「マドリード国際映画祭2018」をはじめ、海外映画祭で数々の賞に輝いた映画『ウスケボーイズ』は、同じく国際映画祭で定評がある柿崎ゆうじが監督を務め、第16回小学館ノンフィクション大賞を受賞した作家・河合香織氏の「ウスケボーイズ 日本ワインの革命児たち」を映画化した感動作だ。日本のワインのポテンシャルを知った若者たちが、数千年のワイン造りに挑み、さまざまな壁を乗り越え奇跡を起こしていく姿を描いていく。
その物語の主人公で、ワイン造りに苦悩する実直な青年・岡村役を、渡辺大が好演。実在の人物という難役を通じて、「人生はうまくいかないもの、そうなりたいとは思わないけれど、そうだからこそ、人って理不尽なことがあるから闘っていく、ということを表現したい」と想いを語った。
ーー今回の映画に出演が決まった時、まず率直に何を思いましたか?
渡辺 こういう仕事をしていると、ひとつひとつの作品に対して<何を届けるか?>ということを毎回思いますが、その意味で今回はすごく明確なものでした。日本人が知らない日本のワインを、しかもいろいろな人の努力があって生まれたワインをいかに知らせるか、それが大きな命題でしたね。
ーーおっしゃるように、まったく知らなかったです。
渡辺 そもそも僕たちは日本のワインについて知らないことが多くて、たとえばレストランなどで、わざわざ日本のワインを選択していただくということも少ないと思うんですよね。味や品質についても知らないので、敬遠していたものが、今回の作品のおかげで知られるところになればいいなあと。
ーーインバウンドも増えているので、ムーブメントになればいいですね。
渡辺 そうなんです。お客様参加型の映画になればいいかなとも思っていて、ちょうどこれから先に東京五輪もあるなかで、<日本では何がいいですか?>と聞かれた時に、日本のワインがおすすめできれば最高じゃないですか。物語やメッセージは、イン前から素敵だなあと思っていました。
ーー映画を観ていて、ワイン造りも映画作りも共通項が多そうだなと思いましたが、その点はいかがでしょうか?
渡辺 ちょっと似ているなとは思いました。うまくいかないことも多々あって、実はお客さんが喜んでいただけるものが正反対のものというか、作り手の行き過ぎた思いなどとのバランスってあるんですよね。なりゆきに任せたほうが美味しかったなど、そういうモノづくりの妙というか、不思議なところは共通するものとしてあるのかなと。そういうことは、僕たちも撮影しながら感じていましたね。とても興味深く、新たな発見もありました。
ーー冒頭の<何を届けるか?>という意味で、映画を作ることで世界を変える、とまではいかなくとも、大きな意義を感じますよね?
渡辺 文化やアーティスティックなことを、と大それたことは僕は言わないですけれど、何か人にメッセージを届けたい場合に何がいいのかを考えた時に、映画って自分がどれだけの人生を積み重ねたかをお見せする場所でもあるのかな、とは思っています。その過程のなかで僕たちも役柄に共通項を求めたりすることもあるので、そういう共通項を持っているキャラクターのほうが、演じていく上ではいいのかなあと思うことはありますね。
ーーその意味で、自分の役柄に夢中になったことはありますか?
渡辺 割合として、切羽詰まった男や理不尽な目に遭うことが多いですかね。
ーーそのイメージ、ありますね(笑)
渡辺 犯人役なども多かったですし、かつてラーメン屋の大将役で、どうしても経営が立ちゆかなくなる設定などもありました。僕自身も普段は強がりだけれど、みたいな男の悲哀的なものは好きです。僕も普段は弱みは見せずしまいこみがちなところもあるので、そういうところに惹かれますよね。
ーー影響を受けた映画などはあるのでしょうか?
渡辺 子どもの頃から洋画をよく観ていて、親とだけでなく、友だちともよく観に行っていましたが、いまの仕事を始めて改めて思うことは、本広克行監督の『スペーストラベラーズ』の影響を受けているということですね。金城武さん、筧利夫さん、ウチの親父(渡辺謙)も出ていますが。もともとのジョビジョバさんの舞台劇を映画化したもので、あの世界観が愛おしくて。初めて邦画の面白味を感じて、映像の世界に興味を持ったきっかけかも知れない。
ーーどこに惹かれたのでしょうか?
渡辺 僕の中の感覚でドン!と来たとしか言いようがないところはありますが、あのような映画を作れたらと思ったと思います。出るだけでなく、あのような作品に携わりたいという夢。ちょっとゲームチックで、アニメーションっぽいところもあり、バランスがとてもよかった。実写の感覚と半々で、面白くて最後は泣けるみたいな。全部が予想外だった映画です。
ーー今後、自分自身で映画製作などは?
渡辺 人集めは楽しそうだなと思っていて、適材適所に人をハメてみる作業に関心がありますね。この人が出て、この人が書いて、この人が撮るみたいなことに。プロデューサーではないけれど、そういうことに興味があるかな。映画がちょうどよくて、2時間くらいの作品でできると面白いですよね。
ーー最初のお話の感じだと、シリアスなドラマにもなりそうです(笑)
渡辺 ですね。僕は日陰の人間なので(笑)。クリント・イーストウッド監督作品がすごく好きで、いろいろな観点で人間の理不尽さを描く作品に興味あります。それこそさっきの話じゃないけれど、『ミリオンダラー・ベイビー』や『グラン・トリノ』などのように幸せな感じでは終わらない、あまりめでたしでは終わらない作品になると思います(笑)。人生はうまくいかないもの、そうなりたいとは思わないけれど、そうだからこそ、人って理不尽なことがあるから闘っていく、ということを表現したいですね。(取材・文・写真=鴇田崇)
映画ウスケボーイズ』は、絶賛公開中。
(C)河合香織・小学館 (C)2018 Kart Entertainment Co., Ltd.
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