【ネタバレ】映画『ルパン三世 ルパンVS複製人間』実は地上波でカットされるシーンも多い禁断の映画だった?作品内容を徹底解説!

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映画『ルパン三世 ルパンVS複製人間』は、実はTV放送できないシーンも多い禁断の映画だった?作品内容を徹底解説!

数多くの長寿TVアニメーション作品が存在する日本で、半世紀という歴史を持ちながら現在も新作が作られる続けている作品が『ルパン三世』です。そんな『ルパン三世』が初めて映画という舞台に立ったのが、1978年に公開されたルパン三世 ルパンVS複製人間でした。

本作ですら30年以上前の作品なのですが、長い時間を経た現在でも色褪せない見応えのある映画となっています。本作が描く現在にも通ずるメッセージとはどんなものだったのでしょうか。早速解説していきます。

ルパン三世 ルパンVS複製人間』(1978)あらすじ

不二子からの依頼、いつもと変わらないやり取りのはずだった。

永遠の命が与えられるという伝説の「賢者の石」をエジプトのピラミッドから盗み出したルパン三世。だが、不二子はルパンから賢者の石を騙し取り、ある依頼人のもとに去ってしまう。 依頼人の名前は“マモー”。 マモーは1万年もの間、「神の実験」と称してクローン技術を駆使し自身のクローンを作り続けてきた複製人間だった。自らを「神」と名乗るマモーは、ルパンに不老不死の話を持ちかけるがルパンは相手にしなかった。自分の崇高な理想を理解しないルパンに怒ったマモーは、再びルパンたちの前に現れ、人知を超えた能力で不二子を連れ去ってしまう。圧倒的な力の前に戦意を失くしてしまった次元の制止を振り切り、単身マモーの元へ向かうルパン。

すべての謎の答え、そして「賢者の石」を使って行おうとするマモーの野望が明らかになったとき、ルパンとマモーの決戦の火ぶたは切られるのだった。 ルパンVSマモー、世界史を塗り替えるのは、どっちだ!?

※以下、『ルパン三世 ルパンVS複製人間』のネタバレを含みます。

記念すべき「ルパン映画」第1弾

『ルパン三世』の映画シリーズと言えば、宮崎駿が監督を務めていることや地上波でのテレビ放送の回数からルパン三世 カリオストロの城』(1979)の名前がよく上がりますが、それに次いで名前が上がるであろうタイトルがこの『ルパン三世 ルパンVS複製人間』でしょう。なにを隠そう本作こそ『ルパン三世』の映画シリーズの記念すべき第1弾だからです(『ルパン三世 カリオストロの城』は第二弾)。

映画の公開当時はTVアニメ『ルパン三世』は第2シリーズの放送まっただ中でした。今でこそ最もメジャーとも言える赤いジャケットに身を包み、少しエッチでお調子者だけどここぞという時に頼りになる……というルパンのキャラクター像や、ルパンといえばこの曲というぐらいお馴染みの「ルパン三世のテーマ」が生まれたのも、実はこのシリーズからでした。

現在の多くの人がイメージする“ルパン像”につながる礎がこの頃のルパンに詰まっており、ルパン三世 ルパンVS複製人間はまさにそのことがよく分かる1本と言えるのではないでしょうか。

地上波ではカットされてしまう際どいセリフや演出たち

その知名度や評価からも『ルパン三世 カリオストロの城』に次いで多くの地上波放送を果たしている『ルパン三世 ルパンVS複製人間』。しかし、実は本作が最もテレビ放送に向かない攻めた内容の映画とも言えます。というのも、『ルパン三世 ルパンVS複製人間』には、当時じゃないとできない際どい表現や地上波では放送しづらい大人向けの表現が盛り込まれているからです。

例えば、マモーに捕らえられたルパンが檻を脱出してアジトをさまようシーン。ここではナポレオンやヒトラーらしき人物に遭遇し、ルパンがナチス式の敬礼をするという場面が登場します。

さらにアジトをさまようルパンは、そこで多くのクローン人間が作り出される様子を目撃します。無数に並ぶ巨大な試験管の中には、クローン人間の幼体が眠っていました。“瓶詰めの赤ん坊”と称されるこれらのクローン人間の製造描写は放送時にはカットされてることが多いようです。

他にも、マモーがルパンの脳内を覗くシーンでは裸の不二子の姿や女性の裸のコラージュ画像、性行為を思わせる動きを見せる男女の記号やさらには当時タイアップ商品となった駄菓子“テレパッチ”をルパンが食すカットなども登場します。これらも度々割愛の対象となっています。

映像以外でも、ルパン達の隠れ家が破壊された後、次元と五右ェ門が口喧嘩を始める場面では、次元が差別的な表現で五右ェ門を怒鳴る一幕が登場。2017年に実施されたMX4D上映においてもこの発言シーンは割愛されました。

際どい表現ではある一方で、マモーがクローン人間を生み出している具体的な描写などは物語上でも重要なシーンです。これらはリリースされているソフトや映像配信サービスには収録されているので、真に『ルパン三世 ルパンVS複製人間』を体験するという意味ではぜひこれらの映像も一度は見ておきたいところです。

マモーの目的とは何だったのか?

後続の『ルパン三世』シリーズでも度々言及されることがあるほど印象的なキャラクターとなっているのが、今作の悪役である“マモー”。彼がクローン人間を生み出しているわけですが、そもそも彼の目的はなんだったのでしょうか。

マモーは自身のクローン技術によって1万年もの間生き続けて歴史を影で動かしてきたことを語ります。大富豪ハワード・ロックウッドとして世界の産業や富を支配し“世界征服”に成功しているとも言えます。

そんな中、マモーが求めていたことは完全な不老不死でした。クローンの技術によってすでに異常なほど生きながらえたマモーでしたが、そんなマモーもクローンの限界に直面します。度重なるクローンの連鎖は、細胞の劣化を引き起こすのでした。そこで130代目にまで至ったマモーが選んだ道は、脳の状態に特殊なリンゲル液に自らを浸して遠隔的に自身のクローンたちを操作することでした。

脳の状態で生き続けたマモーは、真の不老不死の可能性を探るべく、不二子を経由してルパンに「賢者の石」などその可能性のアイテムを盗ませていたわけです。

ルパンと擬似“神”との戦いを描いていた

完全な不老不死を目的とするマモーは時折「神」を名乗り、ルパンもそれを度々揶揄するシーンが登場しましたが、本作はまさにそんな神になろうとする人間に対して、ルパンが抗う物語でもありました。

マモーはおそらく1万年という期間を本当に生き続け、文化や文明といった人間の営みに関与し続けてきたのでしょう。それはまさに「神」とでも言うような存在です。

しかし、そんなマモーをルパンは偽りの神と罵倒します。寿命を長らえ、自分勝手に命を選別しようとする存在が「神」ではないと否定します。

ここには私達人類が科学や医療技術の発達により平均寿命を延ばしていく傍ら、特定の人種や民族や特性を持った人々を淘汰していく行為に対する批判の視点が見えてきます。

そして、永遠の命を否定するルパンの姿勢にも、ルパンの哲学が見えてきます。脳だけになり生きながらえようとするマモーを“バケモノ”と表現している通り、限りある命を持ってこそが人間の尊厳であることを考えており、あれだけ甘かった不二子に望まれていても、永遠の命に関しては一切の興味を示していないことが象徴的です。

ちなみに、神をテーマにしていることもあり、マモーのアジトにはバチカンにあるシスティーナ礼拝堂のミケランジェロの「アダムの創造」をはじめとした美術が展示されています。マモーが神に憧れこれらの作品を飾っているのか。はたまたこれらの作品の出自にまで関わっていたのか。いろんな想像ができる部分となっています。

ミケランジェロだけじゃない、多数登場する美術作品

『ルパン三世 ルパンVS複製人間』ではミケランジェロの作品だけでなく、様々な美術作品が登場していることにも気づいたのではないでしょうか。

ルパンがマモーのアジトで目覚めた直後、輪を転がす少女のシルエットが印象的な場所に行き着きます。これはジョルジオ・デ・キリコの「通りの神秘と憂愁」という作品が元ネタとなっています。

その後追われるルパンは、ポール・デルヴォーの「アクロポリス」らしき場所やマウリッツ・エッシャーの「相対性」を思わせるような不思議な立体の階段を巡り、サルバドール・ダリの「ナルシスの変貌」や「記憶の固執」といった作品の中を駆け巡ります。

そのほかに、絵画だけではなく紀元前に制作されたというラオコーン像といった立体作品もアジトの中で発見できます。

これらの作品が飾られている状況からは、悠久の人生を歩んできたとされるマモーの異様さと、自身が美しいと思うものだけを生きながらえようとする歪んだ思想が表れています。そんなマモーの思想をユーモアに溢れる仕掛けで見せる楽しい演出となっていました。

現実世界を舞台にしながらも超常的なSF世界に踏み込むストーリーと、スリリングなアクションと軽快でコミカルなルパンのユーモア。そして、「人間のあるべき姿」を問いかける普遍的なテーマ。それらが組み合わさることで『ルパン三世 ルパンVS複製人間』を何年経っても色わせない作品たらしめていることを改めて痛感します。

原作:モンキー・パンチ (C)TMS

※2023年4月26日時点での情報です。

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