【ネタバレ】映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』シリーズ最大の敵が意味するものとは?徹底考察

ポップカルチャー系ライター

竹島ルイ

「ミッション:インポッシブル」シリーズ7作目となる『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』について、ネタバレ解説

7月21日(金)より、全世界待望の話題作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(23)が公開中だ。1作目から足掛け27年、これだけシリーズが続いていくと普通は尻すぼみしていくものだが、回を追うごとに面白さに拍車がかかっていくという、極めて稀有なシリーズである(と筆者は思っている)。

という訳で今回は、シリーズ7作目となる『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』について、ネタバレ解説していきましょう。

映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(2023)あらすじ

IMFエージェント、イーサン・ハントに課せられた究極のミッションは、全人類を脅かす新兵器が悪の手に渡る前に見つけ出すこと。しかし、IMF所属前のイーサンの“逃れられない過去”を知る“ある男”が迫るなか、世界各地でイーサンたちは命を懸けた攻防を繰り広げる。

やがて、今回のミッションはどんな犠牲を払っても絶対に達成させなければならないことを知る。その時、守るのは、ミッションか、それとも仲間か。イーサンに、史上最大の決断が迫る……。(オフィシャルサイトより抜粋)

※以下、映画『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』のネタバレを含みます。

クリストファー・マッカリー単独体制となった『M:I』シリーズ

もともと第1作『ミッション:インポッシブル』(96)は、1966〜1973年に放送されたテレビドラマ『スパイ大作戦』のリメイクとして企画がスタートした。プロデューサーも務めているトム・クルーズは、監督にブライアン・デ・パルマを指名。『殺しのドレス』(80)や『ボディ・ダブル』(84)など、サスペンス描写に定評のある名匠を招聘して、古き良きスパイ・サスペンス映画を現代に甦らせたのである。

続く第2作『ミッション:インポッシブル2』(00)の監督は、『男たちの挽歌』シリーズで知られるジョン・ウー。第3作『ミッション:インポッシブル3』(06)は、大人気テレビドラマ『エイリアス』(2001〜2006年)、『LOST』(2004〜2010年)のJ・J・エイブラムス。そして第4作『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(11)は、『アイアン・ジャイアント』(99)、『Mr.インクレディブル』(04)のブラッド・バード(まさかのアニメーション監督!)。1作ごとに異なる演出家を招聘して、作品の特色を際立たせようとする狙いがあった。

ところが、5作目となる『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』(15)を皮切りに、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(18)、そして本作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』と、クリストファー・マッカリーが3作連続で監督・脚本を担当。当然次回作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART TWO』も、彼の手による作品であることがアナウンスされている(ちなみに『ゴースト・プロトコル』も、ノンクレジットだが脚本家として参加している)。このシリーズは、今や完全にクリストファー・マッカリー単独体制となっているのだ。

なぜだろうか?

もともとクリストファー・マッカリーは、『ユージュアル・サスペクツ』(95)でアカデミー賞脚本賞を受賞し、一躍注目を浴びたシナリオライター。その後ベニチオ・デル・トロを主演に迎えた『誘拐犯』(00)で監督デビューを果たすも、興行的には大失敗。その後は仕事に恵まれず、ノンクレジットで脚本のリライト作業をして食いつなぐ日々を過ごしていた。

そんな彼に、転機が訪れる。ヒトラー暗殺計画を描いた『ワルキューレ』(08)に、脚本家として参加。主演・製作を務めていたトム・クルーズに、その才能を認められたのだ。そして、トム・クルーズが主人公ジャック・リーチャーを演じる『アウトロー』(12)で、12年ぶりに監督復帰。『夜の大捜査線』(67)、『ブリット』(68)、『ダーティハリー』(71)など、’60年代〜’70年代のクライム・アクション映画を彷彿とさせるオールド・ファッションな作風に、一部ファン(筆者含む)が熱狂したのである。

おそらく『アウトロー』は、ハデハデでマシマシな「ミッション:インポッシブル」シリーズのカウンター、もっと言えばこれまでのトム・クルーズ映画に対するカウンターとして作られている。極めて懐古主義的な、アナクロな感性。そこにトム・クルーズは、新しい「ミッション:インポッシブル」シリーズの可能性を見出したのだろう。CGやスタントマンに頼ることなく、トム・クルーズが自らの肉体を駆使して、アクション・スターとしてさらなる高みに到達するための。

クリストファー・マッカリー単独体制になったその理由、それは彼が“アクション・スター”トム・クルーズの魅力を最も引き出すことができる類稀なフィルムメーカーだからではないだろうか。彼は「ミッション:インポッシブル」シリーズのみならず、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(14)や『トップガンマーベリック』(22)にも脚本参加。もはやトム・クルーズ御用達のクリエイターとなっている。現在最強のスター俳優のやりたいことを明確にビジョン化して、ストーリーを構築する力があるからだろう。

サスペンス映画から、SASUKEチャレンジ映画へ

1962年生まれのトム・クルーズは、今年で61歳。若々しいルックスを保ってはいるが、還暦過ぎのおじいちゃんである。ちなみに石原良純や水道橋博士と同い年だ(比較することに何の意味があるのか、自分でもよく分からないが)。しかし彼のジャッキー・チェン化はますます拍車がかかっており、そのスタントもシリーズを重ねるごとにヤバさが増すばかり。

『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』では全高829.8mを誇るドバイの超高層ビルをよじ登り、 『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』では離陸する輸送機にしがみつき、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』では上空8000メートルからスカイダイビング。テレビで『SASUKE』という視聴者参加型のスポーツエンターテインメント番組があるが、もはや我々は毎回映画館でトム・クルーズの『SASUKE』チャレンジを目撃しているかのような感覚である。

そして今回の『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』では、バイクごと海抜1200メートルの渓谷に落下するという、クレイジーすぎるアクションに挑戦(しかもトムは、この撮影を7回繰り返したという)。ある記者がトム・クルーズに「なぜ自分自身で危険なスタントを行うのですか?」と聞いたところ、「ジーン・ケリーに、なぜ自分でダンスするのかを聞く人はいないですよね?」と答えたらしい。うわー、めっちゃカッコいい。彼にとって演技することとは、肉体の限界に挑戦することと同義なのだ。

今作のクライマックスは、オリエント急行での大アクション・シーン。列車の中で戦い、列車の上で戦い、落下する列車からの脱出。これはもはや、『キートンの大列車追跡』(27)だ。

バスター・キートンは、チャールズ・チャップリン、ハロルド・ロイドと並んで世界の三大喜劇王と称される、偉大な俳優の一人。そして列車の上を全速力で走り回るような、サイレント映画期の偉大なアクション・スター。トム・クルーズはジャッキー・チェン化を通り越して、バスター・キートンと化している。それはより純粋な意味で、「黎明期のシネマに回帰している」ということなのではないか。

サイレント映画への回帰

実はこの『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』、撮影時に脚本がなかったことがスタッフ&キャストから明かされている。ベンジー役のサイモン・ペッグは、あるシーンを撮った後にその次の展開を尋ねたところ、「まだ分からない」と言われてしまったそうな。こんな行き当たりばったりの撮影方法だったら、ストーリーが破綻してしまいそうだが、それでも成立してしまうのが本作の凄さ。

あるストーリーがあって、それを元に役者が自らの肉体を通じて物語を作っていくのが普通の映画とするなら、この映画の場合はまずトム・クルーズという類稀な肉体があって、後からストーリーを当てはめているかのようだ。それは、サイレント期映画への回帰に他ならない。

確かに『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』のストーリーは、極限なまでにシンプルだ。軍事AIエンティティを操ることができる二つの鍵を巡って、とにかく右往左往しまくるだけ。まさに、ストーリー至上主義の真逆のような映画。筆者は『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』の反省がその理由にあるのではないか、と推察している。

『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』は随所に脚本上のツイストがありすぎて、正直ストーリーを追うことが困難な作品だった(単に筆者の頭が悪いだけかもしれないが)。いつ、どこで、誰が、何をしているのかが掴みきれなかったのである。

だが、それはクリストファー・マッカリーの意図するものではなかっただろう。余計なツイストは徹底排除、アクション描写に一点集中することによって(つまりサイレント映画に回帰することで)、本作は異次元のレベルに到達しているのである。

マジックナンバー4

『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』には、衝撃的な展開が待ち受けていた。イーサン・ハントのかけがえのない仲間、イルサ(レベッカ・ファーガソン)がガブリエル(イーサイ・モラレス)との戦いで非業の死を遂げてしまったのだ。

考えてみると初期の「ミッション:インポッシブル」シリーズは、イーサン・ハントがとにかく一人で歯を食いしばって、一人で頑張って、一人で解決するお話だった。第1作からルーサー(ヴィング・レイムス)は登場していたものの、ベンジー(サイモン・ペッグ)は第3作から、イルサは第5作から合流。まさにクリストファー・マッカリー単独体制になってから、チームで歯を食いしばって、チームで頑張って、チームで解決するお話にシフトチェンジしたのである。

それにしてもイルサは、なぜ死ななければならなかったのだろうか?

特に最近のMCUを見ていて思うところがある。シリーズの回を重ねるごとに仲間が増えすぎて、やや話運びが重くなってしまうこと。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』(23)を観ていても、スター・ロード、ロケット、グルート、ドラックス、ガモーラの5人組に加えて、マンティスやネビュラも入ってくると、各キャラの見せ場も必要になってくるため、なかなか物語が最短距離で進展しない。

今作は、グレース(ヘイリー・アトウェル)が新しいIMFメンバーとして加入するまでの物語でもある。アクション担当のイーサン&イルサ、後方支援担当のルーサー&ベンジーの四人衆に、さらにもう一人仲間が増えてしまうと、MCUと同じような問題を抱えてしまう。それを製作サイドは回避したかったのではないか。

できるだけシンプルなストーリーで、純粋にトム・クルーズのアクションをスクリーンに焼き付けること。仲間の人数の上限を増やさないこと、おそらくその上限を“4”に定めること。ファンとしては痛ましいのだが、イルサは製作サイドのそんな思惑によって、シリーズから撤退してしまった気がしてならない。

最大の敵“AI”が意味するものとは

今作のイーサン・ハントたちの敵、それはアメリカが極秘裏に開発した「エンティティ」。あらゆるシステムをハッキングして妨害工作を行い、その痕跡を消し去ってしまう軍事AIだ。シリーズ最大の敵がAIであることに、筆者は不思議な偶然を感じてしまう。なぜなら今ハリウッドでは、まさにAIの利用を巡る闘いが繰り広げられているからだ。

5月2日より、全米脚本家組合(WGA)がストライキに突入。7月13日には、映画俳優組合-米国テレビ・ラジオ芸能人組合(SAG-AFTRA)もストライキに突入し、63年ぶりに俳優・脚本家の同時ストとなった。

そして両団体共に訴えているのが、人工知能の進歩によって仕事が激減していることへの保護体制だ。AIが脚本を書く、アイディアを作ることによる、脚本家の機会損失。外見をスキャンしてデジタルで演技を再現できることによる、俳優の機会損失。この原稿を執筆している2023年7月25日(火)時点で、問題解決の糸口すら見つかっていない。

6月に行われた交渉の席で、トム・クルーズは今後AIが俳優に与えるであろう危機について意見を語ったという。奇しくも映画の世界で、そして現実の世界で、彼はAIと戦っているのだ。

思えば『トップガン マーヴェリック』(22)は、トム・クルーズ自身の映画論になっていた。有人戦闘機から無人戦闘機への過渡期にあって、絶滅危惧種と言えるパイロットのマーヴェリックというキャラクターは、自ら危険なスタントを敢行し、肉体的躍動をスクリーンに焼き付けんとするトム・クルーズ自身。そしてAIと真っ向から対決するイーサン・ハントもまた、彼自身の姿と重なる。

時代遅れのヒーロー、トム・クルーズ。筆者はそんな彼のスタンスとたゆまぬチャレンジ・スピリットに、ありったけの賛辞を送りたい。

(C)2022 PARAMOUNT PICTURES.

※2023年7月27日時点での情報です。

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