【ネタバレ】映画『Winny』金子勇は何故逮捕された?実話を元にした“ネット史上最大の事件”の顛末は?徹底解説

2000年代初頭、急速に進んだインターネットの発展。コンピューターが一般家庭にも普及し、人々の生活に浸透し始めた頃。映画『Winny』は、そんな時代に“ネット史上最大の事件”と呼ばれた実話「Winny事件」を描いた一作。今回は、映画『Winny』のネタバレ解説をしていく。

Winny』(2023)あらすじ

2002年、開発者・⾦⼦勇(東出昌⼤)は、簡単にファイルを共有できる⾰新的なソフト「Winny」を開発、試⽤版を「2ちゃんねる」に公開をする。彗星のごとく現れた「Winny」は、本⼈同⼠が直接データのやりとりができるシステムで、瞬く間にシェアを伸ばしていく。しかし、その裏で⼤量の映画やゲーム、⾳楽などが違法アップロードされ、ダウンロードする者も続出し、次第に社会問題へ発展していく……。

※以下、映画『Winny』のネタバレがあります。未見の方はご注意ください。

「Winny事件」とは何か?

金子勇氏が開発したファイル共有ソフト「Winny」は、P2P方式といった中央サーバを介さずに独自形成されたネットワーク内で、利用者同士が自由にファイルを共有できるシステムである。

動画や音楽などのデータファイルを自由にアップロードでき、他者があげたそれらを簡単にダウンロードすることが出来るのは、当時としては革命的な開発であった。また「Winny」の特徴として、その匿名性の高さが挙げられる。……故に著作権を無視した違法なやり取りやウイルスが蔓延するなど、あらゆる犯罪の温床と化したことで「Winny」は警察の調査対象となり、開発者本人も逮捕されるという異例の事態へと発展した。

サイバー犯罪に詳しい弁護⼠・壇俊光氏(三浦貴⼤)が弁護を引き受け、裁判で逮捕の不当性を主張するも、第⼀審では有罪判決を下されてしまう。その後、7年半に渡る裁判の末に無罪を勝ち取った金子勇氏は、その約2年後、急性心筋梗塞でこの世を去った。

金子勇氏は何故逮捕されたのか?

劇中、この事件の弁護を担った壇俊光氏は、仮に刺殺事件が起こった場合「このナイフを作った人を罪に問えるか?っちゅう話や」と発言し、開発者逮捕の不当さをこぼしている。悪いのはシステムを利用し著作権違法行為を働いた側であり、開発者ではない。では何故、金子勇氏は逮捕に至ったのか? 紐解いていくうちに、警察側の闇が次々と暴かれていく。

映画『Winny』で事件と並行し描かれているのは、警察内部の腐敗した実情である。…そもそも、本来「正義」を掲げ弱者の味方であるはずの警察側が何故、金子勇氏を訴える原告となったのか。警察側は「著作権団体から相談を受け調査に乗り出した結果、金子勇氏が著作権法違反の幇助を認めた」と主張しているが、その実は、開発者を逮捕してしまえば“楽”に事を進めることが出来るからだ。

そのため、京都府警の北村(渡辺いっけい)を筆頭に、「誓約書」と偽って用意した、警察側に有利な「申述書」を書き写させたり、「あとで修正が出来る」などと言いくるめ、金子勇氏自身が「蔓延行為を目的としWinnyを開発した」ように見せかけたのである。悪の粛清といった大義名分を背負い「著作権法違反の幇助」の疑いで逮捕し、社会問題にまで発展しているWinny事件を「開発者の責任」にすることで丸く収めようと、警察は思考を停止し、本来やるべき仕事を放棄した。

並行するもう一つの物語

そんな中、もう一つの物語が動き始める。愛媛県警に勤める仙波敏郎氏(吉岡秀隆)は、警察に憧れ職についた若者が、上司に頼まれ、捜査協力費という名目で領収書を偽造するという汚職に手を染めている現状に我慢の限界を迎え、県警内で蔓延っていた裏金問題を内部告発する。彼もまた、戦うことにしたのだ。

劇中、巡査部長である仙波敏郎が交番で後輩の山本(金子大地)と昼食をとっているシーンで、山本は「仙波さんは何故(こんな実情に辟易としながらも)、警察官を辞めないのか」と切り出す。「やめるほうが簡単だからだ」と返した仙波は新聞社に情報を提供するも、証拠不十分とまともに扱ってもらえず、メディアに顔を出す決断をする。

金子勇氏が7年半もの歳月をかけ無罪を勝ち取ったのも、仙波敏郎氏が警察内部の膿を出し切り改めて正義を問うたのも「より良い未来」を後の人々に残すためだ。劇中、両者は「警察」と「被告」という対局の立場に置かれながらも、同じ方向を向いていた。

仙波によって暴かれた警察側の悪事は、愛媛県警で行われていた偽の領収書による「裏金問題」がWinnyに流出したことが決定打となり、警察内部の腐敗を世間に知らしめることになった。「 Winny事件」と並行して描かれたもう一つの物語が、警察の不能を際立たせ、マスコミの信用のなさを一際露呈し、観る者を一段深い視点へと落とし込む。

敢えて「感動」を描かない

本作は、「Winny事件」発生から逮捕、第一審までを中心に描いた物語だ。事実として、金子勇氏は第二審、最高裁と無罪を勝ち取るのだが、その場面は敢えて詳しく描かれていない。その理由を、松本優作監督は下記のように語る。

まず、7年間の裁判を2時間の映画で描くのは難しいということもあります。それ以上に「勝ってよかった」というカタルシスに落とすような作品だけにはしたくなかったのです。

裁判モノには、「みんなの協力で無罪を勝ち取ったというカタルシスを感じたい」というお客さんがたくさんいらっしゃると思います。しかし、そのカタルシスを感じさせてしまうとこの作品は映画として作る意味がありません。

第一審で有罪判決を受けたときに罰金150万円を払っていれば社会的には解決して、金子さんはプラグラムの世界に戻れたはずです。しかし、金子さんは大好きなプログラミングを諦めてまで裁判で闘った。そこには未来の技術者や若い人たちに向けたメッセージがあるのではないか。金子さんを調べていく過程でそう感じたのです。

(※M&A Online『Winny』松本優作監督インタビューより引用)

金子勇という天才プログラマーからは開発の時間を、日本のテクノロジー界からは発展の可能性を奪った“現実”をくらますことのないよう敢えて「感動」を省き、この映画が伝えたい事の本質を突き詰めていった結果、今作は観る者に“考える”きっかけをくれる作品に仕上がっているのではないかと筆者は感じる。

「本作は、開発者の未来と権利を守るために、権力やメディアと戦った男たちの真実を基にした物語である。」鑑賞後、あらすじのこの一文を読むだけでも、この映画の誠実さが窺える。

Winny』作品情報

■監督・脚本:松本優作
■出演:東出昌大、三浦貴大、皆川猿時、和田正人、木竜麻生、池田大、金子大地、阿部進之介、渋川清彦、田村泰二郎、渡辺いっけい、吉田羊、吹越満、吉岡秀隆
■公開日:2023310日<金>TOHOシネマズほか全国公開
■公式HP:https://winny-movie.com/

(C)2023映画「Winny」製作委員会

※2024年4月4日時点の情報です。

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