【ネタバレ解説】SF映画『2001年宇宙の旅』が描いた人類進化論とモノリスの意味を徹底考察

ビートニク映画ライター

Mikiyoshi1986

映画『2001年宇宙の旅』をネタバレ解説。モノリスの意味、猿から人類への進化論、hal反乱のメッセージ、原作小説の存在など徹底考察。

1968年4月6日にアメリカで公開されたSF映画の金字塔『2001年宇宙の旅』。“完璧主義者”=スタンリー・キューブリック監督による圧倒的な映像センスは、今なお我々に鮮烈な感動を与えてくれる。

2001年宇宙の旅ポスター

しかしその一方で、難解を極めるストーリー展開や哲学的な内容に「正直よく分からない」、あるいは単調な演出に「眠い…」と感じた方も多いのではないだろうか。

今回は、そんな「意味不明!」とまで評価されてしまいがちな『2001年宇宙の旅』を解説。その名作たる面白さを考察していく。

※以下、映画『2001年宇宙の旅』のネタバレを含みます

『2001年宇宙の旅』あらすじ

400万年前の人類創世記、謎の黒石板“モノリス”に接触したことで猿人はヒトへと劇的な進化を遂げ、宇宙開発をするまでに発達した。そして2001年、“モノリス”の謎を究明するため初の有人木星探査へと旅立つ。

しかし、宇宙船を制御するAI(人工知能)の「HAL 9000」が突如反乱を起こす。死闘の末、生き残ったボーマン船長は“モノリス”に遭遇し、人間の知識を超越した領域へと到達する…。

2001: A SPACE ODYSSEY

出典元:YouTube(Movieclips)

宇宙をめぐる当時の時代背景

まず、この『2001年宇宙の旅』が制作された1968年当時について補足しておこう。

1968年と言えば、世界に脅威をもたらした東西冷戦の舞台が「核」から「宇宙」へ移行していき、米ソ間の宇宙開発競争が最も熾烈を極めた頃。宇宙への到達は、地球の支配権を得るも同然だった時代だ。

ソ連では、61年に宇宙飛行士ガガーリンが世界初の有人宇宙飛行に成功。後れをとったアメリカも、負けじと60年代中に人類を月に着陸させる一大プロジェクト「アポロ計画」を推し進める。

そして69年7月20日、アメリカの宇宙飛行士アームストロングが世界初の月面着陸を成功させたことで、「人類の偉大なる一歩」は遂に果たされる。

60年代は宇宙がまだまだ人類にとって未知の領域であり、世界中が宇宙の彼方に熱い視線を注いでいた時代でもあったのだ。

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前作『博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか』で、核戦争の脅威をブラックコメディーに仕上げて世に問うたキューブリックは、今度は「核」を「宇宙」に転換させ、68年に『2001年宇宙の旅』を完成させる。人類が実際に初めて月面着陸する1年以上も前に、映画でその先行疑似体験をやってのけたのだから凄い…!

では、人類がまだ到達し得なかった宇宙の全貌を、なぜキューブリックは精巧に描くことができたのだろうか。

2001: A SPACE ODYSSEY

出典元:YouTube(Movieclips)

綿密な科学考証とリアリズムの徹底

元々『2001年宇宙の旅』には雛型となる小説「前哨」(1943)が存在する。その原作者が、SF小説界の第一人者アーサー・C・クラークである。彼の協力なくして、この映画の完成は有り得なかったと言っていいだろう。

『2001年宇宙の旅』の制作に当たり、まずキューブリックは原作者クラークと共同で脚本を練り上げていき、およそ40社に及ぶ企業や研究機関から各科学分野に精通する有識者らを呼び寄せた。彼らから得られる厳密な科学的考証に基づき、完璧に整合性のとれた映像を生み出すためだ。

それまで、そのほとんどが子供向けの空想科学モノで、いわゆる“B級映画”の域を出ないジャンルであったSFで、これほどまでに徹底した考証が行われたことは、画期的であったに違いない。

さらに、撮影技法にも斬新なアイディアが数多く見られる。まだCG技術も存在しない当時、大がかりな宇宙船セットやミニチュアを使った特撮を用い、フロント・プロジェクションと呼ばれる革新的な合成技法を駆使した。

それによって、キューブリックは映画史上かつてないリアルな異空間を見事に再現した。本作が、制作から公開までに約4年もの歳月を要したことにも頷ける。

2001: A SPACE ODYSSEY

出典元:YouTube(Movieclips)

キューブリックが掲げる人類進化論

本作を観た方の中には、冒頭のシークエンスに困惑した方が実は多いのではないだろうか?

SF映画らしいピカピカの“未来”を期待したのに、何の説明もないまま延々と“原始”のお猿さんを見せられる約30分間…。

2001: A SPACE ODYSSEY

出典元:YouTube(Movieclips)

そこで描かれていたのが、本作最大のテーマのひとつ「進化」の序章である。キューブリックは人類進化のメカニズムを分かりやすく可視化させることで、その起源を描こうとした。

そして、その人類の始まりを象徴する存在こそが謎の黒石板“モノリス”なのだ。

キューブリックは「人類の進化」と「宇宙の神秘」を結びつけ、過去に対する仮説と未来への予言を『2001年宇宙の旅』に盛り込んでいる。ここでは、その重要なカギとなるポイントを3つに絞って解説してみよう。

1.知恵をもたらす黒石板“モノリス”の正体

猿たちがこの不気味な黒石板モノリスに触れたことで、彼らは突如として道具の使用を覚え、ヒトへと進化していった。当然観客を混乱させるわけだが、ここで解釈するとすれば、モノリスとはいわば、宇宙の彼方から人類に知恵を授けにやってきた高次元の知的物体と見て不服はないだろう。

また、その媒体(知恵を授けるモノ)としての機能はある意味で、アダムとイヴが神に追放され今の人間になった根源である「りんご=善悪の知識の果実」に相当するとも言えそうだ。

やがて、道具を手にした人類は攻撃性を発展させ、その力と武器によって生物の頂点に登りつめ、進化の一途を歩んでゆくことになる。

2.人工知能“HAL”が起こした反乱と文明の極地

今でこそ人工知能が一般的に存在するが、キューブリックは既にこの時代から人工知能の存在を克明に予言している。

「使うもの=人類/使われるもの=道具・機械」で始まった関係性は、今やテクノロジーの進歩によって変化が生じ、「使われる」以上の影響力をもつ存在へと人工知能は発展している。

本作では宇宙船の制御を司る人工知能“HAL 9000”が暴走してしまい、人間が窮地に追いやられるという大変ショッキングな展開が用意されている。極限状態の宇宙を舞台に、各の命運を賭けた過酷な生存競争は劇中で最もスリリングなシーンだ。

2001: A SPACE ODYSSEY04

出典元:YouTube(Movieclips)

HALの反乱とは、機械頼りの発展が人類を後退させるだけでなく、むしろ機械によって滅ぼされかねないという懸念を切実に描いている。故・ホーキング博士が、人工知能が発達した未来について危惧したメッセージも記憶に新しい。

人類の次なる進化を脅かす最大の宿敵は、皮肉にも我々がひたすら創造し続けてきた文明そのものかもしれない。そんな警鐘をキューブリックは、人間の知能を超えた“HAL 9000”に担わせたといえよう。

では、人類がその滅亡の危機を回避する方法はあるのだろうか。

3.終盤のトリップ映像とあの部屋の謎

本作で最も難解を極めるのが、終盤の「木星と無限のかなた」の章かもしれない。

“モノリス”が現れて鮮烈な光と色彩のトリップ映像に包まれた後、唐突に現れる謎の部屋…。初見の者にとっては、そのまま流れ込む大団円を、頭に「?」を浮かべたまま、ただ呆然と見届けるほかにないだろう。

しかし、それこそがキューブリックの狙いでもあるのだ。

2001: A SPACE ODYSSEY03

出典元:YouTube(Movieclips)

人類が困難を乗り越えようやく木星に到達した時、再びモノリスは姿を現す。そして、この人智を遥かに超えた高度な知的物体は、人類をさらなる進化の新段階へ導いていく。

それを映像にしたのが、あの抽象的かつ理解不能とも思えるトリップ映像のシークエンス。進化の被験者であるボーマン船長の高次元体験を映像化したものとも言えるだろう。

それはボーマン船長が脳内でかろうじて再生できる、言い換えれば、現人類が認識できるギリギリ範囲内のイメージだ。そして、人智の及ばぬ領域を表現したその脳内トリップ映像は、見事に我々を困惑させる。

そうして進化を遂げた新人類の姿が、ラストに登場するあの“スターチャイルド”だ。

人類は高次元進化の可能性を秘めた宇宙へ

キューブリックは、超常的なフィクションの要素をリアリズムの極致とも言える映像に落とし込むことによって、極めて真実味に溢れた人類進化論をこのSF映画に詰め込んだ。

彼の最大の協力者であり、『2001年宇宙の旅』原作者であるクラークは以下のような旨を語っている。

「生物は水中から陸という高次元に移動したことで劇的な進化を遂げた。では我々人類も地球から宇宙という高次元に到達した時、そして再び宇宙の神秘に触れた時、更なる進化を遂げる可能性があるのではないか?」

20世紀、人類は二度に渡る世界大戦を終え、滅亡の危機に瀕した東西冷戦を経て、目まぐるしいテクノロジーの進歩で宇宙にまで到達した。

そして、21世紀。残念ながら、ボーマン船長のように木星へ到達する段階にはまだ至っておらず、以前、核の脅威も払拭できてはいない。そんな現在にあって、半世紀前の1968年につくられ、21世紀への期待と趨勢を投影したこのSF映画が示唆するものは大きい。

西暦2001年も昔になりつつある今、公開から50周年を迎えたこの節目に、あらためて『2001年宇宙の旅』が描いた未来に思いを馳せてみるのも一興だろう。

2001: A SPACE ODYSSEY02

出典元:YouTube(Movieclips)

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