映画『半世界』阪本順治監督「映画は物語ではなく人語(ひとがたり)」【インタビュー】

2018.10.24
映画
第31回東京国際映画祭コンペティション部門出品作品『半世界』阪本順治監督インタビュー。作品の着想やキャスティング、タイトルに込めた意味、映画『カメラを止めるな!』についてなど。

阪本順治

今年で31回目を迎えた東京国際映画祭。毎年多くの傑作が上映される同映画祭ですが、目玉となるコンペティション部門に今年は2つの日本映画が選出されています。

そのうちの1本が、『顔』や『エルネスト もう一人のゲバラ』などで知られる阪本順治監督の『半世界』。

ある地方都市の同級生3人とその家族の関係を紡いだ作品で、稲垣吾郎長谷川博己池脇千鶴渋川清彦など個性派俳優を揃えたオリジナル企画。今回は阪本監督に作品の魅力と稲垣吾郎さんをキャスティングした意図などを語っていただきました。

半世界

『半世界』というタイトルに込めたもの

――『半世界』が東京国際映画祭のコンペティション部門へ選出されたことについて、いまの率直なお気持ちをお聞かせください。

どんな映画祭でも同じことですが、選出を狙ったわけではなく、淡々と自分の求める世界を作った結果多くの人に観てもらえるチャンスを得たというのは、やはり嬉しいですね。

――東京国際映画祭には2007年の『魂萌え!』(コンペティション部門)と2015年の『ジョーのあした 辰吉丈一郎との20年』(パノラマ部門)で参加されていますね。

『魂萌え!』まではまるで縁がなかったので、まあ無視されてもいいかなんて思っていましたけど(笑)。観た方が気に入ってくれて推薦してくれたからこその結果ですし、今年は僕の監督生活30周年でもあるので、その節目にこうした舞台に選んでいただけて光栄です。東京が会場だから荷造りしなくて済むのも嬉しい(笑)。

――『半世界』は監督のオリジナルの企画ですが、どのような経緯で生まれたのでしょうか。

これまで映画化が叶わなかった企画のストックの中で、同級生が何十年ぶりかに会う話と、炭焼き職人が主人公の話があってその二つを混合させて換骨奪胎したものです。そうしてでき上がったものに、さらに稲垣吾郎くんをイメージして書き直しています。

――『半世界』というタイトルにはどんな意味が込められているのですか。

小石清さんという戦前・戦中時代のカメラマンがいるのですが、この方の写真展を見に行ったんです。小石さんは従軍カメラマンもされていて、日中戦争にも従軍しているんですが、その時に撮った写真も展示されていました。それらの写真に「半世界」というタイトルがつけられていたんです。

従軍カメラマンの役割は、基本的には勇ましい日本兵の姿を撮ることですが、小石さんの写真には勇ましい日本兵の姿はどこにもなくて、任地のおじいさんとか、おばあさんや子どもたち、象や鳩などを撮ったものばかりなんです。それを見た時にとても衝撃を受けて、いつか「半世界」というタイトルを自分の作品にも使おうと思っていました。

阪本順治

僕が思うに「半世界」というのはハーフ・ワールドではなく、もう一つの世界「アナザー・ワールド」です。今はグローバリズムという言い方で世界を俯瞰的に見るような風潮がありますけど、世界は名もなき小さな営みから成り立っているわけです。そういうものは、俯瞰的に見すぎたら見えないものなんです。だから小さな町から世界を見る、そこにもう一つの世界を見ようということです。

ふいに帰ってきた元自衛官は海外派遣で受けたトラウマがある。自分が世界で見てきたものが本当の世界だと信じ込んでいるんです。その一方で、町から出ることなく自分の生活だけに頓着している名もなき人間がいる。そんな人々の関わりからこの映画は始まるんです。

――備長炭の職人という題材を取り上げたのはどうしてなのですか。

今まで農業や林業、漁業などを映画で描いてきて、ブルーカラーの土の匂いのする職業で、僕がまだ描いていないものは何だろうと考えて、炭焼き職人というのを見つけたんです。これが調べてみると非常に興味深くて、例えば焼き鳥屋で見かける備長炭がどういう経緯でそこにあるのかとか。皆が知らないことを知れるのも映画の楽しみのひとつでしょう。日本特有の職業でもあるし、日本人監督がそれにチャレンジするのは至極まっとうかなと思いますね。

稲垣吾郎の求められてこなかった部分を求めた

――稲垣吾郎さんに炭焼き職人というのは意外な組み合わせだと感じました。脚本を書く時に稲垣さんをイメージして書かれたとのことですが。

稲垣くんが炭焼き職人をやることで面白い化学反応が起きるんじゃないかと思ったんです。一般の方やファンの方のイメージは別として、僕は、彼にそういう役が向いていると思ってましたから。

(香取)慎吾と映画を二本撮っていますけど、その時も慎吾の中にまだ出していない部分があると思ったので、座頭市役をやらせてみました。彼は太陽のような存在だけど、日差しが強ければ影もそれだけ強くなる、そういう部分を素の彼から感じていたんです。

稲垣くんとは慎吾の紹介で知り合って、やはり彼にもまだ表していない素の部分があると感じて、それが今回のキャラクターに合っていると思いました。彼は今までエレガントな役を演じることが多かったですが、それは陰と陽の「陽」の部分ですよね。強い太陽があれば強い影もあって、決して暗い部分という意味ではなく、今まで世の中に求められていなかったものです。今回、僕はそれを求めただけです。

――監督は役者さんの素を見て判断されることが多いのですか。

池脇千鶴さんと会ったことはなかったのですが、勘は働きますからね。そもそも役者さんが持っているものって直に会わないとわからないことが多いので、どこかでばったり会った素を知っている人に打診することは確かに多いですね。

――阪本監督はいつも、役者さんの人生の経験を役に反映させてほしいと仰っているそうですね。

自分ではない誰かを演じる時に最初のアプローチとして、自分ならどうするかとか、その人の人生で得てきたものをヒントに役を理解してほしいということです。

『カメラを止めるな!』で久しぶりに観客に戻れた

阪本順治

――ここでFILMAGA恒例の質問をひとつ。監督が最近観た映画で印象深かったものはありますか。

韓国映画の『1987、ある闘いの真実』は衝撃を受けました。あとはみんな観ているのに話ができないとまずいので、『カメラを止めるな!』も観ました。日本の映画を観ると職業病でついどうやって撮ったのかとか、あの役者は誰だろうとか考えてしまうんですけど、『カメラを止めるな!』は久しぶりに一人の観客に戻れましたね。僕は映画を作っていて楽しいと思ったことはないんですけど、あんなに楽しそうに映画を作っていて羨ましいですね。

カメラを止めるな!

あとは豊田(利晃)くんの映画『泣き虫しょったんの奇跡』です。

――豊田利晃監督は、阪本監督の『王手』や『ビリケン』の脚本を書いていらっしゃいますね。

今まで彼がやってきたものとは異なる新しいチャレンジをしていて、良い意味でハードルを超えてきたなと感じましたね。

――最後に、これから映画祭で『半世界』をご覧になる方に一言お願いします。

あまり先入観を持たずに観てほしいです。普段想いを馳せたことのない何かに気づいてもらえればいいなと思います。それにユーモアも結構あるので、笑うところは笑ってほしいし、いい意味で裏切られる部分もあります。

いつも言っているのは、映画は物語じゃなくて「人語(ひとがたり)」ということです。物を語っているんじゃなく、人を語っているので、登場人物たちを存分に観てほしいなと思います。(インタビュー・文:杉本穂高)

映画『半世界』あらすじ

山中の炭焼き窯で備長炭を製炭し生計を立てている紘(稲垣吾郎)は、父から継いだ仕事を日々こなすだけの毎日。家のことは妻の初乃(池脇千鶴)に任せっぱなしだった。ある日、元自衛官の同級生、瑛介(長谷川博己)が町に突然帰ってくる。瑛介の抱える過去を知った紘は自らの人生に向き合おうとするが……。

公式サイト:http://hansekai.jp/

(C)2018「半世界」FILM PARTNERS、(C)ENBUゼミナール

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