【ネタバレ】映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』最も黒い絵の正体とは?登場する絵画や画家は実在するの?原作と比較して徹底解説!

アニメの風通しがもっと良くなりますように

ネジムラ89

「ドラマシリーズが好評を受け、ついに映画化!」

なんて流れは近年でもよくある話ですが、映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の映画化は本作をもともと知っていた人ほど驚いたのではないでしょうか。

原作からのアレンジを加えつつ、長編化に挑んだ映画『岸部露伴 ルーヴルへ行く』は独自のエッセンスを加えて、映像作品として新たな物語に生まれ変わりました。

原作漫画や実際の絵画史、またはルーヴル美術館と比較して、映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』がどういう立ち位置の映画なのか、ネタバレ有りで振り返っていきます。

岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(2023)あらすじ

特殊能力を持つ、漫画家・岸辺露伴は、青年時代に淡い思いを抱いた女性からこの世で「最も黒い絵」の噂を聞く。それは最も黒く、そしてこの世で最も邪悪な絵だった。

時は経ち、新作執筆の過程で、その絵がルーヴル美術館に所蔵されていることを知った露伴は取材とかつての微かな慕情のためにフランスを訪れる。しかし、不思議なことに美術館職員すら「黒い絵」の存在を知らず、データベースでヒットした保管場所は、今はもう使われていないはずの地下倉庫「Z-13倉庫」だった。そこで露伴は「黒い絵」が引き起こす恐ろしい出来事に対峙することとなる……。

※以下、映画や原作漫画『岸辺露伴ルーヴルへ行く』のネタバレを含みます。

「岸辺露伴」シリーズとはそもそも何?

映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は2020年より毎年末に製作されているドラマシリーズ『岸辺露伴は動かない』に連なる「岸辺露伴」シリーズの新作です。

もともと岸辺露伴は動かない』は荒木飛呂彦が手がけた短編漫画シリーズでした。本作の主人公である岸辺露伴は、漫画『ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない』に登場する脇役の一人で、そんな彼を主人公に据えたスピンオフ作品でした。

『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズといえば、“スタンド”と呼ばれる特殊な能力を用いたバトルアクション要素が有名ですが、本シリーズではそういった戦いの要素よりも、岸辺露伴の持つ「人の心や記憶を本にして読む」という設定を活かしながらミステリーやサスペンスを展開していくシリーズとなっています。

ドラマ化にあたって原作漫画からはアレンジが加わっており、登場回数の少ない漫画編集者の泉京香の出番が大幅に増えていたり、実体化するはずの“スタンド”の姿が登場しなかったり、そもそもその呼称が登場しないといったいくつかの違いがあります。

ルーヴル美術館の『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』という特殊な作品

そんな原作漫画『岸辺露伴は動かない』の中でも、原作『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は特別な立ち位置のエピソードとなっています。

2005年よりルーヴル美術館と出版社のフュチュロポリス社が共同で、漫画のアルバムコレクションを作る企画「バンド・デシネプロジェクト」を実施しました。この企画は、漫画家をルーヴル美術館に招待し、ルーヴルを題材にしたバンド・デシネ(フランスやベルギーを中心とした地域の漫画作品の呼称)を製作してもらうというものでした。

多くのフランスやベルギーの作家が参加したこのプロジェクトに、唯一日本の漫画を代表する作家として選ばれたのが荒木飛呂彦であり、その企画の一環で描かれたのが2009年発表の漫画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』という作品でした。

荒木飛呂彦にとって初の全編フルカラー作品となっており、作品の舞台ごとに色合いが変えられていたり、作中には実際のルーヴル美術館の所蔵作品から着想を得たポーズなどが盛り込まれているなど、これまでの「岸辺露伴」シリーズの中でもかなり特殊な背景を持つ作品となっています。

『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の見事な長編化!原作との違いは?

そんな原作漫画をベースに製作された映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』は、長編化するにあたって原作の内容から多くのアレンジが施されています。

泉京香の出番が加わっていたり、実体化したスタンドが登場しないなどのドラマシリーズの設定を踏襲する他、原作では過去から現在へと物語の時系列が描かれていくのに対し、今回の映画ではその過去のエピソードを物語の中盤に据え、美術品を窃盗しようとする悪人たちが存在するという設定を盛り込むことで、原作では罪のない人たちが黒い絵によって次々と殺されてしまう無慈悲な展開を、勧善懲悪的に見せることで後味の良い内容にしてくれています。

また、原作には実は黒い絵を描いたとされる山村仁左衛門しか登場していません。もう一人の登場画家であるモリス・ルグランは今回の映画オリジナルのキャラクターでした。モリス・ルグランという存在を挟むことで、謎解きの要素が増し、よりミステリー作品として厚みのある作品となっていました。

「最も黒い絵」の正体とは?

岸辺露伴が探していた「最も黒い絵」の正体。それは山村仁左衛門がかつて神木の樹液を顔料にして妻・奈々瀬を描いたものでした。

その異様な黒さと仁左衛門が込めた怨念は、その絵画を見たものの過去を映し出し、祖先が犯した記憶や自身が犯した後悔などを顕現させ攻撃させるという危険なものでした。

この絵画のある場所や顔料の側には意味深に必ず蜘蛛が登場しています。作中ではあまり深く言及されていませんでしたが、原作漫画ではこの蜘蛛の正体についてもはっきり言及されています。

仁左衛門が発見した黒い顔料は、老木の中にだけ住む生物の色。何千年と木の中の安定した暗闇の中だけで眠り続ける蜘蛛のような“どす黒い生物”がおり、この生物が仁左衛門の怨念と一体化して動き出し、近づいたものを攻撃していたのでした。

そして奈々瀬が露伴の絵をハサミで傷つけた理由にもはっきり言及しています。奈々瀬は露伴を通して、夫である仁左衛門の心を封じようとしており、かつて彼女が露伴の絵を切り裂いていなければ、露伴は初恋の思い出に負けてルーヴルの倉庫で彼女に触れてしまい殺されていたであろうと回想しています。奈々瀬は露伴を守るために、わざと原稿を傷つけて自身への思いを断ち切らせたのでした。

山村仁左右衛門やモリス・ルグランは実在するのか?

作中に登場する山村仁左衛門やモリス・ルグランという画家は実在するのでしょうか。もちろん彼らは架空の存在で実際には存在せず、作品も存在しません。

ただしモリス・ルグランという名前は、怪盗紳士『アルセーヌ・ルパン』シリーズを手がけた小説家のモーリス・ルブランを思わせる名前となっています。贋作を作り本物の絵画を隠してきた一団の主要メンバーの一人というモリス・ルグランの設定からも、大怪盗であるルパンから着想を得ている可能性はありそうです。

また山村仁左衛門も存在しないものの、作中で山村仁左衛門が蘭画の影響を受けて日本画を描くシーンが登場していますが、実際に江戸時代後期には秋田蘭画という洋画派が存在しています。

秋田藩の小田野直武(おだの なおたけ)や佐竹曙山(さたけ しょざん)といった画家が名を連ね、西洋美術に習って遠くの景色を淡い色で描く“空気遠近法”などを取り入れた写実的な作品を多く世に残しました。

直武ら主要な人物が早々に亡くなったことで秋田蘭画自体は江戸に進出しわずか数年で絵画史から姿を消すことになるのですが、彼らの作品は日本で初めて腐蝕銅版画を制作したとされる司馬江漢(しば こうかん)など後世の絵師にも影響を与え、日本絵画史に名を残すことになります。リアリティを求める露伴のスタイルは、写実的な秋田蘭画にも通じる部分があります。

“人間の手に負えない”?ルーヴル美術館の実際

「人間の手に負える美術館じゃない」

そう締めくくりルーヴルを発つ露伴のセリフの通り、今回の物語の舞台となるルーヴル美術館も実際に一風変わった場所となっています。

作中でも語られる通り、かつては城塞として生まれ、フランス王の宮殿として使われたかと思えば、現在のように世界最高峰の美術館として生まれ変わるなど、何度も増改築を経て現在に至る美術館自体が一つの作品のようになっている特殊な場所です。

露伴が語る、クロード・モネの大作である「睡蓮、柳の反映」がルーヴルの美術館内に忘れ去られており、2016年に約60年ぶりに発見されたというのは実際にあったニュースです。美術館の広大さやその神秘性を感じさせる逸話となっていました。

またルーヴル美術館は長いフランスの歴史の中で世界各地から収奪してきた作品も複数収容しています。作品によってはそれらの美術品の帰属に関しては今なお返還の訴訟が起こったり、未だ争っている最中の作品も存在します。そんな背景を踏まえると、窃盗犯が美術館内部に存在していたりといったテーマを盛り込んだりするのは、ある意味今回の映画がなかなかに攻めている部分とも受け取れます。

そんなちょっと不思議な存在である世界最高峰の美術館・ルーヴル。それを知るきっかけを与えてくれるという点も、今作の魅力の一つとして挙げられるでしょう。

作中でも言及されている通り、ルーヴル美術館の全作品は現在オンラインで無料公開が実施されています。実際にフランスに足を運べないという人もオンラインで、ルーヴルの世界に触れてみてはいかがでしょうか。

 

※2023年6月2日時点での情報です。

公式アカウントをフォロー

  • RSS