【ネタバレ】映画『竜とそばかすの姫』の鈴が描いたのはネットの世界だけではなかった?その真意を徹底解説!

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映画『竜とそばかすの姫』をネタバレありで深掘り!『サマーウォーズ』との違いは?鈴が描いたのはネットの世界だけではなかった?徹底解説!

2021年に劇場公開され、たちまち大ヒットとなった『竜とそばかすの姫』は、興行収入66億円に達し、監督の細田守氏にとって自身最大のヒット作となりました。そんな細田守監督の作品と言えば、多くの意味深な演出が詰まった作品となっています。『竜とそばかすの姫』に込められた物語や演出の意図を追っていきましょう。

竜とそばかすの姫』(2021)のあらすじ

田舎町で暮らす17歳の女子高生、内藤鈴(声:中村佳穂)は、父(声:役所広司)との二人暮らし。母(声:島本須美)は氾濫する川に取り残された知らない子を助けようとしたことで、鈴が幼い頃に亡くなっています。当時は母と一緒に歌うことが好きだった鈴でしたが、それ以来歌うことができなくなるのでした。しかし、友人の弘佳(声:幾多りら)に誘われたインターネット上の仮想空間「U(ユー)」を訪れたことで一転、ネット上では歌を歌えることに気づきます。鈴の分身である“ベル”はたちまちその歌唱力で有名人となるのですが、コンサートに乱入してきた「U」の世界で疎まれる“竜”と遭遇して以来、鈴はこの“竜”の存在が気になっていきます。

※以下、『竜とそばかすの姫』ネタバレを含みます。

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竜とそばかすの姫』が描くネット社会

『竜とそばかすの姫』の舞台となっているのが全世界で50億人以上が集うとされる、インターネット上の仮想世界「U」です。人々は特殊なデバイスを装着し、生体情報をスキャンすることで「As(アズ)」と呼ばれる自分の分身を生み出し、このAsの姿で各々が交流や活動を行なっています。この舞台からも監督の細田守氏が携わってきた作品の中でも、同じくオンライン上の世界が舞台となった『サマーウォーズ』(2009)を思い出します。

『サマーウォーズ』では仮想空間のOZで各々がアバターの姿で活動していたところと設定的にも大きく重なっています。設定も類似しているのですが、ネットに対する描き方にも近いものがあり、インフラなど現実と密接的な関係にあるからこその危険性を描きながらも、決してネット上の繋がり自体を悪とは描かない距離感には同監督の作品ならではと感じさせる部分です。

ただ、今回の『竜とそばかすの姫』は、『サマーウォーズ』のアバター以上により登場人物の現実と仮想空間での繋がりが強いものとなっています。物語自体がAzの持ち主が誰なのかを特定しようとする話となっていたり、Asが生体情報と繋がっているため、竜には意図せぬ形で多くの痣(あざ)が増えていったりと、いくら分身となっても、切り離すことのできない繋がりを有したものとして、現実の世界とネットの世界のはっきりとは分かれきれない二面性がより強調されたものとなっています。

これは匿名性が取り上げられることの多かったかつての旧来的なネット描写に比べると、昨今のYoutubeやTikTokなどの普及で、自身の顔を出して活動する人々が多くなった世相を踏まえているものと受け取れます。

「U」が描いているものはオンラインの世界だけではない?

竜とそばかすの姫』の、このはっきりと分かれさせることができない二面性こそ、ドラマの肝であり、映画の大きなテーマとも言えます。

鈴は本当は歌を歌いたいと思っていても、母との辛い思い出のせいなのか現実世界では、なぜか歌を歌うことができません。内心に対して行動に移せない、この状態はまさに前述のような折り合いの付けられない二面性と言えます。

その他にも、好きだけれども思いを伝えることができなかったり、助けを求めたくてもそれが声に出せなかったり、対外的な態度と内心のギャップが作中の各所に描かれています。

『竜とそばかすの姫』で描かれる「U」の世界は、単純にオンラインかオフラインかの違いを描いたものとしても受け取れる一方で、内心と行動に差があるのに、実はどちらも自分であるという、微妙な同一性を描いているとも受け取れます。

だからこそ仮想世界の名前は「U」。つまり“YOU(あなた)”という名前が付けられているのかもしれません。

鈴の顛末は何を表していたのか?

内心と行動の差がテーマにあることを踏まえると、より『竜とそばかすの姫』の物語はエモーショナルに感じられるでしょう。なぜなら『竜とそばかすの姫』が、行動したいのに、行動できなかった鈴が、その思いをそのまま形にできるようになる話だからです。

ベルとしてしか歌うことができなかった鈴が、映画の最後では竜に声を届けるために、鈴の姿で歌を歌う決心をします。そして、竜を救うために、トラウマとなっていたはずのかつて母親が行なったように、自身の身を危険に晒しながらも他者を救おうと立ち向かいます。内心と行動が伴わないフラストレーションを、解消することができたからこそ『竜とそばかすの姫』に強く感動を感じられます。

ちなみにこれらの行動は自身の身を危険に晒す行為であり、否定的な意見があるのも最もなのですが、実はこれらの行動の危険性は作中でも描かれています。むしろ、内心をそのまま行動に移すことは、気持ちの良いことでもありながらも、痛みを伴うことであることまでを描こうとしてして作られているのかもしれません。鈴が現実の世界と仮想空間の世界を融和させていったこの物語自体を、鈴の心象風景として受け取れるでしょう。

『美女と野獣』(1991)との繋がり

『竜とそばかすの姫』を見ていて、想起させられる映画があります。かつてウォルト・ディズニー・アニメーションスタジオが制作した『美女と野獣』(1991)です。人々の近寄ることのない城に暮らす怪物と出会う少女。出会いをきっかけに二人の心境にも変化が生まれ、最後には二人が通じ合うという物語の筋道は、まさに『竜とそばかすの姫』です。

そのほかにも共通点が多く、映画『美女と野獣』の中盤に城の広間でのダンスシーンが設けられていたり、野獣のタイムリミットを表す薔薇が、竜の城の中でも象徴的に描かれていたり、なによりも主人公の名前が“ベル”であることも一致しています。

もちろん細田守自身は『美女と野獣』の影響を受けていることをすでに公言しており、これらは意図的に寄せている部分です。『竜とそばかす』自体が、時代を現代に移しながらも『美女と野獣』を再現することも課題の一つとなっており、その共通点を追っていくだけでも多くの発見があるはずです。

思えば『美女と野獣』も本当の自分とは何かを見つける映画でした。この重なりからもすでに『竜とそばかすの姫』が本来の自分を取り戻す物語であることを暗示していたのです。

言葉で語らない描写の数々

その他にも、『竜とそばかすの姫』では随所に意味深な描写が詰まっています。例えば、冒頭から鈴は欠けたマグカップを持っていたり、前足を失った犬を飼っていたり、思い出の机には山のような荷物が片付けられず置いてあったり。鈴の気持ちの中のどこかが欠けているような喪失感であったり、母の死に対していまだに整理できていない気持ちがそのままこの冒頭から表されています。

鈴の暮らす舞台に関してもそうです。現実世界では、鈴にとってトラウマとなっている母親を奪った存在である川が、いつも鈴の側を流れています。母との忘れられない思い出が良くも悪くも鈴の側を離れないでいることを描いているとも受け取れます。だからこそ、そんな川の存在がない「U」では、鈴も歌うことができるようになったのだと、解釈できるでしょう。

このように『竜とそばかすの姫』では多くの要素に、作中で言及はしていないながら意味が乗せられている箇所が多くあります。意味深に登場する演出の数々の真意はなんなのか。ここで取り上げれていない演出も数多く存在するので、ぜひ一度だけでなく二度、三度と見ていくことで、その狙いを紐解いていくことで、『竜とそばかすの姫』の本来の姿を見つけられるかもしれません。

(C)2021 スタジオ地図

※2022年9月23日時点の情報です。

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