【ネタバレ】映画『シン・仮面ライダー』“シン”要素とは?劇中に登場した用語&オーグメントも合わせて徹底考察

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庵野秀明が手掛ける『シン・仮面ライダー』を徹底解説! 劇中に登場した用語やオーグメントたちの解説、オリジナル版から進化した部分とは?

筆者の『仮面ライダー』に対する最初のイメージは“怖い”だった。

当時夢中になっていた戦隊シリーズとは異なり、『仮面ライダー』は畏怖の対象で、今でもその怖さが鮮明に残っている。そして、このイメージはあながち間違いではなかったと、大人になって知った。

初代を踏襲した『シン・仮面ライダー』にも不気味な要素は健在だ。PG12ということで、子供も楽しめる作品には間違いないが、筆者と同じように“怖さ”が記憶される子どもも多いだろう。

本記事では、そんな『シン・仮面ライダー』の用語解説や、庵野秀明監督の手腕により進化した部分を考察していきたい。

シン・仮面ライダー』(2023)あらすじ

仮面ライダーに変身した本郷猛(池松壮亮)は、秘密結社SHOCKERの追手を殺めてしまう。

人間離れした力と暴力性に困惑する本郷は、自身が緑川弘(塚本晋也)によって、バッタオーグに改造されたことを知る。

そこへ、SHOCKERの上級構成員・クモオーグ(大森南朋)があらわれ、裏切り者である緑川弘を殺害してしまう。

本郷は緑川の娘・ルリ子(浜辺美波)を守りつつ、SHOCKERのオーグメントたちと戦っていくことになる。

※以下、ネタバレが含まれます。

登場した用語解説

本作は庵野秀明作品らしく、説明なしでは少し難しい数々の用語が登場した。この複雑怪奇な設定が本作の魅力でもあるのだが、初めて庵野作品に触れた観客は、戸惑いを覚えたことだろう。

この項目では原作にはなかった、数々の用語を解説していく。

プラーナ

『シン・仮面ライダー』を語るうえで、避けてはとおれない設定が「プラーナ」だ。これは生命体が持っている力であり、“魂”と表現することもできるエネルギーだ。仮面ライダーやオーグメントたちは、このプラーナを身体に取りこみ、人知を超えた力を手にしている。

また、本作と並行して展開しているスピンオフ漫画「真の安らぎはこの世になく -シン・仮面ライダー SHOCKER SIDE-」では、緑川弘がプラーナを使って瀕死の重傷を負ったイチローを救うシーンが存在する。

プラーナは、人体強化以外にも医療の面で活用できる、人類の夢を実現する発見でもあるのだ。

ハビタット世界

チョウオーグこと、緑川イチローが画策していた「ハビタット計画」の核となる概念。肉体が存在しないプラーナだけの世界を指しており、イチローいわく“暴力の存在しない世界”である。

しかし、ルリ子はハビタット世界を“地獄”と呼称しており、送られた人間は自我を保てない状態になってしまう。ハビタット世界に行った人間は、生命活動が停止するため、現世を生きる人間にとっては「ハビタット世界=死後の世界」といえる。

オーグメント

昆虫(稀に昆虫以外も存在するが)のプラーナを移植された、改造人間。仮面ライダーもSHOCKERが作り出したオーグメントのひとりで、オリジナル版における“怪人”である。

マスクを装着することで人間性が薄くなり、殺人への抵抗がなくなってしまう。仮面ライダーはこの機能に戸惑っていたが、ほかのオーグメントたちはいとも簡単に残虐な殺戮をくり返している。

SHOCKER

オリジナル版に登場したショッカーに相当する秘密結社だが、世界征服ではなく、人類の幸福を目的に活動している。しかし、深く絶望した人間を幸福にすることが目的なため、非常に独善的な組織になった。

創設者は死亡しているため、現在はAIのアイが実権を握る。思想の違いから派閥争いも起きており、漫画「真の安らぎはこの世になく」でも派閥同士の血で血を洗う戦いが主軸になっている。

ケイ

SHOCKERが保持している外世界観測用自律型人工知能。人工知能のジェイがアップグレードした姿である。

見た目はロボットそのもので、現在もさまざまなことを学習している。劇中では本郷たちが活動している場に姿をあらわし、“観測”を続けていた。『真の安らぎはこの世になく』にも登場し、イチローの人格形成に一役買っている。

元ネタとなったのは、同じく石ノ森章太郎が原作の『ロボット刑事』に登場するKだと思われる。

登場したオーグメントたち

『仮面ライダー』シリーズといえば、敵対する怪人たちも魅力のひとつである。特に『仮面ライダー』第1作目に登場した怪人たちは、平成ライダーよりも不気味で、シリアスなキャラクターが多い。

本作も第1作目や石ノ森章太郎が手掛けた漫画版を踏襲している関係から、オーグメント(怪人)たちの魅力が爆発していた。あらためて、登場したオーグメントたちを復習していこう。

バッタオーグ

本郷猛や一文字隼人が該当する、バッタのプラーナが移植されたオーグメント。映画のラストには大量発生型相変異バッタオーグも登場した。本作では空中戦も描かれており、背中から翅のようなプラーナが発現し、滞空時間も比較的長い。

クモオーグ

元ネタとなったのは、『仮面ライダー』記念すべき第1話に登場した蜘蛛男である。緑川弘を殺害し、ライダーキックで倒される点など、オリジナル版との共通点も多くある。しかし、マスクは『仮面ライダー』をリメイクした『仮面ライダー The First』を踏襲し、蜘蛛の足を思わせるデザインに変更された。

『真の安らぎはこの世になく』にも主要キャラクターとして登場。イチローを導く役割を与えられ、修行に協力する場面もある。

コウモリオーグ

元ネタは『仮面ライダー』第2話の蝙蝠男。自由自在に空を飛ぶことが可能で、人間を操るウイルス(ヴィルース)を開発している。感染さえすれば必勝なウイルスを保持しているが、残念ながら“用意周到”なルリ子には効果がなかった。

サソリオーグ

『仮面ライダー』の第3話に登場したさそり男がモデルだが、本作では女優の長澤まさみが演じている。彼女の登場自体が大きなサプライズだったが、不自然な英語を交えて話す独特な口調で、さらに驚かされた人も多いだろう。

『真の安らぎはこの世になく』では主要キャラクターだが、仮面ライダーと会うこともなく、政府の男たちに倒されてしまった。しかし、彼女の毒はハチオーグと戦う際の切り札になるため、わずか数シーンの登場に留まったが重要なオーグメントである。

ハチオーグ

スズメバチのプラーナを移植されたオーグメント。元ネタは『仮面ライダー』シリーズ初の女性怪人・蜂女である。

SHOCKERに所属していた頃のルリ子とは友人であり、本名がヒロミである点から、『仮面ライダー』でルリ子の親友だった野原ひろみのネタも入っていると思われる。

カマキリ・カメレオンオーグ

通称・K.Kオーグ。本作に登場する唯一の2種合成オーグメントであり、カマキリとカメレオンの力を有している。透明になることもできるが、戦闘中はなぜかその技を使わず、仮面ライダー第2号にやられてしまった。

『仮面ライダー』後半のエピソードに登場した、ゲルショッカーの怪人を思わせるオーグメントでもある。

チョウオーグ

本作のラスボスであり、仮面ライダー第0号でもある。

仮面ライダーをはるかに超える量のプラーナを内包し、ダブルライダーを圧倒した。

“シン”要素

予告編の時点で誰もが察していたことだが、本作は初代『仮面ライダー』と、漫画版「仮面ライダー」から多大な影響を受けている。実際に鑑賞すると、ロケ地やオーグメントの設定はもちろん、劇中に流れるどこか不気味な空気感まで踏襲していた。『仮面ライダー』ファン、特に初代の“リアルタイム世代”は歓喜する作品ではないだろうか。

しかし、細かいオマージュよりも、まずは初代『仮面ライダー』から進化した点を一番に注目するべきである。特に主人公・本郷猛のキャラクター描写には、より人間ドラマに特化した、庵野秀明らしい『仮面ライダー』を感じた。

本作の本郷猛は、過去の経験から暴力を嫌う仮面ライダーだ。そのため、他を傷つける暴力に対して、さらに強い暴力を使ってしまうオーグメントの力を憂いていた。彼の中には葛藤があって、映画序盤は彼の内面がフォーカスされていく。この描写は『新世紀エヴァンゲリオン』の主人公・碇シンジとも共通している。戦いたくないけれど、戦わざるを得ない状況に置かれた本郷猛は、過去作の誰よりも共感できる仮面ライダーになったのではないだろうか。

一方で、矛盾していることを書くようだが、本作は『仮面ライダー』ではめずらしく、“みずから乗りこんでいく”戦闘スタイルだった。過去の“シン”作品たちも、襲い掛かってきた脅威に対処することでストーリーが展開していたが、本作はその逆である。

その結果、本作は仮面ライダーの持つ“ライダー”の側面を強調しているように思える。サイクロン号を敵を倒す武器(最後は玉座を破壊し華々しく散ったが)ではなく、移動手段としても大いに活用されていた。そして、本郷猛と緑川ルリ子による、ある種のロードムービーとしても楽しめる一作である。これは毎週放送だったオリジナル版とは異なり、1本の映画にするうえで庵野監督が選択した手段でもあるだろう。

また、カメラワークにも、庵野作品ではおなじみとなったiPhone撮影だけでなく、大きな進化があった。

特に変化が感じられるのは、原作と同じロケ地で撮影したクモオーグとの戦闘シーンである。ロケ地で原作の要素を感じさせつつも、ロングショットを多用したり、大がかりなアクションをワンカットで撮ってしまったりと、映画ならではの迫力あるシーンが連続する。技術の進化もあるが、どのカットを取っても映画館での鑑賞に値する、見ごたえのあるものになっていたのではないだろうか。

映像の面で不満点があるとすれば、CGのクオリティーである。奇しくも同じ週に公開された『シャザム!〜神々の怒り〜』は、大迫力の空中戦が連続する、ビッグバジェットな作品だった。ふたつの作品を連続して鑑賞した筆者は、『シン・仮面ライダー』の空中戦に満足できなかったのも事実である。しかし、ハリウッド映画では絶対に実現できない、挑戦的な構図でカバーできている……はず。

そして、庵野監督の代表作『新世紀エヴァンゲリオン』との共通点にも注目したい。『シン・ゴジラ』ではエヴァの音楽が使用され、『シン・ウルトラマン』ではラスボスが“ほぼ使徒”だった衝撃も記憶に新しい。エヴァで庵野監督を知った身としては、エヴァ要素を拾わずにはいられないのだ。

エヴァを知る人なら誰もが感じたと思うが、イチローの目的である「ハビタット計画」は、まさかの人類補完計画だった。「ようするにゲンドウと同じこと言ってないか?」と疑問を感じた人もいるだろう。

さらに、緑川ルリ子は、綾波レイとアスカのハイブリッドといえる、“庵野秀明ヒロイン”だった。レイのように無口・無表情で、アスカのようにツンが激しい。しかし、本郷に甘えるなど、デレの部分もしっかり持っている。その正体が人工子宮から生まれた生命体だったことも、綾波レイの出自を思い起こさずにはいられない。

やはり本作は『仮面ライダー』を踏襲し、オマージュを捧げつつも、庵野秀明監督が自由にクリエイティビティを発揮した作品だった。

『シン・仮面ライダー2』はあるのか?

本作はこれまでの“シン”作品の中で、もっとも続編を感じさせるラストだった。

一文字隼人が最後に変身したスーツは、『仮面ライダーV3』に登場する新1号を思わせるデザインで、コブラオーグなる存在も明言されていた。政府の男の名前も明かされ、さらなる活躍も期待できるだろう。

そもそも、劇中に登場したSHOCKERに関する問題がほとんど解決していない。『真の安らぎはこの世になく』で描かれた派閥争いや、“イワン派”と呼ばれた構成員たちに関してはほとんど言及されなかった。イワンは『仮面ライダー』における死神博士(イワン・タワノビッチ)を意識した人物であるため、『シン・仮面ライダー』の世界においても重要キャラクターになるのだろう。

そして、エンドロール中に流れた曲の中で、最後に使用された曲は『仮面ライダー』の挿入歌「かえってくるライダー」だった。この演出を文字どおりに受け取っていいのか、単なるファンサービスなのか。

また、『シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース』と題されたシリーズに関しての情報は未知数だ。一文字隼人を主人公にした『シン・仮面ライダー2』や、他作品とのクロスオーバーに期待しつつ、仮面ライダーが帰ってくる日を気長に待とう。

『シン・仮面ライダー』作品情報

監督・脚本:庵野秀明
原作:石ノ森章太郎
公開日:2023年3月17日(金)
公式サイト:https://www.shin-kamen-rider.jp/

※2023年7月21日時点での情報です。

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