【犬王特集 vol.2】体が勝手に動く臨場感!湯浅政明監督が描くロック・オペラを徹底解剖

日本界アニメきっての個性派、湯浅政明監督の最新作『犬王』が5/28(土)、いよいよ公開されます。

室町の動乱の時代に活躍した実在の能楽師、犬王の知られざる生涯を描くこの作品は、湯浅監督らしい大胆な解釈によって生まれた斬新なミュージカル・アニメ―ション。FILMAGAでは、全3回の連載で映画『犬王』の魅力をお届けします。

2回目となる今回は、本作のキモとなる音楽面について徹底解説していきましょう。

気分は完全にロックフェス!ポップスター・犬王のアツいライブ・パフォーマンス

犬王は、室町期に活躍した実在の能楽師。当時その人気ぶりは凄まじく、観阿弥・世阿弥に匹敵するほどだった、言われています。

謡(うたい)や囃子(はやし)をバックに舞い踊る、厳かで優雅な世界。しかし、いま最もパンクでロックなアニメーション作家・湯浅政明監督は、古来から伝わる伝統芸能すらも、エレキギターの轟音が鳴り響くパンクでロックなサウンドに塗り替えてしまいました。室町のポップ・スター・犬王を、現代的に再解釈しているのです。

物語の前半では、異形の能楽師・犬王と盲目の琵琶法師・友魚との出会いと友情が描かれますが、後半はもうほとんど『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)のような展開。クイーンのフレディ・マーキュリーが、「ハマー・トゥ・フォール」や「伝説のチャンピオン」を熱唱するクライマックスのライブ・パフォーマンスは、今思い出すだけでも超胸アツですが、『犬王』も負けず劣らずのライブ・シーンの連続。気分はもう完全にロックフェス!

湯浅政明監督といえば、独自の世界観でキャラクターの身体表現をする作風で知られていますが、この作品でもステージ狭しと舞い踊る犬王の姿を、アクロバティックに、ダイナミックに、そしてエレガントに描き出しています。アニメーションならではの自由な表現と、ロック・ミュージカルを重ね合わせることによって、体が勝手に動いてしまう“極上ライブ映画”が誕生したのです。

型にはまらない自由な発想。犬王&友魚が奏でる新しい「ロック・オペラ」

湯浅政明監督は映画を制作するにあたり、実在のロック・バンドをイメージして、音楽の方向性を決めていったと発言しています。

制作段階でイメージしたバンドの一部にディープ・パープルやクイーンがあったそうですが、実は両バンドとも、クラシック音楽の影響が強いグループ。ディープ・パープルは、1969年の「ディープ・パープル・アンド・ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ」というライブ・アルバムで、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団とコラボしていますし、クイーンも“オペラ的”と形容されることが多いバンド。代表曲「ボヘミアン・ラプソディ」は、まさにオペラのように荘厳な曲調と複雑なコーラスワークが特徴的です。

笛、小鼓、大鼓という伝統楽器にとらわれず、能楽×ミュージカルという大胆な切り口で型にはまらない音楽を創り上げた『犬王』も、まさしくロック、オペラ、さらにはヒップホップやクラシック的なスピリットに溢れた作品といえるでしょう。本作の音楽を務めているのは、NHKの連続テレビ小説『あまちゃん』(2013年)で知られる大友良英。元々彼はフリー・ジャズの分野で活躍してきたミュージシャンで、実験的な前衛音楽も数多く発表しています。

犬王&友魚が奏でる新しいロック・オペラは、型にはまらない自由な発想を持つ音楽家の手によって生み出されたのです。

犬王を演じる女王蜂アヴちゃんの、ロック芝居に刮目せよ!

ロックはいつだって、反骨精神に溢れた反体制の音楽でした。既存のルールをぶち破るエンターテインメントだからこそ、大衆はその音楽に熱狂し、拍手喝采を送ったのです。その気持ちは室町時代であろうと、令和であろうと変わりません。今から600年以上昔の物語に我々が感動してしまうのは、ロックが意味するものが時代を超えて不変的なものだからでしょう。

本作で犬王を演じているのは、ロックバンド・女王蜂のボーカルを担当しているアヴちゃん。その演技は自由奔放で、耽美的で、それでいて情熱的。アヴちゃんが犬王を演じているというよりも、アヴちゃん自身がキャラクターを呑み込んで、自分自身を表現しているかのようです。それって、とってもロックですよね。

犬王』はその内容だけではなく、声の芝居すらもロックンロールなのです。

結論。『犬王』は音楽ファン必見の“極上ライブ映画”である

トーキング・ヘッズのフロントマン、デイヴィッド・バーンのブロードウェイ・ショーをスパイク・リーが監督した『アメリカン・ユートピア』(2021年)。ビートルズのラスト・ライブ・パフォーマンスを収めた『ザ・ビートルズ Get Back: ルーフトップ・コンサート』(2021年)。

ここ最近、音楽ライブ映画の傑作が立て続けに公開されていますが、そんな音楽ファンにこそ『犬王』は観てもらいたい作品に仕上がっています。観れば必ず、魂に響き渡る感動を得られることでしょう。

ロックでオペラでミュージカルで極上のライブで。それらがアニメーションで調合された、前代未聞の全く新しい映画『犬王』。連載最後となる次回は、そんな一度見たら忘れられない『犬王』の中の実際のシーンから、特に印象的な場面を切り取って深掘り解説します!

◆『犬王』information

上映時間:98分
公開日:2022年5月28日(土) 全国公開!
配給:アニプレックス、アスミック・エース
公式サイト:https://inuoh-anime.com/
(C) 2021“INU-OH” Film Partners

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  • ゆきぽり
    4.3
    音を楽しめた閃光
  • lazysaru
    3.4
    これは劇場のスクリーンで見るべき映画だったと思う。そのほうが魅力的だっただろう。 友魚と犬王のバディ、どこまでも駆け抜けてゆくのか共に折られるのかとハラハラしたら、ああいう形で分かれてしまうのは辛かっただろうな。諸行無常か。
  • ひよこ
    3
    記録
  • YohTabata田幡庸
    3.4
    U.S.の「スパイダーバース」シリーズをはじめとする、アニメーションが凄い時代の凄い一作。 湯浅政明作品が特別好きな訳ではないし、追っている訳でもないが、気になって観てみると湯浅作品である事が度々ある。 松本大洋作品は窪塚洋介主演「ピンポン」がきっかけで原作に痛くハマった。 母が見つけて来た女王蜂は偶に聞く。 野木亜紀子作品はドラマをいくつか観ているし、ヒットメイカーとして認識している。 大友良英は「あまちゃん」で知ったが、ノイズ音楽の人と言う認識はある。 この5組の作品群の中では圧倒的にエンタメ寄りだと思う。能の事は全く知らないが、それでわからない様なハイコンテクストな難解さもない。アニメーションも素晴らしい。 友人たちの評価も高く、ある程度楽しみだったのだが、正直乗り切れなかった。頭ではこの凄さは理解出来ているのだが、それ以上ではなかった。 化物として生まれ、体を取り返していくと言う内容は、私の大好きな手塚治虫「どろろ」そのままだ。新鮮さはない。 五体満足になった犬王の派手な服装やメイクは忌野清志郎かデヴィッド・ボウイ、プリンス的な物で、当時からすれば新しいだろうが、今から見れば寧ろ古臭い。 当時の楽器と今の楽器を合わせるのは面白いが、その音はどこから出ているのだ。それとも、オーディエンスにはそう捉えられていると言うバズ・ラーマン「エルヴィス」的な事か。だとしたら、ロック的な音楽を使うのは、当時からすれば新しいだろうが、2021年では時代錯誤甚だしいにも程がある。逆効果だ。 確かに、アニメでコンサートをやると言うのは楽しいし、ずっと音がなっている等、芸術性は高い。アニメーションとしても素晴らしい。だが、様々なコンセプトがコンセプト止まりで、お互いの足を引っ張っている様に見えて仕方がなかった。 多分本作はブッ刺さる人とポカンな人が別れる、圧倒的なカルト作品なのだと思う。
  • てばさき
    3.7
    犬王の突拍子もないキャラ、数々の突飛な舞台パフォーマンス、アヴちゃんの演技や歌がとても良かった。 2人の会話から突然始まるセッションはあがった。 主人公達の生き様の対比も見どころ? 貧しくとも生き生き暮らせていた子供時代に突然全てを奪われた友魚と、名家に異形として生まれ周囲からどんなに蔑まれても芸のみに執着し続けた犬王、 2人の行く末はとても対称的だった。 個人的に一番ウケたのは琵琶の背弾きとムーンウォーク。 ギターは存在しないのに何故かギターの音がガンガン鳴ってるとこも好き。
犬王
のレビュー(29224件)