賞レース常連女優ジェシカ・チャステインが『ユダヤ人を救った動物園』で演じた、愛と信念で戦うヒロイン像を語る!【インタビュー】

映画のインタビュー&取材漬けの日々是幸也

赤山恭子

2000年代、『トゥームレイダー』のアンジェリーナ・ジョリーや、『チャーリーズ・エンジェル』のキャメロン・ディアスに代表されるように、長い手足でバシバシと輩たちをスタイリッシュに投げ飛ばすような、強い女を演じられる女優たちがハリウッドで脚光を浴びた。2010年代では、屈強さに知性も光るような新たな強い女像へと群衆は憧れをアップデートし、『ゼロ・ダーク・サーティ』でCIA女性のマヤを演じ、その年の米アカデミー主演女優賞ノミネートほか、数々の女優賞で話題をさらったジェシカ・チャステインこそ、新世代のそれとなった。

ジェシカ・チャステイン
撮影奥野和彦

タフな女像を多く寄せられることについて、自身と照らし合わせたジェシカは「実際の私は『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』で演じたアントニーナと、『ゼロ・ダーク・サーティ』のマヤとのちょうど間くらい」と、チャーミングにインタビューで語った。実在した非凡な女性アントニーナの誇り高き精神を胸に演じた最新作『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』では、腕っぷしの強さとは異なる、深い愛が現実を動かすという表現に挑戦している。初来日したジェシカに、まるで天国だと語った撮影現場での出来事にくわえ、演技をする上での信条、現在ハリウッドで浮かび上がる問題まで、様々なことを聞いた。

――ジェシカが演じたアントニーナは、自分や家族を危険なところに置いてでも、ユダヤ人を守ろうとする高潔さを感じる女性でした。どのように演じていこうと考えましたか?

アントニーナが愛と思いやりを持っていたからこそ、演じたいと思いました。メディアは、人の命を救うような剣を持ったヒーローイズムばかりにフォーカスを当ててしまうときがあるけれども、彼女は愛と思いやりをツールとして戦ったわけです。そこに、すごくインスピレーションを受けたことと、歴史に忘れ去られた彼女を祝福したい思いがありました。だって、とてもフェミニンな力で戦うことができた人物ですからね。

彼女のような素晴らしい人物を演じるとなるには、やはりリスペクトの気持ちは大きくて、ワルシャワや舞台となった動物園にも行きましたし、彼女が住んでいた家にも行きました。娘のテレサさんにお話を伺えたのも大きかったです。原作ももちろん読み込みましたし、できることは何でもしました。

ユダヤ人を救った動物園

――出演したことで、何か新たに発見したことはありますか?

発見したことといえば、アントニーナは毎日生き物をケアしているわけだから、ズボンを履いていたり男性のような格好をしているものだろうと勝手に想像していたのですが、彼女がそのような格好をしたことは一度だってなかったそうです。正直すごく驚きました。強さを持った女性=男らしいスタイルというステレオタイプなイメージが私の中にあったので、真っ向から違うところがすごくワクワクしました。こんな偉業を成し遂げた女性なのに、そこまでの柔らかさを持ち、フェミニンな女性だったなんて、ね。アントニーナはマニキュアも口紅も好きだし、ドレスもとにかく好きだったそうなんです。女性的な柔らかさや感受性の豊かさみたいなものを持ちながら、強くもあれるというキャラクターになったと思っています。

――フェミニンさはとても感じるところで、ジェシカのこれまでのイメージとはまたガラリと変わっていますよね。

そうよね。例えば、『ゼロ・ダーク・サーティ』(マヤ役)とも、『女神の見えざる手』(エリザベス役)とも、今回演じたアントニーナとは違うタイプの女性像でした。強いて挙げるなら、『ツリー・オブ・ライフ』(のオブライエン夫人役)が愛や品にあふれたキャラクターだったので、同じようなところからアントニーナを模索していきました。彼女の品格、人としてのすばらしさにつながりを見出すことで、キャラクターの柔らかい部分も見つけていくことができました。

ユダヤ人を救った動物園

――ご自身のタイプは、どれかに当てはまります?

正直なところ、私はあまりアグレッシブなタイプの人間ではないんです。アントニーナとマヤとのちょうど間くらいじゃないかなって(笑)。

私ね、脚本を読むとき、自分の人生の中で実際に目にする女性像に近い女性に惹かれる傾向があるみたいなんです。だって、映画業界で描かれる女性像は「え、本当にこんな人……いる(苦笑)?」みたいに、ちょっと取り違えているところもあるし、残念ながらステレオタイプもとても多い。だけど、今回のキャラクターのような、フェミニンなヒーローイズムみたいなものは、とても惹かれます。映画に関わる上で、古風な女性、女性とはこうあるべきみたいなイメージを覆していく原動力になるような、現実に即した女性が描かれるようになればいいと思っています。

――本作では動物園が舞台なので、動物との演技も注目していて、百戦錬磨のジェシカにとっても初めての体験があったりしました?

It was in heaven for me(まるで天国にいるようだったわ)!! 生き物が大好きなんです。毎日、生き物たちと仕事ができるのは、贈り物のように感じました。

ユダヤ人を救った動物園

――動物と一緒にフレームに収まるためのポイントもありますか?

人と一緒で強制してはいけないことでしょうか。撮影前から、かなり時間をかけて仲良くなって、「自分といても安心していいのよ、決して傷つけないから」ということを知ってもらいました。彼らが自分に対して好奇心を持ってくれるのであれば、好きにさせてまず自分を知ってもらう。決して彼らのスペースに、こちらから侵入していってしまったり、何かエネルギーを押し付けることで怖がらせたり、絶対にしないように気をつけました。

動物たちとは、ゲームもたくさんやりましたよ。例えば、象のお産のシーンでは、産まれたての子象は実はお人形なんです。母親象のリリーは、人形には興味を持ってくれないんですよ。リリーはリンゴが大好きだから、私のアイデアで、リンゴをたくさん持ちこんで子象の人形のあちこちに隠したんです。そうすると、リンゴを探して子象に鼻を絡ませたりして、とてもいいシーンになったわ。リリーとはすごく仲良くなって、あるときなんか鼻で顔中を触られて、私はスライム(※鼻水)まみれでベッタベタになっちゃったの(笑)。でも、すごく貴重な経験でした。

――本作ではプロデュースにも参加されていますよね。なぜでしょうか?

1930年代のジェンダーの力学に興味がありました。夫婦の立場で見ると、物語の最初ではアントニーナの夫ヤンがすべての選択をし、彼女は指示を待っているようなところがありました。互いに危険を伴うそれぞれの役割を果たし始めたときに、当然ヤンは家を離れて外にいるので、アントニーナが家でかくまっている人々をケアしている。もし見つかれば、子供も含めて全員殺されてしまうという危険に、彼女は身をさらしていたんです。ほどなくして、ヤンとアントニーナは喧嘩をします。ヤンが「僕が毎日どんなことを経験しているか知らないだろう!?」と怒鳴ると、彼女は「あなたこそ!」と言い返す。私、あそこがすごく好きなシーンなの。あの場面を機に、物語の最後では、ふたりは平等な立場になります。また、アントニーナが子供のように指示を待っているだけの立場から、夫と平等な立場になることが、むしろ関係性をより健全なものに、素晴らしいものにしてくれるんだと学んでいく過程も、とても好きなんです。

ユダヤ人を救った動物園

――演技の信条にしていることがあれば、教えてください。

この業界に身を置くということは、共感力を身に着けるエクササイズとしても、本当に素晴らしいと感じています。いろいろな人物を演じることで、その人の人生、その人自身というものを知ることができる。そういう職業ってあまりなくて……、あ! もしかして記者のあなたもそうかもしれないわよね? ほかの人を取材して、その人の人生を知っていくんだから。

――ありがとうございます。そうでありたいと願います。

そうすることで、共感力が身に着いていくのではないかと思うから、人の経験、夢、希望、欲望、何を恐れているかを知ることができる。共感力を身に着けられることが素晴らしいと思っているからこそ、同じキャラクターではなく、いろいろなキャラクターを演じたいんです。たくさんの人生というものを知りたいから、共感力も得られると思う。それが映画界の素晴らしいところでもあると思います。

――最後に。今、ハリウッドではハーヴェイ・ワインスタインの記事に端を発し、セクハラ問題が明るみになっています。大きな変化が訪れる兆しなどを感じていますか?

おっしゃる通り、今、変化の兆しを感じてワクワクしています。ハリウッドに限らず、政治、ビジネスの世界でも同様なことが起きていますし。ひとつ思うのは、男性層が女性層の上にボスとしてあるという構造から、こうした権力だったり、セクハラやパワハラが産まれてくるんだと思います。それに対する施策として、女性層をよりリーダー的ポジションに置くのが有効なんじゃないかなと。自分たちは変わっていない、人間は学ばない部分を認識するというのが、まず第一歩ですよね。

今回の作品がいい例ですが、私がプロデュース兼主演、監督はニキ・カーロ(※女性)ですし、脚本家、原作者、スタントコーディネーターも女性だったんです。それでいて、現場は男性も女性もみんなハッピーだった。もしかしたら、職場も男性と女性の比率を平等にしていくと、みんながハッピーになるのかもしれないですね。(インタビュー・文:赤山恭子)

映画『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』は、12月15日(金)よりTOHOシネマズみゆき座ほかロードショー。

ユダヤ人を救った動物園
(C)2017 ZOOKEEPER’S WIFE LP. ALL RIGHTS RESERVED.

Amazon Prime Videoで観る【30日間無料】

 

【あわせて読みたい】
※ 政府を影で動かす“ロビイスト”の逆転に次ぐ逆転劇を圧倒的スリルで描き、したたかに先を読むヒロインに魅せられる『女神の見えざる手』
※ え、これ実話なの?フィクションよりも興味深い「事実を元にした映画」10選
※ 子供のためにあきらめない!『ルーム』とあわせて観たい強い母親たちの映画5選
※ 【12歳版『(500)日のサマー』!?】小悪魔女子と落ちこぼれ男子の小さな恋に心動かされる!フランスのハートフルコメディがついに公開
※ 【中川翔子】私たち世代もリアルタイムで「スター・ウォーズ」を体験ができるのがうれしい!

※2022年12月23日時点のVOD配信情報です。

記事をシェア

公式アカウントをフォロー

  • RSS

  • EmiKudo
    4
    やはり動物が愛する人は優しい。
  • miwasansan
    3
    約5年もの間バレるかもしれない恐怖と隣り合わせで… 自分の心が正しいと思えることを、どんな非常時でもできるんだろうか自分は。 その時までに心を鍛えておかないとな。
  • MrCinematic
    4.5
    鑑賞記録用
  • Mei3104
    -
    記録
  • あっくん
    4.6
    いつかレビューしたかった作品です🎶(*^^*) 🐇あらすじ 1939年、ポーランド・ワルシャワ。ヤンとアントニーナ夫妻は、ヨーロッパ最大の規模を誇るワルシャワ動物園を営んでいた。 アントニーナの日課は、毎朝園内を自転車で巡り動物たちに声をかけること。時には動物たちのお産を手伝うほど、献身的な愛を注いでいた。 しかし、その年の秋にはドイツがポーランドに侵攻し、第二次世界大戦が勃発。 動物達も殺され、動物園の存続も危うくなる中、夫のヤンから「この動物園を隠れ家にする」という驚くべき提案をされる。 人間も動物も、すべての生けるものへの深い愛情を持つアントニーナはすぐさまその言葉を受け入れた。 ヤンがゲットー(ユダヤ人の強制居住区域)に忍び込みユダヤ人たちを次々と救出し、夫のヤンが不在になることも多い中、アントニーナはひとり“隠れ家”を守り、決してひるむことなく果敢に立ち向かっていった。 この“救出活動”がドイツ兵に見つかったら、自分たちだけでなく我が子の命すら狙われてしまう。 いくつもの危険を冒しながら、いかにして300人もの命を救う事ができたのか? 🐇感想 凄い実話ですね💦(゚A゚;)ゴクリ 戦時中での動物園の状況… ユダヤ人の残酷な仕打ちと救出… 勇気ある行動の中に葛藤する夫婦の絆… 想像絶する数年間を描いてます。 明日だって生きているかも分からないこの状況…。 バレてしまったら殺されるという恐怖…。 見ず知らずの人々の命を預かるという計り知れない重さ…。 それでも危険を犯してまで見捨てずに救おうとする姿…。 それは想像を超える勇気ある行動と信念…そして決意…。 戦争の悲惨さと残酷さ…そして命の大切さが改めて実感します。(-_-;) 私の中では覚悟して本作を拝見しました。 以前にトラウマなシーンを植え付けられたのを思い出してしまう部分があり、それが動物の殺傷シーンです。 海外ドラマレビューで満点評価だった傑作“チェルノブイリ”第4話にて、核に汚染された動物達の殺傷シーンは、4話だけが二度と観れない程のトラウマになりました。 本作も動物園の爆撃や銃殺シーンは目を背けてしまう程でした…。 また調べるとワルシャワ動物園だけでなく、日本でも猛獣の殺傷処分も戦時中に行っていた事も知って、尚辛い思いでした。 今後もこういったシーンはやっぱり苦手だと実感しますね💦 キャスト陣も良く、主役であるジェシカ・チャステインの慈愛溢れてどこかミステリアスな雰囲気ある美しい姿が良かったですが、戦争中にしては綺麗過ぎる姿は少し気になりましたね💦 ※本作は脚本を通して撮影すると3時間半もの映画になってしまったみたいです💦Σ(゚Д゚) 2時間映画にしなきゃいけなかった為、1時間半を省いたそうです💦 所々で若干伝わりきれていない部分があるのを感じたのでその影響かとも思いました💦 🐇実在の人物 本作はアントニーナ・シャビンスカ(1908〜1971)とヤン・ジャビンスキ(1897〜1974)夫婦の伝記であり、他にもナチス側で動物学者のルーツ・ヘックやユダヤ人の子ども達と最後を共にした医師、児童文学作家、孤児院の院長でもあるヤヌシュ・コルチャック先生(映画化もされています)等も観られます。(コルチャック先生と子ども達のその後を調べると本当に辛かったです💦( TДT)) アントニーナ、ヤン夫婦の娘テレサさんは2021年にお亡くなりになっていますが、両親に対しては素晴らしい事を成し遂げたごく普通の一般人であり、本作の救出劇について両親からは『当然の事をしただけ。人は恐ろしい局面において、ちゃんとした姿勢を示さなければいけないんだ』と話されていたとの事。 ワルシャワ動物園は今も開園しているとの事ですが、ドイツ、ソ連軍によってワルシャワは壊滅状態に陥り市の人口は6%を切ったと知った時はゾッとしました💦( ゚д゚ ) 🐇キャスト陣 監督はニキ・カーロ(クジラの島の少女、スタンドアップ、マクファーランド 栄光への疾走、ムーラン) アントニーナ役のジェシカ・チャスティン(ヘルプ、女神の見えざる手、ゼロ・ダーク・サーティ、インターステラー、355) アントニーナの夫ヤン役のヨハン・ヘルデンベルグ(権利への階段、アイダよ、何処へ?、ハミングバード・プロジェクト) ルーツ・ヘック役のダニエル・ブリュール(戦場のアリア、シビル・ウォー、ラッシュ プライドと友情、コッホ先生と僕らの革命、イングロリアス・バスターズ、ラベンダーの咲く庭で) 夫婦が救った女の子ウルシュラ役のシーラ・ハース(待機作としてキャプテン・アメリカ ブレイブニューワールド(2024))
ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命
のレビュー(4972件)