時間を過ごせたのも本当に良かったし、こういう形で実っているんじゃないかな、というふうに思います。

――おふたりは本作を特にどういう方に届けたい、などの気持ちはありますか?

臼田:ずば抜けたメッセージ性みたいなものは、ない作品だと思っているんです。それが、この作品のよさと言うと、なんか難しいんですけれど。「じゃあ、何がこの作品のいいところなの?」と思ったら、いい思いだけした人はいないし、だけど、「あのときすごい頑張っていたし、すごい輝いていたし、すごい情熱があったな、愛を持っていたな」みたいなことが、いかに尊いかを思い知らせてくれる作品だと思いました。映画自体を客観的に観ることは私はできないですけど、映画を撮っていたあの時間も、すごく貴重で、すごく尊くて、みんながすごく輝いていたし。きっと私も、あの時間は二度と味わえなくて尊いものなんだなっていうのを、とても感じました。

太賀:本当に今、臼田さんがおっしゃっていることが共感できて。それまでのことを肯定してくれる映画だと思います。なんか、すごく。そのとき感じていた葛藤とか、迷いとか、人としての矛盾とか、そういうものですれ違ってしまったこととかもあると思うんですけれど。そういったことも、すごく肯定してくれているような映画になっているんだなと思います。脚本を読んでいて、これはそういう映画だっていう確信を持って演じていたわけではなかったし、それは、もしかしたら自分が演じて、映画として作品になって観たときに、それまでのプロセスで感じたことなのかもしれないし。今話したことが、この映画の強さになっているような気がします。

南瓜とマヨネーズ

――作品の中でふたりのカップルとしての幸せな場面って、ほぼなくて、川島小鳥さんのお写真が空白の時間を埋めてくれているようです。実際、撮影はいかがでしたか?

臼田:小鳥さんは元々映画の写真を撮る人ではなくて、本来は作品を作っている人なので、新鮮な感じもありました。撮影用に1日だけ設けてもらって、太賀くんと私と小鳥さんとで撮影をしたんです。劇中の延長じゃない写真がいっぱいあるんですけれど、なんか……、本当に楽しかったです! スチール撮影のときは、「(ふたりが)仲がいい時期でもいいよ」みたいな感覚だったので、いがみ合わずにいられることがいかに幸せか、みたいな(笑)。

太賀:(笑)。

臼田:ただただ楽しいなという感じでした。後後々せいちゃんと、ああいう時間があって、今こうなっちゃっているっていう切なさにもつながったこともあったので、本当にいい時間でした。

太賀:ポスタービジュアルを見ても思うことは、やっぱり小鳥さんという写真家が、こうやって参加してくださったことに本当に意味があるというか、助けられた部分が多いにあると思います。ある種、コラボレーションだと思うし。ずっと3週間、毎日のように、冨永組のひとりとして現場に川島小鳥さんが入っているのは、やっぱりちょっと「うわーっ、すごいな!」というのもありましたね。僕も臼田さんも交流がある方なので、すごくそういう意味でも頼もしくて、よかったです。うん。(インタビュー・文:赤山恭子、写真:市川沙希)

映画南瓜とマヨネーズは11月11日(土)より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー。

南瓜とマヨネーズ
(C)魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会

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※2022年2月27日時点のVOD配信情報です。

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  • ろく
    5
    その歌がとても可愛くて、尊くて、私は泣いた 最後のセリフが頭に残る 綺麗なお話では無いのかもしれないけど私にはすごく澄んでいる海のようでした 2人の真っ直ぐさが、生きていることが、救われる世界ですように たくさん泣いちゃった 好きだったな〜〜こんな素敵な映画に出会えたこと、嬉しく思います
  • Suzu
    -
    オダギリジョーの色気ムンムンかと思いきやたいがもなかなかのいい男。 恋って正解ないからややこしいよね
  • いくよ
    4
    なんか、人を大好きになる懐かしい気持ちを思い出した、切なかったり楽しかったり 仲野太賀、若葉竜也、オダギリジョー 出てたら、見ない訳ない。 のに、なぜかまだ見てなかった。 原作は読んでませんが、ストーリーよりも 役者さんみんなが自然で、なんだか身近で起きてる出来事を見ているよう。 良かったです。
  • りん
    -
    邦画の醸し出すこの手の空気感とオダギリジョー
南瓜とマヨネーズ
のレビュー(51429件)