芦田愛菜が7年ぶりに民放ドラマでレギュラーキャストに名を連ね、主人公は松岡茉優と注目を集めてきた『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日本テレビ)。
ドラマは第2章へ移り「学園ドラマ」の域を超え、「大人」に語りかける内容へ。クラスに巻き起こる「憶測」といじめグループのリーダー・「相楽の笑み」の関係、今後起こりうる「問題」を考察します。
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*以下、ネタバレを含みます。
『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』あらすじ
第6話で命を落とした鵜久森(芦田愛菜)。その死をきっかけに二周目の人生を送る担任・九条(松岡茉優)はクラスと教師たちに、彼女へ向き合うこと、そして「憶測で鵜久森を語らないこと」「犯人探しをしないこと」と訴えた。
しかし8話で状況は変わっていく。星崎(奥平大兼)がとある映像を東風谷(當真あみ)に見せたからだ。それは事件当日、外部の人物である浜岡(青木柚)が制服姿で校舎に侵入するところを映したものだった。浜岡と相楽(加藤清史郎)の関係を知ったクラスメイトたちは、鵜久森事件の犯人が相楽なのではないかと疑いを深くする。そんな同級生に対し相楽は「あいつは俺のせいで死んだ」と打ち明け笑うのだった……。
しかしそれは「鵜久森は何かを変えようと危険を冒し、その空気を作ったのは自分だから」という意味であった。九条は相楽に「弱さを見せる覚悟はあるか」と問いかけ、クラスメイトに向き合うことを望んだ。相楽は弱い自分を認めることの恐れがあること、それを隠すためにクラスメイトに酷いことをしてきたことを、正直に打ち明け謝罪。その後、鵜久森の位牌の前でも、これまでの行いを涙ながらに謝った。
【考察】わたし達に訴える「憶測の暴走」が巻き起こすもの
前回の7話より第二章と銘打たれた「最高の教師」。7話考察でも触れたが、ドラマはクラスを飛び越えて「SNS社会の私たち」に問いかける内容へと姿を変えた。一つひとつのセリフがメッセージのように響くのは、このクラスが社会を縮図した劇になっているからだと思う。
7話で「鵜久森に向き合うこと」、「向き合うとはどういうことか」を訴えた九条。教頭の覚悟をもった宣言もあり、生徒それぞれが同じ方向を見つめたように思えた。しかし、それでも問題が起こってしまう。8話以降、このドラマが見せるのは「暴走」だ。
東風谷すら陥る「暴走」が見せるもの
8話で描かれた問題、それは「憶測の暴走」だ。7話で鵜久森に向き合うと決めた生徒たちだが、星崎からもたらされた一つの動画に動揺が広まっていく。危機を察知した九条が静止しても、東風谷は「知るべきことに近づいている」と反論。事件の真相を巡って相楽へ疑惑をぶつけた。先週の沈黙が嘘のように、ちょっとの引き金でこうも波のうねりは大きくなるのかと恐ろしさすら感じた。
「人の意見は得てして『そう考える方が自然だ』という方に流れていく。そこに想像や憶測があることは忘れて大多数の意見を作り矛先を向ける。」
九条が落ち着きを取り戻しつつある生徒たちを嗜めた言葉だ。
今話の憶測の暴走、クラスでは優等生として存在する東風谷や阿久津(藤﨑ゆみあ)らが先陣を切っていたのが印象的だった。彼女たちにあるのは悪意ではなく正義感だ。言論の煽動や暴走を引き起こすのは何も素行不良な人々ではない。彼女たちを見ていると、誰もが原因になり得ることを痛感させられる。
相楽はなぜ、本音を言えたか
第8話ではラスボスかと思われたいじめの中心人物・相楽がクラスに謝罪するという番狂わせの展開となった。過去に鵜久森が言ったように、彼の罪は消えることはないし、傷つけられた側も忘れることは簡単ではない。しかしその上で、彼が本音で向き合えるかどうかが大切なことだった。
「相楽の笑み」は「憶測の暴走」による悪循環の象徴として描かれていたように思う。相楽への疑念が渦巻く教室で、彼はさらに疑いを深めるようなセリフと笑みを見せる。相楽は「ぶっ壊れそうな時に笑うクセがある」と友人の迫田(橘優輝)が言っていたように、「自分のプライドのために本音を隠す」という心理から問題行動を起こしていたと明かされる。「相楽が抱える歪みの本質」について九条は、一度も(感情や本音を)表に出したことがないから、何かがずっと足りない感覚に陥っている、と分析した。
この歪みは彼がもともと持つ性格に由来するものではあるが、彼は自分の弱さを自覚していた。しかし、憶測や先入観への「怖さ」が彼の心をさらに凍らせてしまう。本音を出せないから、彼はまた「足りない感覚」に陥ってしまう。憶測の暴走が更生の道を塞ぐという悪循環が成り立っていた。
九条の説得とともに、教室が「先入観を捨てる」という選択をした時、相楽はやっと本音を打ち明けることができた。堰を切ったようにこぼれる涙は、彼の心の解放を表しているようだった。
「どんな時も全ての出来事の本当を知っているのは本人だけです。」
「許す許さないはそれぞれあっていい、大事なのは考え続けることだと私は思います。」
SNSを見渡せば「憶測の暴走」で溢れる現代。簡単に他者とコミュニケーションをとれる時代だからこそ、心に留めておきたい言葉だ。
これから起こる「暴走」と星崎の動き
冒頭で本作は「社会を縮図した劇」と書いたが、今後も起こりうる「暴走」を描いていくのではないかと推測する。注目したいのは「犯人探し」と「謝罪の追及」だ。
犯人探しについて、8話の後半に迫田・瓜生(山時聡真)・向坂(浅野竣哉)の暴走がすでに描かれていた。彼らは真相を突き止めるべく浜岡のもとに向かってしまう。視聴者も「犯人を探すお話」だと思っていた方も多いだろう。しかし物語は、九条や九条の親友・勝見(サーヤ)、鵜久森の母(吉田羊)を通して「犯人探しをしていない」「そこから先は警察の仕事だ」「叶をこの出来事に追い込んでしまった何かを知りたいという意味ではない」と再三伝えているのだ。
「謝罪」についてもすでに仕掛けられている。今話を視聴して「相楽と一緒にいじめていた女子たちは謝らないのか」と思った方が多いのでは? 土下座する男子たちに背を向け微動だにしない姿を見れば、そう思ってしまうのも無理はない。しかし「謝罪」は昨今のメディアでもよく目にする現象だ。「謝罪をした・しない」、「あの謝罪はよかった・ダメだった」……。
もう一つ気になるのは星崎について。前話の考察で、彼は問題を焚き付けたり拡散する人々の象徴のような存在だと仮定した。今回の件でも、九条に興奮気味に動画を見せる星崎には複雑な気分になった。今後も「面白おかしい情報提供」にクラスは暴走していくのかもしれない。
現代に蔓延る問題に九条はどのような言葉で切り込んでくれるのだろうか。そして、この物語はどのように終結するのだろうか。今後も注目していきたい。
『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』作品情報
脚本:ツバキマサタカ
演出:鈴木勇馬、二宮 崇、松田健斗
製作:日本テレビ
主題歌:菅田将暉「ユアーズ」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/saikyo/
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2023年9月14日現在の情報です。