【ネタバレ】映画『さがす』結末はどうなる?ラストシーンの意味とは?徹底考察

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映画『さがす』結末はどうなる?ネタバレありで徹底考察

ポン・ジュノ監督の助監督出身の弟子的存在であり、『岬の兄妹』で大きく注目された異才・片山慎三監督の2作目で商業デビュー作『さがす』。公開から半年近くが経ってもまだ上映が続き、映画ファンを中心に絶賛を集めています。

本記事では、構成的にもストーリー的にも考察要素が強い本作をネタバレありで徹底考察します。

映画『さがす』あらすじ

大阪の下町で平穏に暮らす原田智と中学生の娘・楓。「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」。いつもの冗談だと思い、相手にしない楓。しかし、その翌朝、 智は煙のように姿を消す。ひとり残された楓は孤独と不安を押し殺し、父をさがし始めるが、警察でも「大人の失踪は結末が決まっている」と相手にもされない。それでも必死に手掛かりを求めていくと、日雇い現場に父の名前があることを知る。「お父ちゃん!」だが、その声に振り向いたのはまったく知らない若い男だった。失意に打ちひしがれる中、無造作に貼られた「連続殺人犯」の指名手配チラシを見る 楓。そこには日雇い現場で振り向いた若い男の顔写真があった……。

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※以下、ネタバレを含みます。

【ネタバレ】『さがす』の時系列

まず、映画『さがす』は時系列が娘→殺人犯→父の視点でどんどん遡り、また現在に戻り、その後を描くという構成になっています。そこまで混乱するつくりではないですが、メイン3人のそれぞれのキャラと動きをまとめましょう。

娘・楓

母を失い、父と二人暮らしのしっかり者の娘・楓(演:伊藤蒼)ですが、ただ単なる善良な子じゃないのは彼女を好いてくれている花山への対応(少女マンガは読まないと嘘をついていました)や、父が失踪し自分を引き取ろうとしているシスター(この人も胡散臭いのですが)に唾を吐きかける場面にも感じられます。

彼女の短気な怒りっぽさや、抜け目のなさも、父の影響がないとは言い切れないでしょう。

また、見ていて気になるのは、佐藤二朗さん演じる父が、ALS(筋萎縮性側索硬化症)になって「死にたい」とまで言い出す要介護状態の妻・公子を介護している後半の回想シーンです。父と母があれだけ苦悩しているにもかかわらず、このパートで楓は母の葬儀シーンになるまで登場しません。

これは、父・智が娘のことが目に入らないくらい追い詰められていたからなのか、それとも娘が変わり果てた母の姿を受け入れられず目を逸らしていたからなのか、単なる撮影の都合などで登場していないとは考えられません。

ちなみに楓は久しぶりに卓球場を訪れた際に、そこで首つり自殺をした母の死体の幻影を見ます。後の展開でわかりますが、父の代わりに公子を片付けた山内の自殺に見せかけた殺し方では、おそらく天井からぶら下がるオーソドックスな首つりを偽装するような真似はしていないように思えます。そもそも体を動かすこともままならないALS患者が、そのような形で自殺するのは不可能に近いからです。

おそらく楓は母の死体が見つかった直後の光景は見ておらず、父からの伝聞で母の死に様を想像していたのではないでしょうか。それくらい彼女が母の病気と死にしっかりと向き合えておらず、だからこそただ一人の肉親の父の面倒はしっかり見ていたと考えると、冒頭の万引きした智を迎えに行く場面の全力疾走や、その後の必死の捜索にも納得がいきます。

そして、彼女は卓球場にいた山内を追いかけて、おそらく彼が持っていた父のスマホを見たことで、山内と智の秘密(後述)を知ったのでしょう。そして、最後に父を試す行動に出るのです。

父・智

山内が最低最悪の殺人鬼なのは間違いないですが、彼に協力する父・智にも抱える闇があったと考えられます。

妻の公子のことを愛していたのは間違いないですが、彼女が苦しむ様に耐えられず、そこで出会った山内(当時介護士)にそそのかされ、公子を安楽死させようと(山内的には快楽殺人)動いてしまいます。

彼が妻が回復してかつての日常に戻るという未来を諦めたのは、帰宅した時に妻が自殺しようとしているのを見て、しばらくそれを動けずに見ていた場面(あれだけの時間、人が自殺しようとしているところを見ているというシーンも珍しいです)が大きな転換点でしょう。

さらに安楽死を望む妻のSNSを見た(片山監督が実際に死を望む難病患者のTwitterを見て参考にしたとのこと)こともあり、山内に妻の殺害を依頼してしまいます。そこで彼は愛する妻の死を見たのち、山内にそそのかされて、彼の協力者として自殺志願者を山内と引き合わせるために、SNSアカウントの運用など雑用を引き受けるようになりました。

智は、お金だけでなく、苦しんで死にたがっている人を安らかに逝かせる仕事に多少使命感も感じていたはずです。

しかし、山内の犯行が明るみになり、彼は今後の娘の将来なども考えて、ムクドリ(森田望智)という自殺志願者からもらえる謝礼の300万円と、指名手配になった山内を正当防衛に見せかけて殺してもらう懸賞金300万、計600万を手に入れようと考えます。

ただ、根っから悪人ではないため、その計画の実行中にも山内に見すかさせれそうになって焦ったり、車いすのムクドリの着替えを手伝っていたら「父親と同じ匂いがする」と言われて思わず泣いてしまったりと、人間臭い一面が垣間見えました。片山監督は本作の脚本(ベース部分)を智役の佐藤二朗をイメージして当て書きし、彼に手紙を書いてまで主演をオファーしたそうですが、おそらく、師匠ポン・ジュノ監督作品の常連俳優ソン・ガンホをイメージしていたのではないでしょうか。それまでのコミカルな印象を覆す(今作もコミカルではありますが)、地に足のついた、でも道を外してしまった中年を哀愁たっぷりに演じ、佐藤二朗にとっても新境地となった作品でしょう。

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殺人鬼・山内照巳

清水尋也演じるイケメンサイコパス殺人鬼・山内は、複数の実在の殺人犯がモデルと思われます。死にたい人を狙って漬け込んで殺していたのは2017年に世間を震撼させた「座間9人殺害事件」の犯人・白石隆浩(「本当に死にたい奴なんて誰もいなかった」というセリフも、裁判で彼が残した言葉が元となっています)そのままですし、関東で事件を起こして関西まで逃げていたのは「リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件」の犯人・市橋達也が元ネタ(吉田修一原作の映画『怒り』の犯人のモデルでもある)、智に「死にたがっている人を生かしても誰も幸せにならない」と語る場面や、ムクドリに「あなたがいらないんじゃない、人間がいらないんです」と語るセリフなどは、「相模原障害者施設殺傷事件」の植松聖を連想させます。

また、本作を見て誰もが気持ち悪く感じたであろう、山内の「白いソックスに興奮する」という部分は、2005年に発覚した「自殺サイト殺人事件」の犯人がモデルだそうです(片山監督談・YouTubeチャンネル「活弁シネマ倶楽部」出演時)。前上博という男が自殺サイトで集団自殺を持ちかけて集まってきた人を嬲り殺して殺害した事件で、前上は相手の性別は関係なく「白色スクールソックス」そのものに興奮して襲う(品川徹演じるエロビデオ収集ジジイを殺した後の行動にもつながる)など、殺人以前から度々事件を起こしています。自殺サイトを覗いて、死にたがっている人の多さに驚きつつその犯行を思いついたというのも山内とリンクしますね。

その他、片山監督によれば浜辺でムクドリと会話している際の「最初の記憶はホームランバーを食べながら家が建つのを見ていた」というのも、殺人犯の取材で見つけたエピソード(その犯人は「ガリガリ君」を食べていた記憶だそう)とのこと。ちなみにホームランバーは当たりが出ればもう一本食べられるアイスであり、「再生」や「やり直し」のメタファーとして、ジジイを殺して家を乗っ取った後の場面で山内が食べている他、楓も後半で父の卓球場が復活した後に食べていました。

人助けのような口ぶりで智に自殺幇助を手伝うようにそそのかした山内ですが、実際は快楽殺人目的で犯行を繰り返しています。ただ、楓と花山がネットに上げられていた山内の過去の誕生祝いの動画で、「なんでこの先いいことがあると思えるんだよ」と自暴自棄な発言をしていたり、ジジイに「女まだなん?」と聞かれて「そんな事ねえよ」と急にムキになっていたりと、過去に何かあった(かつては普通に生きようとしていた?)と思わせられる場面もありました。

そんな彼は、そそのかして利用していた智に対し、途中から「最初はいざという時は全部あんたのせいにしようと利用していたけど、あんたに頼んでよかった」と信頼を置くような発言をしています。この場面だけ見ると嘘くさい発言ですが、その後に智がハンマーで山内を殺そうとした際にあることが明らかになりました。

揉み合ったはずみで山内が用意したクーラーボックスが倒れて中身が出てくるのですが、それは氷で冷やされたプレミアムモルツ。それ以前に、智と電話で話している際に、報酬が少ないことに文句を言う智に山内が「まあ今度一杯やりましょうよ」と言っている場面もあり、序盤で万引きして楓に引き取られた後の智が路上で食事をしている場面で、足元にプレミアムモルツ(おそらく飲んだはず)が置いてあるなど、伏線は張ってありました。なぜ、山内がクーラーボックスにプレモルを用意していたのか。それは、ムクドリ殺害後に、一仕事終えた後の一杯を共有しようと準備していた、つまりその程度には智に対して心を開いていたものと思われます。

その証拠になるのが、ハンマーで殴られ殺されかけている際に、山内が流した涙です。ふつうに生きられない癖を持ち、それでも内心誰かとの絆を求めていた山内が、智と共犯者としてでも絆を築けたと感じていたとしたら、切ないですね。

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さがす』ラストの解釈

そんなさまざまな登場人物の思惑と複雑な背景を経てたどり着く『さがす』のラストは、公開からさまざまな解釈が語られているポイントです。

山内を殺してムクドリからの報酬を奪おうとした智ですが、ムクドリの300万はフェイクで6万しか手に入らず、おそらく警察からの報奨金もフルで300万はもらえていないでしょう。卓球道場は再開していますが、まだまだお金が必要だったこともあり、自殺志願者を狙っていた山内の犯行を引き継いで再開してしまいます。

そして、そんな父の行動に気づいていた楓は、自殺志願者のふりをしてSNSで智が運営するアカウントにDMを送り彼を試し、最後に卓球場でラリーをしながら問い詰めます。

なぜ最後に「卓球」をするのかと言えば、球を延々とラリーする競技性がそもそも「コミュニケーション」のメタファーであり、ピンポン玉が「家族の絆」だと思えばいろいろと納得がいきます。回想シーンでは妻・公子との絆としてもピンポン玉が使われており、公子を殺した後の山内がピンポン玉を踏みつぶすカットが、わざわざ足元アップで映されていることも示唆的です(山内は日常や人々の絆を平気で壊す存在)。

そして、楓が父と最後に卓球をしながら、事の真相を問い詰め、彼が逮捕される前の最後に「親子の絆」をラリーしていると思えば実に切なくて美しい場面と言えるでしょう。最後に卓球の音だけがしてボールが存在しない不思議な場面が始まるのも、もう「絆はなくなってしまった」と考えると泣けてきます。

ただ、公開から半年近く経っていろんな考察を読むと、最後にパトカーのサイレンが近づいてきているとはいえ、必ずしも「智が逮捕される」と決まっているわけでもないとも思えます。そもそも緊急性のない通常逮捕でサイレンを鳴らすとは考えづらい(逆に犯人に逃げられる可能性あり)ですし、楓がサイレンの音を聞いて「迎えに来たで」というのも関西ではよくあるノリで、「私が通報した」という意味とも限りません。また、最後に卓球の音だけがしてボールが存在しないのと同じように、サイレンの音もするだけで警察は来ていない(親子がイメージしているだけ)という解釈もあるようです。楓が父に別れを告げるのも、単にそのあと智が逃げたからとも取れます。

ただ、楓の「うちの勝ちやな」というセリフを考慮すると、通報して父が逮捕される方がきれいな終わり方に感じます(個人的意見です)。また、3つの視点に分かれている中で、父・智のパートだけ彼のモノローグがあって「妻・公子の病気は~」「私はある計画を思いつきました~」など語っているのは、映画的文法としては不自然です。描写の積み重ねだけで十分通じるのに、片山監督がそんなセリフを意味なく入れるとは思えません。これは智が捕まって「自白している」体の言葉と考えれば、供述としてあってしかるべきセリフでしょう。やはり、筆者の意見としては智は捕まったのではないかと思います。

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まとめ

いろいろとごちゃごちゃ語ってきましたが、こういう風に能動的に考察してみても面白い映画なのは間違いないです。

陰惨な内容に対して、思わず笑ってしまう場面も多く、このシリアスとギャグのバランスもポン・ジュノ監督に似ています。個人的には『ゴールデンカムイ』の実写版も片山監督なら上手くやれるのではと感じました。

何度、観返しても新たな発見がある新たな邦画サスペンスの傑作です。

(C)2022「さがす」製作委員会

※2022年6月10日時点の情報です。

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